今のマッドハウスで血肉になることをやっている
『ねじまき精霊戦記 天鏡のアルデラミン』アニメーションプロデューサー 橋本健太郎(第1回)

昨年7月から9月にかけて放送されたテレビアニメ『ねじまき精霊戦記 天鏡のアルデラミン』。「このライトノベルがすごい!」で3度トップ10入りを果たした同名小説が原作で、戦術的な駆け引きと、キャラクターたちが織りなす物語が魅力だ。なお3月29日発売のBlu-ray&DVD第7巻に収録の13話(最終話)は、テレビ放送verに数分の映像を追加した、ディレクターズカットverが収録される。
本作がどのように作られたのか、マッドハウスに所属し、本作でアニメーションプロデューサーを務めた橋本健太郎さんにあらためて制作意図を聞いていく。第1回では、スタジオの歴史を振り返りながら橋本さんの作品歴を中心に伺った。(全4回)

Profile
橋本健太郎 Kentaro Hashimoto

アニメーションプロデューサー。マッドハウス所属。代表作に『デスノート』『オーバーロード』『魔法科高校の劣等生』などがある。

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ミニマムだったマッドハウスというスタジオ

—— 橋本さんは『アルデラミン』以外にも多くの作品に携わっていらっしゃいますね。マッドハウスでのお仕事は長いのですか?
橋本 そうですね。2001年からなので、もう15年以上ですね。
—— では、せっかくですので、今回はご自身の経歴を振り返っていただきつつ、マッドハウスの変遷についても伺えればと思います。橋本さんは、アニメに興味があったからこの道を目指されたんですよね?
橋本 いや……勉強したくないから専門学校に行こうかなと(笑)。崇高な理想や理由はないですね。郷里で就職活動して全部落ちてしまい、親から「アニメの専門学校に行ったんだから、アニメの会社に就職しなさい」と言われて。半年位バイトしていたのですが、毎日食卓で文句が出るので(笑)、アニメ会社に就職しようと思ったんです。
—— (笑)。そうだったんですね。それでマッドハウスを受けた?
橋本 はい。2000年に直接マッドハウスにお電話させていただきました。10月に面接を、11月に合格連絡を受けて、12月22日に入社したら、すぐにお正月に入っちゃったんです。その後、2月位に長崎健司くんや伊藤智彦くんが入社してたと思います。自分の方が少し入社は早いのですが、ほぼこのあたりに入社した人達とは同世代という認識です。
—— 今は監督として活躍されている長崎監督や伊藤監督と同時期に入社されたのですね。マッドハウスは何度か社屋が変わっていますが、当時はどこに?
橋本 阿佐ヶ谷です。りんたろう監督がデザインした、ピンクと黄色と赤で塗られた、まさに「マッドな」カラーリングの場所でした。ハンモックみたいな紐は掛かっているし、マッド元社長の丸山(正雄)さんは犬を連れているし、炊き出しもするし。ブースも当時は2つしかなかったんです。プロデューサーも数人しかいなかった。割とミニマムなスタジオという印象でした。
—— そんななかで、橋本さんが最初に付いた作品というのは?
橋本 『Di Gi Charat 春(お花見すぺしゃる)』でした。当時制作進行で、今は監督もされている平尾隆之さんの下に付いたんです。だから、セルをかろうじて経験しています。それを1本やらせていただいて、その後、『学園戦記ムリョウ』に途中から入りました。11話から制作進行を担当して、16、21、26話をやらせていただきました。次に『アクエリアンエイジ』のグロス補佐といったお手伝いがあって……。その後に『キャプテンハーロック』の追い込みでオープニングと9、10、13話を担当したという感じです。
—— デスクを最初に担当された作品は『GUNGRAVE』なのでしょうか?
橋本 そうです。その後、『妄想代理人』のデスク補佐をやらせていただいて、その流れのまま『パプリカ』の制作担当をやらせていただきました。
—— その時はおいくつぐらいだったのですか?
橋本 22歳でデスクをやって、24歳で劇場に入ったと思います。
—— その若さで劇場のデスクに入っているとなると、かなり順調にご経験を積まれていますよね。そして初プロデューサーが『デスノート』ですか。
橋本 はい。『パプリカ』が思ったよりも長くなってしまったんです。公開前に文化庁の賞に出す予定があったので、かなり早く終わらせるはずだったのですが、結局文化庁用の初号を別に作るかたちになってしまって……。その後、ベネチア(国際映画祭)用の初号があって、完成版を作るというかたちになったんですよ。

マッドハウスの今

橋本 そこでベネチア用の初号が完成する前に、『デスノート』のデスクということで、呼んでいただいたんです。
—— え? デスクとして呼ばれたんですか?
橋本 はい。でも、デスクとして紹介されたら、プロデューサーがいなかったんです(苦笑)。突然丸山さんから日本テレビの中谷敏夫さんに「彼が『デスノート』の担当のプロデューサーだから」と紹介されて。
—— それは驚きですね。
橋本 打ち合わせの数日前位に荒木(哲郎)さんが突然『パプリカ』部屋に入ってきて、「橋本君、よろしくね」と言われたんですよ。何を言われているのかわからなかったので、「はあ……」と返したら、「キミ、『デスノート』の担当なんだよ」と言われて(笑)。「ええっ? まだ『パプリカ』やってますけど」と。そんな混乱も含めて、結構楽しかったですけどね。
—— その頃、マッドハウスはかなり本数が多かったですよね。
橋本 作品が多かったですね。今 敏監督、細田守監督、片渕須直監督など、監督も多く、合わせてプロデューサーも増えていました。
—— 当時と今とで何か違うところはありますか?
橋本 会社っぽくなったと思います。以前は海外でもアニメにかなり値がついて、ちょっとしたバブルだったんですよね。そういった背景もあり、多くの作品やオリジナル企画等を沢山作る事になるのですが、だんだん会社が消耗していった気がします。対して、今の日本テレビ傘下のマッドハウスは非常に堅実になったと思います。人数もほどほどだし、休みもちゃんと取れますし。当時は当時で良いところもあったと思いますが、自分は今のほうが良いかなと思います。
—— そうなんですね。
橋本 ええ。今のマッドハウスは、ちゃんと血肉になることをやっていますよ。辞めたらまた人を入れていけばいいという考えでは、会社に人がいつかなくなってしまいますから。自分も含め、スタッフというのは、歯車だと思うんです。小さいギアに過ぎないように見えて、それが一個でも欠けると全体が動かなくなる。だから、歯車を大事にしない会社は廃れていくと思うんですよ。知らぬまに人が辞めていて、知らぬまに新しい人が入っていて、それがなぜか分からないというのは良くないのかなと思います。以前は同じ会社でも、「どうしてこれを作ってるのか分からない」ということが少なからずあったように思います。ちゃんと企画は精査するべきですよね。そういった所は今の方がしっかりしていると思います。
それと、作品が終わっても、誰も「お疲れ様」と言わないのも良くないかなと思います。なんとなく終わっていくのではなく、ちゃんと人の声を聞いて、終わったことは意識する。そういった会社に、今はなっていると思っています。
—— なるほど。話は戻りますが『デスノート』後もしばらくは、荒木監督の作品を担当されるんですよね。
橋本 『黒塚-KUROZUKA-』『桜の森の満開の下』『(学園黙示録)HIGHSCHOOOL OF THE DEAD』ですね。この後ぐらいから親会社の状況についてあまり良くない話が漏れ聞こえてきて、パチンコや単発のお仕事、『ヘルシング』の手伝いを1年半くらいずっとやっていました。それと、自分も広報や営業と一緒に、いろんなところにプレゼンをかけたりしました。結果として『Aチャンネル』のグロスのお話をいただき、そこから『織田信奈の野望』の総グロスのお仕事をいただきました。その後は、引き続きしばらく熊澤(祐嗣)監督とお仕事をさせていただいて、『神さまのいない日曜日』『魔法科高校の劣等生』『オーバーロード』、現在の『天鏡のアルデラミン』という流れです。

『アルデラミン』と心情に寄り添った演出

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—— 『アルデラミン』以前に市村(徹夫)監督とお仕事をされたことはあったのでしょうか。
橋本 はい。今回監督をお願いした発端は『神様のいない日曜日』での市村さんの仕事の印象が良かったからです。11話のコンテをお願いした時に、面白いコンテを描く人だなと思いました。
—— 『神ない』の11話というと……ゴーラ学園の秘密が解き明かされて……みたいな部分ですよね。蝿がアリスの心情を象徴しているような演出が印象的でした。
橋本 確かに。とても雰囲気のあるコンテでした。監督だった熊澤さんもほとんど修正されませんでした。仕事のスタイルも好印象でした。1クール作品だったこともあり、コンテをお願いしたのは1本のみなのですが、原作をしっかり全部読んでいる等、凄く真面目な方だと感じました。『HIGHSCHOOOL OF THE DEAD』の頃から演出としては知っていたんですよ。その後、「市村さんの演出回が面白い」みたいな話を聞く事がありました。加えてスケジュール通りに上げてくれそうな印象だったので、『神様のいない日曜日』の時は、偶然タイミングが合いお願いできることになりました。熊澤さんもゴンゾにいた時に、市村さんのことを知っていたというご縁もありました。『神様のいない日曜日』は難解な話だったのですが、そのなかでも、さらに難解な部分でしたから。そこを上手くまとめていただいたと思いました。
—— アリスが隠した手がかりをアイが引っ張り出す話でしたね。
橋本 ええ。同じ引き出しを開けてしまうんですよね。「開けて閉めて、また開ける」といったこともちゃんとテンポよくまとめてくれていました。アイとアリスとディーの3人が同じことをやって、それを積み上げていって、隠しきれないものを最後に見つけるという意味合いで、凄く意図が汲めていて、よくまとめられたコンテだと感じました。
—— 絵的にも面白かったですよね。
橋本 そうですよね。心情に振るのが上手いのかな思います。『アルデラミン』も、アクションではなく、心情に振る話だと思っていました。「軍隊モノのアニメーションとして、もっとタクティクスな部分や軍隊の決まり事など細部に凝る」か、「キャラクターの心情に振る」かの二択があったのですが、タクティクスは原作に対して再検証が必要になり、場合によっては変更箇所も出てきてしまいそうだったので、今回はキャラクターの心情を見せる方向で作品として進めさせていただきました。

<第2回を読む>

Official Website
テレビアニメ『ねじまき精霊戦記 天鏡のアルデラミン』公式
http://alderamin.net/

Soft Information
Blu-ray&DVD第1巻~第7巻発売中
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(C)2015 宇野朴人/KADOKAWA アスキー・メディアワークス刊/「天鏡のアルデラミン」製作委員会