「これはやれっていうことなんだろうな」と思った
『SHIROBAKO』プロデュース 川瀬浩平(第1回)

アニメ制作会社を舞台に、5人の女の子たちが働く姿を描くオリジナルアニメ『SHIROBAKO』。制作進行(後に制作デスク)、アニメーター、3DCGアニメーター、新人声優、脚本家志望——それぞれの職種の中で彼女たちが奮闘する様子が、コミカルなシーンを交えながら真っすぐに描かれている。オンエアも終盤にさしかかった本作がどのようにして生まれたのか、プロデュースを手がける川瀬浩平さんに伺った。

Profile
川瀬浩平 Kohei Kawase
プロデューサー。ワーナー エンターテイメント ジャパン株式会社所属。『ナースウィッチ 小麦ちゃん マジカルて』『灼眼のシャナ』『ロウきゅーぶ!』『selector infected WIXOSS』など多くの作品のプロデュースを手がける。

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制作会社を舞台にしたアニメのハードルの高さ

—— 『SHIROBAKO』の企画は、どんなかたちで始まったのでしょうか。
川瀬 この作品は、P.A.WORKS社長の堀川(憲司)さんと、監督の水島努さんから始まった企画なんですよ。ですので、あとから聞いた話になりますが、堀川さんの中で、クリエイターにスポットライトをあてたいというか、職人さんたちの技を伝えていかなければならないという思いがずっとあったそうなんです。また、水島監督も制作進行からキャリアを始めた方なので、昔からアニメ制作会社を舞台にした企画を温めていたらしくて。で、『Another』制作中に、堀川さんがたまたまその企画の話を水島監督にしたら「実は僕もやりたかったんです」ということになって進めたというのが経緯だそうです。
—— 川瀬さんは、どの段階から関わられたのでしょうか。
川瀬 P.A.WORKSとよく仕事をされていて、本作でプロデュースを一緒にしている、インフィニットの永谷(敬之)さんから話をもらったのが最初です。「オリジナルで、なおかつ2クールというヘビーな企画なんですが、ちょっと話を聞いてもらえませんか」みたいな感じでした。その時に、企画書も一応見せていただきましたが、文字だけの凄くシンプルなものでしたね。
—— 企画を聞いたときの第一印象はいかがでしたか。
川瀬 やりたいことはすぐ分かりました。制作会社を舞台にしたアニメは、僕もやりたかった企画のひとつでしたので。ただ、実際に今、目の当たりにしていますが、アニメ制作会社の日常を描くのは本当に手間がかかるんです。色々な部署や仕事がありますので、その設定は膨大な量になる。しかも、それだけの手間をかけても、やっていることはアニメ制作会社のお話……どうみても絵的に地味なわけですよ。そして、設定が多いということは、イコール、時間と物量とコストがかかる。やる気と根性さえあれば作れてしまうかもしれませんが、ビジネスバランスで考えると、これはなかなかハードルが高い。なので、ビジネス的な観点からいうと、これは成立しないなあと。制作会社も、普通はやりたがらないと思いますよ。膨大なコストをかけてフィルムを作っても、見栄えとしてはやっぱり地味にみえてしまう。これは誰しもが思うことでしょうし、僕自身も同様だったので、自分で考えたときには、まあ無理だろうなと思っていたんです。

制作会社ならではの特殊な小物が沢山ある、武蔵野アニメーション

制作会社ならではの特殊な小物が沢山ある、武蔵野アニメーション

—— これまでに、アニメ業界を舞台にした作品が何本かありましたよね。
川瀬 そうですね。大地(丙太郎)監督が『(アニメーション)制作進行くろみちゃん』を作られていましたが、作劇的にも、ああやってギャグに昇華しないと成立しないというか、ガチなドラマというのはなかなか作れないだろうなとも思っていました。ただ、僕もこの仕事をやらせていただいて18、19年経つんですが、やっぱりアニメ業界って面白いなというのはずっと思っていたんですよ。視聴者の方々も、自分たちが観ているこの面白いアニメの制作の裏側はどうなっているんだろうと、ゴシップレベルの興味もふくめて、やっぱり関心はあるだろうなと。堀川さんとは違った意味で、この面白さをみんなに見てもらいたいなって気持ちはずっとあったんです。どこかのテレビ局が編成費か何かを使ってやってくれないかな、とか思っていました(笑)。
—— (笑)。
川瀬 でもまあ、実際に目の前に(企画が)きちゃったんで、「これはやれっていうことなんだろうな」と思って、即オッケーしてしまいました。
—— 即決とは凄いですね。今言われたようなハードルの高さがあることを重々ご承知のうえで。
川瀬 リアリストなので、「これは運命だ」なんて中二的なことを言うつもりもないですけど、『SHIROBAKO』については、本当にそう思いましたね。だからもう、「さて、どうやってお金を集めようか」とか「P.A.WORKSさんから、作るのに幾らかかるって言われるんだろう」っていうようなことをまず考えました(笑)。
—— なるほど(笑)。
川瀬 別の視点からもお話すると、ビジネスプロデューサーとしてこの企画をみた場合、監督が水島努であり、シリーズ構成が横手美智子である。そして、制作会社がP.A.WORKSであるという座組みは、フィルムのクオリティに関して、安心ができるスタッフィングだなとも思ったんです。監督の水島さんとは何度も仕事をやっていますから。もし、他のスタッフィングだったら、もう少し考えたかもしれません。即決できたのは、そこの部分も大きかったと思います。

P.A.WORKSと水島努監督のバランスのいいタッグ

—— 川瀬さんは、P.A.WORKSと仕事をされるのは初めてですよね。それまで、どんな印象をおもちでしたか。
川瀬 「真面目なフィルムを作るな」という印象が凄くありました。ぼやっとした言い方かもしれませんが、こういう仕事をしていますので、事象で物を言うというよりも、フィルムから受ける感覚で制作会社さんのカラーや空気感を味わうことが多いんですよ。そういう意味でいうと、P.A.WORKSさんは、どんなジャンルの作品でも首尾一貫して、真面目さやストイックさを感じるところがあったんです。だから、『SHIROBAKO』でも、そこはぶれずに作っていただけるんじゃないかなと思いました。
—— おっしゃられること、よくわかります。
川瀬 『Angel Beats!』のようなジャンルの作品でも、凄く真面目さを感じたというか……もちろん岸(誠二)監督のカラーも入っているんでしょうけどね。『CANAAN』のようなアクションものでも「そこまで真面目に作っちゃうんだ」みたいに思ったこともありましたし、『花咲くいろは』にも同じことを感じました。この空気感は凄いし面白いなと。ただ、これはもう失礼なく言っちゃうと、真面目さゆえに足りないものを感じたというか、もう少し弾けてもいいのになっていう気もしていたんです。その自分が足りないと思ったところを、たぶん水島さんはちゃんと入れてくるだろうなっていうことも最初に思ったんですよ。
—— 企画書の段階で、そこまで考えられていたんですね。
川瀬 なんだか、見えた気がしたんですよね。監督が水島努であれば、一本筋のとおった真面目な物語にしつつも、コミカルに落としたり、泣かせたりといったエンターテインメントにちゃんとしてくれるだろうと。そうした水島監督の力量は、間近でみていて僕はよくわかっていましたので。だから、P.A.WORKSと水島監督は、凄くバランスがいいタッグだなと思ったんですよ。

途中で「これは特車二課と同じだな」と思った

—— 『SHIROBAKO』のシナリオは、どんな風に作っていったのでしょうか。
川瀬 企画書の段階で、水島さん、横手さん、堀川さん、永谷さんの間で話はされていたと思いますが、実際に動き出してからは、そこに僕と、ラインプロデューサーの相馬(紹二)さん、設定制作の橋本(真英)さん、脚本の吉田(玲子)さんが加わって、メインスタッフでいうと、その8人が脚本会議の主なメンバーですね。作品の舞台は決まっていますから、まずはキャラクターの肉付けからスタートしていきました。どうやって人物を配置して動かしていけば、お話を面白く転がしていけるかみたいなところですね。メインの5人のキャラクターはもちろんですが、水島監督的には、脇のおじさんのキャラクターたちにこだわりがあったので、その辺のディテールをみんなでワイワイやりながら決めてきました。その時に分かったのが、最初から水島監督の中に、作品の確固たるイメージがみえていたということでした。あおいたちが高校時代に自主アニメを作って今にいたるという流れもそうですし……1話冒頭のカーチェイスも、制作会社を舞台にしたアニメをやるならあれをやりたいと最初から思っていたそうなんです。
—— そうなんですか。てっきり、某自動車アニメのパロディかと思っていました。
川瀬 制作会社の話だけど、最初は進行車でカーチェイスというのが、ずっとやりたかったらしいんです。「なんだそりゃ」と思いましたし、他のみんなも「?」って感じでしたが、まあやりたかったらしょうがねえなあと(笑)。そんな経緯もあって、生まれたシーンでした。

あおいが運転する進行車が、他の制作会社の車と激しいカーチェイスを繰り広げる

あおいが運転する進行車が、他の制作会社の車と激しいカーチェイスを繰り広げる

—— 「お仕事アニメ」としての面白さも、本作の大きな魅力ですね。
川瀬 個性豊かなキャラクターたちが、いかにミッションをこなしていくかというチームワークの面白さですよね。ある意味、お話のゴールは視聴者にも見えていると思うんですよ。それをいかにドラマチックにみせていくか。これはもう脚本や構成の上手さですし、そこに水島さんの演出が加わって、お話の筋が分かっていてもグッとくる。そういう流れになっているのかなという気はします。
—— オリジナルで群像劇を作るのは大変ではなかったですか。
川瀬 大変でしたね。本作のシナリオは、メインライターがシリーズ構成の横手さん、各話のライターに吉田玲子さん、途中で浦畑達彦さんが2話分書くという、少人数の編成でやってます。というのも、今回の物語の構成は、ひとつの話数の中で、3つ4つの話が同時に動いていて、そのうちのひとつは必ずその話数の中で解決するという流れに基本的にはなっているんですね。そうやって複数のラインが動いていて、それぞれが密接に関わっていたりもする。シリーズ構成の方が構成を作って、複数の脚本家さんに一気に振るようなやり方だと、時間の短縮にはなるかもしれないけれど、今回みたいな作品だとその作り方はなかなか難しい。こういうオリジナル作品のシナリオは、少人数でみっちり時間をかけてやらないと作れないなと、あらためて思い知りましたね。
—— かなり時間をかけて、シナリオを作られたんですね。
川瀬 ええ。あと、『SHIROBAKO』のシナリオを読みながら「この感覚ってなんだろう?」とずっと気になっていて、途中で「あ、これは『パトレイバー』なのか」と気づいたんです。「(僕の中で)これは特車二課と同じだな」と。そう思ったときに、目の前にそのライターがいて、「あ、なるほどな」と思いました(笑)。
—— なるほど。横手さんの脚本デビュー作は、『機動警察パトレイバー』のTVシリーズですものね。
川瀬 そう気づいたとき、自分の中で妙に腑に落ちた感覚があったんですよ。『SHIROBAKO』のような構成で作れたのは、メインライターが横手さんだからというのが大きいと思います。

<第2回を読む>

Official Website
http://shirobako-anime.com/

On Air Information
TOKYO MX、テレビ愛知、MBS、チューリップテレビ、BSフジ、AT-Xで放送中

Soft Information
『SHIROBAKO』Blu-ray第4巻<初回生産限定版>
発売日:3月25日
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新主題歌CD<初回限定版>
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(C)「SHIROBAKO」製作委員会