料理の魅力は、あえて作画で表現する
『食戟のソーマ』アニメーションプロデューサー 藤代敦士(第2回)

第1回に引き続き、アニメーションプロデューサーの藤代敦士さんに『食戟のソーマ』の魅力を伺う第2回。作品の肝である料理シーンについてや、映像としての情報量を上げるための工夫などについてお話いただいた。

Profile
藤代敦士 Atsushi Fujishiro

J.C.STAFF プロデューサー。『ハチミツとクローバー』にて制作進行を務め、その後様々な作品に携わる。代表作に『のだめカンタービレ』(制作担当)『バクマン。』『変態王子と笑わない猫。』『ゴールデンタイム』(いずれアニメーションプロデューサー)などがある。

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『食戟のソーマ』における米たに監督らしさ

—— 食についてのこだわりはお伺いできましたが、原作の魅力をどういうふうに増幅していくかというところの、演出的な部分ではいかがでしょうか。
藤代 各種アクションや、キャラクターが食べた時のリアクションの表現はこだわらなくてはいけないと考えていました。それと、『ソーマ』はカット割りが多いんですよ。平均で言うと350カット超えくらいにはなっています。そこで情報量を増やしているんです。ひとつひとつの所作や、料理バトルを見せていくためのテンポ感を大事にしていることもあって、カット数が増えていくんですね。
—— 確かに、料理作っているだけで緊張感を保たせるというのは、難しいように思えます。
藤代 第1話のオールラッシュ(編注:撮影から上がってきたムービーデータをチェックする作業)をやった時に——あまり思い出したくないのですが——7時間ほど掛けたんです。
—— それは長いですね!
藤代 そこまで掛かったラッシュというのは、私も初めてだったので「終わるのか、このオールラッシュは‥…そしてこの作品は……」という不安が沸々と起こりました(笑)。第1話でしたので、他のスタッフにもどういったところに気をつけないといけないか、こだわっていくかというところの指針にもなるので、特に時間がかかりました……。
—— そういったこだわりの他に、制作中、米たに監督の「らしさ」を感じるところはありますか?
藤代 米たに監督だと聞いて、最初に思い浮かべたのは『(勇者王)ガオガイガー』だったんです。いい意味での暑苦しさがある表現をされる方、という印象がありました。その感じはこの『ソーマ』という作品性に合っていると感じます。この作品は恋愛要素があまりなので、創真の挑戦していく姿勢や、周りに対してアグレッシブに向かっていくようなところが、通常の作品以上にフィーチャーされてます。米たに監督はまさに適任だったと思いますね。
あとは、SDっぽいキャラクターを入れたり、創真の崩しを入れたりといった、ところどころのギャグ表現が絶妙だなと思います。

SDキャラのギャグ的要素も多い本作。観ていて自然と笑顔になる。

SDキャラのギャグ的要素も多い本作。観ていて自然と笑顔になる。

作画でしか表現できない料理の魅力

—— 先ほどから料理の話が出ていましたので、引き続きそのあたりの話をお聞かせください。今回は料理作画監督が役職として存在しますよね。そればかりか料理色彩設計さんもいらっしゃいますが、これはなぜなのでしょうか。
藤代 PVを作る段階で、料理の表現をどうするかを色々と模索してまして、3Dを取り入れたりもしたのですが、最終的に「やっぱり作画を頑張らなければいけない」ということになり……(苦笑)。やはりそれ用の、いわゆるアクション作監、メカ作監的な立場の人を入れないと厳しいだろうということで、現状に落ち着きました。
料理作監については、最初は3人たてさせていただいたんですね。単純に料理の描き込み密度をあげる方。湯気についてや、油の跳ね方、包丁で切ったりというところの所作におけるアクション作監。そんな風に、料理作監という中でもパターンを分けさせていただいています。
—— 同じ料理作監でも分業制になっているんですね。今少しお話された湯気についてなのですが、見ただけでお腹が減るような仕上がりだったと思います。あれは撮影で入れているわけではないのですか。
藤代 撮影だけではないんです。第1話はほぼ作画でやらせてもらったのですが、湯気が巻き起こったり、熱気が“むあっ”となったりするところが、単純なCGの送りだけでは、どうしても表現しきれなかったんです。ですから、「ここは作画で行きましょう。ある程度絵が引いたところなら、CGで」というようなかたちで分けさせていただいています。
—— 割と料理作画監督の方々はメカ関係でご活躍されている方が多いような印象を受けるのですが。
藤代 鷲北(恭太)さんはメカもやられますが、エフェクト系が得意な方だったので、主にそちらをお願いしています。あとは料理の所作も見てもらっていますね。料理自体の描き込もお手伝いいただいているのですが、メインとしてはどちらかというとアクションです。料理とは違いますが、例えば第11話の「マジカル☆キャベツ」も「これは鷲北さんにやってもらわないと!」とお願いしました(笑)。

「マジカル☆キャベツ」のカット。堂島が違和感しかない。

「マジカル☆キャベツ」のカット。堂島が違和感しかない。

藤代 梶谷(光春)と伊東(葉子)は、J.C.の社員なんです。ある程度制作現場のスケジュールに対応していかないといけないこともあり、全てフリーの方にお願いするのはリスクが伴う場合もあります。他社さんの仕事をやられていたりというところもあるので、折り合いがつかないこともある。そこで、社内のスタッフも入れておきたいと、ふたりを入れたんです。梶谷についてはおっしゃるとおり、メカ系が得意なところもあったので、「包丁での捌き方を主に見ていただきたい」という話をさせてもらいました。あとは「ジビエ(禽獣)が出てきたら、動物をお願いしたい」というところもありました。伊東はまだ若手なのですが、キャラデも経験してはいるんです。前にやった作品で、たまたま食べ物を描いてもらったのですが、かなり上手くいったんですね。それもあって、今回話をさせてもらったんです。
—— 今のお話を伺っても、J.C.は非常に層が厚いのだな、と思わされます。これだけ作監を用意でき、さらに生え抜きの方を入れられているというのは、なかなか容易ではないと思うのですが。
藤代 もちろんフリーさんともお付き合いさせていただいているのですが、厳しい時に融通を付けて助けてもらえるのは社員ではあるので……それは制作としての甘えなのですが(苦笑)。J.C.は10年位前から作画のスタッフを増やし、厚くしていこうという方針を立てたんです。毎年作画を多めに採って、「きちんと教えましょう」というフローを作っていけないかと模索してきました。もちろん上手くいくばかりではないですが、ここ2、3年は特に社内の作画スタッフの厚みが出てきているように思えますね。
—— 様々な作品を拝見していて、まさにいま、 J.C.STAFFは花開いているという印象を持ちます。
藤代 ここ何年かは作品にも恵まれているのですが、そういう評価をしていただいている実感はあります。会社としても、大変ありがたいことだと思っています。
—— 『ソーマ』におけるJ.C.らしさというと、どんなところになるでしょうか?
藤代 絵のフィニッシュとしての完成度というところが、うちらしいと思います。ありがたいことに、J.C.は昔から撮影に定評をいただいているのですが、そこにプラスオンで、作画や、料理の特殊効果を載せることができている。相乗効果で、最終的なフィルムとしての完成度が高いものになっていると思います。

基本方針は“情報量を多くする”こと

—— 第1話の撮影処理などは、ため息が出るくらい綺麗でしたよね。ギラついた入射光のような効果も入っていますが、このあたりは監督の意向なのですか。
藤代 密度はできる範囲であげたいというのが、監督からありましたので、フレアや入射光を足していく方針でした。
—— すみません。割とどうでもいい話なのですが、小西が第6話で『あしたのジョー』的になっているところがありますよね。あそこのボクシングシーンの入射光は相当『あしたのジョー2』風になっていると思うのですが……。
藤代 ああ、あれはもう、怒られない限りやるならやろうという考えでした(笑)。ボクシングも原作にはないのですが、ガッツリやってしまいました。

『あしたのジョー2』的なボクシングシーン。かなりの再現度。

『あしたのジョー2』的なボクシングシーン。かなりの再現度。

—— 『ジョー2』的な三回パンまで再現されていましたね。それはともかく(笑)、他に情報量を多くするというところで、気をつけられている部分はありますか。
藤代 作品への印象に大きく影響を与えているのが、「カメラを止めない」という指針だと思います。画面動を入れたり、画ブレを入れたりは、今回監督がコンテの段階でかなり指示書きされる部分なんです。そういったところが、情報量を増やす演出としての特徴になるのかなと思います。
—— 今回は、流背の処理も結構ありますよね。密度をあげるということで言うと、原作のキャラはディテールがしっかりしていると思うのですが、その再現については、どういったところに気をつけられたのでしょうか。
藤代 キャラの密度については、下谷さんが大分意識されていました。特徴的なのは目の処理かと思います。瞳の周りに三日月型のハイライトを入れつつ、それとは別に影を入れたりしているんです。原作の瞳の情報量が多いので、そこも上手く再現しないと、ソーマらしくならないんです。ただ、さらに動かすとなると、よりしんどくはなりますよね。ですから、今回は下谷さんと総作監の方々に一度集まっていただいて、目の処理の注意点であったり、各種こだわりどころについての話し合いをさせていただきました。もちろん時間の制限はあるのですが、なるべくそういったところは注意をして、完成度の高い原作の雰囲気を壊さないようにしています。
——— 確かに、瞳については原作に負けず劣らずのディテールであるように感じます。
藤代 原作はカラーでない限り2色じゃないですか。アニメは色があるので、原作以上に密度を上げないと保たないんですよね。
—— なるほど。先ほどお話が出た総作監のお三方もキャラデクラスの方々ですよね。
藤代 総作監に入っている松浦(麻衣)さんは、『バクマン。』の頃からずっと総作監として入っていただいていて、下谷さんの絵に慣れているので、今回もお願いしました。山崎(正和)さんは、別のスタジオに入られた時に何回かお仕事をご一緒させていただいたことがあったんです。今回『ソーマ』をやるにあたってなんとかお願いしたいと思い、改めて実際にお会いさせていただいてお話をさせていただいきました。伊東は、料理作監もやっていますが、『バクマン。』の頃から作監をやっていて、下谷さんからも「早く総作監を担当させたほうがいいよ」と言われていたんですよ。そういったこともあって、今回頼んでみようかと思いました。
—— お三方、今後も基本的にローテーションで入られているんですよね。やはりこういうしっかりした布陣を組まれたのは、最初から情報量が多くなるだろうという見込みがあったからなのですか。
藤代 今回は割と早い段階で自分が担当するということになっていたので、早めに声を掛けさせていただきました。「来年に『ソーマ』があるから、今やっているところが終わったらこっちに来てもらえないか」という話が早めにできて、動きやすかったですね。それに、正直プレッシャーもありました(笑)。やはりジャンプものですし、この作品だったので、下手なことはできないと思っていて。それもあって、早めに布陣を固めたんです。

<最終回を読む>

Official Website
アニメ『食戟のソーマ』公式
http://shokugekinosoma.com

Soft Information
『食戟のソーマ』Blu-ray第1巻<初回生産限定盤>※DVD版も同時発売
発売日:7月29日
価格:8,000円+税
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(C)附田祐斗・佐伯俊/集英社・遠月学園動画研究会