チャンスだけを与えられた人が何を作るのか見たかった
『COCOLORS』監督 横嶋俊久、エグゼクティブ・プロデューサー 水崎淳平、舞台監督 納谷僚介(第1回)

神風動画が自主制作したオリジナルアニメーション『COCOLORS(コカラス)』がついに完成。昨年10月のマチ★アソビvol.17で「スペシャルコラボLIVE」として初披露された。このLIVEの形式は、SEのついた映像にあわせて壇上の声優が演じ、ミュージシャンが演奏してBGMをつけることによって、その場で映像に命を吹き込み観客に届けるというもの。2月17・18日には、待望の東京公演を控えている。監督の横嶋俊久、神風動画代表の水崎淳平、マウスプロモーション代表の納谷僚介ら3氏に、この形式で作品を披露することになった経緯を伺った(全4回)。

Profile
横嶋俊久 Toshihisa Yokoshima

アニメーション監督・演出。ゲームのPVやOP、ミュージックビデオ等の演出を多く手がけ、2009年に短編『アマナツ』を監督。神風動画所属を経て現在はフリー。『COCOLORS』では、監督・脚本を担当。

水崎淳平 Junpei Mizusaki
神風動画代表取締役。テレビアニメ『ジョジョの奇妙な冒険』第1部のOPディレクターなど、映像作品の演出を多数手がける。社訓でもある座右の銘は「妥協は死」。『COCOLORS』エグゼクティブ・プロデューサー。

納谷僚介 Ryosuke Naya
声優プロダクション・マウスプロモーション、音響制作会社・スタジオマウス代表取締役。音響制作、キャスティング、音響監督として多くの作品に携わっている。『COCOLORS』「スペシャルコラボLIVE」の舞台監督。

56-cocolorslive01-top

バランスを崩した人が立て直そうとする姿が好き

—— 企画の経緯は、PVの取材の時に詳しく伺いました。長尺のオリジナル作品を自己資金だけで作ろうと思われた理由を、あらためて代表の水崎さんから聞かせてください。
水崎 わかりました。僕らは神風動画という会社で3DCGを使ってアニメーションを作るというスタイルでずっとやってきましたが、その間、僕自身は「どう美しく散ろうか」ということばかり考えてきたんですよ。
—— 「美しく散ろうか」ですか。
水崎 いつも玉砕覚悟でやっていて、綺麗に玉砕したいなといつも思うんですが、なかなか散れない。……この調子で話していくと長い話になってしまうんですけれど。
—— いえいえ。一試合完全燃焼のような気持ちで、作品を作られてきたんですね。
水崎 そうですね。それで今回、映画を作ろう、長編を作ろうという話になったとき、僕達はたぶん格好いいビジュアルを作ることに関しては得意だと思うんですけど、宣伝戦略やマーケティング方面の知識はまったくのゼロなわけです。『COCOLORS』も完成してから売り出そうとしていて、納谷さんを始めとする周囲でサポートしてくださる方々から、「その順番じゃないでしょう」と色々お叱りを受けながら前に進んでいる状態でして。周りに相談しながらではなく、まず作っちゃったんですよね。
—— 『COCOLORS』を作られたきっかけのひとつが、「どう美しく散ろうか」だったというのは本当なんですか。
水崎 はい、それに近いです。何もやらなくて、つまらなくなっていくんだったら、危ないかもしれないけど面白い方にいってみようよという話を社内でもずっとしていて。
横嶋 そうでしたね。『COCOLORS』の話がでたのも、会社が法人化されて10年ぐらい経った頃でした。
水崎 ちょうどその頃、横嶋君から今後の働き方をちょっと考えたいという話もあったんですよね。その時、「そっか……つまらないのかな」と思ったんですよ。で、僕もその時期、「今が面白いかといわれたら、面白くないのかもな」というのがあって。テレビアニメのオープニングやミュージックビデオの仕事をいただいて、会社としてはすごく安定してきた時期だったんですが、これが10年20年続くのかと思ったら、急につまらなく感じてしまった。それで何人かスタッフを切り分けて、弐式スタジオを作ってみようと思ったんです。
—— その弐式スタジオが、『COCOLORS』の制作母体になるわけですね。
水崎 あえてバランスを崩すようなことをして、社内ではだいぶ非難されました(笑)。なんだかこう、バランスを崩した人が立て直そうとする姿が好きなんですよ。ポニョの入ったバケツをもって細い橋を駆け抜ける宗介君がすごく好きなんですけど、あれって真っすぐ走っていたらつまらないじゃないですか。今にも倒れそうな姿勢でいるのが可愛いくて。
—— 『崖の上のポニョ』終盤にでてくる名シーンのひとつですね。
水崎 なんというか、そういう気分だったんですよね。僕らには長編を作りませんかという声もなかなかかからないですし、ちょっと声がかかって企画をだしても「なんか売れないね」と弾かれることも多くて。そうなったとき、うーん、これは世間にあわせてモノを作っていくべきなのか……いや、そうではない。自腹で作ろうと(笑)。ぐっと社内でキャッシュを貯めながら作っていくことにしました。とはいえ大した金額ではないので、横嶋君とかには迷惑をかけたかなとは思うんですけれど。
横嶋 いえいえいえ。今、水崎さんから話のあったように、会社的に長尺の作品をやっていこうというタイミングがあって、『COCOLORS』の企画が走り始めたんです。

制作中、ほんとに水崎さんは何も言わなかった

—— 横嶋さんにとって、本編の制作はどんな道のりでしたか。
横嶋 最初にインタビューしていただいた時にお話しましたが、PVのときは、とにかく形にしなければと1ヶ月ででっち上げるように作ったところがあるんです。そこから本編を完成させるまでは、やはり長く険しい道のりでした。
水崎 けっこう長くかかりましたよね。意外とPVがパッとでてきたんで、この調子なら年内(2015年内)にできるのかなと思っていました。
横嶋 2015年は、PVを作ったあと、もう人が入れなかったんですよね。僕だけちょこちょこ動きながらプリプロだけをずっと進めていて、2016年頭から現場がインできるタイミングになったんです。いちから立ち上げた弐式スタジオに集まったスタッフ達と、そこから作っていきました。
—— 神風動画さんにとって本作は、初めて長尺に挑んだ作品でもありました。水崎さんは、どの辺りで「この作品はいける」と思われましたか。
水崎 横嶋君と一緒にやろうとなって彼が本気になった時点で、僕はもう大丈夫だと思っていたんですよ。もしそこから少し跳ね上がったタイミングがあったとしたら、制作後半に絵が揃ってきて、ラッシュチェックの場にたまに入るようになった時ですかね。凄くいいカットを作っているなと思いました。
横嶋 制作中、ほんとに水崎さんは何も言わなかったんですよ。むしろ逆に「いいじゃん、いいじゃん」といって、唯一ほめてくれる人というか(笑)。現場の中にいると、なかなか分からなくなってきてしまうので。
水崎 ずっと作品を見つめているとスタッフも分からなくなるだろうし、中で横嶋君に「いいですね」と言う人はいないでしょう。
横嶋 僕にとって、水崎さんはお金を出してくれているクライアントでもあるんですよね。その人が口も出さずに、いいねいいねと言ってくれているのは有り難かったです。
水崎 最近は、監督の上に(製作)委員会がある映画の作り方が主流になってきていますよね。僕が横嶋君の上に立って「あそこは、もう少しこうしたら」とかいうと、他の映画とあまり変わらないなというのがあったんですよね。ほんとにチャンスだけを与えられた人が何を作るのかをみてみたかったんです。
—— 神風動画さんは、アニメのオープニングやエンディング、ゲームのムービーという枠の中で、目一杯暴れているという印象です。色々な調整もされているとは思いますが、スポンサー側の理解があってこそ、あれだけ凄いものを作られているんじゃないかと。この作品で、請ける側からスポンサー側にまわった水崎さんは、それだけに横嶋さんに自由にやってほしいという思いがあったのではないですか。
水崎 オープニングやミュージックビデオを作っているスタジオさんは沢山ありますが、たぶんウチは仕事の請け方がちょっと特殊なんですよ。もちろんスポンサーさんの意向や、こういう方向に走ってほしいというのは多少あるんですけど、僕らは同じ立場でいるというか、上下関係ができるとたぶんやらないんですよ。
—— そうなんですね。
水崎 ある案件で、「この作品は長く続けてきた大事な流れがあるので……」と言われたときに、クライアントさんにこんな例え話をしたことがあるんですよ。今回は『水戸黄門』の監督を宮藤官九郎に任せたらどうなるかみたいな、そういう空気だと思っています。長く続けてきた流れとか、すみません、知らないですと。ウチに預けたらこうなることは覚悟していただいて、お待ちいただければという話をして。僕はもともとそんなにクライアントさんと足並みを……足並みを揃えたことはありますけれど、作らされたことはないと思っています。なので、横嶋君に頼んだときも、それと同じような感じですね。どうせ「僕の作品なんだから、こうなんです」って色々でてくるだろうし、そこで喧嘩するのも面倒くさいんで(笑)、好きなものを作りなと。

あの時の冗談が本当になってしまった

—— ここからは、マチ★アソビで行われた前代未聞の上映形式について聞かせてください。長編を自主制作するだけでも大変なことで、普通に音をつけて上映しても話題になったと思いますが、そこにさらに上乗せするような、物凄く手間のかかるやり方にチャレンジしたのは、なぜなんでしょうか。
水崎 これはチャレンジしたというより、次のマチ★アソビに『COCOLORS』をかけようという段階で、音ができてないんだけど、どうしようというところから始まった話なんですよ。
横嶋 (笑)。マチ★アソビにはずっとお世話になっていて、毎回そのタームにあわせて何かしらを出していこうということでやっていたんです。要は締め切りがない状態なので、マチ★アソビにだけは間に合わせていこうというのが社内の認識でした。最初の目標では2016年5月に完成していたらということだったんですけど、さっきお話したとおり、2016年1月から現場インしたので、5月のマチ★アソビには間に合いそうにない。ただ、10月にはなんとしても公開したいという思いでやっていたんです。それが、ある時点で10月には何とかお見せできる絵が揃うかどうかギリギリだとなった。じゃあどうしようかとなった時、僕は「もう生で声や音をつけないと上映できないよ」という話をした記憶があるんですけれど……。
水崎 その話はどこでしたんでしょうね。トークショー?
横嶋 いや、どうだったでしょう。5月のトークショー(編注*)の時点でも、おそらく10月には完パケまではいかないだろうなっていうのはあったはずです。もしかしたら、そういう話もチラホラでていたかもしれませんが、その時はまだ冗談レベルの話だったんじゃないかと思います。

(編注*)マチ★アソビ vol.16で行われた「『COCOLORS』続・中間報告会」のこと。「GIGAZINE」の記事(http://gigazine.net/news/20160507-cocolors-machiasobi16/)で詳しくレポートされている。

水崎 あの時はまだ冗談のつもりだったんだ(笑)。5月のトークショーで「次の10月に上映します!」と皆さんの前で言い切って、でもできてるのかなぁみたいな話になって、「じゃあ、ここ(徳島)で音をつけちゃえばいい」という話になり……あの時の冗談が本当になってしまった。
横嶋 そうですよね(笑)。実際に、どうやっても完成はしない、音と声はつけられないという状況になったとき、納谷さんに泣きついたわけでして。
一同 (笑)。
納谷 ……ウチは駆け込み寺じゃないんですから。まあ若干、駆け込み寺と化してますけど(笑)。
水崎 今日も、インタビューの場所を貸してくださってますしね。

<第2回を読む>

Official Website
『COCOLORS』ライブ告知サイト
http://gasolinemask.com/nishiki/cocolorslive.html

『COCOLORS』公式(英語)
http://gasolinemask.com/nishiki/cocolors

Information
『COCOLORS』スペシャルコラボLIVE東京公演

出演
高田憂希、秦佐和子、岩中睦樹、市来光弘、桑原由気、高井舞香

演奏
阿部隆大、持山翔子、小山尚希、工藤明、栗林スミレ、野崎心平、Uyu

日程(全4回)
2月17日(金)20:00〜21:30、22:00〜23:30
2月18日(土)8:30〜10:00、10:30〜12:00

会場
新宿バルト9(シアター6)
http://wald9.com/

チケット価格
6800円

最新情報は、ライブ告知サイト(http://gasolinemask.com/nishiki/cocolorslive.html)、公式ツイッター(https://twitter.com/cocolors2017)を参照

(C)神風動画