2クール作品ならではのキャラクターの肉付け
『SHIROBAKO』プロデュース 川瀬浩平(第3回)

第1回第2回から続いて、『SHIROBAKO』メイキングを訊く第3回。シリーズ後半のエピソードや、本作の「お仕事アニメ」としての魅力について伺った。

Profile
川瀬浩平 Kohei Kawase
プロデューサー。ワーナー エンターテイメント ジャパン株式会社所属。『ナースウィッチ 小麦ちゃん マジカルて』『灼眼のシャナ』『ロウきゅーぶ!』『selector infected WIXOSS』など多くの作品のプロデュースを手がける。

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「こういうやついるよね」から生まれたタローと平岡

—— シリーズ構成の話に戻りますが、本作は前半がオリジナルアニメの制作、後半が原作つきのアニメの話になっていますよね。これは、始めからそうしようと思われていたのですか。
川瀬 最初からそういう構成になっていました。そうしたいと水島さんも言ってましたし、堀川さんもその方がバリエーションがあって面白いかもしれないですねと話されていたと思います。
—— 後半の原作つきの話では、非常にセンシティブな問題に切り込んでいて、まさにギリギリ感がでていると思います。
川瀬 最初は、水島さんがこうやろうという話に対して、やっぱり「そこまでやると危なくないか」という声はあったんです。うがった見方をする視聴者の方もいらっしゃるじゃないですか。作品の部分だけが切り取られてネットに拡散して、本来の印象とは違ったかたちで作品が攻撃されるっていうのはよろしくないことだと、僕は思っていましたので。
—— そうですよね。
川瀬 そうならないようなレベルに話を落とし込むには、どうしたらいいか。後半の話でいうと、夜鷹書房の茶沢をあえて悪者にすることで、「こういうことも起こり得るんだよ」っていうことを見せる。そして、トラブルの原因になる部分については、「こんなことあるわけないだろ!」ってくらい、よりどぎつく、ファンタジーとして描いているんです。実際に、ちょっとした行き違いは往々にしてあるじゃないですか。そういうことが起こったときに、どうリアクションして、現場として解決していくかっていうことを考えました。
—— なるほど。
川瀬 だから、原作サイドを悪者にしているっていうことでは全くないんですよ。あおいちゃんたち「ムサニ」のスタッフが、どうやってクライシスを乗り越えていくかっていう葛藤がないと、作劇上、ドラマが進行していきませんので。「原作チームと仲良くやりました。作りました。終わり」ではどうしようもない。そこには色々なことがって、ああいう問題もおきたりしますよねっていうのを入れた感じです。あと、人様の作品をお借りするというのは、どういうことなのかっていうことも、ちゃんと見せておきたいという気持ちがありました。作中で木下監督も言ってましたが、原作者の意志の通ったものをお借りしてフィルムにする以上、原作を大事にしなければいけないし、いちばんのファンでなければならない。作中のあのセリフは、やっぱり僕らにとって重要なことですし、きちんと入れておきたかったところでもあります。そういうことも描きながら、作中ではあくまでもエージェントの問題でクライシスが起こるという。まあ、それでも問題をすりかえていると言われちゃうかもしれないですけれど。
—— 相当考えられたうえで、今のような展開になっているんですね。
川瀬 表面だけをみたら、この作品は原作サイドの方たちをさげすんでいて、アニメを制作する人たちをさも立派な感じに見せているんじゃないかって思う方もいるかもしれないですけど、だとしたら伝えきれてない我々の力不足なのかもしれません。ただ、ネタバレになっちゃいますが(編注:この取材は22話の放送直前に行った)、23話で原作者がでてきますので、そこまで観ていただければ分かっていただけるんじゃないかなと。ドラマ的にそこまで溜めていたんです。ずっと原作者と接触できなかった木下監督と制作スタッフが、もうどうしようもない状況に陥ったときに、何とかして原作者に会おうとする。で、話し合えばわかると。要は、コミュニケーションは大事だよっていう話だったりするんですよね。
—— 今おっしゃられたように、前半では主にタローが、後半では茶沢や平岡が、ヒール役というか、トラブルメイカー的に描かれていますね。
川瀬 どの業界にも色々な人がいますし、それぞれの都合もあるし、思っていることは違うわけじゃないですか。みんなで脚本会議をしている合間に、雑談レベルで、「こういう制作進行がいた」「こういう原画マンがいた」「こんな喧嘩があった」みたいな話が色々でたんですよ。面白話や経験談や愚痴みたいなものをみんなで吐き出しながら、「それはこういう問題で原因はこうだったんですよ」「バカだなあ」なんて話しながら、途中で横手さんが「それいただき」ってシナリオに生かしたりしていました。
—— それが、タローや平岡のバックボーンになっているんですね。
川瀬 「その話って、このキャラクターに使えるよね」みたいなかたちで生かすことはありました。今聞かれたこととはちょっと違うかもしれませんが、前半で確かにタローはヒールとして非常に目立ってはいましたけども、いちばんの問題って実は木下監督だったりもするんですよね。(制作)状況を遅らせているのは彼ですから。ただ、それはクリエイターがどうしても面白いものを作りたいっていう掘り下げにたいして、どこまで制作が一緒になって動けるかという話でもあって。木下監督と本田デスクの牢屋でのやりとりなんかを含めて、そこが見せたいところだったりもします。だから、あれもクライシスではあって、監督が途中でキャラの芝居を変えたいと言ったときに、どうするかというミッションなんですよね。まあ、表面からみると、ただのトラブルではあるんですけど(笑)。
—— (笑)。
川瀬 自分からすると「お前、今これ言う?」みたいに思っちゃいますけどね(笑)。タローのトラブルは分かりやすくて、本人のキャラクターというか、ある種コミュニケーションの問題だけなんですよね。ただ、5話の伝言ゲームで具合が悪くなってしまうところでは、「水島さん、これ嫌われるよ」って話をしたんですよ。監督は「そうですかね?」って言ってましたけど、ふたを開けたらやっぱりお客さんからタローが凄く嫌われて、「ほらね」って。
—— でも、実際にこういうことってあるよなと観ていて思いました。
川瀬 言い方の問題ってだけなんですけどね。言葉たらずがおこす、コミュニケーションの齟齬というか。『SHIROBAKO』が支持していただけているのは、社会人の方々が、実際に働いていて起こっていることが描かれているからだと思うんです。だから、「あるある」なんですよね。
—— 特に、上司も部下もいるような立場の人が共感するところが大きいと思います。
川瀬 そうですね。茶沢の話もすると、ある種、彼はお話を動かすための「燃料」みたいな人だったりするので、彼のキャラクターがどうこうっていうのはなくて、単にお客さんの嫌われ者になってもらう役どころですよね。アフレコ現場でも、茶沢役の福島潤君に「ゴメン! キミだけ嫌われる役で」と謝ったら、「まじすかー。頑張ります!」って言ってましたけれど(笑)。
—— 後半からでてくる、平岡についてはいかがですか。
川瀬 平岡の場合も、僕らが彼に思いいれてどうこうっていうのは特になくて、「こういうやついるよね」っていうのがあったんです。僕自身もよく見てきたし、制作会社だけじゃなくて、社会に出たらこういう人っているんじゃないかなってみんな思っていましたし。夢をもってそれぞれの業界に足をふみいれて、そこで現実を知って、「なにくそ」と奮起するのか腐っちゃうのか……そこは個人の状況や周りの環境にもよるんでしょうけれどもね。作劇的には、ある種、あおいちゃんとの対比にもなっていますし、それでも平岡は腐らずここにいるっていうところを描いたつもりです。やっぱり、ああいう人っているんですよ。制作進行をして心が折れて辞めてしまったんだけど、結局また戻ってくる。一緒に作ってフィルムができあがったときの気持ちよさが忘れられないのか、何が彼の快感中枢を刺激するのかわかりませんけれど。「川瀬さん、また戻ってきちゃいました」「マゾだねえ」なんて言いながらやっている人を何人も知っていますので。この業界には、そういう魅力があるんだなあというのは思いますし、平岡というキャラクターがその象徴になれば面白いなっていうのはありますよね。

制作進行のタロー(左)と平岡(右)。後にサシで呑みに行き、意気投合(?)する

制作進行のタロー(左)と平岡(右)。後にサシで呑みに行き、意気投合(?)する

家族をみせることで、あおいのパーソナルを描く

—— 前半で、個人的にとても心に残ったのは8話のエピソードでした。あおいのお姉さんが勤め先で辛い目にあって気晴らしに上京してくる。そのことについてあおいは何も話さないけど、お姉さんの気持ちは察していて。脇の話ではありますが、だからこそ、ああいう話が入っているのが凄くいいなと思いました。
川瀬 あれを入れようと言ったのは、誰だったのかなあ。水島監督だったのか、横手さんだったのか……。あの話もキャラクターの肉付けの一環ですよね。現代劇である以上、主人公のあおいが働いている姿とは別に、彼女のパーソナルな部分も描こうっていうときに、家族はわかりやすくみせられるんですよ。
—— なるほど。
川瀬 友達との関係は、幼なじみの絵麻たちが常にいますから。あと現実問題として、社会にはこうやって働いている人もいますという。こうした掘り下げは、2クールだからこそできることですよね。あおいが母親やお姉ちゃんと電話をするシーンが何度かありますけど、そんなお姉ちゃんが実際にやってきて、社会でちょっと息詰まっていると。そこで姉の事情を察して、多くを語らない妹って観ていて気持ちがいいじゃないですか。ある種、あおいは理想の存在であってほしいし、そういうところでまた彼女のことを好きになってくれたらいいなと。

あおいの姉・宮森かおり。地元の信用金庫に勤務している

あおいの姉・宮森かおり。地元の信用金庫に勤務している

—— まさに「お仕事アニメ」ですよね。普通の勤め人のお仕事事情も描かれていて、あの話がささった人も多いんじゃないかと思います。言い方をかえると、「こういうのは別にアニメで観たくないよ」っていう人もいるのかもしれないですけれど。
川瀬 もちろん、いると思います。
—— お姉さんの職場が灰色一色で、コンパクトに描きながらも最大限の効果がでていて、本当にあのエピソードはよかったです。
川瀬 有難うございます。8話のメインは絵麻が悩むお話ですので、みんな悩んでいるよと。そして、そういう時にどう解決するかという話でもあります。お姉さんのように、うさばらしをする人もいるし……。
—— なるほど。井口のように公園に行く人もいると。
川瀬 あの辺りの話は特に、働いている人でないと分からない感覚なのかもしれないですね。奥深くまで感じとるというか、フィルムを観て自分の中で考えるというか。そういう風に、自分に引き付けて考えるのは社会人の方々が多いのかもしれないです。
—— 『SHIROBAKO』には様々な立場の人がいて、それぞれの立場に近い人に共感できる多重な構造をもっている。そこも面白さのひとつだと思います。
川瀬 群像劇としてのキャラクターの肉付けをふくめ、手前みそながら、制作スタッフの方々には凄く良い仕事をしていただいたなと思っています。

<最終回を読む>

Official Website
http://shirobako-anime.com/

On Air Information
TOKYO MX、テレビ愛知、MBS、チューリップテレビ、BSフジ、AT-Xで放送中

Soft Information
『SHIROBAKO』Blu-ray第4巻<初回生産限定版>
発売日:3月25日
価格:7,800円+税
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新主題歌CD<初回限定版>
新OPテーマ「宝箱—TREASURE BOX—」奥井雅美/新EDテーマ「プラチナジェット」どーなつ◎くいんてっと を収録
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価格 :1,800円+税
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(C)「SHIROBAKO」製作委員会