3DCGで「版画アニメーション」を作る試み
『COCOLORS』監督 横嶋俊久、アニメーションディレクター 石黒英彦、プロデューサー 清水一達(第3回)

第1回第2回に続き、神風動画のオリジナル長編『COCOLORS』のメインスタッフにメイキングを訊く第3回。タイトルの由来や音楽、木版画のような絵作りを目指した理由について話を伺った。

Profile
横嶋俊久 Toshihisa Yokoshima

アニメーション監督。『COCOLORS』では、監督・脚本・絵コンテ・演出を担当。神風動画所属を経て、現在はフリーとして同作に関わる。

石黒英彦 Yoshihiko Ishiguro
神風動画弐式スタジオ所属の演出・アニメーター。『COCOLORS』では、アニメーションディレクター・CGI監督を担当。

清水一達 Ittatu Shimizu
神風動画弐式スタジオ所属のアニメーションプロデューサー。『COCOLORS』では、プロデューサー・制作管理を担当。

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色・心・鴉の意味をこめたタイトル

—— 『COCOLORS(コカラス)』というタイトルが凄くよいですよね。今更ですが、タイトルの由縁を教えてください。
横嶋 初期の段階では『COLORS(カラーズ)』という名称で呼んでいたんですよ。顔色や音色といった「色」をテーマにはしていて、もしかしたら登場人物たちの心(COCOLO)の色を表現した作品になるのではという予感があったんです。そこで頭に「CO」をつけて『COCOLORS』としてみました。また黒色もモチーフのひとつであるので、真っ黒な「鴉」という語感も『COCOLORS』に含めています。色々な意味を込めて、このタイトルにしたっていうところですね。
—— PVも、ほぼ全編モノクロで、部分的に色がついているのが印象的でしたが、それも狙いなんですね。
横嶋 はい。そうした狙いはあります。
—— 3DCGでモノクロ表現をするのは大変そうに思えます。
横嶋 そこは非常に苦労したところです。色をテーマにしているからこそ、その色は該当するテーマがでてきたときに目立たせたいと思っているので。そのために、いかに普段のシーンを渋い色に落とすか、現時点でどこまで踏み込めたかというと、まだこれからだなと思っています。そうした色の狙いがうまくだせるような世界観を構築するために、末弘さんなどと相談しながら、今後さらに面白い絵を作っていければと思っています。
—— スタッフサイドの話も聞かせてください。バーナムスタジオの里見(哲朗)さんのお名前がエンドクレジットありましたが、どのような関わり方をされているのでしょうか。
清水 里見さんには「プロデュース協力」として、声優さん、効果さんの選定などのアサインをやっていただきました。
—— そうなんですね。キャスティングは、どの辺りから始められたのでしょうか。
清水 子役の方でいこうというイメージは決まっていたものの、選定を始めたのは4月からでした。
横嶋 里見さんにも本当にご迷惑をおかけしました。音については、4月30日のダビングでようやくついたんです。完成自体は、5月1日の朝でした。そこから清水がフィルムを徳島まで直接もっていってufotable CINEMAでチェックをして、3日にイベントというギリギリのスケジュールでした。
—— 子役でいこうというのは、横嶋さんの案だったのでしょうか。
横嶋 一回チャレンジしたいなって思っていたんですよ。最初はどちらも女の子でいこうとかトリッキーなことも考えていたんですけどね。実は、アキは女の子、フユは男の子に演じてもらっているんです。
—— それは作品内の性別とリンクしているんですか。
横嶋 世界観的には、それほどジェンダーがはっきりしていない感じなんです。そもそもみんなマスクを被っているので、男なのか女なのかも分からないんですよね。そういう意味も含めて、ちょっと外してみたようなキャスティングをしてみました。
—— 音楽は、神風動画のデモリールの音楽も作っている、Kaoruさんという方が担当でしたね。
横嶋 『COCOLORS』の世界ではガラクタが違う要素で使われているという設定なので、音楽の方でも同じコンセプトで作っていただいたんですよ。本来楽器でなかったものが、違ったかたちで作られているという。最後の方でストリングスが盛り上がっているバックで、電話のプッシュ音がなっているところとかがそうですね。わがままなオーダーを色々ときいていただいて、ほんとに有り難かったです。


神風動画デモリール2015。この動画の音楽もKaoruさんが手がけている。

3DCGで版画風の画面を作るための工夫

—— 企画当初から目指されていた「木版画のような絵作り」について、伺わせてください。木版画といっても色々ありますが、どんなものをイメージされていたのでしょう。浮世絵ですか?
横嶋 近現代の木版画作家に面白い方がいるんですよ。吉田博や川瀬巴水といった作家の作品が凄く好きで。浮世絵はメディアとして刷るために大量生産する仕組みになってますが、彼らの作品は1枚の絵画として成立させるような作り方をしていて。明治・大正の頃に何人かいた、そうした作家の作品をみたときに、アニメーションとの親和性が高いなと思ったんです。美術的なところは、先達の作品のような感じに落とし込めないかなと考えるようになりました。『COCOLORS』はファンタジー風の世界観でもあるので、その美術を版画のような絵に落とし込めたら面白い画面になるのではという狙いもあります。そこから橋口さんの原図の力を借りたりして、僕らならではの「版画アニメーション」のようなところまで踏み込めたらなと。
—— キャラクターに、和紙のような粒子のテキスチャが張り込んでありますよね。あれも版画っぽくしようという試みなのでしょうか。
横嶋 そうですね。理想をいえば、1枚1枚の画面を誰かが彫って、実際に和紙に刷ったものが、連続してアニメーションにならないかな、というのが究極の目的ではあります。
—— 美術の線も整っていなくて、いびつな感じになっていますよね。
横嶋 人が彫りをいれた多少カクカクした感じも狙えないかと思っているんですよ。そうしながら背景と人物の線の違いもマッチさせていければなと。ここは物語のテーマにも関わってくる部分なんですけどね。今お話したような絵作りができたら、アニメーションの絵として勝負できるものになるかなと感じましたので。

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暴風で灰が舞いちる外の世界。「版画アニメーション」を目指した本作ならではの絵作りがみてとれる。

—— 背景は手描きで、キャラクターと一部のプロップは3DのCGモデルを作って動かしているわけですよね。そのスタイルで今言われたようなことをするのはハードルが高いのではないですか。
横嶋 現場には、物凄く負担をかけてしまっています。
石黒 ただ、版画風の背景の質感にあわせて、キャラクター表現も手描きでやろうとなったら、おそらく特効の作業量が膨大になってしまうと思うんです。そこはやっぱり3DCGのキャラクターからの方が、とれる情報量は多いんですよ。そこから、ある種の質感に落としこんでいくのが、弊社の得意なところだったりしますので。一般的な3DCGの使い方とは少し違うというか、3DCGを上手く「筆」として使うことにたまたま我々は長けていたというか……。逆に3DCGを使わないと、この工数では作ることができないんです。
横嶋 そうですね。版画的なアナログな絵を作るために、僕らには3DCGが必要だったという。
石黒 おそらく版画も、単純化された絵を沢山作るために、今のような研ぎすまされたプロセスに至っていると思うんですが、僕らもアニメでは沢山の枚数を作っていかなければならない。そこに3DCGを使えば、わりと人の手をかけないで枚数を作ることができる。根っこの発想は、けっこう似ているんですよね。
—— 本作でいうと、キャラクターの服の汚れなどは、モデリングの段階で作り込んでおくことで、汚れがついたまま動かした絵を作る。美術とのマッチングは撮影で馴染ませるということでよいですか。
横嶋 そうですね。
—— 手描きアニメでやるような、洋服の質感や汚れをあとから足すようなことは、あまりされていない?
横嶋 和紙の粒子のようなものはあとからテクスチャをかましたりはしますが、基本は3D上ででた素材をうまく使って、背景をなじませるかたちをとっています。洋服についている汚し的なものも、3D上で仕込んだものをうまく抽出して、撮影上で処理しています。

日常芝居とキャラクターの肌の触れ合い

—— PVを観るかぎり、本作では日常芝居が多そうですよね。動かす側としては大変だったのではないですか。
石黒 弊社で作るものは、どちらかというとワンアクションで決めみたいなアニメーションが多いんですよ。日常芝居を本格的にやったのは『月極蘭子のいちばん長い日』とか数えるぐらいで。そういった経験値の少ないところから挑戦しているところはあります。ただ、本作のキャラクターは可愛いらしいプロポーションをしているので、物凄くリアルに動くというわけではなく、多少はアニメっぽい動きも入りつつというバランスになっています。
横嶋 僕はいつも意識して、(動きの指示を)言葉でアニメーターに伝えるようにしているんですが、今回は「いつもの感じでいい」みたいな言い方をしていました。
石黒 僕の中で普通に動かした感じが、ちょうどいいんです。
横嶋 普通だったら、端折ってしまいそうな動きの表現を丁寧につけてくれるんですよね。そういった、ちょっと生っぽい部分が、この作品には必要な動きなんじゃないかと思っていたんです。だから、日常芝居は石黒に普通につけてもらえれば大丈夫だって思っていました。
—— 短い尺のなかで、アキとフユの絆が伝わってくるようでした。
横嶋 僕自身、アニメーションがつけられるまで、キャラクターたちがどんな動きをするのか見えてなかったんですよ。石黒が最初の方で2人が笑っているカットの動きをつけてくれたときに、作品の方向性がみえた気がしました。そこは本当に、石黒が入ってくれたからなりえた映像になっていると思います。

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石黒さんが動きを担当した、アキとフユが笑い合う場面。

—— 石黒さんは前半の動きを担当されているというお話でしたが、後半を担当している永田奏さんは、どんな方なのでしょうか。
横嶋 永田さんは本当に優秀なアニメーターで、コンテの情報量を軽く飛び越える動きをつけてくれるんです。
石黒 感情の芝居がずば抜けて上手いんですよ。
横嶋 そうなんです。ほんとは顔の表情をつけるのが得意だったりするんですが、今回顔がないのが申し訳なくて(笑)。体全体を使って感情を表現してもらい、PVの最後を締めてくれました。
—— 神風動画さん的には、地味な日常芝居メインでいくのはチャレンジでもあったんですね。
横嶋 そうですね。今回はやはり、物語を語るうえでどうしても避けられないところでしたので。
石黒 だからこそ今回は、初めてといっていいぐらいキャラクター性を考えました。こういう性格だからこう動くんじゃないかとか。逆に、そこまで考えないと動きがでてこないんですよね。普通に剣で相手をやっつけるような動きだったら、単純に格好よいだけでも成立すると思うんです。今回は例えば、相手の手の上に石を乗せる動きを描くところだと、喜んでもらえることを確信して自身満々に渡すのか、相手の手にふれることを気にするかどうか、といったところを意識しないと描けない。その辺りは、始めに監督に話を伺ってから、実際に動きをつけていきました。肌の触れ合いは、今回かなり重要なテーマでもありましたので。
横嶋 マスクを被ってスーツを着ている根底の理由でもあるのですが、コミュニケーションや触れ合いといったところも、大事なテーマのひとつなんです。なので、どうやって受け渡しをするかというのは非常に大事なんです。
石黒 今お話したところは、実はPV完成後に「こういう触れ合い方はしなさそうだ」ということになりました(笑)。
横嶋 全体のシナリオがみえて、もうちょっとおそるおそる、触れるか触れないかのギリギリで渡す感じになるんじゃないかって話しているところなんですよ。ただ、制作が進んでキャラクターの性格がより定まってくると、また変わってくるかもしれません。

<最終回を読む>

Official Website
『COCOLORS』公式

http://gasolinemask.com/nishiki/cocolors

神風動画弐式スタジオ
http://gasolinemask.com/nishiki/

Information
マチ★アソビVol.15にて、神風動画『COCOLORS』中間報告会を開催。参加方法などの詳細は、マチ★アソビ公式サイト(http://www.machiasobi.com/)まで。

神風動画『COCOLORS』中間報告会
日時:10月10日(土)15時〜
場所:ufotable CINEMA
登壇者:横嶋俊久(監督)、清水一達(アニメーションプロデューサー)、宮下卓也(企画/広報)

(C)神風動画