第1回、第2回と続いた、『デンキ街の本屋さん』のメイキング取材も最終回。7年ぶりの監督作品である本作の手応えを伺った。
Profile
佐藤まさふみ Masafumi Sato
監督・演出・アニメーター。『Saint October』(監督)、『ジュエルペット きら☆デコッ!』(助監督)の他、『ケロロ軍曹』などの各話演出も多数手がける。最新の仕事に『プリパラ セカンドシーズン』(助監督)、『クレヨンしんちゃん オラの引越し物語 サボテン大襲撃』(演出[共同])など。
最後に朝礼を入れて、もとの『デンキ街』の世界に戻す
—— うまなみちゃんは、アニメオリジナルのキャラクターですよね。
佐藤 唯一原作にない部分ですね。ストーリーとまったく関係ない、狂言回しみたいな人がいてくれるといいなと思ったんですよ。最終回くらいの絡み方を全編通してしようというアイデアもありました。誰かいてくれないかなっていう、ほんとに賑やかしという感じですね。
—— もっと登場する予定もあったのですね。
佐藤 いちいちキャラにつっこんでくれる人みたいな風にだしてみようかなとは思っていたんですけれど。まあ、最終回で頑張ってもらったという感じですね。
—— 原作は連載中ですが、アニメはアニメならではの決着をつけていますよね。
佐藤 まあ、だいたい収まるところに収まったかなと思っています。
—— 恋愛絡みのエピソード自体は原作と同じですが、アニメはアニメで綺麗にまとまっているように思えました。どういう風に終えられようと思ったのでしょうか。
佐藤 お花見のエピソードを最終回にもってこようというのは、わりと最初からありました。でも、原作だとカメ子と海雄の会話で終わっちゃうんですよね。それだと、やっぱりもったいないので、ちょっとカメ子にはどいてもらって、カップルの話の絵で終わらせたいっていうのはありました。
—— 今更の質問ですが、最近の萌えアニメによくあるような、男をいれず、恋愛要素も入れないような作りにすることは考えられませんでしたか。
佐藤 いえ、特にはなかったですね。これはラブコメですし、そこは外せない要素だと思っていました。ハーレムものはハーレムもの、ラブコメはラブコメの良さがありますから。でもやっぱり、ラブコメの固定ファンはいるなと思いましたね。『デンキ街』をやっていて、それは実感しました。
—— 『デンキ街』では3組のカップルがいて、つもりんのような失恋した人にスポットを当てるのは、わりとよくあることだと思います。失恋すらできなかった、カメ子にスポットがあたっているのが印象的でした。
佐藤 恋愛絡みでいうと、カメ子は可哀想な立ち位置なんですよね。カメ子人気もなんか分かるわー、と思います(笑)。あの辺りは原作にのっかったシーンではあるんですが、カメ子が本心をまとめて言ってくれているので、そこはいただいて作っているっていうところですね。そして、終わったような終わらないような、ああいう優しい世界がずっと続いていくような感じにしたいなと。そんなにハードな恋愛をやってもしょうがないですからね。
—— 最終回の冒頭には制作側からのメッセージがあって、最後はオールスタッフのエンドロールになっていましたよね。どのあたりで、そうしようと思われたんでしょうか。
佐藤 やりながらですよね。最終回のシナリオが決まったあたりで、そういう風にしようかなと。駅前でみんなが酔っぱらっている絵を入れてもしょうがないですから……やっぱり、もうほんとネタですよね。面白いネタとしての絵を入れていきたいなっていうのは、全編とおしてありました。
—— しかも、その後には、店長が大活躍する朝礼があって。
佐藤 (笑)。
—— これも、シリーズ構成のときから、こうやって終わらせようと考えられていたのでしょうか。
佐藤 人気のある小ネタのエピソードだったので、やっぱりどこかに入れたいなっていうのはあったんですよ。じゃあ最後の最後に入れようと。これをオチにして、もうみんなケツをまくって逃げようぜっていう(笑)。
—— なるほど。やり逃げみたいな感じだと。
佐藤 もうおっしゃるとおりです。さわやかに、ぱっとこう解散! っていう感じで撤収してやろうっていう。
—— 店長が歌うラップ(コミックうまのほね社歌)の作曲に、佐藤監督のお名前がでていますが、これはどうやって作ったのでしょう。
佐藤 えーとですね。水あさと先生の書いた歌詞とスマホをもってひとりでカラオケボックスに行き、ビールを呑みながら歌ってました。
—— ビールを呑みながらなんですね(笑)。
佐藤 はい(笑)。酔っぱらいの歌のデータを音響さんに送って、それで作ってもらったっていう。あのラップと朝礼がないと最終回は駄目だと思ったんですよ。こんな良い話で終わらせてたまるかっていう(笑)。
—— (笑)。
佐藤 あのお花見って、スペシャルな世界じゃないですか。12本やって、あそこまでいったけれど、はい終わり終わり、もう日常日常っていう。朝礼を入れてもとの『デンキ街』の世界に戻すっていうところで、いいエピソードをいただけましたね。あのラップのところは作画もいいんですよ。茂木(琢次)さんという、総作監もやっていただいている方に描いてもらって、もうバッチリでした。あのラップの動きは素晴らしかったです。
「こういうやり方もあるのに」をなるべく入れた作品
—— キャストの方々の息もぴったりで、声優さんの素の部分でやりとりしているように感じられるところもありました。
佐藤 「明るく、明るく」っていう話を、1話のアフレコの時にはしていた気がします。ブラック企業のようにはみえないように、学園祭の準備をしているような雰囲気でっていうのはありましたね。あとはメリハリをつけてお願いしますぐらいのことしか、こちらからは言ってないです。キャストの方々はCDドラマの頃からずっとやってらっしゃるメンバーですし、もう実力者ばかりだったので、「面白い!」と思いながら聴いてました。原作者の水先生も毎回来られていて、アフレコは毎週ほんとに楽しかったですね。
—— 7年ぶりの監督をされて、手応えはいかがでしたか。
佐藤 もう「監督をやらせてもらって有り難いな」という気持ちが、最初から最後までありました。7年前も、これが最初で最後ぐらいの気持ちでやって、やりたいことをやらせていただいたんですよ。今回ももう一回、やりたいことをやらせてもらおうと、思っていたことはかなりやらせていただいて、フラストレーションのないかたちで作り終えたなっていうのはありますね。
—— オンエア中に、視聴者の感想などは見たりされましたか。
佐藤 ネットをみてると、どうしても入ってきちゃいますよね。わりと楽しんで観ていただけたみたいで、素直に作ってよかったなと。普通のテレビ番組として観てもらえたらよかったなっていうのはありますね。個人的には、ネタ以外の部分でも、いろいろ実験をやらせてもらえたっていうのもあります。
—— 実験というのは、どういうところがですか。
佐藤 11話で、幼少期のGメンとソムリエがエロ本を隠す話がありますよね。あの回はBGMなしでやってみようというチャレンジをして、だいたい上手くいったかなと思っています。
—— ラス前のエピソードで、過去話という構成もよかったです。
佐藤 その辺は構成のふでやすさんのセンスです。あの話は、ちょっと違和感もだしたかったんですよ。BGMのない映画ってわりとあるので、いれなくてもいけるかなと思ったんですよね。Gメンが歌う挿入歌だけぽーんと入れて(ちなみに11話の挿入歌の作詞は佐藤監督)、試しにBGMなしでやってみたら、しっくりいったので良かったです。
—— 話は戻りますが、あらためてシンエイ動画で作られてみて、いかがでしたか。謎は解けた感じでしょうか。
佐藤 いやもう、きてみたら正直、外国でしたね。文化が違うというか。森脇さんも言ってましたが、深夜アニメを主戦場にしている会社と比べると、ほんとにもう外国にいってやっているような感じがしましたね。
—— スピード感が違うということですか。
佐藤 スピード感は、全然違いますね。今は線撮ってよくあることですけれど、シンエイさんはオールカラーが当たり前でっていう仕事の流れも違いますし。あと、シンエイさんの動画用紙って、他のスタジオよりちょっとフレームが小さいんですよ。『ドラえもん』や『しんちゃん』のテレビはみんなそれでやっていて、じゃあ『デンキ街』でもそのままやってしまおうと。『ドラえもん』を観ると、深夜アニメと比べて、鉛筆のタッチがでているというか、線が太めじゃないですか。どうやっているんだろうって前から疑問だったんですけど、小さく描いてたんだって今回初めて知りました。地デジになって解像度があがり、大きめに描くことが多くなっているなか、逆行したやり方ですよね。拡大して描いて、縮小するっていうのを他所ではやっているなか、小さいものは小さいまま描くという……他所では信じられないような作り方をしているなっていうのはありました。
—— 折角ですので、シンエイ動画の廣川(浩二)さんにもお聞きしたいと思います。『デンキ街』を作ってみていかがでしたか。
廣川プロデューサー 大きな手応えです。ウチでも萌えアニメは作れると確信することができましたから。萌えアニメの実績がないなか、ポニーキャニオンさんに乗っていただけて本当に感謝しています。
—— 作品が発表されたとき、ファンの間から「シンエイ動画がこのような作品をやって大丈夫なのか」というような声があったと思いますが……。
廣川プロデューサー (きっぱりと)大丈夫です。『クレしん』パロもたぶんセーフです(笑)。
—— 確かにありましたね(笑)。
佐藤 意外と、悪のりは多かったですね(笑)。よく観ると、いろんな遊びをやっていて、ギリギリのラインのものも実は多かったりします。
—— 今日は、放送から半年経っての取材で有り難うございました。
佐藤 ニーズはあるんでしょうか、このインタビュー。
—— 大丈夫だと思います! あらためて作品を振り返ってみていかがですか。
佐藤 自分としては、あの最終回で着地がきまって、終わったなっていう気持ちですね。内容的にはそんなに悔いはないです。水先生有り難う、シンエイ動画有り難う、っていう感じですね。
—— また、こうしたかたちで監督をされたいというお気持ちはありますか。
佐藤 チャンスがあればいいんですけどね。もうほんと、監督の仕事がどんどんくる人がうらやましいですよ(笑)。でも、監督ばかりは、営業してとってくる仕事じゃないですもんね。演出とかだったら「今ひまなんですけど」みたいな話もありますけど、「今、監督終わったんで、なんか次の監督ないですか?」はないですからね。受注産業になりますから、日々のなかで、良い仕事をしていくしかないなと思っています。
—— 悔いはないと言われましたが、それぐらいの意気込みで『デンキ街』の監督には取り組まれたわけですね。
佐藤 全力投球したというよりは、本当にやりたいことだけやったという感じですね。日頃、演出業をやりながら「ああだったらいいのに」「こういうやり方もあるのに」と思っていたことを、なるべく入れさせてもらったというところです。
—— 今日は長時間、有り難うございました。
佐藤 こちらこそ、ほんとに有り難うございます。……このインタビュー、何文字くらいになるんですか?(笑)
Official Website
アニメ『デンキ街の本屋さん』公式
http://umanohone.jp/
Soft Information
Blu-ray&DVD全6巻発売中
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(C)2014 水あさと/株式会社KADOKAWA メディアファクトリー刊/コミックうまのほね