第1回、第2回、第3回に引き続き『フォトカノ』Blu-ray BOX発売を記念しての、横山彰利監督インタビュー最終回。先日発売されたBlu-ray BOXの意外な楽しみ方とは……?
Profile
横山彰利 Akitoshi Yokoyama
監督、演出家。『カウボーイビバップ』『機動戦士ガンダム 第08小隊』など、様々な作品でアニメーターとして携わり、近年は演出家として活躍。演出家としての参加作品に、『四畳半神話大系』『THE IDOLM@STER』『進撃の巨人』『ニセコイ』などがある。
出崎統監督の「ハーモニー」に影響を受けたキメカット
—— 『フォトカノ』の背景は、撮影処理も相まって本当に美しかったですね。
横山 先ほどからお話ししている「リアルにやりたい」というのがベースにあって、そこで「本当にこの世界があるんだぞ」と視聴者が信じ込める美術を作っていったんです。そこは我々スタッフも、一回信じこんで本気で作っていこうとしました。
—— 作品全体のベースとなる美術をリアルにして、そこからどうドラマを振るかを決めていくということですか。
横山 そうですね。時間も十分にあったわけではないなかで、よくあそこまでやっていただけたなと思います。劇場に近いぐらいの物が上がっていたので……。
—— Blu-rayで見ると、夕景などはそれだけ見ていても綺麗ですよね。
横山 最終回(第13話)は本当に撮影の力を感じました。回想が明けた前田と果音の夕景の横パンがあるのですが、レンズフレアが本当に綺麗でね……。キャラはシルエットでほぼ止まっているだけなのですが、ここは本当に島崎さんと伊瀬(茉莉也)さんとレンズフレアに頼ったカットだったんです。いやあ、よかったです。あの話数は全般に夕景が滅茶苦茶綺麗でした。
—— それと、『フォトカノ』は夕景であったり、夜だったりと、かなりシーンごとの色替えが多い作品でもあったと思います。
横山 色替えが多いのはイメージシーンが多いから、というところもあります。前田が実生活で言えば犯罪行為に及びそうな行動をする時は、漫画的な表現と同じように色も変えているんです。
—— ああ。ちょっとアブノーマルな色にしているんですね。
横山 「あくまでイメージですよ」ということを表現しているんです。そのあたりも、リアルな色合いだけでやるやり方もあったと思うのですが……やっぱり凄く硬質感が出てしまうんですね。『フォトカノ』の本来持っているやわらかい豊かさや楽しさが、消えてしまうんです。アニメでやる分にはこれぐらい露骨に、色替えもギャグ表現もやったほうが、原作の空気感が補完できるのではという考えでした。
—— 写真を撮る時の静物の質感や、ハイスピード撮影の時に、撮った瞬間質感がパッと足されるような演出がありましたが、ああいった特効的なところは、かなり入れ込んでいかれようとされたのですか。
横山 そうですね。マッドハウスなので、出崎統(崎は代用)監督的なんですよ(笑)。シャッターチャンスというのは、心の記憶に留めておく時の絵なんです。出崎さんがキメのカットでよくやられていた、「止め絵がハーモニーになる」というのがまさにそれじゃないですか。それもあって、シャッターチャンスはハーモニーにしたかったのですが、今できうる作業の中で、どうやったらそれに近い効果が出るのかというのを、美術さんと撮影さんとで検討していただいたんです。
—— あ、撮影さんだけでなく、美術さんも一緒に検討されているのですね。
横山 そうなんです。撮影寄りにしたカットと、美術寄りにしたカット、両方作ったんです。それでシーンによって選択してもらって、それに撮影さんが合わせていったキャラを載せてもらうんです。
—— シーンごとのパターンがあったんですね。
横山 はい。先にテストパターンを作って、一律に掛かる処理を何種類か用意しました。絵によって映える処理も違うので、「海や空だったら、こっちのほうがいい」であったり、「茶系が多かったらこちらの処理にしよう」であったり、そんなふうに合わせていったんです。
—— そういうシーンを指定するのは、絵コンテでになるのですか。
横山 いえ、シャッターを切ったら、自動的にそうなるとルールを決めておきました。その中でどの絵がいいかを、テスト通りやってもらったものから演出さんや自分が選ぶというかたちでした。
Blu-ray BOXの楽しみ方
—— 12話が終わった段階で、それまでに提示されたいくつかのカットから、「この作品は並行ループもの的なところがあるのではないか」という話題が一部ネット上で出たりもしたのですが、そういうところは意識されていたのですか?
横山 先に全部言ってしまった感はあるのですが、「全てが真実」という衝撃をもって、「前田が『フォトカノ』のゲームをやっていて、さらにその様子を上の階層から『フォトカノ』というゲームとして楽しんでいる前田がいる、という入れ子構造にする」という案がありました。それがずっと続いて、あるところで、ピンポーンというチャイムの音で内田がやってきて、前田を消えるステルスの世界に引き込んでいくというエンドをやろうかなと考えていた時期もあったんです(笑)。
—— それはかなりアナーキーですね……。
横山 これ似たようなことがゲームにもあるんですよ。「内田がステルスの世界に引きこむエンド」というのがありまして……。それをアニメに反映すると、自分のなかで「全てが真実」ということについての落とし前が付くと思っていたんです。ただ、さすがにあまりにSFチックにするのも違うと思って、現状のかたちに落ち着いたんです。
—— 12話の「フォトグラフメモリー」が今おっしゃったことを少し表現しているのではいかと思えます。
横山 「フォトグラフメモリー」は、深角の話でもありますが、『フォトカノ』全話数についての最終回でもあるんですよね。
—— 新幹線の中でアルバムを広げたら「ここは(ルートとして)通っていないのでは?」というヒロインとの絵が入っていたりもしますよね。
横山 そうですね。同じようなシチュエーションでも、ちょっと違ったりした可能性が実は存在するという……。マルチバース(多元宇宙)という言葉があって、これもまたSF風になってしまうのですが、そこを入れ込んでいる部分はあります。言葉にしてしまうと、『フォトカノ』の世界観とは完全に別物みたいになってしまうのですが、そうではなく、私達の人生に置き換えても、そういうことは言えると思うんです。
例えば、旦那さんや奥さんが、伴侶と死に別れて、次の伴侶を見つけてきたりする。それは分かるのですが、もし「制約」がなければ、どうなっているのかなということなんです。もし、先に次の伴侶となった人と出会っていたら、本来その人とも一緒になれると思うんですよね。そういう意味で、ちょっと違った可能性は、常に存在しているという考え方ができるのではないか。前田もヒロイン達を本気で全員好きだったのかもしれない。ただ、そのルートではその人しか選んでないわけですよ。そして、それらルートというものは並列的に無限に存在しているんです。そんなことを垣間見える感じが、12話では表現できたらいいかなと思っていたんです。
—— これまでのお話を伺っていると、ゲーム版『フォトカノ』の魅力、「制約からの脱却」というテーマ、前田の性格、アニメ版のストーリー構成と、全てが一貫して繋がっているように思えます。今回Blu-ray BOXが発売されるにあたって、お話に出た新たな視点を持って、自分も再見したいと思います。
横山 そんなふうに楽しんでいただけるのも、嬉しいですね(笑)。Blu-ray&DVDは、リテイクした時に尺が変わっていますので、フルカラーでダビングしなおしています。ですから、絵についても音についてもテレビ版と変わっていたりするので、そのあたりの仕上がりにも注目していただければと思います。
それと、今回またBOXが発売されるということで、購入していただいた方の中には、テレビ録画を消される方も多いと思います。でも、テレビも放送したものだけのバージョンで、かなりレアものですので(笑)、ぜひ残してもらって、見比べていただけると、それはそれで面白いのではないかと思います。
—— なるほど。私のHDDレコーダーには歯抜けでしか残っていないのですが(笑)、いくつかの話数で見比べてみたいと思います。
本日は長時間、ありがとうございました。
Official Website
アニメ『フォトカノ』公式
http://www.tbs.co.jp/anime/photokano/
Soft Information
『フォトカノ』Blu-ray BOX
発売中
価格:18,000円+税
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