最も苦労したのは『アルデラミン』をビジュアル化することそのものだった
『ねじまき精霊戦記 天鏡のアルデラミン』アニメーションプロデューサー 橋本健太郎(第3回)

第1回第2回と引き続き、『天鏡のアルデラミン』についてアニメーションプロデューサー、橋本健太郎さんに伺っていく第3回。各スタッフに焦点をあてお話を聞いた。

Profile
橋本健太郎 Kentaro Hashimoto

アニメーションプロデューサー。マッドハウス所属。代表作に『デスノート』『オーバーロード』『魔法科高校の劣等生』などがある。

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ある種地味なキャラクターの良さ

—— ここからはスタッフ周りについて、色々お話を伺っていければと思います。まずキャラクターデザインの香月さんに関しては、どういった経緯でスタッフィングがなされたのでしょうか。
橋本 これは社内でコンペ(コンペティション)を行いました。そこで監督がいいと言ったのが香月さんだったんです。ただ、最初に描いたキャラクターデザインは今よりもっとリアル寄りで、目がもう少し小さかったですね。そこでプロデューサーの中山(信宏)さんからもう少し可愛い方向に振れないかという話があって、現在のデザインに落ち着いたという流れでした。
—— 香月さんのキャラクターのよさというのは?
橋本 しっかりとしたデッサンに基づいているデザインだと思います。戦争という題材を扱っている作品なのと、原作の各キャラクターの性格がしっかりしているので、リアル目な造型でもキャラクター性は出せるのではと思っていましたし、それは実現できていると思います。
—— なるほど。もうひとりの総作画監督でサブキャラクターデザインでもあった平野(勇一)さんは、どんな仕事をされているのでしょう。
橋本 一般のモブキャラクターや、アゴラやコーサラといったサブキャラクターのデザインをお願いしました。第8話で出てくるダメ上司3人もそうですね(笑)。少し前からお仕事をお願いすることがあり、キャラクターのかわいさや性格といった、このキャラならこういうふうなポーズや芝居をするのではということなども考えて絵を描いてくれる方でしたので、いつかデザインをお願いしたいと思っていました。

第8話に登場するイクタらの上司たち。地団駄を踏んだりと、細かいアクションが楽しい。

第8話に登場するイクタらの上司たち。地団駄を踏んだりと、細かいアクションが楽しい。

—— 実際のお仕事ぶりをご覧になられていかがでしたか?
橋本 今回は相当大変だったと思います。ただ、これまで平野さんもキャラデ・総作監でフィルムを支えている人達をたくさん見てこられたはずです。そのセクションに自身が入って、デザイン・総作監をやっていこうというんだったら、相応の馬力や特徴的な絵が描けないといけない。そのためにはいろんな経験をしておいたほうがいいという想いも、自分としてはありました。大変だったと思うのですが、今後の仕事に繋がる経験であってほしいと思います。
—— 得るところがあったのではないかと?
橋本 あんなに入れたのに修正が反映されてないとか。もっと満遍なくこうしたら良かったとか。やっぱり総作監業に対する自分なりのスタンスや、より効率的な方法を探りながらの作業だったと思います。彼の武器はキャラの華みたいなところにあると思っています。今の主流のやり方でそこを活かすためには、やっぱりできるだけ多くのカットに修正をいれていかないといけない。そういうところは自分が実際やってみて感じることになると思いますので、次に繋がる経験になっていればいいなと思います。
—— 若手ですと、第5話の西川(千尋)さんの回は少し話題になったようですね。
橋本 確かに西川さんも絵に華があると感じます。パッと見目を惹く絵を描かれますね。まだ若い方なので今後、活躍される方なのではと思います。

西川千尋が作画監督を務めた第5話より、子供時代のヤトリ。

西川千尋が作画監督を務めた第5話より、子供時代のヤトリ。

—— これまで橋本さんのご経験の中でも、若手では珍しいぐらい力のある方なんですか。
橋本 そうですね。ずっと大阪(スタジオ・ムー)で仕事をやっていらっしゃって、仕事の考え方も真面目で前向きで、とても助かりました。

「実戦じゃないから余計大変だった」第4話

—— プロップデザイン、メイクアップデザインの高倉(武史)さんはいかがでしょうか。
橋本 高倉さんは監督からのスタッフィングです。『ノルン(NORN9 ノルン+ノネット)』のメカ銃器設定をされていて、その繋がりでお願いできることになりました。高倉さんはアニメーターではないので、『オーバーロード』のサブキャラデザインもやっていただいた前原(桃子)さんにアニメーション用の設定にしていただきました。なので、お2人の力で完成形にこぎつけたかたちですね。
—— 高倉さんは風銃のデザインなどを?
橋本 高倉さんは風銃の原理なども考えてデザインを作ってくれる方なので、とても助かりました。かなり苦労されたと思うのですが、爆砲、風臼砲、国旗、他にも船などのデザインもそういった中で面白いデザインになったと思います。
—— 世界観を作りながら細かい設定も作っていくような。
橋本 本来は2Dデザイナーだったり、美術スタッフに発注することもあるのですが、今回に関しては高倉さんに一任して、世界観の一環としてのデザインとしてやってもらった感じです。このかたちは、結構珍しいことかもですね。
—— 一方で、前原さんは総作監補もやられていますよね。
橋本 そうですね。その辺は『オーバーロード』と同じです。本当はメカ作監なのですが、キャラクターも上手な方なので、総作監補もお願いしていました。本格的にメカが出てくるのが第8話以降なので、それまでは人が走るアクションやエフェクトなども直してもらっていました。後半は武器が中心でしたね。風銃、爆砲、ボウガン、それから馬や、ウサギなんかもやってくださいました。オールラウンダーなので、全般的な底上げになり大変助かりました。

第12話に登場した爆砲。『アルデラミン』はメカ描写もある作品だ。

第12話に登場した爆砲。『アルデラミン』はメカ描写もある作品だ。

—— 主要でないキャラやメカをしっかりと描かれる方だと。
橋本 ご自身も、そういった全体的な底上げの作業が必要だと、しっかり考えてる方なので、とても助かりました。ある種なんでも屋的な面もある仕事なのですが、快く引き受けていただけました。今回は設定が肝になってくる部分でしたので、美術と小物に関してはある程度押さえられる人が必要だったんです。
—— 3Dについてはいかがですか? 3D監督としては田中(康隆)さんが立たれているんですよね。
橋本 そうです。『ダイヤのA』の3D監督でもありますね。
—— 3Dはそこかしこに使うだろうという目論見が最初からあったのですか?
橋本 モブが出てくるので、兵士はいるだろうと。ただそんなに戦争描写をするつもりはありませんでした。第8話以降からしか戦争をしないので、前半は3Dがあまり出てこないと思っていました。とはいえ、前半からもう少し群集に力を割いておくべきだったと思います。後半増えてしまうので、先んじてやっておけば、それを使えたんですよね……。どちらかといえば第4話の模擬戦のような、ワンオフのカットが多くなってしまったんです。
—— 第4話の模擬戦は、相当大変だった?
橋本 そうですね。あれは結局運動会なんですよ。実戦じゃないから余計大変でした。突っ込んできて、広がっていって、ヤトリが撤退して、イクタたちも撤退してという段取りを踏んでいる戦いなんです。陣形がそのまま移動するので、実戦と違って理路整然としていて、もの凄く地味なんですよ。普通の戦場なら死者が出るので、何人か倒れて走り回ればそれっぽく見えるのですが、生きているわけですから。だから結局模擬戦で作った、3Dや演出の雛形が、他の話数に活かせない感じになってしまいました。例えば、軍人歩きも雛形を作ったんですね。
—— ザッザッザッと歩いてくるような?
橋本 そうです。第3話でスーヤが軍人を引き連れてくるあたりで、ちょっとだけ出てくるのですが、結局後半は普通に歩いているんです。あんな歩き方は訓練している時しかやらないので。あと騎兵と歩兵以外のバリエーションが多かったのも、大変でしたね。風銃持ち、ボウガン持ち、剣持ち、馬に乗っている、乗ってない……。「ここモブ3D置いといてください」と指示を書いても、銃持ちかボウガン持ちか剣持ちか、どれを置けばいいのかわからないんですよ(笑)。
指示をする演出も、作業をする3Dスタッフも大変だったと思います。

第3話より、隊を引き連れてイクタのもとにやってくる、スーヤの初登場シーン。

第3話より、隊を引き連れてイクタのもとにやってくる、スーヤの初登場シーン。

—— では田中さんは見せ所があったかというより、難しくて面倒な作業を受けられたんですね。
橋本 そうです。でもやっぱりそれが無いと画面がもたなくなってしまう。戦いを描写する時に、ワーッと走ったりするシーンは必ず出てきますので。ただ、なぎ倒して突き進むヤトリをかっこよく見せるシーンばかりでもありませんので。

続きを作るとすれば、さらに制作は難しい……!?

—— 今回最もご苦労されたところもお聞きしておきたかったのですが、では今お話されたような……。
橋本 そうですね……。苦労した面に関しては『アルデラミン』という小説をビジュアル化するということ、そのものでした。これまで自分が担当してきた作品は、そこに理屈はあるけれど、理屈が目に見えない作品が多かった気がします。ビジュアルとして見えるのは、魔法を撃ったり、超人的な力を出したりといったものだった。『織田信奈』は違いましたが、これは桶狭間の戦いだったり、実際の戦いをもとにしているから、指針はあったんです。でも、『アルデラミン』では白兵戦と銃撃戦と、さらに銃撃戦の武器レベルに格段の差があったり、いわば『ファミコンジャンプ』的な戦いを、違和感を感じないようにビジュアル化しないといけないので。
—— 悟空とルフィが戦ってるような?
橋本 まあ、極端に言うとそうかもですね。どっちも強いのは分かるけど、かたや宇宙を崩壊できる人間と、腕が伸びる男。ガチで戦ったら悟空がルフィの射程外から気功砲を撃って終わりなのですが、それを同一線上に置かないといけない……みたいな話でしょうか。
そこに関しては読み違いも正直ありました。もっと効率よく作ることができた……とは思います。とはいえ、その分丁寧にやっているので、ある程度説得力は出ているのかと。
あと難しかったのは前半からずっと戦争じゃないってところでしょうか。
—— なるほど。先ほどもおっしゃっていましたが、本格的な戦いは第8話以降ですものね。
橋本 最初から戦っているという作品だと、もっと戦のビジュアルだけに特化した映像にしたと思います。そこは上手くいった部分でもあるとともに、後半大変だった原因になっているかもしれません。もし続きを作れる機会があったとしたら……さらにキャラクターの立て方が難しくなりそうですね。剣やボウガンなどが活躍する場が少なくなっていくと思いますので。

指揮官であるイクタは、アクションシーンもそれほど多くはない。

指揮官であるイクタは、アクションシーンもそれほど多くはない。

—— 原作の中盤あたりだとなくなっていきますね。
橋本 そうなってくると風銃持ちがフィーチャーされていくので、内乱のほうに話がいくんだと思うのですが…。爆砲が当たり前のようにある世界観になっちゃうと、戦場の兵器のレベルが高くなってしまい剣やボウガンなどを使うことが少なくなると思います。割り切って爆砲と爆砲の使いあいにしてしまうと、作り方としては完全に1期と変わってきますよね。
—— 指揮官として有能なイクタとヤトリが指揮をしていく作品になるような。
橋本 そうですね、二人とも自分では表に出ない。指揮をひたすらする……まあ、そっちのほうが映像化しやすいのかもしれないのですが。といいつつ、クーデターのところは老イグセムも出てきますし……一筋縄ではいかないでしょうね。イクタとヤトリも指揮官としても優れているので、それはそれで面白いと思いますが。

<第4回を読む>

Official Website
テレビアニメ『ねじまき精霊戦記 天鏡のアルデラミン』公式
http://alderamin.net/

Soft Information
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(C)2015 宇野朴人/KADOKAWA アスキー・メディアワークス刊/「天鏡のアルデラミン」製作委員会