神風動画がLightWaveを使う理由
『COCOLORS』監督 横嶋俊久、アニメーションディレクター 石黒英彦、プロデューサー 清水一達(最終回)

第1回第2回第3回に続き、神風動画のオリジナル長編『COCOLORS』のメインスタッフにメイキングを訊く最終回。本編制作への意気込みや気になる予算のこと、そして神風動画がLightWaveを3DCG制作のツールに使っている理由について伺った。

Profile
横嶋俊久 Toshihisa Yokoshima

アニメーション監督。『COCOLORS』では、監督・脚本・絵コンテ・演出を担当。神風動画所属を経て、現在はフリーとして同作に関わる。

石黒英彦 Yoshihiko Ishiguro
神風動画弐式スタジオ所属の演出・アニメーター。『COCOLORS』では、アニメーションディレクター・CGI監督を担当。

清水一達 Ittatu Shimizu
神風動画弐式スタジオ所属のアニメーションプロデューサー。『COCOLORS』では、プロデューサー・制作管理を担当。

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LightWaveを鉛筆のように使う

—— 神風動画さんは、3DCGのソフトではLightWaveをずっと使用されていますよね。
横嶋 そうですね。『COCOLORS』でもLightWaveで書き出した素材を、AfterEffectsで組んでいるのがほとんどです。最後の黒い液体のところは、デジタルで作画してもらった素材を組み合わせたりしていますが。
—— 他のスタジオでは、別のソフトを使われることも多いですよね。神風動画さんがLightWaveを使う理由は、どんなところにあるのでしょうか。
横嶋 今はMayaやMAXがメインに使われていて、LightWaveを使うのは主流でない状況だと思います。ただ、さきほど石黒からも話があったとおり、僕らは3Dの素材さえ出ていればAfterEffectsに持ち込めればいいので、言ってしまうと3DCGのソフトは何でも構わないんです。ソフトに依存しているわけではまったくなくて。ちょっと粗い言い方になりますが、LightWaveというソフトは力技がきくというか、かなり融通がきく使い方ができるんですよ。他のソフトだと、ちゃんと組んでおかないと途中でエラーがおきたりするんですが、LightWaveは強引に処理しても、わりと頑張ってくれるんです。短期間で作るのにフレキシブルに対応できる部分があるので、今はLightWaveを選択している状況ですね。
—— そこは、代表の水崎淳平さんの拘りもあってのことなんでしょうか。
横嶋 そうですね。水崎には、LightWaveに関するこだわりが非常にあります。自分の考え方にあっているというか、フットワークの軽さがいいんだと思います。僕自身は入ってからずっと触っているから感覚的に使いやすいというのも大きいんですが、アニメーションをつけて、そこから素材を書き出すツールとして本当に使いやすいんですよ。僕らみたいに、突貫でギュギュギュって作るのにはLightWaveが向いているんだと思います。
石黒 余計な機能がないのが、僕らにはちょうどいいんですよね。例えば、物理演算で水の跳ねをシミュレーションするとか、ガレキが転げ落ちるような動きを作るとして、高いソフトだとかなり綺麗に表現できると思うんです。ただ、僕らが作っているものは基本アニメであって、アニメを描くのに必要のない機能はいらないっていうのが、たぶん水崎が当初から考えていたことなんだと思います。そうした考えを継承して育ったスタッフも、ソフトの機能に必要以上に頼らないでいるというか。LightWaveを、考えて作るための余白の多いソフトとしてとらえて使っているんだと思います。
清水 そういう意味でいうと、手描きに近いんですよね。
横嶋 ほんとに、いまだに鉛筆を使っているようなイメージだと考えてもらえればいいんじゃないかと思います。それこそ他のソフトだと、シャーペンになっているとか、芯が折れてもすぐでてくるといった機能がついているけれど、僕らは未だに鉛筆を研ぎながら描いているというか。
石黒 LightWaveだと、しっかりとしたシステムやワークフローを作らないまま作業に入っても、あまり不安はないという利点もあります。途中で改変がきいたり追加が可能ですので。その段階ごとに、きちんとしたルールさえ踏んでいけば、どんどんフローを太くしていけるんんです。だから、途中参加でも不安がなかったりするんですよね。
清水 他のスタジオだと、僕らが複数のソフトでやっていることを、ひとつのソフトでできているというイメージなんだと思います。ただ、僕らは複数のソフトを介していることで、その回数だけ調整するタイミングがあるから、そのぶんフットワーク軽く、濃く短いものを作ることができる。神風動画が作りたいものと、ソフトとの相性がよかったんですよね。それが長編でどうなるかは、ちょっとやってみないと分からないところがあります。
石黒 短編ではできたことが、長編でもはたしてできるかどうか。途中でいろいろ増やしすぎてしまったら失敗したとかありうるかもしれません。
—— 神風動画が長編を作るのは、制作システム的にも挑戦があるということなんですね。
横嶋 これから作っていく長い尺は、僕らも未経験なので、どんなアクシデントがおきるかわからない。そこもまたチャレンジしていくところだったりします。

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PV終盤の1コマ。炎の独特な表現が目をひく。

どこに出しても恥ずかしくないものを

—— プロジェクト全体に関わる話もお聞きしたいと思います。沢山の方が関わられていますが、制作費はどう工面されているのでしょうか。
清水 基本的には、やっぱり持ち出しですね。最初にお話したとおり10周年のチャレンジということでもあるので、心意気で作っています。今のところ費用的には、スタジオに新車が1台欲しかったなっていうぐらいですかね。
—— 新車といっても、色々な車があると思いますが……。
清水 おじさんに乗せてもらったBMWの乗り心地がよくてですね……(笑)。
一同 (笑)。
清水 まあ、そのぐらいの感じです。
—— お答えしづらいことを有り難うございます。形態としては、劇場アニメを考えられているのでしょうか。
清水 状況次第かなと考えていますが、映画館でかけて遜色ないものを作っているつもりではいます。僕らは映画が大好きですし、憧れでもありますので。どこに出しても恥ずかしくないものにできたらと思っています。
—— 制作中の本編は、どのぐらいの長さになりそうでしょうか。
清水 『COCOLORS』単体としては、最近のOVAぐらいの長さで成立するものにできたらなという目標のもとで作っています。今のPVの10倍以上の長さになるのは確実ですね。
—— 全編、PVのような絵作りをしていくわけですよね。
清水 今ちょうどプリプロが進んでいるところなんですよ。シナリオがあとちょっとで完成というところで、絵コンテやデザインまわりも並行して進んでいて。どうやったら尺の長いものを上手く進めていけるのか、実際に制作に入る前に考えているところです。
—— 仮にPVの10倍の長さだとして、PVに1カ月かかったのでしたら、1年ぐらいかければ完成しそうですね。
横嶋 PVの1カ月は、奇蹟の1カ月でしたからね(笑)。あの密度をいかに持続して長いものを作るか、僕らのこれからの課題のひとつだなと思っています。
清水 奇蹟の1カ月を成しとげたスタッフたちは、今は別作品を制作しているので、プロダクションに入るのは、その後からですね。
横嶋 今は、みんなが力をつけて戻ってきてくれるのを待っているっていう状況です。

最後まで作りきるのがディレクターとしての仕事

—— 最後に、現時点の手応えと、今後の抱負を聞かせてください。
横嶋 今回パイロット版をPVというかたちで世にだせたことで、スタッフみんなの意識が統一できたのは大きかったです。僕がスタッフに話していたキャラクターや世界観、版画のような絵作りといったプランは、映像ができるまで見えていない部分が多くて、この世界を信じきれる人間は少なかったと思うんです。あとは、本制作に入って最後まで作りきれるのか。それがディレクターとしての僕の仕事かなと思っています。秋のマチ★アソビに関しては、何かしら進捗した物を見せられるようにしておかないと、たぶん作り終えられないと思うんですよ。そういう心構えで作業しているところです。
—— 石黒さんは、いかがですか。
石黒 内容的な話は控えた方がいいですかね?
横嶋 いいんじゃないですか。
石黒 じゃあ、今後のことも含めて少し……。PVでは高カロリーで動いているカットはそんなにないんですが、本編はかなり大変なことになっているんですよ。アキやフユたちが動き回るスケール感のあるカットもでてきますし、鎌田さんの造形も登場します。人物ふくめて、この世界の全貌が見えてくると思います。作業的には、新しいスタッフを抱えながら、作業をどうスムーズに効率よく進めていくかということも考えてしまうんですが、あくまでも監督が言いたいことや作りたいものが表現できるように高めていきたいなと。でも、あんなに高カロリーなものがほんとに動くのかなって今から不安で仕方なくて(笑)。
横嶋 (笑)。石黒には、完成直前のシナリオを軽くみせているんですよ。アニメーションとしては、おそらく大変なカットの連続だと思うので、何とか乗り越えていければと思っています。
石黒 質のいいカットを作りつつも、これだけの物量をどうこなすのか、といったところも上手くやってみたいなと考えているんですよ。頑張りたいと思います。
—— 最後に、清水さんからお願いします。
清水 凄く面白くて、こんなアニメが観てみたかったというものができつつある、という確信はもっています。あとは、このPVが長編になってお話が入ることで、皆さんの心に広く届けばなと。個人的には「誰かの名作」になるような1本になればと思っています。近々の目標としては、秋のマチ★アソビで何かしらの映像か、もしくはイベントが開催できたらなと計画中です。「GASOLINE MASK」プロジェクトの、別監督の情報もおそらくお見せできるのではないかなと。そして今は、この無茶な企画にのっていただけるスポンサーの皆様を鋭意探しているところです。僕の仕事であるマネージメントサイドからすると、作品に関しては横嶋を信じているので、まったく問題ないと思っているんです。あとは、それを自由に作りきれる環境を整えてあげることが僕の仕事かなと思っています。
—— 有り難うございました。完成を楽しみしています!

<スタッフコメンタリーを読む>

Official Website
『COCOLORS』公式

http://gasolinemask.com/nishiki/cocolors

神風動画弐式スタジオ
http://gasolinemask.com/nishiki/

Information
マチ★アソビVol.15にて、神風動画『COCOLORS』中間報告会を開催。参加方法などの詳細は、マチ★アソビ公式サイト(http://www.machiasobi.com/)まで。

神風動画『COCOLORS』中間報告会
日時:10月10日(土)15時〜
場所:ufotable CINEMA
登壇者:横嶋俊久(監督)、清水一達(アニメーションプロデューサー)、宮下卓也(企画/広報)

(C)神風動画