飛ばさずに観てもらえるようなエンディングを
『デンキ街の本屋さん』監督 佐藤まさふみ(第2回)

第1回に続き、『デンキ街の本屋さん』のメイキングを訊く第2回。印象的だったオープニングとエンディングについて、詳しくお話を伺った。

Profile
佐藤まさふみ Masafumi Sato

監督・演出・アニメーター。『Saint October』(監督)、『ジュエルペット きら☆デコッ!』(助監督)の他、『ケロロ軍曹』などの各話演出も多数手がける。最新の仕事に『プリパラ セカンドシーズン』(助監督)、『クレヨンしんちゃん オラの引越し物語 サボテン大襲撃』(演出[共同])など。

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本屋を舞台にする時点で、やらなければいけないこと

—— 女子力アップのエピソードなど、原作漫画ではおまけ扱いだった話を多く使っていますよね。
佐藤 原作サイドの編集者さんから、おまけで描いた細かいエピソードが読者に人気があると聞いていたんですよ。それもアニメ化していいのであれば、本編の間に挟んでいけば、原作を読んでいる方にも喜んでいただけるのかなと思いまして。
—— 5話のサイレント映画風のエピソードは、アニメでは字幕をだしていましたね。
佐藤 ええ。森脇さんが腐ガールがお気に入りだったみたいで、ソムリエ周りのエピソードは腐ガール推しとしてもやってましたね。最初の頃は、いろいろなアイデアを話し合っていたんですよ。赤と青の眼鏡をかける「アナグリフ」ってあるじゃないですか。あれをやりたいなって話をしたこともありましたね。腐ガールが暴走し始めたら、「眼鏡をかけてください」みたいなテロップがでて、眼鏡をかけると3Dになるみたいな。
—— 懐かしいですね。ゲームの『スペースハリアー』とかであった仕組みですよね。
佐藤 そうです、そうです。面白くていいかなと思ったんですけど、実現はできませんでした。今思うとやらなくてよかったような気もします(笑)。
—— 最初は、それぐらい突き抜けたバラエティっぽい仕掛けも考えられていたんですね。
佐藤 1話ぐらい、実写の話とかも入れたかったんですよね。1話まるまる実写で、声優さんにでていただいて、とらのあなでロケをして……。「今日だけ実写だよ」みたいなのも面白いかなと思っていたんですけどね。
—— そういったノリは、佐藤監督が各話演出で手がけてきたギャグアニメの影響だったりするのでしょうか。
佐藤 そういった経験の、きっと寄せ集めなんでしょうね。自分なりに上手くいったなという部分を集めているんだと思います。「ここまでやっても大丈夫」というか、「このくらいの悪ふざけは許容範囲じゃないか」というか、そういう感じですね。これまで暴走してないと駄目な作品ばかりやってましたから。どこかぶっ壊れた感じでないと逆に許してもらえなかったんですよ(笑)。
—— 長く続いて暴走していく作品はよくありますが、『デンキ街』のように1クールでエンジンをかけるのは大変ではありませんでしたか。
佐藤 私自身、監督をやるのが7年ぶりでしたので、「監督ってどうやるんだろう?」と思い出しながらやっていたところがあるんですよ。しかも、1クールものならではの時間の使い方みたいなものは、探り探りやっていた感じです。その辺は、脚本のふでやすさんに頼ってしまった部分がありますし、5話くらいまでは探っていたのかなと今になって思いますね。そこから先は、もうやっちゃえやっちゃえって感じでしたけれど(笑)。
—— 本屋さんが舞台ということで、プロップデザインが大変だったと思います。相当きっちりやられていた印象ですが、これはやるかやらないか大きな決断だったのではないですか。
佐藤 本屋まわりについてはやるしかないでしょうって話でした。メディアファクトリーさんからでている本当の本で使わせていただいているものもありますが、頑張って作りました。
—— 新規で描いているものが、かなりあるのですよね。
佐藤 最終回のエンディングに流したものの1.5倍ぐらいあるはずです。
—— 描いているのは、プロップデザインの方ですか?
佐藤 いえ。主に担当の原画さんの自由演技でやってもらいました。ひとりでやってもらうと絵柄が同じになってしまいますので、各人にほんとに自由にやってもらった感じですね。
—— 単行本の場合、装丁のデザインもありますよね。あれも、原画マンが担当されているのですか。
佐藤 デザインやタイトルも込みでなんですよ(笑)。雑誌だったら、そこに書いてある煽り文句まで込みでやってもらっています。
—— 監督ご自身も沢山描かれているそうですね。
佐藤 パンツコミック回の「活のいいパンツコミック」は原画まで描いてます(笑)。それ以外にも、細かい設定とかわりと描いていますね。単行本については、エンドカードにもなっているように、漫画家さんに描いてもらっているものもあります。
—— 描いたものを棚などに並べていく貼り込みの作業が大変そうですね。
佐藤 それは撮影さんと美術さんの担当ですね。素材を作り込むまでが本当に大変だったみたいです……「みたいです」とか言ってはいけないのですけれど。これは、本屋さんを舞台にする時点で、やらないといけないなってところでした。スタッフみんなで取材にも行きましたね。とらのあな秋葉原店さんに、営業終了後に入れてもらって、楽しかったですね。倉庫や裏の通路の感じとか、もうそのまんまに作らせてもらいました。
—— さらっと観てしまいますが、膨大な手間がかかっているのですね。
佐藤 そうですね。秋葉原のとらのあなに通っている方には、喜んでいただけるんじゃないかと思います。

膨大な本がならぶ、うまのほね店内(4話より)

膨大な本がならぶ、うまのほね店内(4話より)

流行りの表舞台では勝負しないオープニング

—— オープニングとエンディングの話も聞かせてください。オープニングでは、作曲を筒美京平さんが手がけていたのに驚かされました。
堀切プロデューサー これは竹達(彩奈)さんサイドのプロデューサーの方から「お願いしてみよう」という話があって実現しました。その前の竹達さんのソロの楽曲にも筒美さんにかいていただいた経緯があったから、というのも大きかったと思います。
佐藤 主題歌を筒美先生がやられると聞いて、「え、俺、筒美先生と打ち合わせをすることになるのかな」と怯えてたんですけれど、特に打ち合わせなどはなかったです(笑)。
—— オープニングの映像は、どんな風に作られていったんでしょうか。
佐藤 最初は、エロ漫画屋さんの話だから、エロ本をばあっとばらまいたりする感じでいくのかなと思っていたんですが、いただいた曲と歌詞をみると、そういうものを出す余地がないですよね(笑)。じゃあ、どうしようかなというところから考え始めました。
—— 画面分割があったり、タイトルロゴを小さく出したり、最近のテレビアニメとはちょっと違った感じがあったように思います。でも、とがった感じもなくて、オープニングにも、本編と同じような、さりげないこだわりを感じました。
佐藤 いまどきの深夜アニメのタイトルって、わりと流行りの出し方があるじゃないですか。そういう流行りの表舞台では勝負せずに、他ではやらないようなところで、こっそりやってみようっていうのはありましたね。オープニングの冒頭でみんなを走らせているのも「アニメのOPってみんな走るよネー」っていうシャレの部分があって、小さくしているのは照れ隠しだったりします。
—— りんごをみんなが渡していく、最後の部分がシリーズ後半では変わっていますよね。
佐藤 途中で変えてもいいように、繋がるようにはしておいたんですよ。いろいろと深読みできるようになったらいいな、ぐらいの気分でしたね。
—— オープニングでカメ子のキーホルダーがさり気なく映っていて、本編が進むと気づく仕掛けもよかったです。
佐藤 オープニングが予告編になっているんですよね。今はあまりやらないですけど、昔の邦画とかって、本編と予行編を別々に撮っていて、予告を観てから本編を観にいくと予告とはちょっと違っているのが面白かったりする。同じシーンを別の演出で撮っていたりするんですよね。そういうのが面白いかなと思って、オープニングでぽんぽんぽんって絵が入る辺りが、本編とは違う別バージョンの本編、という感じ入れてみようかなと。いや、久しぶりのオープニング演出だったので、やっている本人は凄く楽しかったですけどね。「楽しいなあオープニング、もっとこういう仕事もこないかな」って思ったりします(笑)。

カメ子のキーホルダーにまつわるエピソードは、10話で描かれた

カメ子のキーホルダーにまつわるエピソードは、10話で描かれた

—— カメ子がもっているりんごだけ、なぜか葉っぱがついていますよね。あれは何か意味があるんですか。
佐藤 カメ子だけカメラ目線で走ってもいますよね。みんな、カメ子が大好きなんですよ。あれは、『アビイ・ロード』のジャケットで、ひとりだけ裸足の人がいるみたいな感じをだしてみました(笑)。
—— カメ子はストーリー的にも独特な立ち位置にいますし、特別扱いされている意味を深読みもできそうです。
佐藤 細かいところを繰り返し観るのがオープニングの醍醐味だと思うんですよね。よく観るとわかるみたいな仕掛けがあると楽しいかなと思ったんですよ。

「パッパッパッ」は金井克子の「他人の関係」から

—— 『デンキ街』のエンディングは本当に素晴らしかったです。
佐藤 なんだか褒めてもらうことが多かったですね(笑)。スタッフにも好評で、撮影さんなどにも喜んでいただけました。
—— 原作者の方が作詞をされていますよね。
堀切プロデューサー 企画の時点で、プロモーションもかねて、声優さんのユニットを作ろうという話になったんですよ。その時に、原作者の方に「作詞をやってみますか」と軽くご相談したら「かきます」と言っていただけたので、お願いすることになりました。曲が先にあって、何曲か候補があったなかから最終的に先生に選んでいただいて、詞をかいていただきました。
—— 佐藤監督は絵コンテを担当されていますが、どんなところからあのエンディングを発想されたのでしょうか。
佐藤 特に難航はしませんでしたね。曲を聴いてパッとひらめいたというか。スタッフ紹介みたいな部分よりも、イントロの部分をどうしようって凄く悩んだ記憶があります。
—— イントロ部分のキャラの動きもいいですよね。ひおたんが手だけを動かしていたり。
佐藤 有り難うございます。仮歌の段階で「パッパッパッ」ときたんで、これは金井克子の「他人の関係」だなと。知りません?
—— すみません。あとで調べてみます。
佐藤 そういう歌がありまして、手を使った振りがあるんですよ。じゃあ、これをひおたんにやってもらおう! と。で、ひおたんの次に先生には何をやってもらおうと思ったら、夏木マリかなと思いまして(笑)。「絹の靴下」という歌があって、画面だと小さくて分かりにくいのですが、よく見るとフィンガーアクションで指も動いているんですよ。そんな風に連想してイントロは作っていきました。
—— その後の、腐ガールがバットを振り回すところは?
佐藤 あれはもうノリです(笑)。秋葉原名所めぐりみたいなこともやりたかったので、舞台はどれも秋葉原なんですよ。小さな神社や橋など、ロケハンでみにいきました。ほんの少し映るだけなんですけれど、観ている人にはすぐ分かったようですね。
—— エンディングに、スタッフへのひとことを入れようというのは、最初から考えられていたわけですよね。
佐藤 そうですね。
—— その流れで、エンディング曲のテロップがでたところで、キャラクターが自分を指差すところが本当にいいなと思いました。
佐藤 そうですか(笑)。楽して面白いものをというのが、やっぱりテーマのひとつとしてあったので、そう思ってもらえたのなら良かったです。エンディングで張り切っちゃうのも格好悪いなというのもありますし、かといって何もやらないのもあれですしね。ネタとして面白くて、毎週飛ばさずに観てもらえるようなものにしたいっていうのはありました。エンディングは、僕は絵コンテだけで、演出は渡辺健一郎さんという、森脇組でずっとやってきたベテランの方にお願いしています。音楽のリズムとアニメの動きをあわせようとすると、繰り返しになるので絶対途中からずれてくるんですよ。でも、あのエンディングで最後までバッチリ音と絵があっているのは、渡辺さんの仕事があってこそなんですよね。
—— なるほど。曲のスポッティングをもらって、動きにあわせているわけですね。
佐藤 一言一句、音にあわせてもらうような手間のかかることをやっていただいています。
—— そういった工夫のおかげで、観ていて気持ちいい感じになっているんですね。
佐藤 もう音楽に完全にハマった感じがして、本当に有り難かったです。
—— 「アニメ業界って・・・」みたいなセリフは、監督が書かれているんですか。
佐藤 ええ。ただ、撮影・編集・音響のセリフだけは、撮影の方に書いてもらっているんですよ。最初は自分で書いたんですけれど、何も思い浮かばなくて「頑張ってください」みたいなことを書いておいたら、撮影さんの方から「もうちょい撮影部もいじってよ」と言われたので、じゃあ撮影さんの方で考えておいてよと(笑)。前半が「完成が近いです!」で、後半が「早く映像が見たいです!」だったかな。あそこは撮影さんに書いてもらっています。
—— 作画面では、オープニングは大森(孝敏)さんのひとり原画でしたね。
佐藤 『しんちゃん』の作監などをされている大ベテランの方にお願いして、丁寧な仕事をしていただきました。なんにも言うことなしで、演出的には右から左に流しただけでしたね。
—— エンディングの原画は、作監もやられている小川(麻衣)さん、鶴田(愛)さん、安田(周平)さんの3人が担当されています。イントロの部分の動きは、さっき伺った歌手のイメージを伝えられた?
佐藤 一応、言うだけ言ってみました(笑)。伝わっていないかもしれませんが……。鶴田さんは、『ジュエルペット』の作監を担当されていて、よくご一緒させていただいてました。
—— 印象に残る動きをしていたので、今の話をきいて納得しました。
佐藤 ところで、このインタビューは何文字くらいになるんですか。
—— ええと……ウェブで文字数の制限もありませんので、伺った内容を最大限いかしたいと思っています。
佐藤 『プリパラ』監督の菱田さんの記事(http://ani-ko.com/07-hishida01)は、相当長かったですよね。
—— 「AniKo」では、おおよそ1記事あたり約5000字と決めているんですよ。菱田監督の記事は全4回でしたから約20000字の計算になります。
佐藤 20000字もあると、相当読み応えがありますね。
—— 長いものでもよいという方に読んでいただければと思っています。すみませんが、もう少しお話伺わせてください。
佐藤 いえいえ、とんでもないです。もう有り難いですよ、ほんとに聞いていただけるのは。

<最終回を読む>

Official Website
アニメ『デンキ街の本屋さん』公式
http://umanohone.jp/

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