原作の魅力、「自由であること」を活かすために
『フォトカノ』監督 横山彰利(第1回)

2013年4月より放送され、好評を博したテレビアニメ『フォトカノ』。本作のBlu-ray BOXが本日7月15日に発売された。今回のインタビューではその発売を記念して、監督の横山彰利氏に、改めて本作を振り返っていただき、その魅力を語っていただいた。全4回でお届けする。

Profile
横山彰利 Akitoshi Yokoyama

監督、演出家。『カウボーイビバップ』『機動戦士ガンダム 第08小隊』など、様々な作品でアニメーターとして携わり、近年は演出家として活躍。演出家としての参加作品に、『四畳半神話大系』『デッドマン・ワンダーランド』『THE IDOLM@STER』『進撃の巨人』『ニセコイ』などがある。

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主人公の前田は、倫理観を超越したキャラクター

—— 『フォトカノ』はゲーム原作でファンも多い作品ですが、横山監督は、プレイされてどのような魅力をお感じになりましたか。
横山 先にお話ししますと、このゲームには大きな衝撃を受けたんです。アニメのセリフで「幾重にも折り重なった真実の中、たったひとつの現実を導き出した瞬間」という言葉があるのですが、ゲームがまさにそうなんですよ。シナリオが膨大で、多様なキャラと恋愛が可能なストーリーなんです。ただ、それはヒロインひとりとのストーリーを終えてから、次のヒロインとの恋を楽しむという遊び方なんです。これは、映画などでは考えられないことですよね。映画は前提として一本筋のドラマがあって、それを表現するわけで、多様性というのは存在し得ないんですよ。
—— 映画などのドラマですと、基本的にひとりの人格であり、ひとつの時間軸で進んでいきますよね。
横山 そうなんです。ですからゲームとして完成され過ぎているこの作品は、だからこそ、ドラマとして成り立ちづらいだろうと考えました。ひとりの人格を持つ人がいろんな女の子を好きになることはありえますが、それってただのスケベでしょう。でもゲームはリセットしてやり直すごとに、その時の真実になり得る。これは衝撃的でした。この「自由さ」が作品の魅力だと思いまして、そういった原作の本質を再現できるのかが、最初の大きな課題となりました。
—— 確かに、おっしゃることは他の恋愛シミュレーションゲームアニメ作品でも、かなり迷われる部分だと思います。
横山 そうですよね。実際映像でやるとなると、あるヒロインとの話に感動すればするほど、次の話数で恋をするヒロインとの話が嘘臭くなってしまう。それもあって、バラエティ番組のようにできたらと思ったんです。バラエティ番組の中には「お約束ごとの世界」があるじゃないですか。その世界の中では約束事としてでき上がっていて、視聴者もそれを分かっている。ありえないだろうという突っ込みもない。
—— ああ、まさにリセットできる世界観なんですね。
横山 ええ。お約束としてリセットできる。そういう塩梅を作品内で作れれば、リセットされる世界観が上手く成り立つのかなと思ったんです。自分がドラマを掘り下げれば掘り下げるほど、次のキャラクターのルートに行く時に視聴者の感情の弊害になりますから、「これはこういうものだ」というお約束を、できれば最初に作れないかというのが、ひとつの目標でした。それで、今回インタビューにあたって、1話を見てみたんですけど、「あがいてるなぁ……」という感じが痛々しいぐらい出ていて、ちょっと辛かったです(笑)。
—— 具体的にはどういうところに、お約束ごとを作るためのファクターを入れているのでしょう。
横山 1話については、ドラマとしての間のつなぎ方を、平坦に淡々と進めていこうとしているんです。でも情報量は、普通の話数の倍以上に圧縮し、詰め込んでいく。そして、情感では追っていかない。元からのプレイヤーさんは、内容は知っているだろうから、そこはちゃんと見てもらえるだろうと……。この1話でよかったのか。それはまだこれだけ時間が経ってもわからないですね。
—— そういうフラットな1話にされることで、ルート別で物語が完全にリセットされても、違和感がないようにされているのですね。
横山 そうなんです。と言いつつ、この作品が自分の中で掴めたと思えたのは、どちらかというと2話になるんですよ。アフレコの時の役者さんのリアクションが、1話とは全然違っていたんです。
—— ああ、そうなんですか。役者さんが台本を読んで盛り上がっていたんですね。
横山 1話は仕込みすぎで、頭でっかちになったのかなとも思いますね……。
—— いまお話があった、声優さんの演技というところは、本作でもキーになる部分だったのではと思います。特に主人公の前田は島崎信長(崎は代用)さんが演じられていましたが、ゲーム版には声が付いていなかったキャラですよね。
—— 島崎さんには演じていただくにあたってのロジックを、あまりちゃんと説明していなかったんです。どうして1話を淡々とやるのかという部分が分からないままだったと思うので、ご本人なりの演出プランに支障があったのではとも思います。ただ、いただいた演技に関しては素晴らしいものでしたので、問題もありませんでしたし、ありがたかったです。
—— 主人公の前田というのは、そもそも原作としてはプレイヤーなわけですが、キャラクター性を付加しないといけないですよね。どういう性格付けをしていこうと思われていのでしょうか。
—— 『フォトカノ』において自分が考えていたプランは複数ありました。そのうちのひとつが、先ほどの「お約束ごと」の世界を作るということなのですが、もうひとつは、日本の若者の中の倫理観—ひいては制約——に対するアンチテーゼだったんです。……ちょっと大仰ですが(笑)。『時計じかけのオレンジ』をかなり意識していたんです。
—— それはなかなか興味深いお話です(笑)。
横山 『時計じかけのオレンジ』の主人公であるアレックスは、凶悪犯なのですが、捕まって政府の実験台のようになって、ある意味去勢されてしまう。暴力を振るえなくなってしまうんですね。そうなってしまって、人間だと言えるのか……そういったことが要素としてある作品なんです。『フォトカノ』はそれに近いところを狙っているんです。前田は自分含めて一般的な人間の倫理観と真逆に設定しているんですよ。そして、「我々と前田、どちらが人間らしいのか」ということを問いかけるキャラクターだったんです。
—— ええっ……。いや、なるほど。言われてみれば、前田の行動にはいくつか驚くようなものがあったように思えます。
横山 とはいえ放送コードもありますので。それをしっかり表現するのには、なかなか難しい部分もあったのですが……。ただ、普通、人間が本能的にこういう写真を撮りたいという衝動に駆られても「あ、これ捕まるんじゃないか」であったり、相手に気兼ねして抑えるじゃないですか。でも、4話までの前田というのは、その欲望のままに動くんです。

主人公である前田一也。第2話では室戸の不正登校を問い詰め、ワルい顔をする。

主人公である前田一也。第2話では室戸の不正登校を問い詰め、ワルい顔をする。

—— しかし後半の前田はどうでしょうか。彼はヒロインを助けていく役回りになるわけですが。
横山 いえ、後半も同じです。そこは一貫させているんです。ヒロインが困っている時にそれを助ける。そんなこと、果たして僕達にできるでしょうか。困っている子がいた時に、手助けするなんて面倒だ、と思わないか。泣いている子がいても放っておくし、困っている委員長がいても気にはなるけど、「じゃあ学校の外に行こう」と連れ出すことができるのか……。自分だったら、正直しないと思うんです。
性的な衝動や自分の欲望に、素直に突っ込んでいく4話までの前田というのは、一見下卑た人間のようにも見えるかもしれません。自分だったら絶対やらないと思わせる、そんな男かもしれない。でも、じゃあ人が困っている時に入っていけるかというと、それも、普通なかなかできることではないでしょう。前田はそこの垣根がないキャラクターにしたんです。
—— そこは一貫しているんですね。
横山 そうなんです。前半部分は見ている側に「こいつひどいな」と思わせて、じゃあ後半の前田のように、自分達はやれているのかを問いかけるという構成です。だから「倫理観の逆を体現した」キャラクターとして、前田は常に存在しているんですね。学校のカースト制度的なところで「迷惑かかったら嫌だ」という倫理観であったり、自分でセーブしている制約が、前田にはないんですよ。
—— とすれば、もしかすると前田は、人の心の垣根を超えられる存在なのかもしれない?
横山 そうですね。前田がそうなったのは、親の愛情に飢えているのが原因なのかな……みたいなことも思っていたりしていました。前田は人懐っこい人であり、人が好きなんです。でそれは一方で、人の愛情に飢えているということなのかもしれないとは思っています。
でも今言ったような前田の自由さは、本当に島崎さんの演技で、よりしっかりと表現されていたので、ありがたかったですね。「サイコー!」とか言ってくれると「求めていたのはこれだ!」と思えました(笑)。前田は唯一アニメ版のオリジナルキャラクターといえますが、制約を超えるということは、ゲームにおいて僕が感じた「自由さ」の象徴でもあるんです。そこはなんとか体現できたのかなと思っています。
—— 今お話されたような前田の特殊な性格にもよっていると思うのですが、割とシナリオとしては、コメディ的でしたよね。
横山 そうですね。なるべく本当にやっちゃいけないことは、マンガ(的表現)に振っています。前田の倫理観を超えるという話も込みで、リアルに表現したいという思いはあるんです。でもやっぱり、責任が取れないところはあるので(笑)、漫画的な表現で、逃げ道を作っていますね。

奔放なオープニングと、花に心情を仮託したエンディング

—— オープニングは監督が手掛けられていますが、どんな意図を込められましたか?
横山 先ほどからお話している通り、とにかく「制約からの解放」ということが裏テーマ的にあるんですね。前田が師と仰ぐような久堂が縦横無尽に暴れてくれるという意味で、オープニングは本質的に『フォトカノ』で訴えたいことが、上手く散りばめられたかなと思うんです。
—— 机の上にヒロイン達がいて、カメラが横パンしていくのもシュールな感じでしたね(笑)。
横山 あれはでも、原作でも机の上にヒロインが寝そべって、写真を撮られたりするんです。それも、学校の「制約」を破っているというということですから、あそこにもテーマが集約されているんです。本編でも、あの机の上で撮影というのは、もっとちゃんとやるべきだったなと思うのですが……。
—— 確かに、あのカットはオープニングの奔放さには一役買っていますよね。エンディングに関してはいかがですか。あれはルートごとにキャラが変わっていく特殊なエンディングでしたね。
横山 どうだったかな……いや、あれは僕が変えたいといったわけじゃないと思いますけど……。(同席していたマッドハウスプロデューサー田口亜有理氏が耳打ち)あ、僕が言ったのか……。そうか、担当していただいたのが遠方の方だったので、自分の方で判断させていただいたのかもしれません。
—— エンディングは、坂本(一也)さんがご担当でしたね。ご覧になっていかがでしたか。
横山 オープニング以上にいいと思います(笑)。
—— いやいや(苦笑)。

エンディングは、それぞれのヒロインを主体にした体裁。7話以降は、各ヒロインごとに歌い手と映像が変化した。

エンディングは、それぞれのヒロインを主体にした体裁。7話以降は、各ヒロインごとに歌い手と映像が変化した。

横山 坂本さんは本編の絵コンテもほとんどノーチェックだったんです。コンテでは尺が足りなかったので、足している部分はあるのですが、それ以外はそのまま通していますね。
—— 4話ですよね。あの話数のラストの方で、体育館の上をカメラがナメていき、模様のようなものが枝分かれしていく様を映しますが、あれも「幾重にも折り重なる真実」というのを表現しようしているのでしょうか。
横山 自分としてはそうです。ただ、坂本さんがコンテから入れ込んでくれたのか、要望を出したかは失念してしまったのですが……。あそこで前田ダークサイド終わりという一区切りだったので(笑)。
—— 少し気になるところで言いますと、先ほどお話したエンディング含めて、花がキーポイントとして挿入されることが多かったと思うのですが。
横山 理屈としては、「バラエティにしたい」という話に繋がります。情報を強烈に圧縮しているので、シーンの繋ぎ目に対して間を取れないんです。ですから、キャラクターごとに対応する花を設定して、それを挟み込んで時間を圧縮しようという意図ですね。それでどんどんテンポアップしていきたかったんです。
—— そこにヒロイン達の感情も、ぎゅっと圧縮されているんですね。

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Official Website
アニメ『フォトカノ』公式
http://www.tbs.co.jp/anime/photokano/

Soft Information
『フォトカノ』Blu-ray BOX
発売中
価格:18,000円+税
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