プリプロ含めて1カ月、新人ばかりで作ったPV
『COCOLORS』監督 横嶋俊久、アニメーションディレクター 石黒英彦、プロデューサー 清水一達(第2回)

第1回に続き、神風動画のオリジナル長編『COCOLORS』のメインスタッフにメイキングを訊く第2回。2分20秒のPVは、おそるべきスケジュールで制作されていた。しかもスタッフは、今年入社した新人ばかり。どうやって完成までこぎつくことができたのだろうか。

Profile
横嶋俊久 Toshihisa Yokoshima

アニメーション監督。『COCOLORS』では、監督・脚本・絵コンテ・演出を担当。神風動画所属を経て、現在はフリーとして同作に関わる。

石黒英彦 Yoshihiko Ishiguro
神風動画弐式スタジオ所属の演出・アニメーター。『COCOLORS』では、アニメーションディレクター・CGI監督を担当。

清水一達 Ittatu Shimizu
神風動画弐式スタジオ所属のアニメーションプロデューサー。『COCOLORS』では、プロデューサー・制作管理を担当。

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ライブ感で作ったPV

—— 絵コンテの作業は、どのくらいから入っていったんでしょうか。
横嶋 まだデザインも決まっていない頃から、絵コンテは描いていました。PVを作り出した4月ぐらいから、状況が加速していった感じですね。その前の段階では、ほとんど何もないという状況でしたので。
清水 シーンごとにビデオコンテを作った、断片のようなものだけがあって。
横嶋 絵コンテを描く前に、(イメージ)ボードに近いコンテを作っていたんですよ。イメージを描きつらねたようなものですね。その中から、PVに使えそうなカットだけを集めて、今回の約2分のPVにしたという。なので、PV用の絵コンテを描いていた時期には、手持ちの材料は何もない状況だったんです。
—— 絵コンテ執筆時には、キャラクター設定などもなかったんですね。
横嶋 ええ。PVは、ほんとにライブ感で作りました。
—— 今回のPVで使われたカットは、のちのち本編に組み込まれる予定なんですか。
横嶋 少し変わったり、アニメーションを付け直したりするかもしれませんが、本編に入る予定です。PVを作る時点で、本編で使えるカットをなるべく抽出して、二度手間にならないように作っていこうというのはありましたので。
—— すべての絵コンテがあがっていて、そこから抜いたというのではなく、イメージボードから本編に使うであろうところを決めて作っていったと。
横嶋 まさにそうですね。今ちょうど、シナリオの詰めと、これから絵コンテ作業が発生するという状況です。

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横嶋監督がPV制作のために描いた絵コンテ(CUT007〜009)。モノクロームの世界の中、特に色を強調したい石だけ赤く色をつけている。

—— 特殊な作り方をされているんですね。
横嶋 こういう作り方ができるのは、神風動画というスタジオだからかもしれません。なんというか、ほんとにライブ感としか言いようがないんですけど(笑)。通常のアニメーションの制作工程はまったく踏んでいませんので。PVも、最初は本当にできるのかっていう状況だったんですよ。それぐらい人が集まっていなくて。4月の中旬ぐらいまでは1秒もできていない状況でしたから。
石黒 僕が参加したのが、4月の第1週が終わったぐらいでしたよね。
横嶋 そうでしたね。
—— ……あの……4月って、去年の4月じゃなくて、今年の4月なんですか?
横嶋 今年の4月です(笑)。
一同 (笑)
—— てっきり去年のことだと思っていました。それはライブ感がありますね(笑)。ということは、今年の3月まではPV用の絵コンテもなく……。
清水 シナリオの叩きのようなものができていたって感じですね。
横嶋 4月になってからPV用の絵コンテをおこし、設定から何からすべてを作りながら、映像を作っていきました。
—— ほぼ1カ月で、プリプロを含めて、あのPVを作ったんですか……それは驚きですね。
横嶋 去年、一度退職したあとに休養をとった時期があって、その間に構想などは考えていたんですけれど、本格的に制作が動き出したと感じたのは、ほんとに4月に入ってからですね。
石黒 僕の感覚でも、現場作業は4月からでした。スタッフも、社内のベテランスタッフが2人と、フリーランスの大石(直人)という人間がモデリングなどのチーフをしてくれたんですが、あとはもうほとんど、今年の3月中旬から4月に入った新人で作っているんです。
横嶋 そうなんですよ。
—— それは大変ですね……。
清水 弐式スタジオが設立されたのは今年の1月からなんです。『アニメーター見本市』の『月影のトキオ』は途中まで神宮前スタジオで作っていますが、『COCOLORS』の現場作業は、100パーセント弐式スタジオでやっております。
石黒 弐式スタジオのホームページの絵も描いている、キャラクターデザイナーの鈴木(理)だけは神宮前スタジオにいるぐらいですね。
—— 制作期間1カ月で、新人ばかりのスタッフで作っていたとは思ってもいませんでした。今ようやく、マチ★アソビ前後にかなりバタバタされていた理由がわかりました。
石黒 作品に入ってくれた新人たちが、アニメーター、CGモデラー、美術、撮影と、良い配分で応募してきてくれたんですよね。上手いこと仕事を割り振ることができて、ちょうどよかったです。
横嶋 ほんとに恵まれたというか、運がいい作品だなと思っているんですよ。4月の段階ではマチ★アソビにもっていける映像なんて1秒もないよって思ってましたから(笑)。PV用の絵コンテをきった段階でも、石黒から「ずっとアニメーションしてるじゃないですか」と言われて……(笑)。
—— どういうことですか。
石黒 「(PVの総カット数が)何カットあるんですか?」と聞いたら、32カットと言われたんですよ。で、「BGオンリーは、7、8カットぐらいあるんですか?」と聞いたら3カットしかなくて(笑)。
横嶋 「できるはずないじゃないですか」みたいなことを言ってたよね。
石黒 さらに「モデルはできてるんですか」と聞いたら「まだ1体もない」と。
清水 あと少しでできるっていう状態でしたよね。
横嶋 (モデルの)セットアップもしてなくて、アニメーションに入ったのが4月の中旬ぐらいからですからね。実質、2週間で動きをつけている。
石黒 そうでしたね。その前にやらなければいけないCGモデルの仕込み的な部分をまずやって、動かすのは4月中旬以降。レンダリングもしていないのに、マチ★アソビまであと1週間……そんな感じでした。
横嶋 本当に優秀なスタッフに入ってきてもらったおかげですね。誰ひとりかけても、PVをマチ★アソビにもっていけなかったと思います。僕のなかでは、奇蹟的な出来事でした。

プロップデザインと美術へのこだわり

—— 『COCOLORS』の濃密な世界観は美術やプロップデザインの力が大きいのではないかと思います。プロップデザインに、鎌田光司さんという造形作家の方がクレジットされていますね。
横嶋 最初はキャラクターデザインをどうしようかまず考えたんですが、鈴木(理)が入ってくれることになったんです。鈴木は、僕が神風動画に入った頃からの先輩で、10年以上一緒にやっていますので、もう安心して任せられる。じゃあ他のデザインはどうしようと考えたときに、絵描きではない方にお願いしてみたいなと思ったんです。それで探していたときに鎌田さんの作品に凄く心惹かれまして。ほんとに飛び込みでお伺いして、こんな仕事をなんですけど請けてもらえますかというお話をしたら、最初は「そんな仕事、やったことないんだよなあ」と言われてたんですけれど、その後、快く請けてくださって。
—— 鎌田さんは、作中にでてくるガラクタなどのデザインをされているんですか。
横嶋 いえ。実はまだPVには登場してないんですが、お祭りのシーンがあって、そこで祀られているご神体のようなガラクタで作った大きなオブジェが登場するんです。それをメインに、あとはフユの着ているものや装備品などを少しお願いしています。美術的なところは、原図をお願いした橋口(コウジ)さんとつめていった感じです。
—— 鎌田さんのお仕事は、本編で観ることができるんですね。
横嶋 楽しみにしていてください。鎌田さんは絵を描かれない方で、いきなり造形物を作ってこられる方なんです。最初にお会いしたときも「できあがったものしかお見せできないので、ひょっとしたら難しいかもしれない」と危惧されていたんですが、あれだけの造形を作られるのに、絵を描かれないんだと知って僕らもビックリしたんです。でも、やっぱりお願いしたいということで、発注させていただいて。
—— 今回のお仕事でも、いきなり造形物があがってきたんですね。
横嶋 できたら呼ばれるという感じでした。山車のようなものがご神体を引いていく造形物なんですが、今それを一回3Dスキャンして、どこまでモデリングできるか試しているところなんですよ。
清水 実物の立体を、どこまで上手くCGにできるか、トライ中です。
—— 実写で登場する予定はないんですか。
清水 合成の可能性もありますね。
横嶋 最終的に、どうなるかは分からないですね。レイアウトやカメラワークをどうするかも、これから考えるところです。
—— 世界観設計は、さきほどお名前のでた橋口さんと鎌田さん、そして末弘(由一)さんという方もクレジットされていますね。
横嶋 末弘さんは、PVのときはちょうどお忙しくて参加いただけなかったので今回はお名前だけです。美術の話でいいますと、これは大手をふって言えるようなことではないんですが、PVの美術に関しては、新人で入ってきた子が全部描いているんですよ。しかも、その子は美術を描きたかったわけではなくて、3Dのモデリングをやりたくて入ってきたという。
—— 美術でクレジットされている吉田俊介さんのことですね。
横嶋 そうです。吉田君が、PVの美術は全て担当しています。彼の経歴をみて、ひょっとしたら描けるんじゃないかと思って頼みました。ただ、あくまでプリプロとして実験的に試したというところなので、そこから更に一歩踏み込むには末弘さんの力が必要だなという前提ではありますが。
—— 橋口コウジさんは、普段はどんなお仕事をされているんでしょうか。
清水 最近ですと、『彗星のガルガンティア』OVAの後編で、船作画監督などをされています。線が凄い方なんですよ。
横嶋 「そこまでやらなくていいのにって怒られるんです」とご本人が言われるぐらい、凄い描き込みをされる方なんです。今回は、橋口さんのその線を生かしたいと思って、かなりの無理をいって、原図を描いていただいています。通常の美術の場合だと、一回原図のラフをあげて、それをもとに美術をおこすという工程をふむところを、僕らは原図のラフを美術として使いたいということで、橋口さんにさらにクリンナップを入れてもらっているんですよね。スタジオに来ていただいたときに描いたものをみせていただいたんですけど、今回のPVのためだけにでも膨大な量の原図を描かれていて……。本当に大変なお仕事をお願いしてしまったなと。
—— 橋口さんとのやりとりも、今年の4月からだったんですか。
横嶋 3月あたりから少しずつ入っていただいていたと思いますが、がっつり入っていただいたのは4月からですね。

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橋口コウジさんが描いた背景原図。PV半ばで、灯りが次々と消えていくシーンのものだ。力強いタッチで緻密に描き込まれているのが分かる。

スタッフひとりひとりに助けてもらって

—— 3DCGまわりは、石黒さんが主にみられているんですよね。
石黒 そうですね。CGIディレクターと言い切るのは、キャリア的に微妙な位置ではあるんですが、一通りのことはできるようになっていますし、新人に何を教えればいいかというのがまだ新鮮な情報として残っているので、教える立場としてはよかったのかもしれません。ディレクターという立場ではありますが、自分の中にある技術も整理しながらやっていたという感じです。
—— 今年4月に入られて、まずどんなことをやられていったのですか。
石黒 とにかく、できているものが少なかったので、逆にシンプルに物事を考えられたかなと思います。「今はこれができるな」というか。
—— ご自身も全力で作業しながら、新人に仕事をわりふっていくわけですよね。
石黒 そうですね。これはウチがメインで使っているLightWaveの良いところでもあるんですが、ソフト自体が非常に軽いんですよね。必要最低限のことさえやってもらえれば、普通にアニメーションができてしまうんです。モデリングとアニメーションの連携も簡単なので、新人さんでもすんなり作業に入っていけたところはあると思います。
—— こういう言い方をしたら失礼かもしれませんが、研修のようなかたちで作業されていったようにも思えます。
石黒 いえいえ。ほんとにそんな感じでしたよ。
横嶋 新人にとっては、初めてやらされることばかりだったと思います。撮影に入ってもらった新人の上遠野(学)は、前に撮影会社にいたので、After Effectsの方は使えたんですが、3D関連の方もみてもらったりして。新人それぞれに、初めてのことを覚えてもらいながら突貫で作っていったという。
—— プリプロ含めて1カ月で、しかも大半のスタッフが新人だというのは、あらためて驚かされます。
横嶋 入ってきた人間がみんな優秀だったおかげで、作品としてほんとに恵まれているなと思っています。アニメーションについても、永田(奏)という、以前は神風動画にいて今はフリーで活躍している人間に手伝ってもらっているんです。PVのアニメーションは、前半は石黒が担当して、後半は永田が担当しています。この2人に動きでつかんでもらえれば、勝算はあるかなと思っていたんですよ。誰かが首を横にふったり、途中で諦めてしまっていたら、僕は手ぶらで5月のマチ★アソビに向かう状況もあり得たと思います(笑)。
一同 (笑)。
横嶋 本当にスタッフひとりひとりの力に助けてもらったなっていうのが、今回のPVでしたね。

<第3回を読む>

Official Website
『COCOLORS』公式

http://gasolinemask.com/nishiki/cocolors

神風動画弐式スタジオ
http://gasolinemask.com/nishiki/

Information
マチ★アソビVol.15にて、神風動画『COCOLORS』中間報告会を開催。参加方法などの詳細は、マチ★アソビ公式サイト(http://www.machiasobi.com/)まで。

神風動画『COCOLORS』中間報告会
日時:10月10日(土)15時〜
場所:ufotable CINEMA
登壇者:横嶋俊久(監督)、清水一達(アニメーションプロデューサー)、宮下卓也(企画/広報)

(C)神風動画