作品を引き立たせてくれるフォーマットの力
『あんハピ♪』監督 大沼心

琴慈原作のコミックを、SILVER LINK.がテレビアニメ化した『あんハピ♪』。unhappyな5人の少女達が、幸せになることを目指して奮闘する学園コメディだ。本編でアイキャッチを多用している意図、印象的なオープニングとエンディングのメイキングなどを大沼心監督に伺った。

Profile
大沼心 Shin Onuma

アニメーション監督。近年手がけた作品は、『Fate/kaleid liner プリズマ☆イリヤ』シリーズ(総監督)、『私がモテないのはどう考えてもお前らが悪い!』『のうりん』『六畳間の侵略者!?』『落第騎士の英雄譚』(監督)など。

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思わぬ効果が生まれたアイキャッチ

—— 『あんハピ♪』は、アイキャッチがとても効果的に使われているなと感じました。どんな狙いで、アイキャッチを入れているのでしょうか。
大沼 新房(昭之)監督の作品に参加していて覚えたことでもあるんですが、監督の大きな仕事のひとつは、その作品のフォーマットを作ることだと思うんです。そういう意味で、本作ではテンポ感をだすためにアイキャッチを使っていこうと最初から決めていました。アイキャッチを挟むと物語の圧縮が凄くききやすくなるんです。これまで自分が創ってきたなかで、そうした効果のあることがわかっていたので、その辺りが当初の目算としてありました。
—— 物語の圧縮というのは、観ていてダレないようにということですか。
大沼 そうですね。話の流れで場面をつなげる場合は、ワイプ(編注:場面を切り替える際、今の画面に次の画面が割り込むように入ってくること)でつなげたり色々あるんですが、いったん断ち切ってポーンと場面を飛ばす場合だとアイキャッチかなと。次シーン、頭に場所みせのロングを入れなくてすんだり、アイキャッチには色々と効用があるのですが、やはりテンポを作りやすくなるのが大きいんですよね。黒コマとかでも代用はできるんですが、この作品でそれをやると味気がないですからアイキャッチにしています。ただ、本作でアイキャッチを入れるのは絶対の決め事ではないんです。シナリオにはアイキャッチのことは全然書いてないですし、各話のコンテの方にお願いするときにも、「ここで、こういうアイキャッチを入れてほしい」とはお話はしていなくて。

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—— そうなんですか。
大沼 「シナリオ上で場面の切り替えがあったときには、できればアイキャッチを入れてください」という感じですね。また、「入れることで(キャラクターの)気持ちが切れるような場面には使わないでください」ともお話しています。漫画の単行本を読んでいると、話数と話数の間に、ちょっとした一コマ漫画みたいなものがありますよね。その一コマ漫画のように、場面と場面の幕間をアイキャッチで切り抜いていけたらなというイメージで考えているのですが、なかなか皆さん難儀してまして、アイキャッチは自分が手を加えさせてもらっていることが多いです。最初のうちは今お話したようにテンポを作るためという目的がメインだったのですが、アフレコが始まったらアイキャッチに思わぬ効果が生まれてきたんです。
—— どんな効果があったのでしょうか。
大沼 音響監督の郷(文裕貴)さんが「アイキャッチには全CUT声を入れますよ」と最初に宣言してくださったんですよね。しかも、ほぼほぼ全部アドリブで(笑)。これが非常に面白いことになったんです。アイキャッチの絵にどんなセリフ入れるかという大喜利に近いノリになって、楽しい答えが色々でてきたんです。カレーでいうところの福神漬けというか、あくまで添え物だったアイキャッチが、自分が思っていた以上に作品のアクセントになってくれたなというのが正直なところです。

ビジュアルディレクターの仕事

—— 4話では、格闘ゲームのように体力ゲージが減っていくアイキャッチが連続して出てきましたよね。ああいう遊び心のあるものが多いのも観ていて楽しいです。
大沼 そう言っていただけると嬉しいです。アイキャッチが凝った感じになっているのは、ビジュアルディレクターさんの力が非常に大きいんですよ。

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—— ビジュアルディレクターがどんなお仕事をしているのかは、ぜひ伺いたいと思っていました。柏原進さんと新谷優子さんのお2人がクレジットされていて、他の作品では2DCGデザインなどを担当されていますね。
大沼 SILVER LINK.の中で、テクスチャーなどをずっと担当してこられてきた方です。『あんハピ♪』ではデザイン的な要素が多くなることが始めから分かっていたんですが、キャラクターデザインやプロップデザインの方にお願いするには細かくて量が多い。かといって各アニメーターさんにお任せして描いてもらうと一定品質になりづらい。そうした事情もあり、デザインのセンスのあるお2人に統括してみていただこうと、本作ではビジュアルディレクターとして立っていただいています。制作全体のことでいうと、美術さんには今回水彩調のふわっとした世界観で描いていただいていて、普通の美術に比べると凄く手間がかかっているんです。なので、デザイン的なものはビジュアルディレクター、水彩調のものは美術という風に棲み分けをしていただいていて。けっこう贅沢なやり方をさせてもらっています。
—— ビジュアルディレクターは、具体的にどんなところまでデザインされているんでしょうか。
大沼 アイキャッチまわりは、ほぼ全部お願いしています。サブタイトルもそうですし、本編にでてくる小物についても部分部分でお願いしています。アイキャッチのキャラクターは作画の方に描いてもらっていますが、オープニングにでてくるダルマのような記号化されたものについてはデザイン込みで描いてもらっていることが多いです。内容については、こちらから大枠で要望はだしていますが、ほとんどお任せですね。4話の格闘ゲーム風アイキャッチも、ダビングで音がついたものに対して、フィニッシュワークとしてアドリブでワーク込みで入れていただいています。
—— ダビング後に、ビジュアルディレクターがアドリブで絵をいれることもあるんですね。
大沼 コンテの内容やダビングで入った音から、その意図を読み取って、表現していただいているという感じですね。こちらとしては、ほとんどお2人にお任せしちゃっていることが多いです。

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—— コンテの段階で「アイキャッチはこういう内容の絵」と描かれたうえで、お任せしているんですか。
大沼 ある程度はっていう感じですね。例えば、3話のアイキャッチにでてくるイメージ背景にイカを使ったものがあるんですが、あそこなんかはコンテ段階ではイカとは描いていなくて、ダビング後のセリフに引っかけてああなっているんです。自分も上がってきたものを観て「ああ、イカに引っかけているのか」と(笑)。そんな風に、独自に情報を取捨選択していただいたうえでデザインしてもらっています。
—— 絵の方もアドリブに近い作り方をされているんですね。
大沼 ビジュアルディレクターのお2人からは楽しんでやっているというお話をいただけているので、けっこうノッてやっていただけているのかなと。キャストとスタッフ間だったり、スタッフ同士だったり、色んな方のパスが通っているおかげで華やかな画面になっていて嬉しく思っています。

本編に使う要素は必ずオープニングに入れたい

—— オープニングの話も聞かせてください。とても楽しげな感じで何度も観てしまいます。
大沼 有り難うございます。自分自身、楽曲をいただいて思ったんですが、耳に残るというか頭に残るというか、クセになりますよね(笑)。曲自体は明るいんですが、ちょっとモヤッとするところもあって、何度も聞き込んでいただければ分かっていただけると思うんですが、おそらく狙って不協和音的なものも入っている気がしたんですよ。そこも面白かったんです。
—— 能天気な明るさ100パーセントの曲ではない、ということですか。
大沼 『あんハピ♪』という作品のカラーを楽曲であらわそうとすると、こんな風になるのかなと。なので、最初に曲だけいただいたときは自分の中で消化できなくて、歌が入って「なるほど」と思い、間の手まで入ってよりクリアになったという感じです。

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—— そんな楽曲に、どのように映像をつけていこうと思われたのでしょうか。
大沼 可愛いらしいというのはマストとして、楽曲のクセになる感じから、何となくボーッと観ていられるものを作りたいなというのがありました。前半はボーッと観られる感じにして、後半はキャラクター達の元気な感じを押していこうかなと。そんな風に、ちょうど真ん中辺りで切り分けています。
—— 真ん中というのは、外れクジを引いた5人の絵が映るサビに入る直前のところですね。
大沼 あのへんですね。楽曲の展開が激しいので、映像もそこにきっちり合わせていきながら作っていこうというのは大きかったです。ただもう5人みんなを登場させて、踊らせたりもしているので、物量的にはかなり大変でした。現場の皆さんにご協力をあおぎつつ、色々と怒られたりもしながら……(笑)。
—— (笑)。
大沼 ただ、そのぶん良いものに仕上がったんじゃないかと思っています。自分としては楽しい作業でした。
—— SDキャラが転がったり、間の手にあわせて画面外から飛び出してくるのも可愛かったです。これまでの作品でも、大沼監督はSDキャラを上手に使われるイメージがあります。
大沼 単純に、自分が好きっていうのはひとつありますね。あと、本編中でもSDキャラは色々と可愛らしく使っていこうと思っていました。本編に使う要素は必ずオープニングに入れたいですし、そうした要素を圧縮していってできるのが作品の顔であるオープニングだとも思っていますので。各キャラの特徴も必ず入れるようにしています。
—— オープニングにも、ビジュアルディレクターのお2人が2Dワークとしてクレジットされていますね。
大沼 オープニングを作る時から、デザイン的な要素も見どころとして作りたいなと思っていました。オープニングに関しては、エッシャーっぽくというか、騙し絵のような方向性でというオーダーはさせていただきましたが、あとはデザイン含めて全部お任せでお願いしました。

全てを受けとめてくれるエンディング

—— エンディングは、『ケイオスドラゴン 赤竜戦役』監督の松根マサトさんが手がけられています。どんなやりとりがあったのでしょうか。
大沼 松根さんは何本もオープニングやエンディングをやられている方ですので、打ち合わせのときは空気感みたいな部分だけをオーダーさせてもらい、あとは松根さんのセンスでまとめていただいています。自分もよくやりますが、エンディングの途中で入ってくるタイポグラフィ的な部分は松根さんが得意とされているところなんです。非常にいいものをあげていただいたなと思っています。
—— オーダーされた空気感というのは、本編を観た視聴者をクールダウンさせるというようなことですか。
大沼 楽曲のイメージ自体がそうですし、あとやっぱり本編を受け止めてくれる満足感みたいなところでしょうか。しっとりとした話数、みんなでバタバタする話数という風にバリエーションが違っていても、全部最後でエンディングが受け止めて、出力としては同じ気持ちにしてくれる。楽曲そのものが、そうした部分を大事にしていただいていて非常に良かったと思います。

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—— 話数によっては、本編の途中からエンディング曲がかかるときもありますよね。
大沼 楽曲をいただいて、本編に前乗りすると非常に気持ちいいだろうなと思ったんです。実はエンディングの入り方には3パターンあります。これも松根さんにお願いしていたのですが、エンディングが入るタイミングは3つポイントをもうけていて、映像をそのポイントで切り分けられるようにしてほしいというお話はさせていただています。どのポイントからエンディングに入っても気持ちよくなるような組み方にしてもらっています。どこから入るのが一番この話数にとっていいんだろうと取捨選択できるようにできて有り難かったです。
—— エンディングの入りがいい作品は、見終わった印象が凄くいいですよね。
大沼 本当に、話数全体を凄く引き立ててくれますよね。特に5話みたいなお話などは、エンディングが気持ちいいところで入ると、いいものを観たっていう感覚が残るんじゃないかと思っています。前々からやってみたいなと思っていたので、今回やれてよかったです。オープニングでテンションを上げてもらって本編を観て、最後は綺麗な余韻でフェードアウトしていただく。楽曲や映像の力でそこが上手くきまると、「ああ、フォーマットの力は偉大だな」と思います。ただ、だからこそ、フォーマットを崩すときの面白さというのもあるんですよね。オンエア後半では、そういった部分も押していこうと思っていますので、楽しみにしていてください(笑)。

Official Website
アニメ『あんハピ♪』公式
http://anne-happy.com/

Soft Information
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(C)琴慈・芳文社/あんハピ製作委員会

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