ルートごとに振り返る『プリティーリズム』シリーズの軌跡
『劇場版プリパラ』監督 菱田正和(第3回)

第1回第2回から続いて、『劇場版プリパラ』について語っていただく第3回。ルートごとについて、懐かしの『プリティーリズム』シリーズを振り返りながらお話を伺った。

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Profile
菱田正和 Masakazu Hishida
アニメーション監督、演出家。サンライズに入社。制作進行を務め、後に演出家としてデビューする。『陰陽大戦記』にて監督を担当し、『古代王者 恐竜キングDキッズ・アドベンチャー』シリーズにて演出チーフ。その後フリーとなった。その他の監督作品に『ヤッターマン(第二作)』【第18話以降】、『劇場版ヤッターマン 新ヤッターメカ大集合! オモチャの国で大決戦だコロン!』がある。本文で取り上げた『プリティーリズム』シリーズでは監督を、『プリパラ』ではプリパラライブ演出を担当している。

ルート1・あいらを褒める父親の気持ちに

―― 前回いきなりルート4の話をしてしまいましたが、ルート1、2、3についてもお伺いできますでしょうか。ルート1はどういう構成にされたのですか?
菱田 『プリパラ』から入っている方が凄く多いので、プリズムショーというのは何かという一点に絞ったルートですね。
―― それにしては最後は、あいらの『AD』最終回前(第50話「新プリズムクイーン誕生!)のショーで締めるというかたちになりましたが。
菱田 それぞれのルートにはラブリーであったり、パーフェクトであったり、ミラクルであったり、ボーイズであったりと、テーマがあったので、それを代表するのが何かと考えた時に、ひとつ目はあいらだと思ったんですね。でも、やっぱりあいらのジャンプがあったからこそ、今に続いていると言えると思うんです。あれを外しては『プリティーリズム』シリーズも『プリパラ』もなかったと思いますのでね。あの時はもうムシャクシャしてやっただけなんですけど(笑)。でも、やっぱり一番見せたいものがどれかと言われたら、多分あのジャンプになると思ったので入れ込みました。
―― 以前あの話数のコンテの表紙に「世界の子供たちに夢を」という、タツノコ創設者・吉田竜夫氏の言葉が書いてあるのを見たことがあるのですが、やはり監督の中でも思い入れのある話数なのでしょうか。
菱田 そうですね。その頃自分の子供が7歳くらいだったのですが、ちょうどターゲット的に入ってきたところだったので、親としてはこういう気持ちだよということが言いたかったんですね。あの話数でお父さんがあいらを褒めるじゃないですか。あれは、そういう親になりたいという気持ちで描いたんです。

ルート2・グレイトフルシンフォニアに込めた想い

―― ルート2に関してはいかがでしょうか。
菱田 一番力と時間とお金が掛かったプリズムショーを集めると、あんな感じになるというルートですね。
―― いや、凄いですよね。圧巻でした。
菱田 乙部さんが「大変だった」と言ったショーを並べた感じですよね(笑)。3年のシリーズの中でも、凄かったものを集めました。結果として大画面で見たいショーが集まった感もありますね。ジュネのショーも、やっぱり大画面で見たいですし、みんなと一緒に金色のサイリウムを振りたくなるじゃないですか。
―― そのあたりがセレクトの理由になったんですね。
菱田 そうですね。加えてもうひとつ言わせていただくと、やっぱり「グレイトフルシンフォニア」ですね。実は「グレイトフルシンフォニア」を知らない人が多くてですね……。
―― ええ? それはどうしてですか。
菱田 いや、シリーズの中で『DMF』を飛ばしてる人が多いんですよ……。でも、あの3話にまたがってやった「グレイトフルシンフォニア」というかたちで、「友情を持って分かり合い、未来を開く」ということを描けたのは、凄く新しいことだったと思うんです。過去にやっている作品もあるかもしれないですが、ああいうことができたというのを、今回少しだけ出したつもりだったのですが……。ただやっぱり劇場において、2分そこそこだと、あれぐらいが限界で……。
―― 尺の問題はどうしてもありますよね。それは、実際にこの機会にテレビ版を見ていただいて……。
菱田 そうですね。『DMF』は作品内容も、日本のみあと韓国のヘインというプリズムスターがいて、その友情の変遷を描いていった物語だったんですよね。あそこで流れる「Life is Just a Miracle~生きているって素晴らしい~」の歌詞についても、そういったことを前提に書かれているんですよ。池畑(伸人)さんという作詞の方も、こちらの意図を汲んでくれて、ああいう詩になったんです。あれは、もう少しだけみんなに知ってもらいたいと思ったんです。
―― 確かに、あの歌詞はそういったことを想起させるものでした。『DMF』は友情が凄くテーマとして大きかったと思いますが、それは国境を越えての友情ということだったんですね。
菱田 はい。パーフェクトツアーの中に入れるべきかという意見もあるかもしれませんが、僕はこのツアーのラストを飾るのには、あれが一番ふさわしいと思って入れています。

親友同士のみあとヘイン。『DMF』は友情の大切さを謳った作品だった

親友同士のみあとヘイン。『DMF』は友情の大切さを謳った作品だった

―― このルートで言うと、プリズムスター達が樹を形作っていくシーンも非常に印象的でした。
菱田 もともと筐体としての「プリティーリズム」のゲームのコンセプトも大きな樹を作るというものだったのですが、やっぱり『DMF』においては「みんなひとつなんだ」という象徴として必要だったんですね。……あと、そうだ! あれは3Dが凄く大変なんですよ。
―― ええ? 樹がですか?
菱田 簡単そうに見えるんですが、凄く大変なんです……と、乙部さんに何回も言われたんです(笑)。それぐらい力の入っているCGでしたので、「乙部さん大変だったシリーズ」としてもふさわしいかなと思って入れ込みました。

ルート3・「りずむに思い入れが湧かないわけがない」

―― 次にルート3ですが、こちらは本当に『プリティーリズム』シリーズのいいところを集めた総集編という印象を受けました。
菱田 『プリティーリズム』というのは、必殺技であるプリズムジャンプをすると全ての問題が解決するというストーリーなんですよ(笑)。だから、このルートではどんな問題が解決したかというのを見せています。1と2がかなり真面目に作ってあったので、3番目は面白おかしいやつで行こうと思ったのですが、結果的に僕が個人的に一番感動するのがルート3になってしまいました。
―― どういうところが監督にとって印象的なのですか。
菱田 いやあ。最後2つのエピソードがあまりに凄すぎてですね……。りずむの話なんて酷いじゃないですか!
―― 監督されたのは菱田さんですが(笑)。
菱田 そうですね(笑)。りずむの話は、前回の『オールスターセレクション』でほとんど入れられなかったんですよね。だから、「りずむは不遇だな」とずっと思っていたんです。
―― 他のインタビューを拝見しても、りずむには思い入れがあるという発言をたびたびされているかと思うのですが。
菱田 ええ。あいらは今っぽい女の子なんですよ。普通に幸せで、不幸もなくやっている。りずむは昔の作品で言う典型的な主人公タイプで、ネガティブな部分を持ってマイナスからスタートするんです。それを対比しながら『AD』は作っていったので、りずむに思い入れが湧かないわけがないんですよ。りずむがいるから、あいらが幸せなんだという風に見えるはずなんです。今見ても、「これ女の子向けなのかよ」と思いながら見てしまいますけどね(笑)。
―― 可哀想な子に対する思い入れというのが、菱田監督の中では大事なんですね。
菱田 これは僕の思い込みかもしれませんが……昔の子供達というのは、可哀想な子がいたら、同情してあげられたと思うんですよ。今の世代ってそういう人を見ると「良かった! 私は幸せで!」となってしまうような気がするんです。それが……なんだか許せなくて。時代だと思うのですが、昔は「アフリカの難民がご飯を食べられない、じゃあみんなで募金しよう」という感覚があったと思うのですが、今あまり聞かなくなってしまったじゃないですか。それは募金を集めているフリをして搾取している連中もいる、みたいな暴露があったりしたからかもしれないのですが(笑)。でもやっぱりそういう気持ちを持ってもらいたいなと親としては思いますけどね。
―― 闇に落ちてしまいそうになるりずむを救い上げるところだったりに、そういう想いが見える気がします。それと、ルート3の最後は『レインボーライブ』の「gift」(テレビ版第50話「煌めきはあなたのそばに」)ですが、あそこはやはり思い入れがあるのでしょうか。
―― もちろん思い入れはあるのですが、やっぱり『gift』1曲だけでは、なかなかまとめきれないですね。あれも、できれば観客の皆さんには、ぜひもう一回見直してもらえると助かりますね。『プリパラ』を見てから『プリティーリズム』に入る人も多いと聞きますので……。それにしても、やっぱり7人の主人公は多いですね。「Over The Rainbow」まで入れたら10人いますからね。
―― 『レインボーライブ』といえば、劇中でりんねが出てきますよね。あれは少し意外でした。
菱田 本当ですか。りんねはサーバからサーバに移動するソフトウェア的なものなんです。サーバの中にりんねは必ずいるんですよ。だから出てきても、僕らとしてはあまりおかしいとは思わないのですが。
―― 常にプリズムの煌めきを伝えるために存在しているわけですね。りんねはファルルと会話をしますが、あそこはちょっと暗示めいたものを感じました。
菱田 本編を見ている方は分かると思うのですが、結局ファルルもエラーデータなんですよね。だから、りんねと基本的には同じものなんです。正規であるか非正規であるかの違いでしかありません。
―― なるほど。同種のものであって、似ている存在なんですね。
菱田 そうです。実物の人間がいるわけじゃないんです。

<最終回を読む>

『劇場版プリパラ み〜んなあつまれ!プリズム☆ツアーズ』
Official Website
http://pp-movie.com

テレビアニメ『プリパラ』
Official Website
http://ani.tv/pripara/

On Air Information
午前10時より、テレビ東京系にて放送中

(C)T‐ARTS/syn Sophia/劇場版プリパラ