マッドハウスが放つオリジナルTVアニメ『デス・パレード』。人間の弱さと愛おしさが垣間見える奥深い人間ドラマと、それを支える濃密な絵作りが魅力の作品だ。文化庁の若手アニメーター育成プロジェクト「アニメミライ」をきっかけに生まれた、初のTVアニメである点にも注目したい。原作・シリーズ構成・監督を務めるのは、様々な作品で注目を集めてきた新鋭の演出家、立川譲。TVアニメ初監督でありながら、確かな演出力で作品を引っ張っていく氏に、気になる制作法をうかがった。
Profile
立川譲 Yuzuru Tachikawa
アニメーション演出家。日本大学芸術学部映画学科を卒業後、マッドハウスに入社。『牙』で演出デビューし、『チーズスイートホーム あたらしいおうち』で助監督に。その後フリーとなり、『BLEACH』などの演出で耳目を集めた。2012年にOVA『アラタなるセカイ』で初監督、2013年の「アニメミライ2013」で自身のオリジナル作『デス・ビリヤード』の原作・脚本・監督を務めた。
『デス・ビリヤード』からの変更点
—— 企画の話からうかがいます。本作はオリジナルで、立川監督はTVアニメ初監督。企画を通すのがかなり難しそうに思えるのですが、何が決め手になったのでしょうか。
立川 なんといっても、「アニメミライ2013」で制作した前作『デス・ビリヤード』のおかげですね。この作品がなくて、本当に通り一遍の企画書だけだったら通りづらかったと思います。完成した映像があるというのが強みになりました。企画にゴーサインを出して下さる方や製作委員会に対して、完成イメージが明確にあるのは大きかったです。
—— タイトルが、『デス・ビリヤード』から『デス・パレード』に変わっていますが、これはどのような経緯で?
立川 企画中の仮タイトルは、『クイーンデキム』だったんです。でも、やっぱり「デス」という言葉にはインパクトがあるじゃないですか。『デス・ビリヤード』の時も、「デス」と「ビリヤード」という、普通だったら一緒にならない言葉を繋げた馬鹿っぽいところが面白がってもらえたと思うんですよ。だったら、今回は「パレード」でいこうと。元々『デス・パレード』は、各話のサブタイトルのひとつだったんですが、作品タイトルに繰り上げになりました。パレードみたいに死者がいっぱいやってくるというイメージです。
—— 『デス・ビリヤード』から、今回あえて変えたところはありますか。
立川 『デス・ビリヤード』は1本の映画として完結させようと思っていたので、後半の結末にいたる部分は謎めいていたり、余韻を残すためにあえて伏せているところもあったのですが、TVアニメでそれを毎回やっていたら、視聴者に余計なストレスを与えてしまうだろうと思ったんです。なので、『デス・ビリヤード』の時は客観的な立ち位置にいた黒髪の女を、視聴者に近い立場にしたりして、観ていてあまりストレスが溜まらないような作りにしています。
—— 前作との大きな違いに、ギンティやノーナなどの新たな裁定者の登場があります。キャラクターを増やした意図は、今言われたようなTVアニメならではの配慮だったのでしょうか。
立川 それもありますが、メインに描こうと思っていたのは人間だけではなく、むしろ裁定者側だったんです。それでキャラが増えたんです。
—— ということは、オンエアの後半は裁定者中心の話になっていくのでしょうか。
立川 そこは楽しみにしていただければと思います。後半は作品のテーマに触れる話も入っていきますが、これまで通りのキャラのお芝居やゲームのやりとりのほかに、主人公であるデキムと黒髪の女の動向にも注目してほしいです。
1話が一番面白いのは良くないと思っている
―― 新しくキャラクターを作るとき、キャラクターデザインの栗田新一さんに、どんなオーダーを出されたのでしょうか。
立川 栗田さんの絵の持ち味はリアルなところにありますが、あまりリアルにし過ぎたくないという部分は『デス・ビリヤード』の頃から気をつけていました。キャラクターの表情が大きく崩れたり、がらっと変わるところがあるんで、あまり格好よすぎるより、少しバランスを崩したくらいのものにしようと。その方針は、本作でも受け継いでいます。
―― 本作はTVアニメ初監督になりますが、プレッシャーはありましたか?
立川 TVシリーズの作品には結構参加しているので、監督の仕事の大体の流れは理解していましたし、仕事量も把握していたはずなんですが、実際にやってみると思っていたよりも多かったです。
―― 原作者として、脚本も書かれているせいもあったのでは?
立川 そうですね(笑)。「あれ? こんなに多かったっけ」というぐらいやることが多くて、途中でプレッシャーに感じたことがあったように思います。
―― プレッシャーがあったと言われましたが、観ている側としては、初監督とは思えないほど抑制した作りになっていて、色々な意味で上手くコントロールして作られているなという印象をうけました。2話が1話の素材を一部流用して作られていたり、アクションがここぞというところで使われていたりして。
立川 そう言ってもらえると有り難いです。力の配分については、シリーズ構成の段階で、上げ下げがあるように決め込んでいったからですね。シリーズを通して、1話が一番面白いのは良くないと思っているんです。後半に向けてどんどん盛り上げていかないといけないので。どこかで盛り上がりポイントが出てきたとしたら、次はあえてテンションを落として、また盛り上がるように、というのは考えていました。最初から最後までハイテンションでいくのではなく、上げたり下げたりしてバランスをとるようにしています。
―― 今、脚本の話が出ましたが、シリーズ構成を立川さんがやられていますよね。「脚本協力」で、猪原健太さんという方がクレジットされていますが、どういう分担だったのでしょうか。
立川 脚本作業については少し特殊なやり方をしていて、最初の段階で、僕がその時思っていたストーリーラインを最終回まで一気に書いているんですよ。そこから1話に戻って脚本を作り上げていく時に、自分の中ではすでに話としてできてしまっているので、客観的な意見を言ってくれる人が必要になったんです。それはプロデューサーであったり、メーカーの方であったりするわけですが、そこに第三者としてライターの意見も入れてもらったほうがいいと思いまして、猪原さんに入ってもらったんですね。猪原さんは、僕の大学時代の友達なんですよ。ドラマの脚本を書いていて。
―― ああ、そうなんですね。
立川 仕事としてきたライターさんだと遠慮しちゃうかもしれないと思ったんですよ。言いづらいこともきちんと言ってほしかったので、彼に入ってもらったんです。
―― 猪原さんの意見をもらって直したところもあるのですか。
立川 猪原さんに入ってもらった段階で、構成はほとんど決まっていたので、ポイントとなる部分でアドバイスをもらって直した感じですね。3話までは、ほとんど最初のままいってるはずですが、後半は猪原さんも打ち合わせに参加していたんで、一緒にかなり深くまでやってもらいました。
キャラクターが出した答えは提示する
―― 2話「デス・リバース」は、1話の解答編のようになっていますが、あの構成は最初から考えていたんですか。
立川 いえ、あれは脚本を詰めている途中からです。解答編は、中盤ぐらいにもってくる予定だったんですよ。元々は黒髪の女がもうすでにバーにいるというところから始めていて。
―― 『デス・ビリヤード』と同じような展開ですね。
立川 でも、出会いから描いたほうがいいんじゃないかという意見が出て、途中で変わったんです。その時に2話を黒髪の女視点から振り返るように構成を作り直しました。
―― 1話の人物達がどう思っていたのか、2話で正解らしきものが提示されますが、他の解釈もいくらでもできますよね。それこそ、真智子が自分を信じてくれない旦那に絶望しきって虚無に堕ちたという風に考えることもできると思います。その辺りは、どのように考えられていたのでしょうか。
立川 まず、1、2話のセットで視聴者に提示したかったのは「この作品は全ての結果を伏せて、視聴者に答えを委ねているわけではない」ということだったんです。そこにいるキャラクター達が導き出した答えは、それが真実ではないにしても、ちゃんと提示しないといけないと思ったんですよ。黒髪の女が、「真智子が旦那さんをかばって、あえて悪者になったんだ」というようなことを言うじゃないですか。それが本当に「正解」なのかどうかが提示されてないだけであって、黒髪の女は自分なりに答えを出し、デキムはデキムなりに答えを出す。そして、その場にいたノーナはまた別の答えにたどりつく。
―― 確かに、各キャラクターが出した答えは、視聴者に提示されていますね。
立川 一方で、真智子がたかしを救おうとして言った嘘が、たかしのことを救えていたかというのは、怪しいところですよね。たかしは絶叫して泣き叫んでしまっているし、自分の子供を殺した罪からは解放できたかもしれませんが、逆に真智子と愛し合っていたこと自体は、たかしにとって嘘になってしまう。真智子は悲痛な表情で最期を迎えますが、その是非についての答えは出していないんです。でも、各キャラクターの考えや、現時点で分かる答えは出すようにしています。
―― 1、2話以外の前半の話は、基本的に1話完結ですよね。毎回ゲストキャラクターもゲームも変わり、1話完結で終わるTVアニメは、最近あまりないと思います。
立川 色々なことにチャレンジをしてみたいから1話完結にしている、といった側面はあります。コメディテイストを狙ったり、ちょっと恋愛ものに振ったり、色々できるのが1話完結の楽しみですね。そう多くない1話の尺の中で、起承転結を作れるのもいいなと思っています。観ている方も、えぐい話ばかり観させられてもゲンナリしてしまうでしょうから。
舞台のような会話劇とキャストの熱演
―― 各話で、立場の違ったゲストキャラクターが心情を吐露していくのが見どころのひとつですが、見せ方で意識されたことはありますか。
立川 脚本を作る時から、少し舞台に近いというか、お客さんがすぐ傍にいるような感じになるといいな、というのは意識していたんですよ。
―― 舞台の下にお客さんがいるというようなことですか。
立川 そうですね。それと、掛け合いでは先に言ったキャラクターの言葉を、相手がすぐに否定するような構成にしていました。お互いの考え方が違うから、「俺はそうは思わない」といった否定していくような会話にしたかったんです。どちらのセリフが正しいのか、ということには触れず、テンポで会話が成立するように気をつけていたんです。例えば4話だと、子沢山の芸能人である、みさきが言っていることは彼女のバックボーンがあるから言えることであって、それが引きこもりの洋介に伝わるのかというと、必ずしもそうではない。ゲスト対談で、キャストの森田(一成)さんと山口(由里子)さんもおっしゃってましたが、2人は会話しているようでしていないんです(編注:下記動画を参照)。お互い立場が全然違うので、一見会話をしているようにみえて、まったく気持ちは通じあっていないんですよ。
―― そう言われてみると、投げっぱなしの会話の面白さが随所にあるように思います。
立川 ゲストの声優さんには、今お話した芝居を舞台のような感じでやってもらったつもりです。この作品自体、密室劇でもありますしね。芝居の掛け合いの中から、感情を引き出していくというか……。さながら声優合戦のような様相でしたね。プロの声優さんに要求すると様々な芝居を引き出すことができるので、自分のディレクションとしては、そういったところに挑戦しました。音響監督の本山(哲)さんも『デス・ビリヤード』から続けてお願いしているので、方向性を理解していただいてフォローしてもらっている感じです。「人間の生」を描く作品なので、声優さんの熱演は大きな見どころになっていると思います。
Official Website
http://www.deathparade.jp/
On Air Information
日本テレビ、サンテレビ、ミヤギテレビ、BS日テレ、AT-Xで放送中
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(C)立川譲/「デス・パレード」製作委員会