アインズ様は1カットで敵を倒すんです
『オーバーロード』監督 伊藤尚往(第2回)

第1回に引き続き、伊藤尚往監督に『オーバーロード』の制作法について伺う第2回。今回は脚本、演出、音響といった、より具体的な制作のポイントについてお話いただいた。

Profile
伊藤尚往 Naoyuki Ito

竜の子アニメ技術研究所に入社。その後東映アニメーションへ。原画マンとして活躍し、後に演出家として『おジャ魔女どれみ』『ワンピース』『ちはやふる』など様々な作品に携わる。監督作としては『Kanon』(東映版)『イリヤの空、UFOの夏』などがある。

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役者さんの芝居は聞きどころだと思っています

—— 別のインタビュー(編注:漫画版『オーバーロード』第2巻巻末インタビュー)で読んだのですが、脚本会議には原作者の丸山くがねさんもいらっしゃったそうですね。
伊藤 そうなんですよ。丸山先生はとても良い方で、あまり「ここはこうだ!」という話をされたことはないんです。温かい目で見守っていただいたのですが、「この分量だと原作のこのセリフは削らないといけない」という調整を中心に脚本会議はやっているので、そこは申し訳ないと思いました。土壇場で僕が「これを入れたいから、やっぱりこっちは削らせてください!」という話をしたこともあったので、何度かごめんなさいをしましたね……。ただ、そんな寛大な対応をしてくださったわけですから、僕としてはなんとかお返しできるような作品にしたいと思っています。丸山先生が「ええ?」と言ってしまうものにはしたくないですね。
—— やはり脚本制作は、原作をどう削っていくかがポイントになったのですね。
伊藤 いや……自分としては、逆に短くしてしまったセリフを戻す作業が大変だったかもしれません。シナリオはほとんどの場合、最初にペラ枚数で調整してしまうんです。これぐらいの枚数であれば、内容はこのぐらいだろうと予測して作るんですよ。ただ、実際はセリフとト書きのパーセンテージで、いくらでも調整は効くんですよね。ですから、短くしたセリフを戻す作業が発生することもあるんです。それは大体、原作のセリフの前後がないと成立しなかったり、セリフをフルに使ったほうがハッタリが効くというものを、原作に準拠したものにしていくんです。そこは思った以上にポイントになった部分ですね。
—— なるほど。本作全体の演出面についてはいかがですか? こういう感じにしていきたいといったプランニングは監督の中にあったのでしょうか。
伊藤 主人公が骸骨ですし、口が動かないので表情が見えないというのがまずありますよね。ですから、逆に周りのキャラクターの表情芝居を派手にしようと思っていました。
—— ああ。アニメらしさを足していかれようとした。
伊藤 そうですね。それに加えて、「いかがわしさ」みたいなものを入れていこうと(笑)。階層守護者のパートとしてそのあたりは作って、それとは別に人間側は人間側で、地に足をつけて生きているようなニュアンスを作る。そうすると、ミスマッチな感じが出て面白くなるのではないかと思ったんです。
—— それはまさに第1話〜第4話の構成ですね。第1話、第2話は確かに階層守護者をフィーチャーされていました。
伊藤 構成上、あそこで立てておくしかないんですよね。その後はちょこちょことしか出てこなくなるのですが、階層守護者はメインキャラクターなので、そこを飛ばすわけにはいかない。守護者達が暴走するようなニュアンスを取り入れつつやってみました。
—— 最初から飛ばされていましたね。キャラクターの表情も相当崩れますが……。
伊藤 できることをやろうとした結果ですね。ただ、アルベドとシャルティアは元々の正体のこともあるので、どこまで崩して大丈夫なのか線引きが難しかったです。

第2話より。アルベド、シャルティアが互いに牽制しあうシーン。アルベドの端正な顔が大きく崩れる。

第2話より。アルベド、シャルティアが互いに牽制しあうシーン。アルベドの端正な顔が大きく崩れる。

伊藤 第1話は静かなところから始まっているじゃないですか。基調としてノスタルジーっぽい雰囲気というのはあるのかなと思ったんです。感傷的になるよう狙っていたのですが、音楽が乗って想像以上にセンチメンタリズムになって、自分でも驚きました(笑)。
—— あの悲哀は素晴らしかったですね。
伊藤 原作ですと、割と唐突気味に「この世界は何がおこっているんだろう?」という(アインズの)疑問から入るので、そこに感傷的なラインを入れることで、雰囲気が出るかなと思ったんです。
—— あれだけでひとつの話になりそうですね。
伊藤 そうですね。でもそれだけだと第1話として成立しないので、派手目な要素を少しずつ盛り込んで作りました。ただ、インパクトだけで見せていて、キャラの描写は基本的にしていないので、それを第2話で補完するようなかたちにしたんです。それで、第3話で世界を広げる。このあたりはシナリオの流れに沿って作っていきました。
—— 本作は「俺TUEEE系」作品などと言われたりもしますが、続く第4話は、アインズの圧倒的な強さが見せつけられますよね。
伊藤 あれはなかなか大変でした。ガゼフのアクションをきちんと描くのが大事でしたね。そうでないと、ニグンの強さが分からないので。「結構凄いんだぞ」という武技連発は、見せ場にしないと成立しないんです。本来はそこで無双して敵をやっつけて終わるわけですよ。それぐらいヒーローなキャラクターが苦戦して、「ダメだ」と言った時に、ポッと出の奴があっさりやっつけるというのが、この作品のポイントだと思うんです(笑)。そこは溜めとして作っておけば、あとはしめたものというかね。だから作画カロリーが高いのは、どうしてもガゼフになるんですよ。アインズが出てきてしまうと、基本敵を1カットで倒してしまうんです。
—— (笑)。なるほど。そのあたりにアインズの強さを表現する秘訣があるんですね。
伊藤 とにかくアインズについては、カット数を使えば使うほど弱く見える気がするんです。最初に天使をやっつける時は、さすがに1カットで全部を倒しても訳が分からないので、トリプルアクション(編注:同じカットを三度繰り返す演出法)にしていますが……。でもトリプルアクションなので、実際は1カットとほぼ同じ扱いなんですね。それ以降は基本1カットでやっつけて、あとはやられた者を見ているリアクションで持っていくというニュアンスですね。
—— 凄くよかったと思います。ブラックホールで敵が消えた後に夜になってしまった表現も秀逸でした。
伊藤 あれは美術さんが綺麗に作ってくださって、立ったということもあります。
—— 美術はベテランの池田(繁美)さんと、丸山由紀子さんですよね。
伊藤 そうですね。黙っていても美しい背景があがってくるので、下手なことを言わないほうがいいんじゃないかと(笑)。
—— アインズの強さを演出するという意味では、この回はニグンのお芝居もよかったですよね。
伊藤 なんであんなところに子安(武人)さんを持ってくるのか、僕自身びっくりしました(笑)。キャスティングに関しては、「この人にしました」という話は来るのですが、こちらで「この人にお願いしたい」と言って宛てていただいている方はいないんです。音響の方がキャスティングしてくださっているんですね。ただ、想定以上の芝居をしてくださる方が多くて……(笑)。クレマンティーヌの悠木(碧)さんは、ああいう芝居ができるという話を聞いてはいたのですが、いざやってみたらとんでもないテンションで、これも驚きました。しかもそれをナチュラルに演じられるんですよね。アルベドの原(由実)さんのテンションの高いお芝居にも圧倒されましたし、階層守護者にはそれぞれ思い入れがあります。そうそう、ちゃんとお聞きしたわけではないのですが、実はナーベラル役の沼倉(愛美)さんが、かなり原作を読み込んでいらっしゃるようなんです。非常に細かいニュアンスの芝居をしてくださって、ちょっと感動しましたね。
—— 今挙げていただいた方以外の役者さんも含めて、かなりの芝居アニメになっていますよね。
伊藤 役者さんの芝居は、こちらも聞きどころだと思っています。漆黒の剣の面々も実力と人気を兼ね備えた役者さんにお願いできましたし、本当に一言だけ言って去っていった置鮎(龍太郎)さんも面白かったなあ。
—— ああ。たっち・みー役の。千葉(繁)さんが準レギュラーで、しかもセバスという誠実なキャラで出ているというのもびっくりしますね。
伊藤 千葉さんからは「こんな真面目な役やったことない」というお話をいただきました(笑)。「普通のセリフばっかりだ!」って。
—— ああ、いい話ですね(笑)。
伊藤 「むしろだからこそ緊張する」ともおっしゃってくださいましたね。役に対して真剣に取り組んでくださっていると感じます。今回は役者に恵まれましたね。
—— 声優さんへのディレクションをされたりもするんですか?
伊藤 基本的に音響監督の郷(文裕樹)さんが繋いでくれますので、どちらかというと我儘を言う役ですね(笑)。それを郷さんが一所懸命役者さんに伝えてくださるんです。あとは音響関係だと、音楽についてはかなり郷さんの引いてくださった(音楽)ラインに注文を付けてしまうこともありました。ごめんなさい……。
—— 音響監督さんが付けてきたラインに対して、こっちのほうがいいんじゃないかという逆提案をされると。
伊藤 そうですね。細かいギャグの前に曲は終わりたいといった、ニュアンスを含めてのコントロールができればと思っているんです。もちろん、提案させていただいた上で、最終的には郷さんにお任せしています。

想定以上のものとなった3DCG

—— 今回は3DCGもかなり目を引きますね。
伊藤 そもそもアインズ様自身も3Dでチャレンジしていいのではないかという話もありました。3Dを使っていこうという判断をしたのは、橋本さん(編注:マッドハウスのアニメーションプロデューサー、橋本健太郎氏)だと思います。自分としてはディレクターが籔田(修平)さんだということで、安心感はありました。籔田さんと最初に仕事でご一緒したのは『アイアンマン』で、もうかなり前ですので、そのお仕事ぶりは知っていたんです。
—— 籔田さんといえば、『進撃の巨人』の3D監督も担当された方ですよね。
伊藤 ええ。「芸風」は知っていますのでね(笑)。モチベーションのもっていき方が凄く面白い方なんですよ。さらにこちらが想定する以上のクオリティの高いものを作ってくださるので、大変ありがたいです。CGに関しては個人的にも、これまで色々とやっていたので、今回も上手く使っていければと思っていました。そもそも最初にCGと絡んだのは、シリーズの監督をやった『Kanon』のオープニングだったんですよ。
—— ああ、ファーストカットからの風景がゆっくり回り込んでいく一連ですか。
伊藤 そうです。グリグリ回したいので、そこだけCGで作らせてほしいと言ったのですが、まだ黎明期だったので、CGガイドとして地面とグリッドと棒人間しかディスプレイ上にいないという……(笑)。
—— ああ。それで、カメラワークだけ付いている。
伊藤 そうなんですよ(笑)。それで、結構描き直したりもあったのですが、最終的には草原や雪をカメラが動くという大胆な絵が作れたので、それはそれで満足の行くものになったんです。「CGもいいものだな」と思えて、その頃から使えるならば使いたいと思っていたんですよ。やっていただけるなら、ある程度ちゃんとお任せして、他のことを我々でやるようにしようと。そういうかたちで上手くリソースを配分しているつもりです。
—— モモンを含め、アクションもかなり3Dを使われていますね。
伊藤 ええ。「アクションもやりたい!」と籔田さんが言うものだから……(笑)。「ぜひやってください! ちょうどいい塩梅でフルプレートの主人公がいます!」と。

第9話より。この大迫力のスケリトルドラゴンも3DCGで作られている。

第9話より。この大迫力のスケリトルドラゴンも3DCGで作られている。

—— 違和感なく、シームレスに作られているという印象があります。人によっては3Dと分からない方もいるのではないでしょうか。
伊藤 そうですね。ただ、フルプレートを動かすということは、最終的にやられる敵側もCGにしないといけなかったりしますし、コンテ段階で複雑な(CGと作画との)合成を想定したカットを作ってしまうと、それはそれで時間が足りないという話になるので、「こういうコンテにしておけば、こう作りやすいのでは?」というように、なるべく効率よく設計しているつもりです。例えば、第6話については、僕がコンテで触ったのはCGがらみのバトル系だけなんです。CGの人達が作りやすいようなカットに改修したんですね。だからよく見るとCGと作画が合成されているカットが意外に少ないはずです。
—— 基本CGはCGのみでカットを作るんですね。確かに作画との絡みがないほうが、2D作画との合わせもなくなりますし、作りやすくはありますよね。
伊藤 そうですね。(CG側との)やり取りが多いと、待ちの時間も増えてしまうので、その時間があれば、他の作業に割いたほうがいいじゃないですか。
—— ああ。だから「ここからここまでのカットを丸々一気に全部やってくれ」というほうが、効率がいいと?
伊藤 そのほうがコントロールが効くんです。あれもこれもやってくださいという話にしてしまうと作業が非効率になっていきますので、できるだけまとめてでお願いしたんです。そんなふうに、かなり作業の効率化には気を遣いましたね。

<最終回を読む>

Official Website
アニメ『オーバーロード』公式
http://overlord-anime.com

Soft Information
『オーバーロード』Blu-ray& DVD
第1巻 9月25日発売
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(C)丸山くがね・KADOKAWA刊/オーバーロード製作委員会