櫻井さんの演じる御幸はブレスが多いんです(笑)
『ダイヤのA』監督 増原光幸(第2回)

第1回に引き続き、『ダイヤのA』におけるこだわりについてお話を伺う第2回。ここでは作品の魅力を引き上げるお遊び要素や、知られざるキャストの方々についてのエピソードなどを伺った。

Profile
増原光幸 Mitsuyuki Masuhara

アニメーション監督。主な監督作品に、『チーズスイートホーム』『こばと。』『ブレイド』『しろくまカフェ』などがある。

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試合で回想に入っても勝つとは限らない

—— 『ダイヤのA』はアクションも多い作品ですが、どういうお考えでやられていますか?
増原 この作品の野球アクションは、「感情の武器だ」と思っています。想いを込めながら投げるのであれば、弓を引き絞るようなピッチングの構えがあって、それを開放して解き放ち、キャッチャーへと投球する。この場合は、想いをぶつけるという武器なんです。
—— ただのリアルなアクションではない?
増原 ええ。漫画は、一枚一枚の止め絵の中に時間を感じさせることができる表現じゃないですか。それこそ、そこが腕の見せどころだったりする。でも、これをそのまま同じコマ数通りアニメーションで動かしたら、「投球しました」だけで、2、3秒あれば終わってしまいます。ですから、漫画と同じ印象を感じさせるために、どこかで嘘をつかないといけないわけです。あえて止めてみたり、BGを白く飛ばしてみたり。現実に流れている時間軸と嘘の時間軸との兼ね合いを、視聴者に違和感なく伝えるために、演出法を組み立てていきます。そこは原作の肝でもあるので、なるべく再現度を高くするために、そこかしこに工夫をしています。
—— 対決シーンでは、赤と青のフィルターを使用してキャラクターが分かれていたりしますよね。
増原 色の要素は原始的な感覚ですから、一番頼る事ができるんです。何かが分かれているということを分かりやすく提示できる。赤と青で画面の色が分かれた時は、ここは両者の戦いがぶつかり合っている画面だよ、といったことを、表しているということです。色替えに関しての理由は、かなりシンプルですよ。
—— シーンとしての色替えではなく、心情に沿っている色替えがあるということですね。

心情の盛り上がりによって、赤や青などの色が効果的に使用される

心情の盛り上がりによって、赤や青などの色が効果的に使用される

—— 色以外では、光も効果的に使われていると思うのですが。
増原 そうですね。色々やっていますが、あえて光を無くしてみたりもしますね。背景を暗くして、キャラがモノローグで話している時は、物事を考えている思考の時間にしています。ですから、周りのキャラも止まっている。そこも視聴者に違和感を覚えさせないための施策です。あとはカメラを思考している人のアップに寄って、周辺のことを視聴者に分からなくさせるというのもよくやりますね。視聴者に心情へ入ってもらって、他の環境を意識させないようにするんです。
—— ちょっと話の腰を折るようなのですが、そうやって心情に入り込んでいった際に、回想に入ったりするじゃないですか。野球物は回想に入ったチームが勝つというジンクスが……。
増原 ありますね(笑)。でも『ダイヤのA』の一筋縄ではいかないところは、回想しても失敗することがあるんです。「確変であって、確定じゃない」んですよ。大当たりの予告の予告です。
—— それもこの作品の楽しいポイントだと思います(笑)。
増原 それと、回想に見えるところが、実はそうではない場合があるんですよ。原作では、回想に見えても、実は過去の事実だという描写があるんです。アニメの場合、この時の入りと出が難しいんですね。
—— 回想の主体が誰もいない中での過去のシーンですか。
増原 ええ。そういう時は、誰かの回想ではありません、と分かるように仕立ててあげないといけない。原作の過去描写はコマの外側を黒く塗っているのですが、アニメで近いことをやろうとすると、昔からある手法としては、薄暗くなったり、声が響いていたりすることがありますよね。15秒位ならそれでもいいのですが、長い回想の時にずっと声が響いていると鬱陶しい。ですから、そういったやり方とは別の仕立て方を、その時その時でしています。

金剛力士となったゾノ

—— 『ダイヤのA』は止めを意識された演出ではないかと思うのですが。
増原 2つ理由はあります。まず現場制約的な話からすれば、全部動かしていられない(笑)。同時に、演出的に止めたいところも多々あって、たとえばランナーが走りながら何かを話している場合、顔にカメラが寄りながら走ると、画面揺れが大きくなっちゃうんですよね。
—— そうですね。上下動しますからね。
増原 そうすると動きが気になって台詞が流れちゃうんです。視覚のインプット情報は、人間の感覚の中で8割以上の占有率があると聞いたことがあります。ですから、耳から入るセリフは雑音になってしまう。せっかく頑張って素晴らしい走りや、表情を描いても、意味がなくなってしまうので、あえて止めるんです。
—— 止め絵の迫力で言うと、ゾノ(前園健太)のアップに驚かされるのですが……。ゾノの顔が仏像のようになっていますよね。

前園の迫力ある顔のアップ

前園の迫力ある顔のアップ

増原 原作に負けちゃいけないと思ったんですよ。100%以上再現しないと……あわよくば200%だと思って気合を入れました。そこで制作さんとのぶつかり合いもあったんです。
—— え? ゾノのアップでですか?
増原 「このゾノの顔は特殊効果を入れないといけないカットだ」と主張したんですよ。そうすると制作さんは「バットじゃないんですか」と反論するんですよね。
—— いや、良い制作さんだと思いますが(笑)。
増原 ゾノは三段活用位しました。「凄いゾノを! もっと凄いゾノを!!」最終的に「ゾノは金剛力士なんだ。もう黄金に輝くしかないんだ」と思って、ついに金色に発光しました。
—— そこまで行くと今後の発展がないですね(笑)。
増原 今後は神の領域に……(笑)。
—— そういった楽しい小ネタも『ダイヤのA』のいいところだと思うのですが、原作以上に助長されているような感じがします。
増原 僕にとっては自然体なんですよ。ゾノも自然体だとああなるんです。

可愛い幸子と「川上を呼びましょう」

増原 僕は幸子が可愛くて!
—— ああ…監督は幸子推しでしたか。
増原 アニメが始まる前から、僕は幸子が真のヒロインだと思っていました(笑)。
—— 応援席で元気よくやっていますよね。羽多野(渉)さんもお好きだとラジオでおっしゃっていましたが、なぜそれほど幸子が?
増原 春乃ちゃんとか唯ちゃんとか貴子先輩は、キャラクターとして女の子じゃないですか。
—— 幸子も女の子ですが……。
増原 あ、いや(笑)。幸子は元気な女の子なんですよ。寺嶋さんからのコンテチェック戻しの中にメモがあったんです。そこで「幸子は同級生なので、たとえば倉持を応援する時は呼び捨てで良いです。“いけー倉持―!!”としてください」と書いてあったんですよ。じゃあ幸子が応援する時は、他の子と差別化しないといけないな、と思ってね。「これは輝ける子だ」と。普通にメガホンで応援していたら幸子じゃない。「いけー! 倉持―!」と正拳突きをするのが幸子だと。
—— では、監督お気に入りのキャラクターは幸子ということですね。『ダイヤのA』ファンに対して訴求力のないインタビューになっている気が……(笑)。
増原 僕は今回のオープニングで幸子が出て大満足です。
—— ああ! マネージャーの中で、幸子だけいるんですよね。
増原 それは記録員だから当然いるでしょう。監督を(カメラで)撮ったら横に幸子がいるのは仕方がない。
—— お遊び要素で言うと、部長が川上を何度となく呼びますよね。あれは完全に原作通りですか。
増原 正直、ちょっと盛っています。部長は川上大好きなんでね。でも、川上君は青道の守護神ですから、部長が好きになるのも分かります。いつも抑えのリリーフとして出てくるので、当然まずい状況になってからの登板なんですよね。「いや、まだあいつがいる」という絶対的な自信が……。
—— ううん。意外とそうではないような感じもするのですが……。
増原 必ずフォアボールを出しますからね(笑)。だけどこれは理由があるんです。彼はコントロールが売りのピッチャーなので、厳しく攻めていくのが持ち味なんですよ。降谷のように球速で押し切るようなタイプではないので、四隅に球を散らしてから外上へのフォアボール率が高い、ということなんです。
—— 降谷はストレートが多いんですね?
増原 そうです、彼は、力で押し切っちゃうタイプです。
—— それに対して川上はコントロール型。
増原 ……コントロールの良さが売りなのに、フォアボールを出すというのはどういうことだというところはありますが(笑)。

飛び入りで決まった主人公キャスト

—— 今回はキャストの方々も非常に豪華ですよね。キャスティングのポイントを改めてお教えいただけますか。
増原 最近はキャストのご提案をいただいく場合が多いのですが、最初のメインについては、自分もキャスティングに関わらせてもらっています。その上で、懐かしい話をすると、御幸が櫻井(孝宏)さんになった経緯がありまして。最初は僕、櫻井さんを選んでなかったんです。櫻井さんは2番目だったんです。
—— そうなんですか。
増原 『ダイヤ』の直前に僕は『しろくまカフェ』という作品をやっていたんですよ。そこで櫻井さんは主人公のシロクマくんを演じてらしたんですね。あのシロクマという感情の起伏がないキャラの、その狭い範囲の中で、きちんと感情の振れ幅が分かる芝居を入れ込んでくれる人なんですよ。ですから、御幸をやらせたら絶対イケるはずだと。ドラマCDをやった時も凄くてですね。シロクマくんがペンギンカフェにやってきて、カウンターに座りつつコーヒーを頼むんですよ。そこで「座りながらですよね」と我々に確認した上で色々と試行錯誤される。「コーヒー1杯」というセリフひとつにそこまでこだわる。つまりレベルが高いんですよ。お芝居に対するこだわりがある。
—— では、御幸も櫻井さんが第一候補でよかったのでは?
増原 ええ。僕は櫻井さんだと思っていたんです。ただ、個人的な感情でそういう信頼はあるのですが、仕事の冷静な目で見ることができていないのではないかと。自分でも無意識に贔屓しているのではと思ってしまって。それで、あえて櫻井さんは2番にしていたんですよね。そうしたら、原作の寺嶋さんから感想が返ってきて、「櫻井さんの声、御幸です」と。
—— 単刀直入ですね。
増原 マ! ジ! デ! 自分もそう思ってた……! じゃあもうこれで文句なし一番! 櫻井孝宏さんでいきましょう(笑)
—— では寺嶋さんのその言葉に後押しされて、自分の考えに確証を持たれたと?
増原 そうです。秘めたる思いを開放したわけです。
—— それは良い話ですね。
増原 あとは、主人公の栄純役の逢坂(良太)さんについてですかね。栄純の声って実はオーディションをやった時に決まらなかったんですよね。15人位やったなかで、5人位に絞ったんです。でも、決め手になるものがなくて……。そうこうしていたら、逢坂さんが後から飛び入りで来たんですよ。「どうしてもやりたい!」という感じのテンションで。
—— それはおそろしく栄純っぽいですね(笑)。原作ファンだったということですか?
増原 そうなんですが、それも実はついこの間、「アニメJAM2015」のイベントの時に聞いたんです。元々原作を読んでいて、「やりたい」と言っていたのですが、マネージャーから「『ダイヤ』のアフレコ曜日は空いてなからダメでしょう」という話を受けていたそうなんですよ。でも、「いやいや! なんとか空けられるはずだ」と逢坂さんが粘りに粘って、オーディションに無理矢理来たそうなんです。そんなに固執してくれるなんて、熱いじゃないですか……。
—— そうですよね。
増原 もう、キャラクターとして沢村ですよね。その絶対食らいついてやるという精神がそのままだったので。
—— なるほど。他にキャストについてこれは驚いたと思われた方はいらっしゃいますか?
増原 大川(透)さんです。
—— 落合コーチですよね。
増原 あの方は本当に達者ですね。一回目のテストの時は、こうして欲しいと要望を出したら、ビタッとあっと言う間にはめ込んできて、凄いな、この人と。そして凄いといえば編集の寺内(聡)さん。アニメには編集作業というものがありまして。台本を読みながら映像を流して、「ああ、ここは止メの間が長いから、ちょっと尺を摘まもうか」ということをやったりする際に、大川さんの芝居を再現して話してくれるんですよ。
—— そういう編集さんもいらっしゃるそうですね。それで間の調整をするんですね。
増原 ええ。そのテンポや、ちょっといけ好かない感じが似てるんですよね。もうそれが面白くて……。アニメーションはアフレコ(絵が先にある状態で役者が演じる)ですから、役者の喋り方や特徴を吸収して、「あのキャストならこう言う風に来るはずだから、タイミングはこうしよう」という時に、編集さんが真似てくれると分かりやすいですよね。特に『ダイヤ』は特徴的なキャラクターが多いですから。
—— 他の作品より大事になってくるかもしれませんね。
増原 例えば、御幸はブレスが多いんですよ。櫻井孝宏のイイ男の台詞はブレスが多い(笑)。例えばこんな文を普通に読むと「改めて当時、原作を読まれた際の第一印象は、いかがでしたか」と、こうじゃないですか。これが御幸だと、「改めて、当時、原作を読まれた際の、第一印象は、いかがでしたか」というタメがところどころに入ってくる。
—— そんな吐息的なタメが(笑)。
増原 これをね、寺内編集はやってくれるんですよ(笑)。良い現場でしょう?

<第3回を読む>

Official Website
アニメ『ダイヤのA』公式
http://diaace.com

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(C)寺嶋裕二・講談社/「ダイヤのA‐SS‐」製作委員会・テレビ東京