ルート4で壁ドンするワケ
『劇場版プリパラ』監督 菱田正和(第2回)

第1回から続いて、『劇場版プリパラ』について語っていただく第2回。気になる本作の設定面と、話題のルート4についてお話を伺った。

Profile
菱田正和 Masakazu Hishida
アニメーション監督、演出家。サンライズに入社。制作進行を務め、後に演出家としてデビューする。『陰陽大戦記』にて監督を担当し、『古代王者 恐竜キングDキッズ・アドベンチャー』シリーズにて演出チーフ。その後フリーとなった。その他の監督作品に『ヤッターマン(第二作)』【第18話以降】、『劇場版ヤッターマン 新ヤッターメカ大集合! オモチャの国で大決戦だコロン!』がある。本文で取り上げた『プリティーリズム』シリーズでは監督を、『プリパラ』ではプリパラライブ演出を担当している。

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「これ以上踊れない」のは誰なのか?

—— 今回の劇場版で『プリティーリズム』シリーズについては、総決算的な内容にもなっていると思うのですが、今の心境はいかがですか。
菱田 いやあ、もうこれくらいでいいでしょう!(笑)
—— (笑)。
菱田 完全に4月以降は『プリパラ』に移行していいのではないかと思いますね。
—— 作品内で『プリティーリズム』シリーズの主役達があっけらかんと「この世界はもうすぐなくなってしまうの」「もうこれ以上踊れなくなっちゃったんだなあ」なんて言うじゃないですか。あのセリフは……。
菱田 あれは僕の気持ちです!(笑) いや、完全にそうですよ。
—— 本当ですか!? ……それは随分と踏み込みまれましたね。
菱田 でも、あのシーンも昔の『プリティーリズム』シリーズを見ている方と見ていない方で、全然感じ方が違うんですよ。それが今回は面白いですね。『プリティーリズム』シリーズを見てない人にとっては、あれはただのツアーの中のひとつのハプニングでしかないし、それでいいんですよ。
—— そうじゃない人はまた思うところがある、ということなんですね(笑)。

SAINTSの正体

—— ただ、あのセリフには少し違和感もあったんです。あいら達があんなことを簡単に言ってしまうものかな、という気がして……。単刀直入にお聞きしますが、あのあいら達は「本物」なのでしょうか?
—— なるほど。結論から言いますと、あれは皆さんが見ていたあいら達ではありません。『プリティーリズム』も『プリパラ』も『マトリックス』と同じシステムだと勝手に思ってます。プリズムスター達は、ステージの上で踊っているように見えますが、実際は仮想空間の中で踊っている、というのが本来の設定なんですね。だけど、その設定は出す必要もないし、むしろつまらなくなる一因になりかねないので、あまり出さないようにしていたんです。つまり、今回ツアーに行っているのも、仮想空間の中に残っている世界……データの中なんです。プリパラタウンも仮想空間ですから、その世界と繋がるんですよ。だから、あいらもみあもなるも、あるいはコスモも、昔本人達がショーを行ったデータがサーバの中に残っているということなんです
—— あいら、みあ、なるの3人に似た人物が、プリパラタウンで「SAINTS」として登場していますよね。では「SAINTS」の正体は、先ほどおっしゃられた解釈で言うと……。
菱田 そういうことですね。ただ、それはあくまで『プリティーリズム』シリーズを見続けてくれていた方に対しての回答なんです。『プリパラ』を純粋に見ている子供達側からすれば、実際に少し前に活躍していたキャンディーズみたいな人達で、たまたま顔が一緒だった。それでいいと思っているんです。
—— 分かりました。どこかで監督がこの映画で、SAINTSについて決着を付けるというお話をされていたかと思うのですが……。
菱田 『プリパラ』の1話でSAINTSがバーンと出てしまっているじゃないですか。当然そこに対して期待する人達も少なからずいたので、そのモヤモヤとしたものを全部払拭していただいて……新しい2年目に入ってもらいたいという思いはあったんです。それもあって今お話したような流れを作ったんですね。

「プリズムジャンプ」するコスモの矛盾

—— 先ほど、コスモのお話が少し出ましたが、あのコスモは、『プリティーリズム』世界のコスモということですか? 劇中内(テレビ版では第34話「ハピなるなら手をつなごう!」)でも、『プリティーリズム』世界の観客席にいるコスモが一瞬映されましたが……。
菱田 そうです。リアルなコスモが『プリティーリズム』世界に行って、そこに残してきたデータが、『プリパラ』のデータとたまたまかち合ったので、あそこでコスモが出てきたというわけなんです。
—— コスモは『プリパラ』におけるメイキングドラマではなく、『プリティーリズム』におけるプリズムジャンプを跳びましたよね。これは、そのあたりが関係しているのですか。
菱田 ええ。『プリパラ』しか見ていない人は、なんのことやらさっぱりわからないですよね(笑)。でも実は3DSのゲーム版(プリパラ&プリティーリズム プリパラでつかえるおしゃれアイテム1450!)をプレイすると、そのあたりのことが分かるようになっているんですよ。実は、かなりダイレクトな販促になっているんです(笑)。ちなみにコスモのあの銀河ステージは『プリパラ』テレビ版本編でモニターの中に映っていた映像なんですよ。テレビ版で前振りしているんですよね。まあ、そうやって作っていかないと間に合わなかったという事情もあるのですが(笑)。

プリズムショー新作CG

—— もう少し今回のショー部分についてについて踏み込んで行ければと思います。今回のプリズムショーCG制作における新作部分はどこになるのでしょうか。
菱田 『プリパラ』のライブに関しては、基本的にはそのまま今まで使ったもので再構成しているんですよね。コスモ登場からステージが変わり、新しいプリズムジャンプである「駆け抜ける!コズミックドライブ」を新作で作っていますね。それと、6人で「Realize!」のプリズムショーを行うところの、「プリティーリズムパラダイス」というジャンプは新作になっています。
—— あのショーのステージである「プリズムショー始まりの地」自体は、『DMF』の時にも出てきていましたよね。
菱田 そうですね……。でもルート2と連続で見ると、キャラとステージとの対比がかなり違うことがバレてしまうんですけどね(笑)。
—— そういえば、『DMF』の時はステージが広く見えますね。
菱田 ええ(苦笑)。「Realize!」のショー自体は、モーションは同じで、スケート靴にして服だけ変えてというかたちにしています。そのあとに出てくるSAINTSの「Make it!」のショーも、モーションとしては使い回しですね。
—— あれ? テレビ版では見たことのない振りがありませんでしたか?
菱田 まだオンエアされていないのですが、今週放送される『プリパラ』第37話からの流用なんです(この取材は、37話「奇跡よ起これ!ミラクルライブ」オンエア前に行われた)。ただ、テレビではあのモーションは全部使ってないんですよ。結構作画の方にカメラを振ったので、全部通してやったという意味では見たことがないものになっていると思います。あと、さらっと言わなかったのですが(笑)、ルート4のHiro×Kojiの「pride」。実はクリスマスライブの時に流していたのですが、服装やステージが違ったりしていますので、基本的には新しく作り直していますね。そ・れ・と! 「Flavor」というOver The Rainbowの曲、あれは完全に新作でしたね。

その瞬間に、「あああああああああっっ!」って

—— 「Flavor」は作画でやられていましたね。
菱田 ……やっちゃいましたね!
—— いきなりルート4から伺うのもなんですが……これは、ええと、どうしてああいう不思議なかたちに……?
菱田 本当は3Dでやりたかったのですが、当然そちらの班はテレビも劇場版も大変でそれどころではなく、できないとなったんです。プロデューサーからは「Flavorは金が掛かるからやるな!」と何度も何度も言われ続けたんですけど、「いやどうにか……どうにかできるはずだ」と! 「全然動かないから! 大丈夫ですよ。作画ですけど、ちょっとだけです!」とお話しました。
—— それにしては、結構……。
菱田 結構動きましたよね!
—— (笑)。
菱田 「Flavor」という曲自体は、アニメが終わって何ヶ月後かに出たアルバムに入っていたものなんですが、実はあれ、知らないうちに作られた曲なんです。エイベックスさんが、突然入れ込んできて。ただね、あんな曲があったら作りたくなるじゃないですか(苦笑)。絵が浮かんじゃうわけですよ。だから回想の止め絵でもいいから繋いで作りたいなと思ったら、ちょっとだけ力が入っちゃって……。ちょっと動いてみる? ちょっと手を繋いでみる? とやっていったら、結果ああなったんです。

向かって左がヒロ、右がコウジ。これにカヅキを加えて「Over The Rainbow」というユニットになる。ルート4は彼らの独壇場

向かって左がヒロ、右がコウジ。これにカヅキを加えて「Over The Rainbow」というユニットになる。ルート4は彼らの独壇場

—— それで、なぜ壁ドンをさせようとしたのでしょうか……。
菱田 いやあ! あれは難しかったのですが……。流行っていたのは去年なので、ちょっと古いかなという気もしたのですが、流行語といえば壁ドンだろうと思いまして。
—— 実際に見てらっしゃるファンは、相当黄色い声を上げていると聞きますが。
菱田 (笑)。僕、実はボーイズのアイドルおうえん上映に変装して隠れて行ったんですよ。凄かったですよ。ずっと静かに見ていた女性のファンがいたんです。これは『プリパラ』を見てもらえていないのかな、という方がルート4に入ったその瞬間に、「あああああああああっっ!」って(笑)。黄色いバラを持ってね!
—— それは壮絶ですね。
菱田 惜しいなと思ったのは、もう本当に騒ぎすぎて全然セリフが聞こえないことですね(笑)。僕、セリフを考えるのにどれだけ時間がかかったことか……。年末から正月をまたいでずっと考えていたんです。男に言われてみたい言葉みたいなサイトをたくさん回って、30個ほど全部書き留めて。その中の選りすぐりの3つを選んだんです。
—— しかし、こんなことをお話するのは失礼かもしれませんが、あれ恥ずかしいですよね(笑)。
菱田 恥ずかしいですよ! こんなの考えたと思われること自体、恥ずかしかったですけど……。でもあれが『プリティーリズム』シリーズ名セリフベスト10の中に入る殿堂入り3つになりましたね。

<第3回を読む>

『劇場版プリパラ み〜んなあつまれ!プリズム☆ツアーズ』
Official Website
http://pp-movie.com

テレビアニメ『プリパラ』
Official Website
http://ani.tv/pripara/

On Air Information
4月4日(土)午前10時より、テレビ東京系にて新シーズン放送スタート

(C)T‐ARTS/syn Sophia/劇場版プリパラ