セッションの魅力を生かした楽曲作りと演奏
『COCOLORS』音楽監修 阿部隆大

『COCOLORS』対談記事で話題にあがった、音楽監修の阿部隆大さん。スペシャルコラボLIVEの音楽まわりを一手に引き受け、夢の企画を実現に導いたキーマンの1人だ。映像にピッタリ合わせて演奏するために行っていること、驚きの楽曲制作エピソードなどを伺った。

Profile
阿部隆大 Ryudai Abe

ギタリスト、作編曲家。ボーカルUyuとのロックユニット、ACRYLICSTAB(http://acst.info/)としても活動。『COCOLORS』では、音楽監修とギター演奏を担当。

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ある程度はシミュレーションでやっていくしかなかった

—— 音楽監修として、具体的にどんなことをされているのでしょうか。
阿部 基本的には御用聞きというか、音楽まわりの全てをサポートする役どころですね。作編曲はもちろん、制作進行的なこともやりますし、音響のプログラミング、技術さんとの打ち合わせや人集め、お金の管理などもしています。
—— 何から何までされているのですね。
阿部 とんでもない作業量でございます(笑)。
—— このライブの話を聞いたのは、いつ頃でしたか。
阿部 去年の夏頃、納谷(僚介)さんが、横嶋(俊久)監督から初めてこのライブについて話を聞く場所に自分も同席していました。「GASOLINEMASK」プロジェクトでは、2年ほど前に発表されたティザー映像の音楽を作らせていただいたり、別のタイトルでも神風動画さんのお手伝いをしていましたので、皆さんのことは知っていたんです。


2015年3月に公開された『GASOLINE MASK』ティザー映像。

—— 声と音楽を生でつけたいという話を聞いたとき、どう思われましたか。
阿部 最初に話を聞いた段階では、わりと普通にやれるのかなと思っていたんです。規模感が全然分からなかったので、まあ何とかしようぐらいの気持ちでした。「これは大変なことになる」と思ったのは、数日経ってからでしたね。実際にやらなければならないことを整理して組み立てていくと、莫大な作業量になることに気がついて……。
—— そこで大変な試みであると気づかれたんですね。
阿部 これは色々な意味でハードルが高いなと。その時点ではライブをどこでやるのかも決まっていなくて、全貌がみえてくるのに時間がかかったのも厳しいところでした。
—— 楽器の編成は、どのように決めていったのでしょうか。横嶋監督は、「自分が考えていたより膨らんだ形で提案してもらえて有り難かった」と話されていましたが。
阿部 横嶋監督からは、まずハンドパンという楽器を使いたいという要望がありました。編成についてはハンドパンを中心にしたコンパクトなものでいいとは聞いていたんですが、生演奏のみで45分間ずっとやるのであれば、ある程度の規模がないと場がもたないだろうなと思ったんです。自分としては、今ぐらいの規模が最低限という感じでした。
—— マチ★アソビ公演のリハーサルは、公演2週間前の1回のみだったと納谷さんから伺いました。それまでは、どんなお気持ちでしたか。
阿部 みんな不安だったと思います。役者さんとミュージシャン全員が集まって行うリハーサルまで、どういうものになるのか分からなかったですから。今回の大変さの中には、スケジューリングの問題も大きかったんですよね。キャストとミュージシャンを合わせると凄い人数になりますから、全ての方の予定を合わせるのがなかなか厳しくて、ある程度はシミュレーションでやっていくしかなかったんです。ミュージシャンチームは、横嶋監督にも入っていただいて、スタジオで楽曲を作りながら練習を重ねていきました。

ポスプロ作業もリアルタイム! 音響チームの裏での頑張り

—— 素朴な疑問なんですが、ミュージシャンの方々は、どのようにして映像に合わせて演奏しているのでしょうか。
阿部 僕らが観ている映像にはタイムコードが表示されていて、それを観ながらきっかけごとに演奏しています。今回の話をもらって最初にやったことなんですが、映像の全てのシーン、各カットの時間を一覧でだして、そこにどの音が入るかサジェストをつけた音楽表のようなものを作ったんです。そこには映像のどこで、誰がどんなことをするかが書いてある。その音楽表と、映像にあるタイムコードをみながら演奏しています。

音楽表の冒頭部分を抜粋して紹介。阿部さんの発言にある通り、各シーンにかかる音楽と演奏パートが一目で分かるようまとめられている。

音楽表の冒頭部分を抜粋して紹介。阿部さんの発言にある通り、各シーンにかかる音楽と演奏パートが一目で分かるようまとめられている。

—— 音楽表には、何分何秒からのシーンではこの人が演奏するといったことが書かれているわけですね。
阿部 ただ、音楽表と映像ばかりを観てしまうと今度は譜面がみれなくなってしまうんです。演奏は、ほぼ暗記したものを記憶のみでやっているようなところがあります。またシーンによっては、セッションやアドリブのような形でやっているところもあるんです。きっかけとなるセリフを参考にして、その場の雰囲気を感じながら演奏していて。役者さんのお芝居のタイミングも変わりますので、タイムコードだけでは対応できないところもあるんです。
—— 即興で演奏している部分もあるということですか。
阿部 そうですね。あと、音楽面ではどうしてもミュージシャンばかりに注目がいってしまいますが、『COCOLORS』では特に、音響チームの岡本(慎太郎)さん、橋本(真太朗)さん達が裏で物凄く頑張ってくれているんですよ。音響スタッフも話を覚えて、ここでこの音がくるとか、ここでセリフと音が重なるといったことを把握して、全ての音のバランス調整をリアルタイムでやっているんです。
—— ああ、なるほど! このライブでは、ダビング(映像に、音声・効果音を合わせる音響作業)もリアルタイムでやっているわけですね。
阿部 いわゆるポスプロの作業も、その場で行っています。目立たないんですけど物凄いことをやっていて、『COCOLORS』のライブの中で非常に重要な役割を果たしています。昨年10月に行ったマチ★アソビでのライブでは、徳島の音響・映像チームの方々も協力してくださいました。実はステージの裏で、けっこう凄い人数が動いているんですよ。
—— マチ★アソビでのライブを振り返って、どう思われますか。
阿部 本当に独特の雰囲気でしたね。山の上で夜にやるというシチュエーションも相まって、作品の中に入っていくような特殊な空間だったなと思います。
—— ステージの皆さんが、同じ衣装を着ていたのも印象的でした。
阿部 みんなで揃えたいねと言ったのは僕でした(笑)。そこから『COCOLORS』っぽいのはツナギだよねという話になって、ああいう衣装になったんです。実際に作ってみたら意外と格好よくできて、見た目的にも揃えてよかったかなと。

マチ★アソビ公演を終えた直後の記念写真。登壇者はお揃いの衣装を着ている。下段の一番右でピースサインをしているのが阿部さん、その左が横嶋監督だ。

マチ★アソビ公演を終えた直後の記念写真。登壇者はお揃いの衣装を着ている。下段の一番右でピースサインをしているのが阿部さん、その左が横嶋監督だ。

ジャズのセッションのような楽曲作り

—— 音楽は、完成した映像に合わせて作られているわけですよね。
阿部 そうですね。ただ、今回は横嶋監督から「セッションぽくできたら」という話が一番最初にあったので、普段の劇伴音楽よりも作りこまないでスタジオにいったんですよ。シーンによっては曲のメロディとか全くなく、モチーフのようなコード進行だけを用意したぐらいで。
—— そうなんですか。
阿部 例えばあるシーンの曲を作るとき、ピアノ担当の持山翔子さんという方がいるんですが、彼女が映像を観て、まず自分のイメージだけでその場で弾いてもらうんです。それを聴いた横嶋監督から要望がでたら、すぐにまた別なものを弾く。そうやって瞬間的に作っていった部分もありました。
—— その場でですか。物凄い対応力ですね。
阿部 今回のライブに参加しているミュージシャンはジャズミュージシャンが多くて、普段から相手の演奏に反応して何かをだすということを常にやっている人達なんです。曲によっては、その度ごとにアレンジを入れて変わっているものもあります。
—— 役者さんの演技だけでなく、音楽も毎回違ったものが聴けるわけですね。
阿部 ただ、あんまり対応力をみせすぎると、今度は監督が「別パターンもほしい」みたいなことを言ってくるんですよ。それはちょっと待ってくれということもありました(笑)。


1月23日に行われた東京公演リハーサルの模様。演奏者用のタイムコード入り映像も映っている。

—— 即興のような形で楽曲を作られていたとは驚きです。
阿部 曲によって色々で、しっかり作っているものもあるんですよ。このライブでは歌のある曲が2つあるんですが、途中で流れる「mirrors」という曲はきちんと作り込んでいて、歌詞も『COCOLORS』の世界観に寄せたものにしています。逆にエンドロールの時にかかる曲は、全員ほぼアドリブです。曲のサイズすら決まっていないので、みんなで顔を見合わせながら演奏しています。
—— 曲を終えるタイミングも、その場で決めているわけですね。
阿部 最後までエンドテロップの長さが分からなかったからというのもあるんですが、ここはあえてアドリブのまま本番に残してみました。東京公演では、そんなところにも注目して観ていただけたらなと思います。

Official Website
『COCOLORS』ライブ告知サイト
http://gasolinemask.com/nishiki/cocolorslive.html

『COCOLORS』公式(英語)
http://gasolinemask.com/nishiki/cocolors

Information
『COCOLORS』スペシャルコラボLIVE東京公演

出演
高田憂希、秦佐和子、岩中睦樹、市来光弘、桑原由気、高井舞香

演奏
阿部隆大、持山翔子、小山尚希、工藤明、栗林スミレ、野崎心平、Uyu

日程(全4回)
2月17日(金)20:00〜21:30、22:00〜23:30
2月18日(土)8:30〜10:00、10:30〜12:00

会場
新宿バルト9(シアター6)
http://wald9.com/

チケット価格
6800円

最新情報は、ライブ告知サイト(http://gasolinemask.com/nishiki/cocolorslive.html)、公式ツイッター(https://twitter.com/cocolors2017)を参照

(C)神風動画

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