脇の下のハイスピード撮影も検討した
『フォトカノ』監督 横山彰利(第3回)

第1回第2回に引き続き『フォトカノ』Blu-ray BOX発売を記念しての、横山彰利監督インタビュー第3回。本作における
「フェチ」の在り方を中心にお話を伺った。

Profile
横山彰利 Akitoshi Yokoyama

監督、演出家。『カウボーイビバップ』『機動戦士ガンダム 第08小隊』など、様々な作品でアニメーターとして携わり、近年は演出家として活躍。演出家としての参加作品に、『四畳半神話大系』『THE IDOLM@STER』『進撃の巨人』『ニセコイ』などがある。

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あまりにキケンだった、室戸のプールシーン

—— 『フォトカノ』は5話以降、ヒロインごとのルートをやっていく構成上、毎回最終回というテンションを維持していたように思えるのですが、そのあたりは現場としてはいかがでしたか。
横山 本当に尋常ではない緊張感でした。こういう構成でなければ、最終回に向けて盛り上げるための配分ができて、多少現場にも緩急があったと思うのですが、先に少しお話したとおり、高校野球のようになってしまったんですよ。でも、だからこそどのヒロインについても妥協無くやり切ることはできたと思います。それぞれのルートが終わった後で、エンディングのヒロインも歌も変わるじゃないですか。あれもヒロインごとの最終回らしさを助長していて好きですね。
—— なるほど。各ヒロインそれぞれ魅力的だとは思うのですが、印象に残っているストーリーということで言うといかがでしょう。
横山 時間が経つとまた変わるのですが、今は室戸さんかな? 前田は室戸を脅すんですが、その時の室戸が楽しそうでね(笑)。あれも学校という制約から前田が抜けださせてくれたんですよね。脅されながらも一番イキイキしている変な感じがいいですね。
—— 動きが連続しないコマ無しで、パッパッパッとポーズをとったりしていましたね。
横山 そうそう(笑)。「やめてよ」と言いながら「もうしょうがないわね」と。だんだんノッてきて……。イヤじゃないんだなという(笑)。前田も、嫌がっている相手にはやらないんです。人間好きの彼は直感的に嫌がっているかどうかが分かるんですよね。室戸に関しては第3話の絵コンテでの描かれ方も印象的でしたね。
—— 第3話の絵コンテというと笹木(信作)さんでしたね。どんなところが印象に残っているのですか。
横山 いや、実はあの話数の絵コンテは、かなり自分が修正をしてしまっているのですが、元々の絵コンテが素晴らしかったんですよね。でも……凄くアナーキーなコンテだったんです(笑)。あれはできないなと……。それこそ『時計じかけのオレンジ』的なちょっとネジが外れているコンテでして、もう完全に変態の領域でした(笑)。特に室戸のプールシーンのエロさは、ヤバかったです。直してしまって言うのもなんなのですが、僕が本来やりたいと思っていた『フォトカノ』がそこにありました。テレビのコードを考えず、規制を越えて踏み込んでいくような……。ですから、「前半でゲスに見えるところをやって、後半でヒロイン達をその制約を超える性質を活かして救っていく」というプランとしては、笹木さんのコンテがもっともフィットしていたんです。そうなんですけど……ヘタをすると、作り手側もそんなに悪いと思っていないんじゃないかと視聴者側にとられてしまうかもしれない。かなりそのあたりを掘り下げているので、危険なのでは、と思ったんですね。
—— それは、フェチの極みみたいなところでしょうか。
横山 そうなんです。本当に見たかったですね……。あれをそのままフィルムにしたかった。でも、絶対問題になってしまう!
—— (笑)。それでも完成したものも素晴らしいと思います。
横山 そうですね。よいものになったとは思います。

第3話より。生徒会長の室戸がプールサイドで激写されるカット。

第3話より。生徒会長の室戸がプールサイドで激写されるカット。

横山 3話は前田がスカートに滑り込んでいくところも滅茶苦茶好きです。
—— ああ、あそこもいいですよね。
横山 シーンで言うと、自分がいちばん好きなのは、その3話の滑り込みなんです。やりきったなという感じがありました(笑)。ヒロインをアオリで広角を使ってブサイクに描くというのは、あまりないのではないかなと思います。
—— そのヒロインである新見さんについてはいかがでしょうか。特に5話はフィルムからピリピリしたものが透けて見えるような仕上がりだったと思うのですが。
横山 このお仕事をいただいた時、当初はやっぱり新見をヒロインとして据えて、全編通してやりたいという思いがあったんです。それが、いわゆる普通のドラマの作り方ではありますからね。しかしながら、前提としてそれはなかったので、バラエティ的な作りにシフトしたんです。その当初の名残のテンションが、5話でかなり残ったんですよ。
—— 個人的には前田の感情の高まり方が演出を通して見えてくる、ドキドキする回でした。
横山 そう言っていただけるとありがたいです。そういう意味では窪田(ミナ)さんの音楽には相当助けてもらいましたね。音楽については、オーダーを超えるぐらい良いものが上がったんです。それで、5話は音楽に合うようにコンテを描きました。見ていただくと分かるのですが、音とカットの変わり目が合っているシーンがあるんです。12本分の最後の1話というぐらいのテンションの高まりを、あの音楽と一緒に表現したつもりです。
—— あそこが一番、音楽と感情の高まりがピークに行き着くところだったのかなと。
横山 音楽は方向性として目指したリアルな感じにそぐう物をいただけて、助かりました。本編が漫画的な表現を入れたり、シーンの繋ぎを本来のドラマのリズムではなく、圧縮したりしている部分は、割とカオスな感じになっているのに、なんとか印象としてまとまったのは、音楽の力だと思いますね。
—— 横山監督と音楽、ということで言うと、別作品で恐縮ですが『カイバ』の第3話も印象的でした。あれも、音楽を感情に載せていくタイプの話でしたね。
横山 あれは記憶が戻ってくるところで高まりを最高潮にするということで、音楽を付けていましたので、方法論としては近いですね。音楽付けについては、こだわっているというよりは、こだわるのが普通だと思っています。それでトータルとしての印象が変わってくるので……。そうだ。思い出したのですが、『フォトカノ』のフィルムとしての方向性は「とっ散らかった歌詞だけど、良い曲」を目指していたんですよ。歌詞はとっ散らかっている部分があるのに、曲全体として凄く良い、という曲もあるじゃないですか。そういうバランスを持ったフィルムにならないかということを考えていました。先ほどからお話している「バラエティっぽさ」に通じる部分があると思ったんです。

舞衣ちゃんと脱ぎかけの靴下

—— この作品にはフェチっぽいカットも随所に散見されますね。
横山 写真集を買い込んで研究したりはしましたね。
—— では、フェチっぽいカットを入れ込むというのは、方針として元々あったのですね。印象的だったのは、横山監督ご自身が絵コンテをやられた舞衣の回でして、靴下がちょっと脱げかけているカットなのですが。

第10話より。脱ぎかけの靴下がフェチっぽさを感じさせる。

第10話より。脱ぎかけの靴下がフェチっぽさを感じさせる。

横山 ああ。あれも「制約からの脱却」についての表現なんですよ。
—— ええっ? そうなんですか?
横山 (笑)。はい。あそこのポイントは半分だけ脱ぎかけていることなんです。完全に脱いでしまうと「脱却しかけている」という表現にならないんです。脱げかけているぐらい……ちょっと半端な状態にしていれば「拘束している型」も残せるじゃないですか。しっかり者の舞衣ちゃんから、半分ほどずれている、その瞬間が大事なんです。舞衣ちゃんの靴下が脱ぎかけだから、「あ、脱げていきかけているんだな!」という……。
—— 監督、今凄くいいことをおっしゃっていると思うのですが、言葉だけ聞くと完全に変態ですね(笑)。
横山 ああ、確かに。すみません(笑)。
—— 産毛なんかはどうでしたか? フィーチャーしたカットがありましたよね。
横山 産毛は確かにやりたかったことですね。
—— あれは相当なフェチですよね。ちょっと陽にあたって金色っぽい感じになっていて、なんだか、いやらしい気持ちが湧いてきます。
横山 これまでのアニメ作品でやっていないところはどこかと思って探したんです。他にフィーチャーしたかったのは、唇の裏のスジですね。唇を開くと、唇の裏と歯茎とを繋ぐ一本スジがあるじゃないですか。ここはアニメで描いたことはないから、なんとか描きたかったです。でもそのシチュエーションを考えることができなくて(笑)。さらに、そこを観て喜ぶ人の数がどれぐらいなのかなと思い出すと、かなり疑問になってくる。そうやってひとつずつ却下していって、産毛であれば大丈夫だろうと思いました。
—— 判断基準がよく分からないです(笑)。
横山 あとは、脇の下がどこまでいけるのかというのが悩ましかったです。
—— しかし、脇フェチもいますし、問題も起こらなさそうな部分ですが……?
横山 でも、脇の下をハイスピード撮影するのはおかしいでしょう?
—— あ、そこまでやられるつもりだったのですか? それは、確かに倫理的におかしくはなくとも、頭的におかしいと思われそうですね……。
横山 観てくださっている方の8割はハテナでしょうからね。そんな感じで、かなり検討はしました。でも、今思うと、もっとやっちゃえばよかったのかな? という気もします。

<最終回を読む>

Official Website
アニメ『フォトカノ』公式
http://www.tbs.co.jp/anime/photokano/

Soft Information
『フォトカノ』Blu-ray BOX
発売中
価格:18,000円+税
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『フォトカノ』オリジナルサウンドトラック
発売中
価格:3,000円+税
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