原作が好きだから、その魅力も難しさも理解できた
『食戟のソーマ』アニメーションプロデューサー 藤代敦士(第1回)

週刊少年ジャンプに連載されている料理バトル漫画を原作とする『食戟のソーマ』。熱い王道的な展開と、個性的なライバルキャラクター達の一挙手一投足が楽しい作品となっている。米たにヨシトモ監督をはじめとするスタッフ陣のこだわりが、どういったところに反映されているのか。本作制作の過程を伺った。

Profile
藤代敦士 Atsushi Fujishiro

J.C.STAFF プロデューサー。『ハチミツとクローバー』にて制作進行を務め、その後様々な作品に携わる。代表作に『のだめカンタービレ』(制作担当)『バクマン。』『変態王子と笑わない猫。』『ゴールデンタイム』(いずれアニメーションプロデューサー)などがある。

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「懐かしい王道路線」の魅力

—— まずは、藤代さまのプロフィールからお伺いできればと思います。J.C.STAFFで最初に制作として参加された作品というのは、なんだったのでしょう。
藤代 制作進行として初めて携わったのは『ハチミツとクローバー』です。その制作としての転機は、副担当を務めた『灼眼のシャナ』になると思います。
—— 副担当というのは聞き慣れない役職ですね。
藤代 J.C.STAFFの制作は進行、進行チーフ、副担当、担当、プロデューサーがおります。『灼眼のシャナ』の2期目をやらせていただいた時に、副担当として、コンテの追っかけ、演出さん、作監さんのローテーションを組むといった様な、担当に近い事をやらせていただいたんですね。そのあと『のだめカンタービレ』の第2期シリーズで担当となりました。担当は、他社さんでいうデスクに当たる役職です。
—— プロデューサーとして立たれたのはどの作品からなのでしょうか?
藤代 『君と僕。』という作品の第2シリーズでプロデューサーになりました。
—— これまでご担当されていた中で、特に印象に残っている作品は何になりますか?
藤代 『のだめ(カンタービレ)』の時は、楽器ものということもあって、3Dとの兼ね合いや、今までやってこなかった手法を取り入れなければならなかったので、そういった意味で印象に残っている作品ですね。原作はもちろん実写ドラマとしても有名で、人気があった作品をやらせていただけたので、想い出深い作品です。
—— そのお話を伺いますと、『ソーマ』のようなジャンプ作品的な大きなタイトルも、これまでにやられていたということですよね。
藤代 そうですね。ジャンプ作品ということでいえば、『初恋限定。』や『バクマン。』をやらせてもらいました。
—— では、今回も集英社作品ということの、当て込みで藤代さんが担当することになったのですか。
藤代 『バクマン。』の時は、製作が小学館集英社プロダクションさんだったので、今回の座組みとはまた異なるのですが。私が『ソーマ』を担当する事になった経緯としては、社内で、松倉(友二)と私ともう一人のプロデューサーとの会議がありまして、その中で来期はどういう作品があって、どう回していくのかを話しあった際、他の作品状況等から私が担当する事になりました。理由の1つとして私が集英社さんと組ませていただいたことあったという事もあります。
—— なるほど。ご担当として決定して、『ソーマ』の原作を読まれることになると思うのですが、第一印象はいかがでしたでしょうか。
藤代 実は、今でも毎週ジャンプを読んでいるんですよ(笑)。元々『食戟のソーマ』も拝読していまして、ずっと「面白いな」と思っていたんです。
—— そうだったのですね。担当に決まる前から、原作のファンでいらした。
藤代 はい。コミックスも買っていました。『バクマン。』をやっている時から、「ジャンプだったら、次は何かな」といった話を社内の雑談でした時に、「『ソーマ』は面白い」という会話もあったのですが、なにせ料理ものでしたので、アニメの表現としてはハードルが高い為、「これをアニメでやるのは難しいよね」という話に帰結していたんですね。実際、松倉から『食戟のソーマ』があると聞いた時に、「本当に……?」と言葉をなくしてしまったぐらいです(笑)。作品としては魅力的だと思っていたのですが、「作中登場する料理を、どう表現するか」というのが、まず頭を悩ませたところですね。
加えて、原作の画力がとても高いじゃないですか。『バクマン。』の時も同じことで難儀したのですが、同様の作品がまた来たか、とも思いました。そういった意味で二重に「大変だ」と困惑していました。
—— 原作を知っていたからこそ、苦労するだろうところも予想がついたんですね。

第1話の調理シーン。料理を美味しく見せるためのこだわりが各所に見られる。

第1話の調理シーン。料理を美味しく見せるためのこだわりが各所に見られる。

—— 一方で、原作の魅力もよくご存知だったと思うのですが。
藤代 少年漫画的な主人公が、チャレンジャーとしていろんなものに挑んで行ったり、遠月学園にいるエリート達の中で、大衆的な人間がポンと入り込んでいって、その中で活躍したりといったところが魅力的だと感じていました。「昔の王道」と言いますか。絵的な部分での表現は、凄く今風なのですが、内容については少し懐かしい感じもしたんです。
—— 料理ものといっても様々ですが、最近は「日常と料理」がテーマの作品が多くなっていて、「料理バトルもの」が少なくなったように思えます。
藤代 そうですね。出版社さんは違ってしまうのですが、『ミスター味っ子』系の対決という感じに近いように思えます。アニメにするにあたって、表現としては、現代版『味っ子』のようなイメージが一番近いのでは、という話も、少し出ていたことがありました。

食にこだわり過ぎるスタッフ

—— 企画が決まって、いよいよスタッフを固める段になるかと思いますが、そのあたりは藤代さんが動かれたのですか。
藤代 私に話が降りてきた段階で、監督の米たに(ヨシトモ)さんやキャラクターデザインの下谷(智之)さんに関しては、松倉やワーナーの川瀬(浩平)さん、集英社さんとの会議で既に決まっていました。
—— 今お話があったような、「懐かし目の王道が魅力」というところは、スタッフの皆さんの共通認識として、最初からあった?
藤代 米たにさんは特にそういうイメージがあったようです。シナリオ会議の時に「懐かしい感じもあるような表現が、この作品の魅力」とおっしゃっていましたので。
—— では、監督は原作を読まれて、その特性を理解されつつ演出プランを想定されていたんですね。藤代さんは、米たにさんと組まれるのは初めてですか?
藤代 『シャナ』をやっていた時に、絵コンテでご一緒させていただいたことはあるのですが、ガッツリと組ませていただくのは今回が初めてでした。
—— 米たに監督の印象はどんなものでしたでしょうか?
藤代 飄々としているところもあるのですが、凄く緻密に考えていらっしゃるな、と打ち合わせをしていて感じます。誰よりも先の展開まで考えて「こう仕込んでいきたい」と積極的に提案してくださる。そのこだわりは、半端ではないですね。アニメとしての表現だけでなく、この作品は監督含めて、食べ物に対してこだわりが強い人が多いんですよ。非常に……困っています(苦笑)。
—— 困っているのですか? 良いことのように思えますが。
藤代 もちろん良い事なのですがそれが、もう尋常じゃないくらいのこだわりなんですよ(笑)。監督をはじめ、松倉、それからワーナーのプロデューサーの土肥(範子)さんも、ご実家がレストランということで知識が半端ではないんです。監督はカレーが大好物なのですが、それ以外の知識も豊富で、四宮が田所と食戟をした時に、田所が使ったオールスパイスに対して、「でもオールスパイスは割とメジャーだから、四宮クラスなら食べれば分かるよね」みたいなことを、さも当然というように話されていて、「……俺、知らなかったけどなあ」なんてことがしばしばあります。

第12話より。パテに仕込んだ香辛料としてオールスパイスが入っていることを見抜く四宮。

第12話より。パテに仕込んだ香辛料としてオールスパイスが入っていることを見抜く四宮。

—— 監督はカレーについて、ご自身のツイッターでもかなり呟かれていますよね(笑)。
藤代 そうなんです。「監督にとってカレーはなんですか」と聞いたら、「空気です」とおっしゃっていました。「なければ死ぬんだ……この人……」と。あるいは、「一週間のうちどれくらいカレー食べますか?」と聞くと、「15食くらいは食べます」と言っていて、「一日二食以上は食べてるんだ……」と。
—— いやあ、それは正直……少し引いてしまいます(苦笑)。今後は、まさにカレー回もありますよね。
藤代 ええ。今からみんなで戦々恐々としているんです。
—— ちなみに、先ほどお話に出た松倉さんも、料理については一家言あるのでしょうか。
藤代 ありますね。PVを作った時に、「チャーハンの米の舞い方が違う」であったり、「ここの魚の下ろし方もおかしい」といったリテイクが出て、なかなかOKがでませんでした(笑)。

<第2回を読む>

Official Website
アニメ『食戟のソーマ』公式
http://shokugekinosoma.com

Soft Information
『食戟のソーマ』Blu-ray第1巻<初回生産限定盤>※DVD版も同時発売
発売日:7月29日
価格:8,000円+税
Amazon

(C)附田祐斗・佐伯俊/集英社・遠月学園動画研究会