神風動画『COCOLORS』PV
全32カット、スタッフコメンタリー(前編)

新人スタッフ4名にも参加してもらい、『COCOLORS』PVの全32カット(CUT000〜031)について誌上コメンタリーを実施した。メインスタッフの取材記事とあわせて読んでいただきたい。

出席者
監督・脚本・絵コンテ・演出/横嶋俊久
アニメーションディレクター・CGI監督/石黒英彦
プロデューサー・制作管理/清水一達
アニメーション/石内健
アニメーション/長屋かおり
美術/吉田俊介
撮影/上遠野学

CUT000

石黒 弐式スタジオのロゴがフェイドアウトするとき、「弐」だけちょっと残したんですか。
横嶋 そうなのよ(笑)。
石黒 やっぱり、そうだったんだ。
—— ほんとですね。オレンジ色の「弐」だけ少し長く映っています。
清水 モノローグ風の語りから入って、映画っぽくしたいって話をしてましたよね。
横嶋 正直なところ、まず尺をかせぎたいというのもありました。
一同 (笑)。
横嶋 もちろんストーリー自体、ああいう始まり方をさせたいなと思っていたんですけどね。黒バックを長めにとって、まず最初にスタジオ名やプロジェクト名をだす。そして、子役のキャストの方々のセリフからうまく導入できたらなという流れを考えていました。
清水 最初のセリフは、わりと早い段階からあったものでしたね。

CUT001~002

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40-cocolors01-bamen_c002

横嶋 CUT001の背景のもとになる原図は、橋口コウジさんに「この作品の世界観がみえるようなものを」とお願いして、最初の頃にあげていただきました。この絵があがって、主人公たちがどういうところで暮らしているのかといった世界観がみえた感じです。
—— 主人公以外のキャラクターたちも、色々なものを被ってますよね。
横嶋 スーツはみんな同じ素材のものを着ているんですよ。唯一個性をだせるのがマスクで、それぞれスクラップ品などを加工して思い思いのものを被っているんです。

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キャラクターデザインの鈴木理さんが描いた「色々なマスク」。

—— 取材で伺ったとおり、背景はすべて吉田俊介さんが担当されているんですね。
吉田 橋口さんが描かれた原図の線をいかして、私が色味を入れて背景にしています。監督と二人三脚といいますか、だいぶ直していただいたところもありますが……。普通に塗ると派手な方向にいってしまうので、色味をおさえながら今の塗り方に落ち着いていった感じです。
横嶋 僕からのオーダーで、なるべく色を使わないでほしいと言っていたんですよ。この辺りは最初に塗ってもらったところだよね。
吉田 CUT001とCUT002の塗りは、ほんとに最初の頃にやっていたものなので、あとからもっとおさえてもよかったのでは、なんて話もでました。
横嶋 キーになる色を目立たせたかったので、普段の生活の場の色味はおさえたい。でも、モノクロームにはしたくないという、難しいオーダーだったと思います。
石黒 モブのキャラクターの動き、頑張りましたよね。
横嶋 工数的にはこんなにモブを登場させられる段階ではなかったんですが、長屋(かおり)や石内(健)が頑張ってくれました。
石黒 最初は、立っているポーズだけで乗り切ろうという話だったんですよ。ただ、このカットの作業時期がちょうど最後の方だったので、2人が中盤までつちかってきた約1カ月の経験をフルに使ってもらいました。
横嶋 メインキャラのフユの動きは石黒がつけていて、他のモブに関しては長屋と石内が担当しています。石内はモデラーとして入社したんですが、本作ではアニメーションをやってもらいました。
石黒 石内は自主制作でアニメーションを作っていたので、動かすことも好きなんですよ。演技に関しては、そんなにオーダーはしていなくて、「日常のなかで喋っている感じにしてください」ぐらいだったと思います。こんなにモブが動くのは珍しいなって、嬉しくなっちゃいましたね。
横嶋 賑やかさをだしたいなと思っていたけれど、このスケジュールだと、最悪フユが階段を降りてくるだけになるかもしれないと覚悟してたんですよ。最終的に、ここまでキャラクターが動いてくれて本当に有り難かったですね。
上遠野 撮影的には、スケジュールの終わりの方で撮ることになったのでヒヤヒヤしました。アニメーションがあがるまで、ずっとキャラクターがいないまま、ライトの感じとかマルチの動きをどうするか試しながら撮影していて。
横嶋 延々とやってましたね。撮影的にもカロリーの高いカットでしたので。

新人スタッフコメントPART1

美術/吉田俊介 Shunsuke Yoshida

—— 神風動画に入ったきっかけは?
吉田 今年の3月までは大学生で、卒業後、神風動画に入社しました。以前から神風動画の名前は知っていて、アニメという映像表現を使って、物の考え方の幅を広げていっているような勢いを感じていたんです。アニメをやるならここに入りたいなと前から思っていました。
—— 『COCOLORS』に参加した感想。
吉田 モデラーとして入社したんですが、僕が大学で日本画をやっていたこともあって、美術をふられたんです。今まで自分がやってきたことと被る内容だったので、ある意味安心しました。作業量が多めだと聞いていましたが、初めてだったので、こんなものかなと思いながらやってました(笑)。皆さんの作業に加わって自分が描いたものが映像になり、初めてラッシュを観たときには、思いきってこの仕事に就いてみてよかったなと感じました。1カ月という短い期間で結果が出るプロジェクトを最初にできてよかったなと思います。

CUT003~004

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40-cocolors01-bamen_c004

—— 絵コンテによると「街のお祭りのなか」とありますね。
横嶋 この世界には、身体信仰のようなものがあるんですよ。彼らはずっとマスクやスーツで身体を隠しているので、あまり自分の「中身」を意識することがないんですが、祭りのときは身体を感じさせるようなペイントを施すんです。そうしたお祭りの中で、お互いのペイントを見合って「面白いな」と笑いあっているという。このカットのアニメーションを石黒があげてきたときに、キャラクターが本当に生き生きとしていて、彼らの性格がみえた気がしたんですよね。本当にこの世界が存在するのかって僕自身不安だったんですが、「信じられる世界かもな」と手応えがもてました。
—— CUT003でヘルメットが揺れる動きがよかったです。
石黒 あそこは、ここまで揺らしていいのか監督に聞かないままやっちゃったんですよ。こんなにカポカポするのものを被っていていいのかなと(笑)。街のみんなに可愛がられている子なので、ちょっと愛嬌をだすために動かしてみました。子供っぽい動きをだすのには、ちょっとガタガタするぐらいがそれっぽい動きになるのかもしれないと思いまして。
横嶋 凄く良いと思いました。

CUT005

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—— 背後に、色々なものが並んでいますね。
横嶋 フユはスクラップを使って工芸品のようなものを作っているという設定なんですよ。これも最初は、デザインも何も全然できてなくてですね……(笑)。ただ前段階で、スクラップ品みたいなものは3Dで沢山作っていたんですよ。それを上手く組み合わせてオブジェのようなものを作れないかと石内に丸投げしたんです(笑)。
—— 背景の置物は手描きではなく、3Dのモデルで作ったものが並んでいるんですね。
横嶋 そうですね。レイアウトは3Dでおこしています。最終的には、その上から橋口さんに鉛筆で描いてもらっていますが。
—— その前段階のモデルは、すべて石内さんが作っているんですね。
横嶋 「石内さんの作品展みたいだね」って話してました。
石内 スケジュール的にはギリギリでしたが、作っていて楽しかったですね。お気に入りは、(画面右の棚の上から2段目にある)樽みたいなかたちをしたやつです(笑)。
横嶋 そうなんだ(笑)。
—— ひとつひとつ形が違いますし、作るのは大変だったでしょうね。
石黒 これ、並べるのも大変なんですよ。
横嶋 CG上で、うまくバランスをとりながら並べなきゃいけないものね。
石黒 最初僕が、1段目、2段目、3段目と棚の段ごとに上手く整理できるような仕組みで並べていたんです。高さの数値を打ち込むと、綺麗に一列に並ぶようにして。でも、横嶋監督が修正するときにガチャガチャといじってしまって、僕の苦労が……という(笑)。
横嶋 そうして僕が怒られると(笑)。そんなこともありましたね。

新人スタッフコメントPART2

アニメーション/石内健 Takeshi Ishiuchi

—— 神風動画に入ったきっかけは?
石内 入社前は、スーパーで働きながら副業でCGの仕事をしていました。自主制作で作った映像をネットにあげて、仕事の依頼を受けたりしていて。CGの仕事1本でやっていきたいと思い、いろいろ探しているなかで、神風動画に入れることになりました。
—— 『COCOLORS』に参加した感想。
石内 モデラーとして入ったんですが、この作品では自主制作の映像をみた横嶋さんから「できるのでは」と言われて、アニメーションをやらせてもらいました。モデリングもアニメーションもやりたかったので、非常に楽しくやれました。これからも、どちらもやっていけたらなと思っています。

CUT006

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—— 手前が真っ暗になっていますが、これは何かを隠しているんですか。
横嶋 そうなんです。あるものが置かれています。
清水 本編のネタバレに関わるところですね。

CUT007〜008

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—— 石を手渡すところは、取材でも話題にあがりましたね。
横嶋 アキとフユの関係性がみえるところですね。取材でもお話したとおり、本編では渡し方がちょっと変わるかもしれません。
—— よくみると、細かい粒子が舞っていますね。
横嶋 外は灰が舞っていて、だいぶ離れた地下にも塵のようなものが入ってきているんですよ。有害な塵から守るために、みんながマスクを被っているという設定なんです。

CUT009

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—— マスクが照り返す光が意味ありげですよね。これは演出的な狙いもあるのですか。
横嶋 やっぱりマスクだと表情がだせないので、何とかあのハイライトで感情表現ができないかなと思ったんですよ。光がちょっと揺らぐとか、そういうことで感情が表現できたらというデザインになっています。モビルスーツにおけるモノアイみたいな感じですね(笑)。
清水 ここまでのアニメーションが、石黒の担当ですね。

CUT010〜012

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—— ここは撮影が大変だったのではないですか。
上遠野 そうですね。でもここは、わりと早い段階から手をつけて横嶋さんと詰めてましたので。
横嶋 どうすれば吹雪にみえるか、けっこう苦労しましたよね。
上遠野 ここは全体をシルエット気味にちょっと落としています。今回の作品はあまり遠近感をださず、色などで表現しようというかたちでいたんです。特にこのカットの画面では、全体が灰で覆われていて遠近感が伝わりづらかったので、その中で色をつかってどうやって奥行きをだすか試行錯誤しました。
横嶋 カットごとに灰や塵をどう飛ばすか苦労しました。動いているようにみせるのが大変なんですよね。止まっているとそれっぽくみえるのに、動かすと上手くいかない……という状況がずっと続いていて。
上遠野 一連のカットの灰や塵みたいに、ずっと画面に流れているものは続けて観てしまうと、どうしても同じ画面が続いているようにみえてしまうんです。そこを上手く調節しながら、CUT010から012までの3カットの中で、カットが移りかわっていることをみせなくてはいけなくて。
—— なるほど。一回おおっと思っても、数カット続くと慣れてしまうわけですね。
横嶋 風が吹いて灰や塵が流れているようにみせるために、かなりトライ&エラーをした記憶があります。
—— よく観ると、目のところがチラッと光っていますね。
横嶋 マスクに光る部分があって、喋ると生体的な電気信号を拾って光るという設定があるんですよ。点滅していると、そいつが喋っているっていう。そうやってマスクを被っていても、誰が喋ってもわかるようにしているという理由付けをさせています。

<後編を読む>

Official Website
『COCOLORS』公式

http://gasolinemask.com/nishiki/cocolors

神風動画弐式スタジオ
http://gasolinemask.com/nishiki/

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