第1回、第2回、第3回と続けてきた本記事も今回で最終回。原作後半の展開を描くことなく、しかしその予感を感じさせる見事な構成に至るまでについて語っていただいた。
Profile
橋本健太郎 Kentaro Hashimoto
アニメーションプロデューサー。マッドハウス所属。代表作に『デスノート』『オーバーロード』『魔法科高校の劣等生』などがある。
絶対的に説明が必要な作品を整理する難しさ
—— 撮影と色について聞いておきたいのですが、今回撮影処理は相当入ってましたよね。光の具合などとても美しかったのですが。
橋本 そうですね。撮影監督の伏原(あかね)さんが処理を濃い目に入れてくれました。前半は探り探りだったんですけど、結局どんどん濃くなっていきましたね。
—— これは監督ではなく、撮影監督の好みなのですか?
橋本 両方だと思いますが、撮監のほうから提案してもらっているほうが多いと思います。伏原さんはちゃんとテストとして見せてくれるので、比較するとやはり処理がしっかり入っている方が見栄えもよかったので。強めに撮影処理を入れる絵作りになって行った感じですね。元々マッドハウス自体、処理が濃い目な作品が多い気がします。だからその文化をちゃんと汲んでいる撮監さんだと思いますね。『ワンパンマン』で初撮監だったと思います。
—— 第4話のラストは、作画も素晴らしかったですが、撮影処理も凄かったですよね。
橋本 そのシーンは監督の方針ですね。伏原さんにテストして見せてもらって、幾つかの見せ方のなかで、ああいう映像になりました。赤を際立たせつつ、ややホワイト気味にふってほしいというのが監督の意図だったと思います。
—— 色はマッドハウスでおなじみの大野(春恵)さんですね。
橋本 大野さんもどんな作品でもこなせる方ですね。色に関しては監督主導でもともと始まりました。基本的に原作があるものなので、そこに合わせた形で一度見せていただいて、美術の色味などと合わせて調整していきました。結構キャラクターの色味を決めるのも難航しましたね。現地がインドぐらいな場所の想定で考えていたのですが、服はドイツ風な軍服だったので(笑)。暑い国ではあるものの、タイツも履いてるし、長袖もコートも着ているし、手袋も付けていますしね。
—— (笑)。結論としては?
橋本 そこはバランスを取りながらも、余り気にしない感じですね(笑)。このあたりは、若干難しいところなのですが……アニメだからそれでいい、とも言えますが、色々苦労して世界観を作ってきたので、なるべく上手く表現したいですしね。これもビジュアル化に苦労した部分のひとつでしょうか……。
—— ビジュアル化以外に苦戦した部分はどこでしょうか?
橋本 小説の3巻までをアニメ13話に収めるのが難しかったですね。戦況とか状況とかを説明しないと分かり難いところがあるので、なるべく丁寧に説明したのですが、説明のための台詞やシーンよりは、キャラクター性のある台詞やシーンをなるべく残したかったので、バランスを取るのに脚本のヤスカワ(ショウゴ)さんに苦労をかけたと思います。上手くまとめていただけて本当にありがたかったです。
絵コンテ陣についての考え方
—— 今回はかなり演出アニメになっていると思うのですが、各話の絵コンテマンについてはいかがでしょうか。これまで組まれて今回成長がみられたような方はいましたか?
橋本 そういう意味では松村(政輝)さんでしょうか。絵コンテが以前と比べて格段に上手くなっていると思います。
—— 第9話の絵コンテを担当されていますね。上手くなっているというのは、どういうところに感じますか?
橋本 『オーバーロード』の時はコンテの経験も浅かったためかやや不慣れ感じもあったのですが、しっかりしたコンテを描かれていたと思います。監督も僕も『オーバーロード』のコンテを見た感じだと、もうちょっと不慣れな感じがあるかもしれないと思っていたのですが、あがってきたものを見ると凄く良かったです。リズムやアングルや見せ方に工夫があって、良かったと思います。
—— そもそもコンテもこれまで多数描いてきたというわけでもないですよね。
橋本 そうですね。『オーバーロード』でほぼ初めてに近かったと思います。一度『HUNTER✕HUNTER』で1本描いたあとは演出のみをずっとやってきたみたいなので、『オーバーロード』の時はカット繋ぎにも少し違和感があって、第4話も監督の伊藤尚往さんが修正された箇所もありました。今回はそういう感じはなく、世界観もキャラクター性なども上手くまとめていただけていたと思います。『神ない』の時から知っているので、凄く嬉しかったですね。
—— 『オーバーロード』でもそうでしたが、松村さんにアクション回を振っているのはどういう理由で?
橋本 単純にアクションの多い回をお願いしたからですね。古川さんも松村さんも戦争というか戦いが多い話数をお願いしていました。社内に入ってメインでお仕事をお願いしていたので、比較的大変な話数のコンテを、古川さんや松村さん、浅香さんにお願いしていました。
—— コンテマンの配置についての意図をおうかがいしてもよろしいですか?
橋本 第4話、第8話に関しては監督と相談して古川さんにお願いしました。模擬戦と実戦のある序盤で一番大事ですし、まず大変な第4話をお願いしました。8話も同様です。シナーク族と初めて戦う話数でしたので。第5話は脚本の段階から篠原(俊哉)さんにお願いしたいと監督から相談されていました。
—— 監督からの信頼があったと。
橋本 そうですね。篠原さんのコンテもすごく良かったですね。
—— 浅香さんが3話分のコンテを引き受けられていますが、かなり珍しいですよね。
橋本 そうですね。監督よりキャリアもあるわけだし、信頼を置いていたと思います。時期が良かったというのが大きいのですが、浅香さんにコンテをお願いできたことは本当に良かったです。皆さんそうですが、好みがはっきり出ますしね。『アルデラミン』では、監督の紹介などで上手な方にコンテをお願いできたので、本当に運が良かったと思います。
ヤトリは二重の意味で運命に抗えない
—— これまで結構ご苦労の面をうかがってきましたが、逆にうまく言ったと思えた部分はどこになりますか?
橋本 イクタとヤトリの物語に集中させたところでしょうか。シャミーユは原作ではもう少しフィーチャーされるのですが、その思惑については最後に持ってくるかたちにしました。そうすることで、イクタとヤトリの心情に寄り添っていくようにしました。このやり方にしたからこそ、監督の得意な心情表現が活きたと思いますし、原作が内包している「固い絆で結ばれていながら、相反する二人」という大きな軸を表現できたと思います。本作によく登場する二人の背中合わせの構図などに、その集大成があると思います。
—— 少し踏み込んだ話になりますが、やはりそのあたりは原作後半の展開も見据えての構成だったのでしょうか。
橋本 そうですね。原作を知っている方たちが小説とは違うと感じないように作るのが大前提ですし。実はアニメ化がスタートした時にはまだ原作が山場に差し掛かっていなかったんです。だから、制作チームも後半の展開に驚かされました。
—— 確かにそうですよね。ではむしろそこでアニメ版の構成が固まっていったところもあるのですか。
橋本 はい。そこは監督が決めたことなのですが、そうしないと全体を通す軸というか、話が成立しづらかったので。原作の3巻までというのは、実はあまりヤトリがフィーチャーされないんですよね。どちらかというとイクタvs.ジャンというのが話の主軸になっていく。そこを原作後半の展開を見据えながら、そっちに向かうように調整していきました。原作7巻のエピソードを第5話に持ってきたのもそういう意図です。ここを描くことによって、2人の絆がどういうきっかけで生まれたのかが分かりますし、第11話の「僕は喪われた君を想うだろう」に繋げ、最終回のシャミーユが言った言葉への一本軸が立つんです。
橋本 それと、原作後半の軸になる展開はもうひとつの意味合いもあって……。それはヤトリという存在は「剣」なんですよね。白兵戦の技術が主体なんです。でも、原作後半では銃撃がフィーチャーされていき、剣という存在が不要になっていく。イグセム家というのはそういう存在なんだと思います。だから彼女は二重の意味で運命に抗えないというか……。そのあたりも表現したかったことですね。
—— 意図がきちんと伝わる作りになっていたと思います。作品が終了し、あらためて市村監督とのお仕事についてはどのように思われますか。
橋本 市村さんは自分の考えをしっかり持っていましたので、可能な限り監督と相談しながら制作をさせていただきました。世界観や表現することも多く大変な作品だったと思うのですが、とても真面目に一生懸命に作品と向かい合ってくれたので、大変なこともたくさんありましたが、とても嬉しかったです。僕自身も成長できたと思います。
—— なるほど。今後の作品も楽しみにしています。この記事が掲載される頃にはパッケージの最終巻も発売されている頃だと思いますので、最後にここまで観てくださった視聴者の方に一言いただいてもよろしいですか。
橋本 ご視聴いただきありがとうございました。アニメは原作のよさを可能な限り再現したつもりですので、気に入っていただけた方は、原作小説やコミカライズもご覧いただければ嬉しいです。そちらはまだ続きますので、合わせて楽しんでいただければと思います。今後も引き続き『天鏡のアルデラミン』をよろしくお願いいたします。
Official Website
テレビアニメ『ねじまき精霊戦記 天鏡のアルデラミン』公式
http://alderamin.net/
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(C)2015 宇野朴人/KADOKAWA アスキー・メディアワークス刊/「天鏡のアルデラミン」製作委員会