ガチで作るのが『プリティーリズム』の在り方
『劇場版プリパラ』監督 菱田正和(第1回)

新シーズン放送を控え、ますます盛り上がっているテレビアニメ『プリパラ』。『劇場版プリパラ み〜んなあつまれ!プリズム☆ツアーズ』は、そんな『プリパラ』と、その前身とも言える『プリティーリズム』シリーズとの橋渡しになるような劇場作品だ。「ライブ」であることを前提にした視聴者参加型の作品設計、4つに分かれる分岐型のストーリーと、話題性にも事欠かない本作。監督を務めた菱田正和氏にシリーズを振り返りつつ、たっぷりとお話を伺った。

Profile
菱田正和 Masakazu Hishida
アニメーション監督、演出家。サンライズに入社。制作進行を務め、後に演出家としてデビューする。『陰陽大戦記』にて監督を担当し、『古代王者 恐竜キングDキッズ・アドベンチャー』シリーズにて演出チーフ。その後フリーとなった。その他の監督作品に『ヤッターマン(第二作)』【第18話以降】、『劇場版ヤッターマン 新ヤッターメカ大集合! オモチャの国で大決戦だコロン!』がある。本文で取り上げた『プリティーリズム』シリーズでは監督を、『プリパラ』ではプリパラライブ演出を担当している。

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意外なヒントから生まれた『劇場版プリパラ』制作法

—— まずは今回『劇場版プリパラ み〜んなあつまれ! プリズム☆ツアーズ』(以下、『劇場版プリパラ』)の企画が立ち上がった経緯から教えていただけますか。
菱田 昨年の劇場版(劇場版プリティーリズム・オールスターセレクション プリズムショー☆ベストテン)が予想以上に好調だったんですよ。それもあって、「また来年何かやりたいね」という話が持ちあがったのがきっかけですね。昨年は、熱唱上映会というコールや応援可能な形式でのお客さん参加型上映も、一部の映画館で行ったんです。だけど、そういった形式を想定していなかったこともあって、掛け声を掛けるタイミングが難しい作りになっているんですよ。「その辺りを整理して上手くできたらいいね」という話が出たので、今度はもっとお客さんが盛り上がりやすいような作り方をした劇場版を制作しよう、という流れになったんです。
—— 企画当初から『プリティーリズム』シリーズ、プラス『プリパラ』の要素を混ぜ合わせた作品にする予定だったのですか。
菱田 いえ、その時点では『プリパラ』とコラボすることは決まっていなかったんです。『プリティーリズム』シリーズのみで映画化するという可能性もありました。その後テレビ版『プリパラ』もおかげさまで好評で、コラボしましょうという流れになったんです。
—— 菱田さんが今回監督を務められたのは、どういう理由だったのでしょうか。
菱田 やっぱり本来は『プリパラ』監督である森脇(真琴)さんが劇場版の監督も、という流れになるはずなのですが、森脇さんはテレビで忙しいということで、暇そうにしていた私が……。
—— ええっ? でも、菱田さんは『プリパラ』でもプリパラライブ演出をされていますよね?
菱田 ええ(笑)。そうですね。『プリパラ』の3Dも私の方で見ていたというのが理由としては大きいですね。というのも、今回の劇場版はライブ中心で見せることが決まっていたので、その流れで「ならこいつでしょう? 別に改めて頼まなくてもいいよね(笑)」という自然な流れで決まっていきました。
—— ライブ中心にということでしたら、音響関係にもかなりこだわりがあるのでしょうか。
菱田 やはり歌を聞かせたいという思いはありました。セリフが10なら歌は12聞こえるようにしてほしいと頼みましたね。ライブだと思って見て欲しいので、歌について、耳を澄ませて聞くような形にはしたくなかったんです。
—— ちなみに、こういうライブ形式というのは、今後増えると思われますか?
菱田 映画はイベントになりつつありますよね。今はもう家庭でも4Kの時代ですし、コンテンツとしては映画館で見る必要性が薄れているんですよ。ただみんなで共有して、ガンガン音を流して、というのは映画館だからできることなので、それを最大限活かしている作り方をしているライブ形式は、良くも悪くも増えると思いますね。『劇場版プリパラ』はその先がけになったのではないかと思います。
—— お客様も一緒に応援ができる上映も視野に入れたということでしたが、『劇場版プリパラ』ではどんなところに、その意識が反映されているのですか?
菱田 声を掛けることを前提に作っていますので、赤井めが姉ぇさんから観客に呼びかけたり、観客からのレスポンスを待ったりといったことをしています。それから昨年の映画でも好評だった、なると一緒に歌うくだりを再度入れ込んでみたり、みんなの応援で勝敗を決めるといったところですね。
—— 本編は列車に乗ったツアーの形式をとっていますが、そこに観客席があったりしますよね。あれは観客との一体感みたいなところを強調したかったのでしょうか。
菱田 ああ、あれは観客席ではないんですよ。伝わりづらいかもしれませんが、先頭車両に赤井めが姉ぇとらぁら達が乗っていて、その後列の車両が観客席的に見えているんです。でも、あれは人によっては瞬時に気づいてもらえる部分ではあると思います。そもそも、この企画はエイベックスの岩瀬(智彦)プロデュ—サーがテーマパークに行ってインスパイアされて出してきたアイディアだったりするので……。
—— ええ? そうなのですか!
菱田 今回の映画の終盤が4つのルートに別れたのもその影響なんです。岩瀬さんが「あ、これ面白いな! こんなのでどうですか?」なんて言ってですね……(笑)。「しかも(上映も)デジタルでプログラムだけ簡単に変えられるって聞いたよ? これで行きましょう!」という、そこが発端だったんです。

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『プリパラ』のキャラクターが列車に乗ってツアーを楽しむというかたちで話が展開する

 

—— なるほど。一般的な映画で、かつアニメ作品ということでいえば、ストーリーが分岐するという上映形式は非常に珍しいと思うのですが。
菱田 「その4つは総集編だから大丈夫でしょう?」という考え方だったんですね。実際はその4つを編集するのが非常に大変だったのですが……。だって尺数を合わせると本編よりも多いんですよ!
—— 尋常ではないこだわり方だったと思います。
菱田 とはいえ、結果的には『プリパラ』から入った人に、良い構成だったかなとは思います。でも、いきなりルート4から見なくていいですよ!(笑)

ゲーム人気の理由はシンプルであること

—— 少し今回の映画とは話題が逸れますが、筐体としてのゲーム「プリパラ」も、今、現象と言われるほどのブームになっていますよね。このブームについて、監督はどう見てらっしゃいますか?
菱田 人気が出る理由は「シンプルだから」だと思います。友達と何か話をするときに出てくるものが『アイカツ』であればカードであり、『妖怪ウォッチ』であればメダルであり、『プリパラ』であればプリチケなんでしょうね。そういうシンプルなものをコミュニケーションツールとするのが実は大事なのではないかと。シンプルであれば話題にもしやすいじゃないですか。そういうものを、彼らに提供するというところに、僕達大人がいるんでしょうね。それを上手くリードしてあげられているのが、ゲーム筐体の「プリパラ」なんだと思いますね。
—— なるほど。今回の映画も、ゲームとのリンクが所々あるように見受けられました。例えばエンディングは、筐体で一般の方が作ったアバターがランウェイを歩くというものでしたね。
菱田 ええ。ゲームはアバターを作るのが面白いみたいなんです。らぁらやそふぃで遊びたいのではなく、自分のキャラを成長させたい、髪型を変えたいということなんですね。女の子の変身願望というのは、アニメの歴史上ずっと変わらないじゃないですか。『ひみつのアッコちゃん』しかり、『ふしぎなメルモ』しかり……その伝統的な部分と今のハイテクを組み合わせた部分が、上手くハイブリッドできている気がしますね。

媚を売らず、嘘を付かず、手加減なしで

—— 今回『プリティーリズム』シリーズを振り返るような構成になっているのは、どうしてなのでしょう。
菱田 3Dのプリズムショーとプリパラライブを中心に見せるということなので、どうやって構成したらいいかと考えた結果、僕からはこの形しか出せなかったということです。反省はしています……。
—— ええ? どうしてですか?
菱田 世の中の声を聞くと、『プリティーリズム』に偏り過ぎているという意見が聞かれる気がするので……。
—— しかし、そもそも依頼として『プリパラ』も『プリティーリズム』シリーズも見せて欲しい、という話だったならば、自然とああいうかたちになるのではないですか?
菱田 確かにそうかもしれません。『プリパラ』は曲数がそもそも少ないんですよね。だからライブを全部網羅してはいるんです。そうするとやっぱり物足りない。なら、『プリティーリズム』で去年拾えなかったものもたくさんあるので、それを上手く一緒にすれば楽しくなるなというのが意図としてはありました。
—— なるほど。そもそも菱田さんは『プリティーリズム』シリーズでは監督を務められていましたよね。その『プリティーリズム』シリーズの魅力はどんなところにあるとお感じになられていますか。
菱田 そうですね……「ガチ」なところだと僕は思っています。下手に媚を売らず、嘘を付かず、手加減なしで作る。
—— 『プリティーリズム』シリーズは子供に向けての作品だったわけですよね。抑えた作りにするという選択肢はなかったのですか。
菱田 でも、例えば実写のドラマで小学生相手に活躍する先生はガチじゃないですか。ニコニコしているだけでも、真面目一遍等の先生でもない場合が多いでしょう。アニメでもそうあるべきだと思います。子供相手に手を抜かないというのは、当然のことだと思っていますよ。

お尻・『プリパラ』・『ラブライブ!』

—— 一方でキャッチーな部分で言うと『プリティーリズム』シリーズは3DCGを使った華やかな「プリズムショー」シーンが話題になりました。どんなところをポイントとして、あのショーを作り上げようとされたのですか。
菱田 『プリティーリズム』は監督として携わっていましたので、見せ方やアングルといった細かい部分はCGディレクターである乙部(善弘)さんと、プリズムショー演出を担当した京極(尚彦)さんに任せていました。監督として心得ていたのは、「プリズムジャンプ」についてですね。あれは分かりやすく言うと必殺技にあたるものなので、ドラマの盛り上がりのピークをいかにしてそこに持っていくかということに苦心しました。
—— では、演出を務められているテレビ版『プリパラ』のプリパラライブについては、どのような作り方をされていますか?
菱田 『プリティーリズム』シリーズは、少しターゲットが上に設定されていたのですが、テレビ版『プリパラ』は、幼稚園から小学生の子をターゲットにしているんです。だから、とにかく明るく元気に分かりやすくというのを考えて制作しています。それと健康的にすることですね。お尻ばっかり映さないということです。
—— 過去シリーズの京極さんはお尻ばっかり映していたんですか?
菱田 そう! あいつは本当にお尻ばっかり……。「ほら、見えてるよ!」っていうところまでやっていたのでね。僕はですね。2人の娘を持つ親として! 『プリパラ』に関してはそれはやらないことを信条にしているんです。まあ、あの「アオリで映すお尻」が『ラブライブ!』で昇華されてとても良かったねという結論に、我々の中では至っているのですが。
—— (笑)。今回の劇場版におけるプリズムショーで少し気になったところなのですが、各シリーズのハロウィン関係についての意匠が、かなり散見されていたと思います。あれは狙ってやっているのですか?
菱田 ああ。それこそ今お話した京極さんが、『AD』(プリティーリズム・オーロラドリーム)の時、「ドキドキハロウィンナイト」というジャンプを、相当気合を入れて作っちゃったんですよ(第30話「ドキドキハロウィンはときめきじゃナイト☆」)。一度切りのジャンプなのに長いうえに、いろんな新しい素材を作ってしまって、「あれコストパフォーマンス悪いよね」という話になっていたんですよね。それで『DMF』(プリティーリズム・ディアマイフューチャー)の時に、ハロウィンの時のステージ参考で使ったんです(第30話「ハロウィンコーデはラブミックスコンチェルト」)。「それでもまだ減価償却できてないね」ということで、『RL』(プリティーリズム・レインボーライブ)の時に、モニターの中にその素材を使ったんですよ(第30話「誓いのクロスロード」)。で、もう一回ぐらいかなということで、『プリパラ』でもあれを使って(第17話「恐怖のハロウィン!ジャック・OH!蘭たん!?」)、これでさすがにいいだろう、となった思い出深いジャンプなんですよ(笑)。
—— では、今回はその一連のシーンを振り返られているという構成なんですね。
菱田 そうですね。「同じものを使っているんだよ? みんな気がついてる?」ということを意図して出しているんです。
—— 『プリティーリズム』シリーズにしろ『プリパラ』にしろ、イースターとハロウィンを押しますよね。
菱田 確かにそうですよね。イースターについては、『プリパラ』では4クールなかったのでやっていませんが……。普通、宗教的な儀式は避ける傾向にあるのですが,やっぱり海外売りの関係もありますしね。それに、この4、5年でハロウィンが一気に流行したじゃないですか。渋谷が大混雑しちゃうぐらいですからね。だから狙いは当たっていたと思いますよ。

<第2回を読む>

『劇場版プリパラ み〜んなあつまれ!プリズム☆ツアーズ』
Official Website
http://pp-movie.com

テレビアニメ『プリパラ』
Official Website
http://ani.tv/pripara/

On Air Information
4月4日(土)午前10時より、テレビ東京系にて新シーズン放送スタート

(C)T‐ARTS/syn Sophia/劇場版プリパラ