映像を違った形で提供できる新しいやり方
『COCOLORS』監督 横嶋俊久、エグゼクティブ・プロデューサー 水崎淳平、舞台監督 納谷僚介(第2回)

第1回に続き、スペシャルコラボLIVEが生まれた経緯を3人に伺っていく。音響の現場で、日々アニメの映像と向きあっている納谷さんは、ずっと違和感を感じていたことがあったという。スペシャルコラボLIVE実現への大きな一歩となった、その違和感とは?

Profile
横嶋俊久 Toshihisa Yokoshima

アニメーション監督・演出。ゲームのPVやOP、ミュージックビデオ等の演出を多く手がけ、2009年に短編『アマナツ』を監督。神風動画所属を経て現在はフリー。『COCOLORS』では、監督・脚本を担当。

水崎淳平 Junpei Mizusaki
神風動画代表取締役。テレビアニメ『ジョジョの奇妙な冒険』第1部のOPディレクターなど、映像作品の演出を多数手がける。社訓でもある座右の銘は「妥協は死」。『COCOLORS』エグゼクティブ・プロデューサー。

納谷僚介 Ryosuke Naya
声優プロダクション・マウスプロモーション、音響制作会社・スタジオマウス代表取締役。音響制作、キャスティング、音響監督として多くの作品に携わっている。『COCOLORS』「スペシャルコラボLIVE」の舞台監督。

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この人、何をやろうとしているんだろう?

—— お待たせしました。ここからは納谷さんを中心に伺っていければと思います。『COCOLORS』には、PVのときから関わられていますよね。
納谷 そこまでは普通のお仕事でした。ウチは音響制作会社ですから、音のついていない映像に音をつけてくださいという依頼を受けて音をつける。まあ普通ですよね。それが、こういう話になったのは……最初に来ていただいたのは去年の夏でしたよね。
横嶋 10月のマチ★アソビが迫ってきている、けっこうギリギリのタイミングだったと思います。
納谷 7月か8月のある時、神風動画さんから連絡がきたんですよ。マチ★アソビで『COCOLORS』を流すイベントをやりたいから相談したいと。僕はイベントのキャスティングや仕切りも仕事としてやっているので、最初そういう意味だと思っていたんです。トークショーをやりたいから役者さんをおさえたいとか、そういうことだろうなと。そうしたら、横嶋さんがやってきた。そこがまず、僕にはわからなかったんですよ。
横嶋 そうでした(笑)。
納谷 普通、イベントのオファーだったら制作の人とかがやってきますよね。「なんで横嶋さんがくるのかな」と思いながら話していたら、どうも会話がかみあわない。横嶋さんが「生でやりたいんです」と言い、僕が「ええ。トークショーって大体生でやりますよね」というようなやり取りが続いて。
水崎 アンジャッシュのすれ違いコントみたい。
—— (笑)。
納谷 で、途中で気づくわけです。「この人、何をやろうとしているんだろう?」って(笑)。それでも僕はまだ勘違いしていて、作品の一部を生でやりたいという意味だと思ったんです。それだったら、最近はアニメのイベントとかで、声優さんに1シーンを生でやってもらうコーナーがよくあるじゃないですか。そのことかなと思ったんで、「いいんじゃないですか。イベントが1時間だとして、そのうち5分か10分ぐらい良いシーンを選んでやれば」って。そうしたら横嶋さんは「全部」っていうんですよ。
一同 (笑)。
納谷 ホワッツ? って(笑)。全部ってそういう意味かと。僕も基本的に仕事は断らないので、まあいいやと思って、「わかりました。全部やりましょう」と。でも、その「全部」という言葉がまた酷かったんですよ。僕は全ての尺で声優さんのお芝居を生でやるという意味かと思ったら、まさか音楽までとは……。
—— そこで話の全貌がみえたわけですね。
納谷 やっと監督のやりたいことに気づいて、これは大変な話ですよって。そんな感じでしたね。

アニメの映像が消費されているような感じ

横嶋 僕らも難しい話だというのはわかっていたので、納谷さんに断られたら諦めようと思っていたんです。そうしたら納谷さんも最初は「それはちょっと難しい。どうかなあ」っていう感じだったんですけど、徐々に「いけるかも」みたいな話をされていって、それだったら僕らもいけるのかなと思いだして。
納谷 あのう……冗談めかして喋ってしまいましたが、正直、横嶋さんの提案は最初から面白いなと思ってました。ちょっと『COCOLORS』の話からずれてしまいますけど、以前から気になっていることがあって、何とかしたいなと思っていたことがあったんですよ。
—— どんなことでしょうか。
納谷 神風動画さんをふくめ、仕事柄、色々なアニメ会社さんとお付き合いさせていただいて、絵を作る大変さや苦労というのを、ずっと見てきているんです。制作現場を見させてもらったこともありますし、どんなことで苦労しているのかもわかっている。音響の仕事をしている人間の中で、自分はそういうことを知っている方だと思います。で、ずっと疑問に思っているのは、大変な苦労をして作られているのに、なんだか今はアニメの映像が消費されているような感じがあること。そこに違和感を覚えていて。
—— ああ……。
納谷 あんなに苦労して作ったのに、3ヶ月オンエアしてソフトを出しておしまい、みたいな印象があるんですよね。もちろん、その後もグッズやイベントという形で展開されていくんですが、映像自体はわりとないがしろにされているというか、だんだんと忘れられていってしまうというか……。仕方がない部分もあるとは思うんですけど、映像を作る苦労と、その後の扱いみたいなものが上手くかみあっていない気がしていて。そうした気持ち悪さのようなものをずっと感じて、なんとかできないかなと思っていたときに、横嶋さんから今回の話をいただいたんです。「これは映像を違った形で提供できる新しいやり方だな」と瞬間的に思いました。もしかしたら映像を活かす新たな方法論になりうるんじゃないか。なので、大変だろうなとは思いながらも、やってみたいという思いの方が勝ったというのが正直なところですかね。
—— それで、納谷さんもやろうとなったわけですね。
納谷 今後の展開次第ですけど、できうるならば、これは繰り返しやっていきたいとも思っているんです。この形式の面白さは、やるたびに変わっていくことですから。そういうライブ感みたいな部分がだせるんじゃないかという直感があって、やろうと思いました。
水崎 ……素晴らしい。アニメの映像が季節ごとに消費されているような違和感というのは同じだったんでしょうね。いやもう、僕が喋っているんじゃないかと思ったぐらいです。
納谷 いいですよ。水崎さんの言葉として出してもらって(笑)。
水崎 いやいや(笑)。読者の方が読みたいのは、納谷さんの言葉です。
横嶋 けっこう切羽つまってだしたアイデアだったんですけど、ここにいるお2人からストップがかからなかったのは、納谷さんが言われたような思いが共通してあったからだと思います。

顔の表情がないから、音で作品を塗りかえられる

—— 映像に物凄く手ごたえがあって、普通に音をつけて上映してしまうのはもったいないから、この形式にしたのだと思っていました。まさか上映に音声が間に合わないからというのが、最初のきっかけだったとは。
横嶋 そうですね(笑)。
—— でも、それって実は物凄い遠回りな気もします。その方が時間もコストもかかるでしょうし、それこそ頂上にたどりつけないからと回り道をして、崖を登るようなものというか。
横嶋 ……無知って恐ろしいなと思うんですよ。
一同 (笑)
水崎 (無知は)強い。
横嶋 こんなに大変なことになるってことを、僕がなんとなく想像できていたら「いや、絶対無理だよね」で終わっていたと思います。そうしたことに疎い、僕みたいなちょっとお馬鹿な存在がいたから、ある種、突っ走ることができたのかなと。
納谷 運命みたいなものもあったと思いますよ。こういう形式でできたのは、『COCOLORS』だったからというのもあるんです。もし、顔の表情が普通にでるような作品だったら、どうなっていたかわからない。更にいうと、横嶋さんの想いだったり、言いたいことがあるのはわかるんですけど、たぶんこの作品って人によって解釈の仕方が変わるんですよ。マチ★アソビでご覧になった方には、わかっていただけると思うんですけど。
—— ああ、なるほど。
納谷 僕ら音の立場からいうと、顔の表情がないから役者さんのお芝居によって、表情から何まですべて作り替えられるんですよね。これがもし顔のでているもっと分かりやすい……別に『COCOLORS』が分かりにくいと言っているわけではないんですが、例えば低年齢層向けのわかりやすい作り方をしているものだったら、役者を変えても声は変わるものの、作品を音で塗りかえることまでにはたぶんならない。作中のメッセージの提示の仕方が明確であればあるほど、そのとおりにやるしかないですからね。『COCOLORS』は、音や芝居の付け方でまったく違う作品に作り替えることができるタイプの作品なんです。映像を作っているときは、色々な都合があってのことだったとは思うんですけどね。そこに時間的な都合から、生で声と音をつけたいというアイデアがでて、たまたまそこにいたのが僕らだった。そういう意味で、運命を感じましたねえ。
—— そうか。たしかに口パクもあんまりないですし……。
水崎 あんまりというか、ゼロですね。
横嶋 うん、ゼロです。
納谷 口パクもないですし、マスクを被っているからキャラクターの表情もない。
水崎 口パクや表情がない中で感情をこめるのは、役者さんにとって難しいんじゃないですか。
納谷 何を難しいというかにもよるんですが、ガイドがないから想像力を働かせなければいけないという意味においては難しい。ただ、好きにやっていいともいえるので、こっちの方がやりやすいって人もいるはずですよ。「自分の気持ちとして、本当はここで笑えないけど、キャラが笑っているから笑うしかない」ことが普通のアニメだとありえますが、この作品の場合は、「今、笑う方に気持ちがきてない」となったら笑わなくてもいいわけですからね。
水崎 登場人物の感情や言いたいことなどを、イタコのように乗せて声を出すのが普通のアフレコだと思うんですが、この作品はそこがわからないんですよね(笑)。キャラクターが何を考えているのか、今泣いているのか笑っているのかわからない。そうした部分を「委ねられている」と受けとって、やりがいを感じる方もいると。
納谷 役者さんからすれば難しいは難しいですけど、僕は楽しいってとらえてほしいなと思います。やっぱり役者さん……特に声優さんって、命を吹き込むとか声をつけるという仕事になりますから、演じるときは、ある意味自分ではなくて、そのキャラクターになっていると思うんです。でも、『COCOLORS』の場合は、どうしてもある程度は自分がのるんですよね。
横嶋 その場で役者さんが演じることで、キャラクターがその場にいる実存感というのが凄くでるんですよね。この形式でやらせていただいて、僕もまさに同じようなことを思っていました。

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半分キャラクターで半分自分という表現方法

納谷 今回の公演では、主人公のアキを高田憂希がやっていますが、もしもこれを違う人にやってもらったら、まったく違うアキになると思うんですよ。そうなると、高田のアキが好きな人と、別の人が演じたアキが好きな人に分れるでしょう。もしかしたら、どちらかのアキが嫌いだという人もでてくるかもしれない。これはどちらが優れているという話ではなくて、僕はそれでいいんじゃないかと思っているんです。役者さんが自分なりの表現や解釈を役にのせられるという意味でいいのかなと。
—— 役者さんの解釈や個性によって、それぐらい変えていけるわけですね。
納谷 今は特に、声優さんが歌ったりとか、前にでることが多くて、声優さんのパーソナルがでることが増えてきていますよね。僕もわかるんですよ。キャラクターを演じる声優さん個人が表にでて、今はそれが求められている時代だというのはよくわかっています。声優さん個人も魅力的なので、出していきたい気持ちもある。でも、それを100(パーセント)で出してしまうのはどうなのかな……と。あまりにも作品と乖離しすぎてしまうと、完全にパーソナルで勝負しなければならなくなるし、そうなると、それこそ本職のアイドルの方と変わらなくなってしまう。声優さんの真骨頂というのはキャラクターを演じる部分だと僕は思っているので、その辺りをもう少し上手く融合していきたい。そう思っているところに、この話がきたというのもあるんです。この形式ならば、半分キャラクターで半分自分という表現方法になりうるし、世間のニーズに応えながら、いちばん得意なところを出していけるなって。
—— この形式では、声優さんが舞台にあがるわけですものね。そのうえで、自分をだす演技をすることができると。
納谷 そうですね。本人も見えますから、今の時代性にもあうんじゃないかなと思いました。
水崎 素晴らしい。ここも僕が喋っていることに……。
—— (笑)。
水崎 というのは冗談で(笑)、僕らの視点から話をさせていただくと、アフレコを行っている光景ってすごく面白いんですよ。作品を作っていて、例えばマウスさんでアフレコに立ち会わせていただくとするじゃないですか。納谷さんが声優さんを仕切って、シーンごとに丁寧に声を作っていく絵面(えづら)自体が面白くて。
—— そうですよね。
水崎 アニメ作りの中で、こんなに面白いところがファンの方に届いていないのはもったいないなと思っていたんですよ。横嶋君から、お客さんの前で全部やりたいという話を聞いたとき、このやり方ならファンの方に、その光景を全部みてもらえるなと思ったんです。ひょっとしたら、初めてそういう場所が作れるのかもしれないなと。実際のアフレコの現場と、さっき話にでたイベントで少しだけ声をあててみますというのは、また全然違うじゃないですか。
納谷 そうなんですよ。なんていうのかなあ……今イベントとかでやる理由も分かっているから、言い辛いんですけれど。
横嶋 納谷さんの発言にしなくてもいいですよ。
納谷 言い辛いけど……正直、役者として本気になりきれていない人もいると思うんですよ。あくまでイベントの中で見せているショーですから。
水崎 そうなんですよね、ヒリヒリしていないというか。上手く言えないですけど。
納谷 あれは、イベントの中にある1コーナーであって、(イベント)全体がみせるものですからね。その中の一要素としてのショーなんだと思います。だから、悪い言い方をしてしまうと、声をあてる部分で転んでも、他のコーナーが成立していればイベント全体では良かったねとなる類のものなんです。『COCOLORS』のライブの場合は、声をあてる部分しかないですからね。ここで転ぶイコール全てが転ぶなので(笑)。
横嶋 あの場では、役者さんもミュージシャンさんも、みんなそれぞれの緊張感というのが本当にあります。僕自身はミスをしても全然いいと思うんですけど、やっている方々は、やっぱり良いものにしたいという想いを舞台にぶつけてきてくれる。そのグルーブみたいなものが、マチ★アソビのステージでは本当にでていたなと感じました。
水崎 普通のアニメの収録では、シーンごとに役者さんを呼んで収録して、台本のページをめくる紙の音ですら、あとでカットしてっていう風に丁寧にやるじゃないですか。それが今回の公演では、もしかしたらその場でミスを目の当たりにするかもしれない……ミスをしろっていうわけじゃないですよ。まるでサーカスを見守るような緊張感もありますよね。
横嶋 演じているときの声優さんの顔もそうですよね。演者さんによっては、力をこめてセリフを言っているところとかは観られたくないっていうのもあると思うんですよ。でも、この場では、そういうものもすべて観れてしまう。これは、すごく面白いことなんじゃないかと思います。
納谷 水崎さんがいった紙の音もそうですし、この公演では声優さんが息を吸ったり吐いたりする音も聴こえます。当たり前ですけど、声優さんも人間だから息を吸うんです。でも、アニメキャラって息を吸わないんですよね。皆さん、あまり気にしていないようですが。
水崎 咳払いもしないですよね。
納谷 カットしちゃいますからね。だけど、この公演では、そういう音も全部生きます。息づかいのような揺らぎの部分もふくめたものが、本来のお芝居なんです。カットすることの善し悪しは別として、少なくともそういうところまで含めて、みんな表現をしていると思っています。これは『COCOLORS』だけの話ではなくて、他の作品でも監督から何もいわれないと、わりと僕は息とか生かしてしまう方なんですよ。
—— そうなんですね。
納谷 別にいいんじゃない? って思うんですよね。でも、気にする方は気にするんですよ。やっぱり意図した音ではないわけですから。
水崎 この間、別の作品で仮声を録らせていただいた音声があるんですけど、主役のキャラがセリフを言ったあと、咳払いをして立ち去っていく音が残っているんです。仮声なので当然なのかもしれないですけど、僕はあれが好きなんですよ。「あ、この人、生きてるんだな」って。
納谷 そういう部分は余計だからと全部カットされてしまいがちなんですけど、案外そうやって排除されている部分が大事な気もするんですよね。

<第3回を読む>

Official Website
『COCOLORS』ライブ告知サイト
http://gasolinemask.com/nishiki/cocolorslive.html

『COCOLORS』公式(英語)
http://gasolinemask.com/nishiki/cocolors

Information
『COCOLORS』スペシャルコラボLIVE東京公演

出演
高田憂希、秦佐和子、岩中睦樹、市来光弘、桑原由気、高井舞香

演奏
阿部隆大、持山翔子、小山尚希、工藤明、栗林スミレ、野崎心平、Uyu

日程(全4回)
2月17日(金)20:00〜21:30、22:00〜23:30
2月18日(土)8:30〜10:00、10:30〜12:00

会場
新宿バルト9(シアター6)
http://wald9.com/

チケット価格
6800円

最新情報は、ライブ告知サイト(http://gasolinemask.com/nishiki/cocolorslive.html)、公式ツイッター(https://twitter.com/cocolors2017)を参照

(C)神風動画