前編に引き続き、誌上コメンタリーの後編。CUT0013からラストカットのCUT0031までをお届けする。
出席者
監督・脚本・絵コンテ・演出/横嶋俊久
アニメーションディレクター・CGI監督/石黒英彦
プロデューサー・制作管理/清水一達
アニメーション/石内健
アニメーション/長屋かおり
美術/吉田俊介
撮影/上遠野学
CUT013
—— CUT013の前に長い暗転が入りますよね。
横嶋 ここで一回、ブツッと流れを切りたかったんです。最初にファンタジックで楽しそうな中の世界があって、その後、凄く苛酷な外の世界の状況がみえますよね。そこまで見せたあとに一回分断させて、「一体なんだったんだろう?」と思わせるという。音もガチャンって強調したものを入れています。
—— CUT013で、上から落ちてくるガラクタの動きも手でつけているわけですよね。
横嶋 ここは長屋が初めて担当したところです。辛抱強く動きをつけないと、なかなかできないカットですね。
石黒 このカットは、僕と横嶋監督で話して、長屋にテスト的にふってみたところなんです。
横嶋 そうでしたね。
石黒 アニメーターは対象と根気強く向き合わないと、なかなか表現というところまで到達できないんです。これだけのガラクタを落とすには、それぞれが綺麗に跳ねたり転がらないといけないし、積み重なったものも整合性をたもっていなければいけない。僕も昔やったことがありますが、地道で大変な作業なんです。この仕事とどこまで向き合ってもらえるか試す意味もこめて彼女にふってみました。
横嶋 アニメーターとしての最初の試練ですよね。ガラクタをひとつずつ落とす、この地道な作業ができるのかって。
—— 長屋さんは、いきなりこのカットを振られていかがでしたか。
長屋 こういう細かい作業は好きなので、わりと自分のなかではイメージしやすかったです。
横嶋 最初、レイアウトを組むのは大変だったようだけど、アニメーションに入ってからは、すんなり(動きを)つけてきたんで、僕らも驚いたんですよ。
石黒 テイク2で、だいたいできてましたね。
長屋 まず最初に、凄い量の3Dのスクラップ素材を用意して、そこからの作業でした。
横嶋 石内が作った棚と同じで、スクラップの素材みたいなものは、みんなが現場に入る前から準備していたものを使ってもらっています。物凄い分量のスクラップのデータがあるなかで、そこから何をチョイスして落とすのか、たぶん悩んだんじゃないですかね。スクラップをバランスよく配置するところからの作業でしたので。
石黒 画面左の、小さなパーツが横に転がるのがいいですよね。ああした遊びの要素は、ちゃんと成立させないと変に目立っちゃうところなんですよ。そこに挑戦しつつも綺麗にいっていて。
横嶋 これが初めての担当カットですからね。根気強さと遊び心、アニメーターとして優秀な資質がそろっていると思います。
新人スタッフコメントPART3
アニメーション/長屋かおり Kaori Nagaya
—— 神風動画に入ったきっかけは?
長屋 前職は、CGとはまったく関係のない一般の会社のOLで、1年前から夜間の専門学校でCGを勉強していました。その学校で神風動画の方が授業をされていて、それが縁で入社することになりました。もともとアニメ制作に興味があって、最近3DCGを使ったアニメが増えてきていたので、3Dを使ったアニメ作りを目指すようになりました。
—— 『COCOLORS』に参加した感想。
長屋 1カットごとに勉強することが沢山あって大変でしたが、初めてアニメ制作に関わって、色々な人の力が反映されて、こうした映像ができるのは凄いなと感動しました。作品にもっと貢献できるように、これからも頑張っていきたいです。
CUT014
—— 画面右の赤いライトには色がついていますね。
横嶋 そうですね。唯一ちょっと色をのせていて。
—— ぶらさがった灯りのまわりの、白いぼやっとした効果も面白いです。
横嶋 有り難うございます。これは試しにやってみたところで、本編では変わってしまう可能性大なんですが。どうやって光を表現するのか、美術の吉田や撮影の上遠野と試行錯誤しながらやってみたところです。PVでは丸いかたちで囲っていますが、本編ではまた違った表現になるかもしれません。
CUT015
横嶋 ここの原図も、最初の頃に橋口さんに描いていただいたところです。まだ世界観もできていない状態のときに、「橋口さんの得意な感じで自由にお願いします」とお話したら、わりと一発目にこれがバンとでてきて(編注:原図はメインスタッフの取材記事を参照)。
—— 場所によって、背景の線のタッチが違いますよね。ゴツゴツした線のところもあれば、綺麗な線のところもあって。
横嶋 実は、場所によって作られた時代が違うんですよ。このカットの場所は、フユ達よりも前の世代の人達が作ったところを利用しているという設定なんです。線のタッチで、差をだしています。
CUT016
—— CUT009と同様、キャラクターの周囲の黒く隠れた部分は、本編を観るとわかるのですか。
横嶋 そうですね。2人が石を受け渡したところと同じ場所なんですが、実際の原図は物凄く緻密なものを橋口さんに描いていただいています。
吉田 美術の作業量的にも手間のかかったところなんですけれど、ご覧のとおり、ほとんど隠れてしまって(笑)
横嶋 PVでは黒く落としてしまってますけど、本編では灯りがついて、ちゃんとみえる同ポ(同ポジション)のカットもでてきます。
—— 本編の別のカットでは、全てみえるわけですね。
横嶋 これは版画をテーマにやるということとも関係しているんです。近現代の作家さんの版画って、同じ版を使って朝昼晩を表現していたりするんですよ。まるでアニメのようなんですが、本作でもそれと同じように、マスターショットに近いところは、違った表現や色味を使いながら同ポとして使っていきたいなという狙いがあります。
CUT017〜19
—— ここからまた美術のタッチが変わりますよね。ビルの線が独特で面白いです。
横嶋 さきほど突っ込んでいただいたように、美術については階層ごとに少しずつ差をだしています。地下のファンタジーな世界観とはまたちょっと違った色味や処理で描ければと。
—— 足で地面を踏んだ瞬間に、煙のようなものがでますね。
横嶋 白いものは、雪ではなく灰だとわかるように描いています。僕らの世界との地続きな感じがだせればなという狙いもありますね。
CUT020〜22
—— 巨大な影のようなものが横切りますが、これも作品の根幹に関わるものなのでしょうか。
横嶋 そうですね。本編を観ていただければわかります。
—— 通り過ぎる何かは、どなたが作ったんでしょうか。
石黒 石内さんですね。
石内 (影なので)適当に作ったので……(笑)。
一同 (笑)。
横嶋 原図が手描きなので、3D的な影をおとすのは非常に難しかったりするんですよ。石内に頼んで、影になる元素材のCGを作ってもらい、さらに原図にあわせて3Dの階段をおこす作業をしてもらいました。そうやって、壁面に上手くそったかたちで影がのびていくという。
石黒 原図にそわせるのは、ちょっと大変でしたよね。
石内 なかなかパースがあわなくて。
横嶋 絵にあわせて3Dで階段を作るのは、あまりやらないですし、やるとなったら厳しい作業なんですよ。上手く処理してもらえました。
CUT023〜25
—— CUT010〜012と同様、撮影にご苦労されたシーンではないですか。
上遠野 炎のようなものは、撮影の腕のみせどころですよね。ここは最初から横嶋さんと、作画をしているような雰囲気で作っていこうと話していました。
横嶋 どうやったら版画みたいな雰囲気がでるんだろうねってずっと話しながら作業していました。CGで普通に(炎の動きを)送ってしまうと、凄く綺麗に送られちゃうので、そこを上手くランダムな感じにしてみました。
—— 炎の赤も、版画にありそうな色味ですよね。
横嶋 色味もどうしようかなと試行錯誤しました。作業途中のものを見せてもらったとき、本当は今の雰囲気じゃなかったんですよ。undo(アンドゥ)とかで戻っているときに、たまたま今の炎の感じになり、「これいいじゃん」となって、今のかたちに落ち着きました。
上遠野 「これどうですかね?」と幾つかパターンをみせていた過程のなかで、たまたま良い感じにみせるものができたんです。「じゃあこれでいこうか」となって。
横嶋 なかなかCGでは表現しづらい炎になったんじゃないかと思います。
新人スタッフコメントPART4
撮影/上遠野学 Manabu Kadouno
—— 神風動画に入ったきっかけは?
上遠野 テレビアニメーションの撮影会社に3年ほど勤務していて、転職して入りました。新しいスタジオで、スタジオができあがっていく過程などをみながら自分もスキルアップしていけたらなと思ったのが理由です。
—— 『COCOLORS』に参加した感想。
上遠野 モノクロの塵のシーンや、最後の炎のところなど、色々なパターンを作らせてもらえました。横嶋さんはとても気さくな方で、自分なりのチャレンジをいろいろと試させてくれるんですよ。なんていい人なんだろうと思いました(笑)。今の絵になるまでにちょっと時間はかかりましたが、今回の経験をいかしていろいろな表現をもっと究めていけたらなと思っています。
CUT026〜30
—— ヘルメットをとるとき、ぐっと溜める動作がいいですよね。
石黒 ヘルメットを外すCUT027は、永田(奏)が見切り発射でやったところなんですよ。ほんとはヘルメットは外れないはずだったんです。プシューって煙がでるだけだったのに、外してきちゃって(笑)。
横嶋 そうでしたね(笑)。ヘルメットの中の圧力が抜けるような感じで、煙だけがでてほしかったんです。
石黒 ヘルメットが抜けちゃったんで、煙で隠しているんです。中をみせるわけにはいかないので。
横嶋 永田がつけるアニメーションは良いので、このままいけないかってなったんです。力のかかり具合とか、とる感じがいいんですよね。結果的には、これで良かったと思います。
—— ヘルメットをとった相手に対するリアクションも見応えがあります。
横嶋 絶対にやってはいけないことを目の前でみせられての芝居ですからね。自分に似た者が、目の前でタブーをおかすという状況なんです。
—— ヘルメットを外したあとに時間差で黒い液体がドロリとでてくるところ、不気味な感じがでていますね。
横嶋 ここは僕の身振り手振りと、口頭で「どわっとした感じ」と言ってやってもらったところです。そのニュアンスを、アニメーションの永田と作画の吉邉(尚希)が上手く拾ってくれました。
—— 取材でも伺ったように、黒い液体のところは手描きの作画も足されているんですね。
横嶋 PVで手描きの作画を使ったのは、このカット(CUT030)だけですね。液体が垂れているところは全部永田で、それに吉邉の作画を組み合わせています。
清水 エッジがでているところは全てCGで描かれています。液体の中でタタキ(編注:爆発やしぶきなどを表現するためにつける細かい粒のこと)みたいなものが入っているところが吉邉の作画です。
—— ここはCGだけでは足りなかったんですね。
石黒 CGだけでできなくもないんですけど、カロリーが高くなってしまうので。
—— 手描きの作画をあわせた方が効率がよかったんですね。
横嶋 ここは本当に、他の仕事で忙しかった吉邉君が心意気だけで手伝ってくれたところなんです。僕はあとで清水から「なんで吉邉さんに頼むんですか」と怒られました(笑)。
CUT031
—— いよいよラストカットです。最後に暗転して「幻想マスク奇譚」とナレーションが入りますよね。どうして、この言葉になったんでしょうか。
横嶋 わりとハッタリな感じもあるんですけどね。テーマ自体は、現実にそくした非常にシビアな話なんですが、ファンタジーの雰囲気もあるんですよね。そうした意味をこめて、「幻想マスク奇譚」というちょっと変わった言葉を沢城(みゆき)さんに言っていただきました。
—— アキが息をあらげているカットも本編にでてくるんですか。
横嶋 近い感じのカットはでてくる予定です。
—— マスクに照り返すハイライトが、息遣いにあわせてゆれているのが印象的です。
横嶋 声の表情がでるように、その辺りは狙っています。実は、最後のカットはフルフレームで動かしているんですよ。他は、2コマや3コマ打ちなんですが、ここは彼の息づかいを感じられるようなカットにしたかったので。ちょっとした違和感なども含めた動きになるようにフルフレームで動かしています。
—— 最後にでる『COCOLORS』のタイトルロゴは、どんな方に作ってもらっているのでしょうか。
横嶋 友人のデザイナーにお願いしました。ガラクタを使う人間がいる世界観だと伝えたら、「色々な物がごちゃまぜになっているのなら、ロゴもゴシックや明朝が入り交じったようなものでどうだ」というので、作ってもらった感じです。
—— 「C」が2つでてきますが、書体が違いますね。
横嶋 書体を統一させないことで、継ぎはぎ感というか、ガラクタ感を表現してもらいました。
Official Website
『COCOLORS』公式
http://gasolinemask.com/nishiki/cocolors
神風動画弐式スタジオ
http://gasolinemask.com/nishiki/
(C)神風動画