「生きること」の意味を描きたい
『デス・パレード』監督 立川譲(後編)

前編から続いて、立川譲監督に『デス・パレード』のメイキングを訊く後編。スタッフィングと技術面に踏み込みながら、さらに制作法をうかがった。

Profile
立川譲 Yuzuru Tachikawa
アニメーション演出家。日本大学芸術学部映画学科を卒業後、マッドハウスに入社。『牙』で演出デビューし、『チーズスイートホーム あたらしいおうち』で助監督に。その後フリーとなり、『BLEACH』などの演出で耳目を集めた。2012年にOVA『アラタなるセカイ』で初監督、2013年の「アニメミライ2013」で自身のオリジナル作『デス・ビリヤード』の原作・脚本・監督を務めた。

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力を入れたのは「絵としての作り込み」

―― 後編では、主に演出面についてお話をうかがいます。立川監督が本作を手がけるにあたり、演出指針として定めたことはありますか?
立川 あまり無駄なカメラワークを入れないでほしいという話をしました。FIXをベースにしているんです。そうしないと画面の作り込み以外の要素で見せることになってしまうので。ややもすると、300カット以上バーの中になってしまうんですよ(苦笑)。
―― そうですよね。
立川 ずっと同じ場所で芝居しないといけないので、通常の切り返しでやっていくと全部同じ絵作りになってしまうんです。絵コンテの段階で、キャラクターの心情にあったカメラの位置や、テンポにして欲しいとお願いしています。緊張感が保てるように構成してほしいと。
―― 2話の絵コンテは、『闘牌伝説アカギ ~闇に降り立った天才~』や『逆境無頼カイジ』監督の佐藤雄三さんですが、そうした心理戦の緊張感を出してほしいということもあって依頼されたのですか。
立川 実は元々の構成に、麻雀の話があったんですよ(笑)。それがオミットになって2話を担当していただきました。
―― 麻雀の話が実現していたら、それはそれで面白かったでしょうね(笑)。先ほど画面の作りこみを重視しているとおっしゃいましたが、今回は3Dレイアウトを取り入れられていると聞きました。そうした理由は、どこにあるのでしょう。
立川 まず、あのバーのある部屋が、作画で描くのが非常に難しいんですよ。微妙に広くて円形のホールで……カーブを描くのが難しくて。『デス・ビリヤード』の時は、若手アニメーターの育成という目的があったので、全員手描きで描いたのですが、あの画面を作るだけで、スケジュールの半分を食い潰すほどレイアウトだけで苦労したんです。TVシリーズで同じことをやったら間違いなく破綻しますので、今回は3Dでバーを作って、原画さんには役者の芝居を描くことに集中してもらったんです。そうした意図で、3Dレイアウトにしました。
―― そのやり方は、立川監督がこれまで参加した作品で経験していたものだったのですか。
立川 この作品の直前に参加した『残響のテロル』でも、長いシーンで使われるアジトなんかは3Dで起こしていました。
―― 『残響のテロル』では、助監督をされていましたよね。その経験は、本作に活かされているのでしょうか。
立川 そうですね、作品の方向性も近いですし(笑)。演出プランも、監督の渡辺信一郎さんとは近い気がしたんです。話をしていても「ああ、そうだな」と思うことも多くて。渡辺さんの仕事を間近で見てみたかったので『残響のテロル』に参加したのですが、自分の中でも凄く納得できる部分があってよかったです。
―― 演出プランが渡辺監督と近いというのは、具体的にはどういうところでしょうか。
立川 画面の作り方やカット構成といったところですね。『残響のテロル』も、FIXをメインに絵作りするような作品で、映画らしいアングルを使うんですよ。考え方としては実写寄りで、そういうところは似ていると思います。

スタッフィングとその作業

―― 本作ではキーアニメーターの役職がありますが、どういうことをされているのでしょう。
立川 作画面において、重要な部分を任されている人という意味合いです。
―― 3人のアニメーターがクレジットされていますが、それぞれの主な担当を教えていただけますか。
立川 戸倉(紀元)さんはエフェクトが上手な方なので、そういったカットが多いですね。各話でゲームの機械が出てくる時の煙のエフェクトといった部分です。エフェクト以外にも色々描いていただいてますが、メインはそういった部分ですね。石橋(翔祐)さんには、キャラクターの性格が出やすい、心情が高ぶった部分の原画をお願いしています。石橋さんが参加しているのは4話以降ですが、4話の後半でみさきが「ふざけんじゃないわよおおおっ!」と言いながら走って行くところや、そのあと糸に捕まって泣きながら喋っているようなところですね。小島(崇史)さんも同じように、キャラクターの心情が爆発する部分を多くやってもらっています。1話の後半でたかしが「俺の子じゃない! 他の誰かに決まってるだろ!」と身振りを交えて叫んでいるところとかですね。普段アニメではあまり描かれないようなシーンをやりたがる方です。
―― スタッフィングの話でいうと、演出チーフに『はじめの一歩 Rising』監督の宍戸淳さんが立っていますが、どのような役回りなのでしょうか。
立川 最初は助監督的なポジションでという話だったのですが、宍戸さんほどのキャリアのある方が、新人監督である自分の助監督というのもしっくりこないという話が出たんですね。助監督的な部分よりも、ポイントで演出的な部分での手助けをしていただくことが多かったので、演出チーフというかたちになりました。
―― 宍戸さんは、具体的にはどのようなことを?
立川 各話の絵コンテ・演出をお願いしたり、自分が他で忙しくなってきた場合の各話チェックのフォローもやっていただいています。その他、たまに助監督としての仕事もしていただくというかたちです。
―― 『デス・ビリヤード』の時もそうでしたが、本作でも美術が非常に緻密ですね。
立川 美術監督の平柳(悟)さんは、『デス・ビリヤード』の時もやっていただいていました。前作はイースターでお願いしていましたが、今は独立して「平九郎」という美術チームを作られています。今回は『デス・ビリヤード』の時には映らなかった、バーの裏側などが出てきますよね。そういったものを作る時には新しいイメージをこちらから出して、話しあったうえで世界観に合うものにまとめていただいています。
―― 美術と3Dレイアウトの兼ね合いは、どうされているのでしょうか。
立川 クイーンデキムのバーに関しては、3Dでモデリングしたものにテクスチャを貼っています。3Dで作ることで、カメラを室内でグリグリ回せるようにしているんです。ですので、クイーンデキムの美術は、3Dから作った静止画に、データ上で美術の方がレタッチを加えているんです、他の場所に関しては、いちから描いてもらっています。
―― 『デス・ビリヤード』で若手原画だった村上泉さんが、プロップデザインをされていますね。
立川 村上さんは、もともと独創的なセンスをもっているんです。小物のデザインや、ギンティのバーのデザインを担当していますが、突拍子のないアイディアを出してもらっています。
―― こけしだらけのギンティのバーは面白かったです。
立川 ギンティのバーには、大きな手の像が置いてあったりするんですが、そのアイディアも彼女から出てきたものなんですよ。原画でも参加していますが、動きも面白いものを描くんです。

こけしがズラリと並ぶギンティのバー(6話より)

こけしがズラリと並ぶギンティのバー(6話より)

―― 同じくプロップデザインをやられている秋篠Denforword 日和さんとの区分けは、どうされているのでしょう?
立川 秋篠さんには、劇中に登場するゲームのデザインをメインにやってもらっています。村上さんはスタジオに常駐しているので話しながらできるんですよ。秋篠さんはご自宅で作業されるので、ダーツの台をというように、分かりやすく発注できるものをお願いしました。
―― 音楽は、今回、林ゆうきさんが担当されていますね。
立川 これは僕の方から林さんにお願いしたいと言いました。林さんが音楽を手がけたドラマ『ストロベリーナイト』の音楽が好きだったので。音響監督さんに音楽メニューを作っていただいて、僕の方からはこういうイメージでというのを伝えています。

オープニングとエンディング

―― 話題のオープニングについてもうかがわせてください。本編とは違う、明るい内容にした理由はどんなところに?
立川 暗い話が多いのでオープニングだけでも明るく楽しくしたいというのは前から話していたんですよ。
―― 観ている人の期待を良い意味で裏切る、飛び具合だったと思います。
立川 有り難うございます(笑)。仮に、前作の『デス・ビリヤード』にオープニングをつけるとしたら暗い映像になると思うのですが、そういうイメージは払拭したかったんですよ。
―― なるほど。本編のイメージとは切り離したかったということですね。
立川 そうですね。本編を観て落ち込んだらオープニングで元気をだしてもらって……。
―― (笑)。これは先に曲ありきで、イメージを固めていったのでしょうか。
立川 こういう感じにしたいというイメージが先にありました。その後いただいた曲のイメージもかなり近かったので、膨らんでいったものですね。
―― キャラクターが真剣に踊っているのが面白いですよね。
立川 裁定者達にあの曲を聴いてもらった、という設定です。だからみんな真剣なんですね。キャラクターの中には嫌がっているのもいますが、それも含めてそれぞれ性格を活かした踊り方をさせています。
―― エンディングについても聞かせてください。さきほどお名前のでた『残響のテロル』の渡辺信一郎監督が絵コンテ・演出を手がけていますね。
立川 『残響のテロル』のスケジュールが押したこともあって、渡辺さんからは「何かあったら手伝うよ」と言っていただいていたんです。本編はボリュームもあるし、渡辺さんには次のお仕事があるので、エンディングだったらやってもらえるのではということになって。この作品の本質の部分をお伝えして、コンセプトをまとめていただくようなかたちで映像を作っていただだきました。

渡辺信一郎監督が手がけたエンディング

渡辺信一郎監督が手がけたエンディング

―― オープニングもそうですが、この作品はギャグも冴えているように感じます。ギャグ回の6話「クロス・ハート・アタック」も非常に面白かったのですが、立川監督はギャグについて思うところはありますか。
立川 意識して「こう笑わせよう」と思っているというより、自分が好きなことをやったら自然とああなったという感じです。誰かに言われたのですが、僕のギャグはシュールらしいんですよ。笑えないタイミングでギャグが出てくるのが好きで。『デス・ビリヤード』の時も、ガラスにぶつかっておじいさんの入れ歯が飛んだりして。本作の6話では、マユが落下して針に刺さる直前がギャグになっていたりして、シリアスとギャグの落差が好きなんだと思います。頭からずっとお笑いのテンションだと、マンネリになるじゃないですか。ギャグをやる前にはマイナスの要素を入れて、あえて落差を作って、そこで笑ってもらおうかなと。
―― デキムも結構おちゃめなところがありますが、それも落差を狙っているのですか。
立川 そうですね。それとデキムは可愛いところがあるので、そこはちょっと伸ばしてあげようかなと思いまして。
―― (笑)。本作では、デキムの変化もポイントになるのでしょうか。
立川 ええ。大事なところになると思います。
―― オンエアも終盤に入りつつありますが、最後に後半の見どころについて聞かせてください。
立川 『デス・パレード』では、人間の「生」を描いているつもりなんです。そのためには、何をもって「生きている」と言えるのか、という定義を作中で示さないといけない。僕自身は、それぞれが持っている資質や運命にあらがって、自分で選択していくことが、生きることだと思っているんです。そのあたりが、この作品の本質と関係してくるかもしれません。
―― 哲学的なテーマもはらんでいるのですね。立川監督は、普段から人間の生や死について考えられているのですか。
立川 いえ、滅多に考えません(笑)。

Official Website
http://www.deathparade.jp/

On Air Information
日本テレビ、サンテレビ、ミヤギテレビ、BS日テレ、AT-Xで放送中

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(C)立川譲/「デス・パレード」製作委員会