絵コンテへの描き込みが凄まじかった稲実戦
『ダイヤのA』監督 増原光幸(第3回)

第1回第2回に引き続き、『ダイヤのA』におけるこだわりについてお話を伺う第3回。ここでは作品最大のハイライトとも言える稲実戦についてを中心にお話を伺った。

Profile
増原光幸 Mitsuyuki Masuhara

アニメーション監督。主な監督作品に、『チーズスイートホーム』『こばと。』『ブレイド』『しろくまカフェ』などがある。

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尻切れトンボに終わろうとも、丁寧を心がけた

—— 前回、編集の話が出ましたが、テンポ感というのも結構気にされているところなのですか。
増原 むしろタメを作るようにしています。感情が流れないようにしているんです。
—— 原作が結構先までありますから、ともすればポンポン進みたくなるような気もするのですが。
増原 それは、丁寧にという寺嶋さんのオーダーもありましたので。一番最初の原作側との顔合わせでお話をさせていただいた時に「自分は連載を描いている時に、打ち切りになる覚悟を持って、丁寧な描写を心掛けてきた。だからアニメも是非大切にしていただきたい」とおっしゃっていたんです。そこを飛ばし飛ばしにはできないなと思いましたし、原作の印象をそのまま押し上げるかたちがいいだろうとも思っていましたので、自然と丁寧を心がけるようにしました。
—— そもそも、ここまでアニメが続く予定だったのでしょうか。
増原 いえ、最初は、1年4クール予定のプロジェクトでした。つまり、俺たちの戦いはまだ続くぜEND(笑)。「これから決勝戦だぜ!」「よっしゃ行くぜ!」「完」という。
—— ええっ? 稲実戦の前ということですか!
増原 そうなんです。でも、丁寧にやるんだ、と。結果、放送中のファンの方々の後押しもあって、延長するしかないということに。
—— 良かったですねえ……。
増原 本当です。原作を読んでいて、更にアニメも見てくださっているファンの方々に対して、申し訳が立たないですよ。だったら、間を抜かした方が良かったのでは? ということになりかねない。やり切れましたから、よかったですね。

稲実戦

—— その稲実戦ですが、作品全体のハイライトと言っていいぐらい、素晴らしかったと思います。
増原 ああ、ありがとうございます。稲実戦はそれまでの一年やってきたところから、またステージが上がるんだという意識のもとやっていたので、BGMを新たに発注したんですよ。
—— おお、そうなんですか。
増原 稲実戦用の曲があるんです。だから、注意深く観ていただいた方は分かると思うのですが、稲実戦が始まった途端に、今までに出てきていない曲が結構あるんです。

第61話〜第63話はファースト・シーズン最大の見せ場とも言える山場だった

第61話〜第63話はファースト・シーズン最大の見せ場とも言える山場だった

—— 稲実戦でのアニメーション的な演出描写として気をつけたことはありますか。
増原 スローモーションを多用しましたね。原作もテンションが上がっていて大ゴマが増えていたりするんです。その壮大な迫力をアニメ―ションでやるのであれば、アニメで一番大変と言われるスローモーションしかないと。繊細に描いていかないといけないし、一枚一枚がほとんど変わらない絵なので、描いていてしんどい。さらに、予算的にも相当掛かるということもあり、さらにさらに、第61話はこれまで「ダイヤ」をやったことがない演出さんだったんですよ。
—— ええっ? そんな大事な話なのに。
増原 が、やはり事前の段階では不安があり、初めて参加される演出さんだとわからないことも多いと思ったのでコンテには凄く細かく指示を入れたりしました。結果、実力のある方だったので杞憂であり、非常に助かりました。
—— それは芝居的なことも含めて?
増原 アクションも描きました。1コマ目はこの絵で、2コマ目はこれ、6コマ目でヒットして、ここで色替えが終わって、ここからT光が走って、振り切った絵があって、その後3秒間はタメて、とか。
—— それは細かいですね。もはや原画じゃないですか。
増原 ええ。でも、結果的にそれが良かったんです。制作の方は、さすがに不満気でしたけどね。かなりできる制作の子だったんですよ。コンテ撮必須の話数だったので、あらかじめ素上がりのコンテを用意してくれていたんですね。
—— ああ。元の絵コンテを使って。
増原 それを基に素材の整理をしていたのに、僕が決定稿を出したら「全然変わってるじゃないですか! 作り直しです!」と(笑)。ごめんね。まあ、でも結果好評でしたので……。
—— 最終回では? というくらいの盛り上がりでした。しかし、敗北した沢村達の気持ちを思うと、非常にやるせなくなる話でもありました。
増原 そうなんですよね。元々はリアルタイムで見ているお客さんからすると、タイミング的に年末の放映が負けるお話だったんですよ。最初のシリーズ構成の区切りとしては、沢村がバスの中で泣いて、今年おしまい、だったんです。
—— それは視聴者としては、暗いお正月を過ごしそうですね……。
増原 そうなんです。調整して第63話(「残響」)にBパートをねじ込んだんですよ。沢村が落ち込んでいる。倉持がそれを見て「どうすりゃいいんだよ」とやり場がない感情を持って…‥。そんなところで、沢村が降谷とすれ違うんです。そうしたら降谷が「このチームのエースになる」と別れる。その瞬間で終わるんですよね。沢村としては前向きに立ち上がってはないのですが、降谷というキーキャラクターによって、何とか作品のムードを持ち上げてみたんです。
—— そんな工夫があったんですね。

『ダイヤのA』とイベントの一体感

増原 今のお話に近いところでいうと、両国国技館のクリスマスイベントもハラハラしましたね。最終的には、決勝の結果が出る前にイベントが行われたんですが、放映日が少しでもずれたら、決勝で負けたあとにイベントになっていたかもしれない。そんなことになったら、お葬式ですよ。
—— 負けちゃった…というムードで、イベントを進行しないと(笑)。
増原 もしそうなってたら「青道は負けたんで、甲子園での後の試合は稲実に頑張ってもらいましょう」というイベントになっていたかもしれませんね。でも、うまく調整できた結果、楽しいイベントになったので良かったんじゃないかな。
—— 今回はキャストの方々のイベントもかなり多いですよね。
増原 ええ。印象に残っているのは神宮球場のイベントですね。あれは、2回ともドキドキしました。特に1回目は雨が降る可能性があったので、そうなったら屋根がないので中止ですよ。でも、やりきれてよかったなと思います。あのイベントで初めて認識したのは、こんなに女子率が高いんだということでした。役者さんも男性ばかりだから、ある程度いるとはと思っていましたが、あそこまで女性ばかりだとは。
—— 見渡せばほぼ女性という状況ですか?
増原 ええ。男子トイレのトイレマークのところに貼り紙がしてあって、赤色で塗られているんですよ。
—— ああ、男子トイレが女子トイレに変わっていたんですね。
増原 (男子トイレが)「ないっ!」と焦りましたよ。警備しているお兄さんに聞いて、その方向に向かうのですが、行けども行けどもない(笑)結局、一番端だけが、男性に開放されたオアシスでした。
—— それはかなり特異な環境でしたね。
増原 いや、でも、あの時は声援が凄くてね…‥感動しましたよ。役者さんも、イベントに積極的に参加してくれて、作品をみんなで盛り上げてくれるというのは、本当に感謝です。
—— あの一体感も素晴らしかったですね。

ヒッティングマーチ

—— 『ダイヤのA』はキャラクターの話をし出すと止まりませんが、考えてみると無邪気な人が多いですよね。
増原 沢村も、雷市も、鳴もそうですが、人物が登場すると大体破天荒なんですよ。でも、みんな死ぬほど努力しているんです。
—— 大体また変人がまた出てきたという感じですよね。最近だと常(小川常松)のインパクトも凄かったですが……。あ、アンパンマンたいそうが衝撃的でしたね(※小川常松が試合中口ずさむ曲として、アンパンマンたいそうが使用された)。

小川常松が感銘を受け口ずさむ「アンパンマンたいそう」。キャラクターとのギャップが楽しい

小川常松が感銘を受け口ずさむ「アンパンマンたいそう」。キャラクターとのギャップが楽しい

増原 あれはよくやれたなあと思います。でも、あれがもし流れないと話が成り立たないですからね。あいつはあんな破天荒キャラではあるけど、『(それいけ!)アンパンマン』に感銘を受けるような素直さがあるという表現から。それに、『アンパンマン』というのは日本においては国民的共通観念であるから成立するわけで、代えが効かないんですよ。
—— 他にキャラクター性を表すヒッティングマーチも面白いですよね。キャラクター性にも関わってくる大事なところのように思えます。
増原 使い始めたのは途中からだったので、タイミング的にはちょっと遅かったですけどね。
—— やはり、マーチはできるだけ使おうという方向で考えられていたのですか。
増原 いえ、使えるところに使っていこうというスタンスです。逆に言うとさっき話していた心情表現とバッティングすることもありますからね。時間を飛ばしたり、縮めている時に、リアルタイムでブラスバンドがなっていたら喧嘩してしまうので、そういうシーンの前では切らないといけない。ブラスバンドは、高校野球という臨場感を出すためのアイテムであって、心情を盛り上げるためのアイテムではないので、兼ね合いを考えながら使っています。

<最終回2月24日更新予定>

Official Website
アニメ『ダイヤのA』公式
http://diaace.com

Soft Information
DVD第1巻〜第13巻 発売中
稲実戦編DVD第1巻〜第6巻 発売中
価格:3800円+税
きゃにめ.jp

(C)寺嶋裕二・講談社/「ダイヤのA‐SS‐」製作委員会・テレビ東京