5月開催のマチ★アソビvol.14でPVが発表された、神風動画のオリジナル作品『COCOLORS(コカラス)』。テレビアニメ『ジョジョの奇妙な冒険』シリーズのオープニング等で知られる同スタジオが初めて手がける長編作品だ。法人化10周年を記念した「GASOLINE MASK」プロジェクトの一環である同作PVのメイキングを、横嶋俊久監督、アニメーションディレクターの石黒英彦さん、プロデューサーの清水一達さんの3人に伺った(本取材は、6月に実施)。PVを未見の方は、以下の2分20秒の映像をご覧になってから読んでいただきたい。全4回でお届けする。
Profile
横嶋俊久 Toshihisa Yokoshima
アニメーション監督。『COCOLORS』では、監督・脚本・絵コンテ・演出を担当。神風動画所属を経て、現在はフリーとして同作に関わる。
石黒英彦 Yoshihiko Ishiguro
神風動画弐式スタジオ所属の演出・アニメーター。『COCOLORS』では、アニメーションディレクター・CGI監督を担当。
清水一達 Ittatu Shimizu
神風動画弐式スタジオ所属のアニメーションプロデューサー。『COCOLORS』では、プロデューサー・制作管理を担当。
神風動画に入社した動機
—— 『COCOLORS』の話に入る前に、自己紹介をかねて、神風動画に入られた経緯から聞かせてください。まずは、横嶋監督からお願いします。
横嶋 自分は神風動画に参加して、今年で丸12年になります。ちょうど神風動画が法人化するタイミングの2003年頃ですね。その前は小さなデザイン会社に勤めていたんですよ。たまたま求人募集があったのを友人経由で知って応募して、紆余曲折あって入社することになりました。
—— 神風動画のどんなところに興味をもたれたんでしょうか。
横嶋 アニメーションって大勢の人数で分業して作る、センスのいる大変な仕事だというイメージがあったんですが、当時の神風動画のサイトをみると数人しかいなかったんですよね。この人数でアニメーションが作れるんだって驚きがあったんです。神風動画に入ったときはソフトも使えず、もうほんとに何もできない感じでしたが、3Dの技術をいちから習得して、その後、演出として務めさせていただくようになりました。
—— 横嶋監督は神風動画で、ゲームのオープニングムービーを手がけられたり、オリジナル作品『アマナツ』の監督もされていますね。
横嶋 神風動画の初期の頃はゲームの仕事が多くて、よく担当させていただいていました。『アマナツ』は、社内で何か作ってみようという企画があって、コンペで案をだしあったんですよね。僕がだした案が通ったので監督として作ることができたんです。
2009年に制作された神風動画オリジナル作品『アマナツ』。YouTubeで全編を観ることができる。
—— 『COCOLORS』でアニメーションディレクターを担当されている石黒さんは、いつ頃、神風動画に入られたのでしょうか。
石黒 僕が神風動画に入ったのは2009年の夏頃、ちょうど『アマナツ』ができあがった頃になります。その前は、美術系の大学で現代美術のような堅苦しいことをやっていたんですが、アニメはずっと好きだったんですよ。
—— 神風動画は、その頃からご存知だったんですか。
石黒 そうですね。僕は美術系の大学に複数通っており、美術の方からメディアアートみたいなところに通ってきました。で、大学卒業時点で就職先も決まっていなかったときに、通っていた大学に、神風動画代表の水崎(淳平)さんが講演に来られていたことを思い出したんです。そこでコンタクトをとってみたところ、運よく入れていただけることになりました。神風動画に入るまでは映像制作をしたことがなかったので、いちから色々教えていただき、絵を動かすことが好きで得意なところだったので、3DCGアニメーターとして、社内の横嶋監督作品によく関わらせてもらっていました。なかなかオッケーにならない厳しい環境で修行させていただいて……。
横嶋 いえいえ(笑)。本作に石黒が参加してくれるか否かは、僕の中では重要なファクターだったんですよ。彼は、僕が今いちばん信頼しているアニメーターで、ちょっと生っぽい演技をつけるんですよね。『COCOLORS』のようなキャラクターの顔がでない作品で、そうした設定がいきるアニメーションをつけてくれるんではないかと思っていて。あと、彼は大学で版画の勉強をやっていたんですよ。あとであらためてお話しますが、『COCOLORS』の大きなテーマのひとつである「版画」を、石黒がやっていたという巡り合わせにも非常に感じるところがあったので、ぜひ参加してほしいと思っていたんです。
—— ちなみに、石黒さんが勉強されていた版画の種類は、なんだったんですか。
石黒 ウチの大学では基礎科で全ての版種にふれて、自分のやりたいものを選択するかたちだったんです。『COCOLORS』では木版画がテーマになっていますが、自分はエッチング(銅版画)を専門にやっていました。ただ、基礎科で木版画の勉強はしていましたし、先輩や後輩がやっている姿はみていたので、ひととおりの知識はあるという感じです。
—— 最後に、本作のプロデューサーである清水さんのプロフィールをお願いします。
清水 僕が神風動画に入ったのは2012年で、今年で4年目になります。その前をお話すると、理系の高専から大学の経済学部の3年に編入して、2年間経済学を学んだんですが、卒業後は特に就職も進学もせず、1年間フリーターをしていたんです。
横嶋 彫刻をみがいていたんだよね。
清水 そうなんです(笑)。箱根の森美術館というところで、ブロンズ像にワックスを塗る仕事を1年やっていて。で、辞めたあとにどうしようかなと思っていたときに、ネットで神風動画の求人動画をみて、「こんな会社があるのか」と思って応募してみようと思ったんです。
—— もともとアニメはお好きだったんですか。
清水 好きでしたね。子供の頃、それこそ細田(守)さんが参加されていた無印『デジモン』を観たぐらいから、能動的にアニメは観ていました。ただ、今お話したような経歴で、アニメ業界のことは右も左もわからず、ただアニメが好きで入った人間なので、現場で色々教えてもらいながら3年ほど経って今にいたるという感じです。
—— 普段は、どんなお仕事をされているんですか。
清水 『COCOLORS』ではプロデューサーをやらせていただいてますが、基本的には進行管理から派生するプロデュース業務を中心に担当しています。クレジットでいうと、アニメーションプロデューサーですね。最近ですと、「アニメーター見本市」の『月影のトキオ』、ゲーム『ソウルサクリファイス デルタ』の特典映像、Sound Horizonさんの「よだかの星」のPVなどが担当作品です。
「GASOLINE MASK」プロジェクトとは?
—— それでは、いよいよ『COCOLORS』の話に入っていきます。本作を神風動画で制作することになった経緯を、プロデューサーの清水さんからお話いただければと思います。
清水 『COCOLORS』は、弊社の「GASOLINE MASK(ガソリンマスク)」プロジェクトの一環なんです。弊社の法人化10周年にあたる2014年5月21日から始まったプロジェクトで、代表の水崎が節目の年をきっかけに新しいチャレンジをしたいという思いから立ち上がりました。それに関連して、僕自身は去年の3月に個人面談があったときに、水崎から2つの提案をうけたんです。ひとつはオリジナルの長編制作、もうひとつは、それにあわせての新スタジオの設立でした。前者が「GASOLINE MASK」プロジェクト、後者が弐式スタジオの設立につながりました。
—— 「GASOLINE MASK」というタイトルの由来は、どこからきたのでしょうか。
清水 法人化前の1998年に、水崎、桟敷(大祐)、森田(修平)さんで、「ガソリンマスク」という同じタイトルの短編を制作しているんですよ。タイトルはそこからとって、今回はアルファベットで「GASOLINE MASK」としています。節目の年に、神風動画が躍進するきっかけとなった節目の作品を下敷きにして、長編作品を作ろうと。
また、「GASOLINE MASK」プロジェクトは、複数の作品を制作していって、オムニバスではないかたちで1本の劇場作品を作ろうという試みなんです。監督は、代表の水崎、『ジョジョの奇妙な冒険 スターダストクルセイダース』のオープニングなどのディレクターを手がけている吉邉(尚希)、そして3人目として横嶋が推薦されて、今回の『COCOLORS』に繋がっているという経緯になります。
—— 「GASOLINE MASK」第1弾のPVがありましたよね。あのPVは、どのような位置づけになるのでしょうか。
清水 あの映像はプロジェクト全体のプロトタイプですね。キャラクターデザイナーの桟敷が、15年ぶりに「ガソリンマスク」を描いてみようと、プロジェクトのイメージキャラクターを作ってみたという。本編にでてくるかどうかは、今後のお楽しみというところですね。
2015年3月に公開された「GASOLINE MASK」ティザー映像。
顔の表情を封じたアニメーション
—— 今伺ったような流れがあって、横嶋監督は『COCOLORS』を作られることになったんですね。
横嶋 僕は昨年に神風動画を退職して、今はフリーなんです。神風動画が法人化するあたりから仕事をさせていただいて約10年経ったので、これからの10年を考えたいなと思いまして。で、今したような話を水崎にしたら、「じゃあよかったら、また一緒に挑戦的なものを作らないか」という光栄な話をいただいたんですね。「ぜひお願いします」ということで、今はフリーの演出として弐式スタジオに入り、お仕事をさせていただいています。
—— 『COCOLORS』の企画は、去年から動き出したんですね。お題や縛りのようなものはあったんでしょうか。
横嶋 「GASOLINE MASK」の世界観の中であれば、自由に作ってよくて、ストーリーなども任せてもらえたんです。まず何をやるのかっていうところからのスタートでしたね。最初のとっかかりは、先ほど清水から話のあった15年前に作られた短編『ガソリンマスク』でした。当時は3DCGで人物の表情を作るのが難しい時代で、それでマスクを被らせていたんですよ。それから15年たった今、3DCGでもある程度、人物の表現が可能になってきたなかで、今度は逆にあえてマスクを被らせて顔の表情を封じて、感情表現できるようなアニメーションが作れないかと発想したんです。
—— なるほど。同じマスクを被らせるにしても、意味合いがまったく違うわけですね。あえて難しい表現にチャレンジするという。
横嶋 その発想を、水崎が凄く面白がってくれたんです。15年前に顔の表情から逃げるために作ったアイテムが、今度は逆のモチベーションとして使われる。そこに興味をしめしてもらって、そこから企画をどんどん練り上げていきました。顔色がみえないなかで表現として何ができるのかというところを、まずは文字ベースでプレゼンしていった感じです。
神風動画デザイナー鈴木理さんが描いた『COCOLORS』のキャラクター設定。マスクを被っていて表情をみることができない。
—— 本作は、富士山が大爆発したあとの世界なんですね。タイムリーな設定だなと思いました。
横嶋 そこは「GASOLINE MASK」の世界観ですね。第1弾のティザー映像にも、富士山に穴があいたような絵があります。そうしたトータルでの世界観のもとに作っていきました。
—— 『COCOLORS』のPVを拝見すると、重苦しい雰囲気を感じます。『アマナツ』も暗めのお話でしたが、横嶋監督はそうしたダークな世界観がお好きなんでしょうか。
横嶋 作品を観た方からは、暗いものが好きだと思われがちなんですが、自分ではそういうつもりで作っているわけではないんですよね(笑)。その時にあるものを使って作っていった結果といいますか。『アマナツ』の場合は、当時10分以上の映像を作らなければいけなくて、それに対する予算などを考えると、キャラクターはロボットと女の子ぐらいしか作れないという前提があって、そこからどういう物語が作れるのか考えて……。
—— ああ、そこから逆算して作られていると。
横嶋 そう、いつも逆算で作っていますね。『COCOLORS』の場合だと、マスクを被ったキャラクターたちがいて、富士山の大爆発がある世界観のなかで、どういう物語があるか……というところからの発想ではあります。でもまあ、なんだかんだいって暗い話が好きなのかもしれませんね。基本根暗だと思うので。
—— 石黒さんの自己紹介のときにチラッと話にでた「版画のような絵作り」というアイデアも早いうちにでたのでしょうか。
横嶋 版画の話は、企画当初の段階から、清水にしていたような気がします。神風動画でやっているキャラクターの表現というか、処理のシステムに近いものがあると思ったんですよ。肌をマスクで出すとか、服を素材ごとにマスクでわけるとか、これって何かの手法に近いなと考えたときに、「あ、版画とほぼ一緒のことをやっているな」と。「GASOLINE MASK」の世界に、版画の要素も組み込んで物語を作れたら面白いものになるかもしれないというのは、最初の段階からありました。
Official Website
『COCOLORS』公式
http://gasolinemask.com/nishiki/cocolors
神風動画弐式スタジオ
http://gasolinemask.com/nishiki/
Information
マチ★アソビVol.15にて、神風動画『COCOLORS』中間報告会を開催。参加方法などの詳細は、マチ★アソビ公式サイト(http://www.machiasobi.com/)まで。
神風動画『COCOLORS』中間報告会
日時:10月10日(土)15時〜
場所:ufotable CINEMA
登壇者:横嶋俊久(監督)、清水一達(アニメーションプロデューサー)、宮下卓也(企画/広報)
(C)神風動画