原作を再現するならば、原作と同じことをしてはいけない
『ダイヤのA』監督 増原光幸(第1回)

週刊少年マガジン連載の人気漫画『ダイヤのA』をアニメ化した本作は、足掛け3年目に突入するほどの長期作品だ。放送開始から徐々に人気が集まり、現在は多くの熱いファンを獲得するに至っている。今回の取材ではこれまでのストーリーを振り返りつつ、監督が考えるこだわりについてお話を伺った。全4回にてお届けする。

Profile
増原光幸 Mitsuyuki Masuhara

アニメーション監督。主な監督作品に、『チーズスイートホーム』『こばと。』『ブレイド』『しろくまカフェ』などがある。

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キャラクターの感情に寄り添ったドラマを

—— さっそくですが、時系列を遡りまして、原作を読んでみての第一印象からあらためてお伺いしてもよろしいですか?
増原 熱い!
—— 熱い……ああ、原作が熱い作品だったということですね(笑)。その熱さは監督をやるにあたり、ご自分に合っていると思われましたか?
増原 ええ。思いました。冷めた世の中を穿って見たような作品より、まっすぐな少年たちの野球を描くという世界観は、フィットすると思っていました。以前他の作品に関わった時に、現場のスタッフから「増原さんの作品は心情描写、つまりドラマで見せていくタイプの作品が多いですよね」と言われたんですが、それが自分らしさだとすれば、やっぱりマッチしていたのだろうと思っています。

勝敗だけではない、球児たちの熱い想いこそが本作最大の見所だ

勝敗だけではない、球児たちの熱い想いこそが本作最大の見所だ

—— なるほど。その熱さに惹かれてか、原作にもたくさんのファンが放送前についていたかと思います。そんなファンの期待を裏切らずアニメ化するというのは難しいかと思うのですが。
増原 とにかく原作のテイスト、印象を再現しようと思いました。漫画は漫画なりのメディアらしさを目一杯使って、見開きの大きな字で名ゼリフを言ったりするんですね。そういうところについて、アニメ版でもポンとセリフをあてるだけでは違うと思うんです。
—— ああ。それは原作そのままだけど、原作の印象を再現できてはいないということですね。
増原 そういうことです。漫画の絵をそのままアニメに持ってきても、同じ印象にならないんですよ。なぜからアニメーションは、現在のテレビに合わせた16:9の画面サイズに収めるのが前提だからです。
—— 漫画であれば、コマを大きくしたりといった手法が使えますからね。
増原 ですから、例えば原作で、キャラクター全身が映った大ゴマの印象を再現するのであれば、まずカメラがアップでキャラクターの顔を映す。そのあと、カメラを引いて全身を映すといった落とし込みをしないといけない。そこは一番気を遣っているところですかね。
—— ただ一枚絵だけを見せるというわけではないと。
増原 ええ。それは例えば劇伴も同じです。原作を再現するならば、ただ悲しそうなシーンに悲しい曲を付ければいいということにはならないんです。例えば主人公の親しい人が事故で亡くなりました、みたいなお話があったとして、その話を主人公はまだ知らない。そこで、主人公に対し事故の現場を知っている人が伝えに来る、というシチュエーションがあったとしますよね。そういう場合、悲しい曲を付けるとすれば、親しい人が事故に遭った瞬間ではないと思うんですよ。さらに言うと、それを伝えに来る人が、事故のことを知った瞬間に悲しい曲をかけるのも、やっぱり違う。
—— ええっと。つまり、それは主人公の視点じゃないと?
増原 そうです、そうです。やはり視聴者の方は主人公に寄り添っていると思うので、そこは主人公の心情に対して曲を付けないといけないんです。つまり、主人公に事故の情報が伝わって、それを認識した瞬間から悲しい曲が始まらないといけない。例えばこれが大河ドラマで、いろんな登場人物の思惑が錯綜する作品なら、シーンに付けてあげれば良いんです。でも、今回は客観的な付け方ではなく、主観視点において曲が発生しないと心情に添えないと思っているんです。
—— なるほど。そのあたりも原作再現のポイントなんですね。
増原 あるいは、カメラの位置もそうですね。主人公の気持ちに寄り添うのであれば、天空からのカメラや下から撮るのではなく、水平にカメラを置いてあげて、主人公と同じ視点にしてあげないといけない。迷子の子供にお巡りさんがしゃがんで、そこでシンクロするような感覚。そういったことは常に意識しています。
—— 実は、今回お伺いしたい最大のポイントが、まさにそこでして。というのも、様々なアニメーションで溢れている時代ではありますが、これほどドラマチックに主人公の視線に寄り添うような作品は、そう多くないのではないかと。ある意味では非常に珍しい作品ではないかと思うんですね。
増原 (笑)。まあ、確かに、最近は一歩引いたカメラワークが多い気がしますよね。それが作品の特性になっているのであれば、嬉しいですね。

『ダイヤのA』を支える3人のアニメーター

—— 監督はそもそも野球の知識が全然なかったとお聞きしたのですが。
増原 進歩はしましたよ。劇的に!
—— (笑)。それにしてはというと失礼ですが、矛盾点もほとんど見つけられず、逆に良く分かっている方がやっているのだろうと感心するほどなのですが。
増原 フォローしてくださる方はいっぱいいらっしゃいますし、僕自身も立ち上げから考えると3年、毎日考えたり調べたり触れていたりするので、そこそこのものは吸収できているかなと思います。最近は間違えることも少ないですよ。でも一昨日打ち合わせした時に「監督それ足が逆ですよ」と突っ込まれてしまって。「これはね、こうするんだよ!」なんて言っていたら「逆です!」みたいな……。いや、左ピッチャーの投げ方を説明したのですが、難しいんですよ。右投げはしょっちゅうやりますけど……。

(と、立ち上がり、投球フォームの真似をし出す)

増原 えっと。こう、こう、こう…こういって。ああ! 間違えた。
—— (笑)。増原監督以上によく野球をご存知のスタッフの方もいらっしゃったんですよね。そのあたりの方々についてもお伺いできればと。まずキャラクターデザインの植田(実)さんですが。Production I.G所属の方ですよね。
増原 植田さんは、コンペでキャラクターデザインに抜擢されたんですよ。
—— おお。そうなんですね。では植田さんのキャラクターは原作らしさを最も再現されていたということですか。
増原 そうですね。コンペ段階で、原作の絵を一番リスペクトしていたんですね。他の方は、線が走っていて物凄く達者な方もいたのですが……沢村が右で投げていたりしてね。
—— ええ……(笑)。それは根本的に間違っていますね。
増原 ですから、作品をきちんと理解しているという意味でも、植田さんはアドバンテージがあったんです。やっぱりこういう作品ですから、ハートの部分がしっかりしてないと。
—— なるほど。原作のキャラクターを再現できていたというのは、例えばどういうところで?
増原 人間の唇の中心……ちょんと尖がっているところであったり、口角のあたりの微妙な空気感について、原作は凄くこだわっているんです。そのあたりの再現がきちんとできていました。
—— ああ。アニメでも誇張しているように思えるくらい、その特徴は出ていますよね。

『ダイヤのA』キャラの特徴は口元とのこと

『ダイヤのA』キャラの特徴は口元とのこと

—— それと、実際にアニメーションの総作画監督というかたちで立たれているのは田崎(崎は代用)聡さんですよね? 田崎さんといえばマッドハウスを代表するアニメーターのひとりですが、描くキャラクターの特徴はありますか。
増原 田崎さんは服の皺が凄く素敵なんですよね。
—— そこですか(笑)。その皺はリアルなんですか?
増原 ええ。実在感があるんです。原作キャラクターは漫画なりの線の多さがかなり重要なポイントになっているので、田崎さんの絵はそこと相性がいいですね。もちろん、アニメは原作のような密度では動かせないので、多少そぎ落としていく作業をしています。
—— 緻密ということですか?
増原 田崎さんの絵は体と服との距離を表現しています。野球のユニフォームの質感をアニメ上で動かせる前提で再現しているんです。
—— それは芸が細かいですね。
増原 これが田崎節なんですよ。
—— 『ダイヤのA』は作画が非常に良い作品だと思うのですが……。
増原 そうですか?
—— ええ。これだけの長期クールに渡り、ここまでディテール細かいキャラクターが崩れない作品も珍しいと思うのですが、そこの引き上げは田崎さんが中心になってやられているのですか?
増原 そうですね。それもあるし、全体に慣れてきている部分もあります。それから、修正を何度もかけているという部分も当然ありますよね。
—— 作画に関するご苦労はそれほどないですか。
増原 アニメーターさんは個々苦労もあると思いますが……特に作品の性質上、服装へのディテールに関する苦労はあります。ただ、この作品は着替えが少ないじゃないですか。
—— ああ。そうですね。
増原 アニメーターさんとしては次から次へと新しいのを覚えないといけないという部分がないので、長く続ければ続けるほど楽にはなると思います。
—— 確かに服装はそうかもしれませんが、野球についてのディテールという意味ではいかがでしょう? 専門知識も必要になってくるのでは?
増原 アニメーターさんの中には、上手くても、野球を知らない方がいらっしゃいますからね。バットを日本刀持ちしていることもありますから。
—— 野球ということでいうと、アクション作画監督の立中(順平)さんがもう1人のキーマンになるかと思いますが。
増原 アニメーションって、ある種、シルエットがかっこよく決まっていればいいという場合もあるんですよ。伸び縮みが発生しても、それがカッコよく見える場合もある。でも、バットを手にした瞬間に、嘘が効かなくなるんです。非常にアニメーターにとって難度が高いものだったりするんですよね。

木製バットを構える春市。野球アクションも見所のひとつだ

木製バットを構える春市。野球アクションも見所のひとつだ

増原 車と同じで、いざ描けと言われたら描けないんですよ。車なんて、日常で見ているから、変な絵を見たら皆さん気づくじゃないですか。「じゃあ、あなた描きなさい」と言われると、実は見ないと描けない。それと同じで野球の芝居も、おかしかったら視聴者の皆さんは分かるんですよ。『ダイヤのA』では、そこをおかしく見られないように、立中さんが持ち上げてくれているんです。凄く上手いアニメーターさんでも、バット振ったシルエットが描けなかったりするんですよ。格好いいシルエットで描いてくるんですけど、バットのスイングとしては、ん、ん~? と(笑)。軽自動車にウイングが付いていたら変じゃないですか。格好いいけど、それちょっと軽自動車じゃねえんだけどな、と(笑)。
—— やはり立中さんは野球に関してはマイスターといいますか、他の方に教える立場にあるぐらいの実力の方なのですね。
増原 はい。立中さんはスポーツポーズ集の本(『スーパースポーツデッサン 基本篇』グラフィック社)を出していらして、それを見た原作の寺嶋(裕二)さんが「この方なら大丈夫だ」と太鼓判を 出すくらいの方なんです。『ダイヤのA』のアクションは、立中さんのおかげでもっているようなものですね。

<第2回を読む>

Official Website
アニメ『ダイヤのA』公式
http://diaace.com

Soft Information
DVD第1巻〜第13巻 発売中
稲実戦編DVD第1巻〜第5巻 発売中
第6巻 2016年2月17日発売
価格:3800円+税
きゃにめ.jp

(C)寺嶋裕二・講談社/「ダイヤのA‐SS‐」製作委員会・テレビ東京