朝ドラのような絵作りで
『デンキ街の本屋さん』監督 佐藤まさふみ(第1回)

水あさとの同名漫画を映像化し、2014年10月から12月にかけて放映された『デンキ街の本屋さん』。シンエイ動画が深夜アニメを手がけたことで話題になった本作は、どのようにして作られていったのか。放映終了から半年あまりたった今、佐藤まさふみ監督にお話を伺った。なお、本取材には、ポニーキャニオンの堀切伸二さん(プロデューサー)と、シンエイ動画の廣川浩二さん(アニメーションプロデューサー)にも同席いただいた。全3回でお届けする。

Profile
佐藤まさふみ Masafumi Sato

監督・演出・アニメーター。『Saint October』(監督)、『ジュエルペット きら☆デコッ!』(助監督)の他、『ケロロ軍曹』などの各話演出も多数手がける。最新の仕事に『プリパラ セカンドシーズン』(助監督)、『クレヨンしんちゃん オラの引越し物語 サボテン大襲撃』(演出[共同])など。

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めいいっぱい詰め込んだシナリオ

佐藤 なぜ今、取材をしていただけるのか、今日は逆にお聞きしたいなと思っていたんですよ(編注:本取材は6月下旬に行われた)。放送終了から半年が経ち、ソフトのリリースも全て終わり、特に2期の話があるわけでもない状況のなかで、どうして『デンキ街の本屋さん』のインタビューなのかなと。
—— 大きな理由は、個人的に物凄く好きな作品だったからでして……。Blu-rayも「きゃにめ.jp」(http://special.canime.jp/umanohone/)で原画つきを購入させてもらいました。今でも作品に愛着をもっていて、メイキングを知りたいファンが、私以外にも多くいるのではないかと思いまして。
佐藤 そうですか(笑)。いや、本当に取材していただけるのは有り難いかぎりです。
—— こちらこそ、今日は無理をいってお時間とっていただいて有り難うございます。早速ですが、まず佐藤監督が作品に参加された経緯から聞かせてください。
佐藤 最初は、森脇(真琴)さんにきた仕事だったんですよ。でも、森脇さんが女児向けの作品で忙しくて監督は難しいとなりまして。それで、付き合いの長かった私に「佐藤君、やってみれば」みたいな感じで紹介してもらったのが最初です。
—— それで、監修に森脇さんがたたれているんですね。森脇さんは各話の脚本も担当されていますが、監修として具体的にどんなことをされているのでしょうか。
佐藤 いろいろなことの相談役という感じですね。「ここは、どうしようか」みたいな相談をしたり、脚本の打ち合わせでもアイデア出しをしていただいています。5話のソムリエのサイレントムービーなどは、森脇さんのアイデアですね。あと、自分は色周りのことが苦手なほうなので、できあがったものを森脇さんにみてもらってアドバイスをもらったりもしていました。
—— 原作漫画を最初に読んだときの印象は、いかがでしたか。
佐藤 話をもらったとき、単行本が4巻か5巻まででていたんですよ。その頃はエピソードごとにメインのキャラが変わっていたので、どう攻めていけばいいのかなと思いました。最初は「自由にやっていい」という話だったので、原作をもとにバラエティ番組っぽい作りにふっていけばいいのかなと、フックになるようなアイデアだしをしてみたんですが、最終的には原作の雰囲気をこわさず、そのままやっていこうという話になりました。
—— 佐藤監督にお話がきた時点で、シンエイ動画制作だったわけですよね。そこに関しては、どう思われましたか。
佐藤 興味しんしんでしたね。外部の人間からみると、やっぱり謎の会社だったりするんですよ。社内で完結している印象がありますし、周りに「シンエイの仕事をやっているよ」という人もあまりいませんでしたので。どういう体制でやっているのかなとか、あわよくば『ドラえもん』や『クレヨンしんちゃん』の現場も見れるかなぐらいの気持ちはありました。
—— なるほど。
佐藤 ただ、『デンキ街』のスタッフは、最終的に半分くらい外部の方に入ってもらっているんですよ。森脇さんラインの『ジュエルペット』班というか、スタジオコメットで多く仕事をされている方々ですね。エンディングにでてくる名前をみていただければわかると思いますが。
—— 一部、外人部隊のようなかたちで作られていたんですね。
佐藤 そのような感じです。それでもシンエイ社内に席を置くことで、疑問に思っていたことの謎がいろいろとけたり、その後、劇場の『クレヨンしんちゃん』をお手伝いすることになったりするんですけどね。
—— アニメ版を観てから、原作を読ませてもらいましたが、印象はほとんど変わらない感じでした。
佐藤 そうですよね。もう味をつけたという感じで、原作をもとにしながら演出していきました。
—— でも、こんなにアニメ版ならではの味づけがされていたんだというところが随所にあって。
佐藤 絵が動いて、音がついていくっていうところで、原作をまったく変えるというわけではないんですが、ちょっと盛りをよくしたっていうところはありますね。オマケ的なネタや一発ネタのようなものは、入れられるすきがあったら、どんどん入れていった感じです。
—— 1話につき、原作の複数のエピソードを使っていますよね。
佐藤 シナリオに関しては構成のふでやす(かずゆき)さん始め、ライターのみなさんが原作を全部使いきってやろうくらいの勢いでめいっぱい詰め込んできていただきました。1クールの中でバレンタインが2回きちゃうぐらいですからね。キャラクターの動きを考えるとやむをえない部分もあってのことで、不自然にみえないか少し心配していたのですが、やってみたらそんなに違和感もなくてよかったです。全ての脚本打ち合わせには、原作者の水(あさと)先生にでていただいています。

一度目のバレンタイン回の4話より。

一度目のバレンタイン回の4話より。

—— キャラクターデザインの國行(由里江)さんは、どういう経緯で参加されたのでしょうか。
佐藤 私が現場に入った時点で、キャラクターのひな形はできていて、誰がいい人はいないかと話していたところでした。國行さんとは原画や作監などでずっと仕事をお願いしていて、センスのいい方だなと思っていたんです。キャラデザは初めてだったんですが、たまたまタイミングがあって、やってもらえたって感じですね。
—— 原作の絵の特徴が、よくでていると思います。
佐藤 原作の絵自体が、巻が進むごとに変わってくるので、何巻目のキャラクターを使おうみたいな話し合いをしました。デザインはもちろんですが、衣裳や小物に、國行さんの力が特に発揮されていると思います。服の裏地がどうなっているかとか、おじさんにはわからないこだわりが沢山あって。國行さんは、イラストレーターや漫画家としても活躍されている方なので、その辺りはほんとにお任せでやっていただいた感じです。
—— キーアニメーターの野田(康行)さんは、どんなお仕事をされているのでしょうか。
佐藤 キャラ修正ではなく、動きのチェックをメインにするアクション作監って役職がありますよね。そうしたお仕事をお願いしたかったんですが、作業に入った段階でスケジュールがなくなってきたので、キーアニメーターとクレジットはされていますが、事実上、総作監のひとりというところです。そうした総作監の仕事プラス、このカットのタイミングだけはみてほしいというアクション作監的なこともやっていただきました。
—— 当初は、アクション作監的なお仕事をメインに考えられていたんですね。
佐藤 そうですね。その後、野田さんには、演出を担当した『しんちゃん』の劇場で原画をお願いしたんですよ。それまで『ジュエルペット』で作監をやっていただいたり、お付き合いはあったんですが、原画をお願いするのは『しんちゃん』が初めてでした。少ない手数できめてくるんですよ。ポイントポイントの中間の動きで、動かしてくる原画をみて上手いなと思いました。『デンキ街』でも、もっと原画をやっていただきたかったですが、このぐらい力のある方だと、なかなかバラの原画は劇場とかでないと振りづらいという事情がありまして……。また何かあったらぜひお願いしたいなと思っています。

「やらなくていいことはやらない」演出

—— 『デンキ街』は、深夜アニメではありますが、どこかホッとする感じがあって、シンエイ動画っぽい雰囲気があったように思います。どんな工夫をされたのでしょうか。
佐藤 そこは、やっぱり演出だと思います。ストレートに、そういう演出でやってみたってことですね。
—— 凝ったカメラワークは使わない、といったことですか。
佐藤 そういうのはあんまりやらないでって、最初から言ってました。カメラを手ぶれで揺らしてみたり、斜めにおいたりっていう深夜アニメ的な盛り方はやめて、『あまちゃん』みたいな絵にしたいって話していました。
—— なるほど。NHKの朝ドラっぽい感じにしたいと。
佐藤 カメラはそこに置いてあればいいし、キャラクターもそこで動いていればいいと。……やっぱり、深夜アニメでやっていると、みんな色んなところで、なんかやろうなんかやろうって頑張っちゃうんですよね。『デンキ街』では、やらなくていいことはやらない、っていう方向でやってました。何をやらずにすむか、引き算引き算で作っていったというか。
—— それは、かえって難しい作り方のようにも思えます。
佐藤 ちょっと度胸はいりますよね。いまどきの流行りに、背をむけるところがありますので。「相手にされないかもなあ」ぐらいのことは承知のうえでやっていました。なんというか、深夜アニメ的に文句を言われない作り方のようなものが、やっぱりあると思うんですよね。撮影でいっぱいフィルターをかけてぼかして、3Dもここでいれて……みたいな。そういうことは、もうやらずに、アナログアナログでできればなと思っていました。
—— ギャグに関しても、そうしたアナログな作り方でやっていこうと思われたんですか。
佐藤 ギャグについては、しゃべくりアニメにしちゃおうと思ったんです。ネタと喋りの角度とスピードを大事にして、ボケたらちゃんとつっこむっていう。セリフのやりとりは、シナリオ段階からつめていて、編集時にもわりとつめてもらっています。編集は中葉(由美子)さんという『ジュエルペット』でご一緒させていただいていた方なので、ほとんどお任せでしたけれど。
—— 言われてみると、セリフを途中で切ったり、一夜明けての暗転の仕方がちょっと変わっていたり、編集が凝っているなと感じるところがありました。
佐藤 その辺りが、何もやらない効果なんでしょうね。なんかこう「演出やってますよ」というのはやめて、もう淡々と見やすい画面でやれたらなと。やっぱり、今流行りの演出でやっていくと、5年経って観ると恥ずかしくなるっていうのがあるような気がするんですよね。「この時代、こういうのが流行っていたな」みたいな。それもシャクなんで、ある程度普遍的な感じで作れたらいいなっていうのはありました。
—— 6話の絵コンテは、菱田(正和)さんが担当されていますね。メリハリのあるエピソードで面白かったです。
佐藤 6話は人気ありますね。みんな「女子力、女子力」って言っていて(笑)。菱田さんは、グロス会社さんの繋がりで、やっていただけることになったんですよ。シリーズ通して、コンテ演出はベテランの方にまとめていただけたので助かってました。
—— コンテをお願いする際、「余計なことはやらない」演出について、説明されたわけですよね。
佐藤 打ち合わせで、あんまり盛らないでくださいっていう話はしていましたね。人や物がもうそこにあるって思ってもらって、望遠や広角レンズで撮るような流行りの構図はなしで、見たままの絵にしたいと。さっきもお話した朝ドラのような絵作りでっていうお願いをしていました。

先生の私生活が赤裸々に描かれた6話より。

先生の私生活が赤裸々に描かれた6話より。

—— 恋愛ドラマのシリアスなところは、どのように描いていこうと思われましたか。
佐藤 演出的には、シリアスにやるところは普通にどんどんシリアスに、実写の映画のようにやって、ギャグのところはギャグアニメにって、2本立てのアニメが中に入っている感じでやっていました。Aパートでくだらないことをやったら、Bパートではしっとりとしたドラマをやったり、みたいな感じですね。
—— ギャグの部分は、パンツのエピソードがある5話からエスカレートしていった印象がありました。
佐藤 まあ、慣れてきたからっていうところですかね(笑)。
—— アイキャッチも5話から入っていますよね。最後まで入るでもなく、すぐなくなりましたが。
佐藤 (笑)。あれは「入れてみよっか」っていう完全にノリでしたね。やってみて「これは一回でいいや」ぐらいの感じでした。最初に話していた、バラエティ番組っぽいくやろうかっていうときのなごりみたいなものですかね。

<第2回を読む>

Official Website
アニメ『デンキ街の本屋さん』公式
http://umanohone.jp/

Soft Information
Blu-ray&DVD全6巻発売中
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(C)2014 水あさと/株式会社KADOKAWA メディアファクトリー刊/コミックうまのほね