「ミステリーより、キャラクターが重要だった」
『ハルチカ 〜ハルタとチカは青春する〜』監督 橋本昌和

2016年1月より放映が開始され、好評のうちに最終話を迎えたテレビアニメ『ハルチカ 〜ハルタとチカは青春する〜』。原作は初野晴の小説で、吹奏楽部の穂村千夏(チカ)と、その幼馴染の上条春太(ハルタ)が、普門館出場を目指しながら日常で起こる謎を解き明かしていくミステリーだ。ここでは、本作がどのような意図で制作されていったのかという部分を中心に、橋本昌和監督に伺った。
(※この取材は最終話についても触れています。若干のネタバレ要素があることを、予めご了承ください)

Profile
橋本昌和 Masakazu Hashimoto

アニメーション監督、演出家。主な監督作品に『レイトン教授と永遠の歌姫』『TARI TARI』『ソウルイーターノット!』『クレヨンしんちゃん オラの引越し物語 サボテン大襲撃』などがある。

49-hashimoto-top

アニメにはアニメなりの見せ方がある

—— 『ハルチカ』の監督になられた経緯からお話いただけますでしょうか。
橋本 経緯ですか……ある日堀川さんから原作を渡されて、読んでみてくれと。それで面白かったですと伝えたら、監督をやらないか? というような……そういういつもの感じです(笑)。
—— 今、面白いというお話がありましたが、どんなところにそれを感じましたか?
橋本 一番はキャラクターですね。原作はミステリー小説ですが、そこに特化した面白さではなく、謎に対してキャラクターが絡んでいくという部分に面白みを感じたんです。なかでも、チカちゃんには不思議な魅力を感じました。凄く良いキャラだと思うんですよ……。馬鹿ではないんだけど、賢くもない、みたいな。元気なんだけど落ち込むこむ時は落ち込むし、喜怒哀楽の波が凄く独特で好きなんですよ。演じられているブリドカット(セーラ 恵美)さんも、どことなくチカちゃんに似ている気がするんですよね。
—— ええ? どういうことですか?
橋本 喋り方とか……ブリドカットさんの素の部分がにじみ出ている気がして……あ、いや決してブリドカットさんが、アホの子だと言っているわけではないですよ?
—— いや、それは今あえて言わなくてもいいのでは(笑)。
橋本 そうでした(笑)。『ハルチカ』のラジオ(ハルチカ〜ハルタとチカは、ラジオする〜)を聞いていても、謎解きが苦手だったりしますし。それと、彼女は凄く頑張り屋さんなんですよね。いろいろ準備もしてくるし、考えてもくる。でも、型通りではない面白さがあって凄く合っているなと。オーディションでそこまで分かっていたわけではないのですが、凄くチカちゃんっぽいなという印象があります。
—— なるほど。原作を読まれてアニメ化する際、困難を感じた部分などありましたか?
橋本 短い短編が一冊の中にたくさん入っていて、それぞれが長編にしてもおかしくないものなんですよ。初野さんもそこを圧縮して短編にしているとおっしゃっていましたし、それぐらい密度のある短編をお話にするというのが一番難しいところですよね。
—— 初野さんも、アニメ版についてアドバイスなどされるのですか?
橋本 ええ。割と本読みに顔を出してくださったりするので、いろいろお話はさせてもらいながら進めているんです。
—— 原作を脚本に落とし込むにあたっての、省略していかないといけない部分で気を遣われたのはどんなところでしょうか。
橋本 面白い部分はできるだけ省略したくないのですが、アニメに向かないところもあるんです。それをいかにアニメ的な魅力に置き換えていくかが大事でした。例えば第6話(『スプリングラフィ』)は、原作だと職員室で怒られているところから始まるんです。ドタバタが終わった後に怒られつつ、チカちゃんが話を聞き流しているシーンから始まるのですが(笑)、そのあたりはアニメにすると面白さを出しにくい。
—— チカちゃんのモノローグあっての面白さだから?
橋本 そういうことです。ですから、アニメでは小説冒頭シーンの前に起こったドタバタのほうからアニメにしているんですよ。そこから原作と繋げていきました。やっぱり小説とアニメは全然違うジャンルなので、そのまま置き換えて面白くなるかというとそう簡単なものではないなと思っています。
—— 今のお話とも関係しているかもしれませんが、第1話(『メロディアスな暗号』)はオリジナルエピソードになるのでしょうか。
橋本 ええ。謎のネタは、原作の最新刊「惑星カロン」からお借りしているんです。アニメ版は導入としての第1話が必要かなと。『結晶泥棒』(原作版の第1話)というお話自体は、僕も大好きなので、アニメでも見たいなと思ったのですが、原作だとト書きで紹介していくキャラクター設定をどう見せるかが映像では難しい。でも、キャラ紹介が溢れてしまうとアニメではお客さんがぽかんとしたままで終わってしまうので……。
—— キャラクターの人数も第1話から割と多いですしね。
橋本 今後物語を牽引する大きな柱となる草壁先生の過去についても、多少触れておかなければと考えると『結晶泥棒』の謎を入れるのは尺としても厳しい。じゃあ、チカちゃんが吹奏楽部に入部するところ……春から始めるのがいいんじゃないかとなったんです。
—— ああ。もう第1話から時季が違うんですね。ちなみに作品エピソードの時系列は原作通りなのでしょうか。
橋本 いや、原作の話を入れ替えている部分もあります。後半のエピソードを間に入れたりということもしています。例えば、第4話の『ヴァナキュラー・モダニズム』の話はもっと後の話なんですよ。
—— お話の入れ替えはどういう基準で?
橋本 一つは、アニメ版が全12話で収めないといけないという制約によるものです。原作のまま進めてしまうと、後半の面白いエピソードは入らない。原作のエピソードそれぞれに、アニメに向き不向きがあるので、できるだけアニメ向きのエピソードを入れたかったんです。あとはそのエピソードをできるだけ季節が飛ばないように調整しました。春の次のお話がいきなり冬だと、吹奏楽部はその間何をしていたんだ、ということになってしまうので。

魅力的なキャラクターを生み出すために

49-hashimoto-bamen1

—— 取材冒頭で「原作の魅力はキャラクターにある」とお話いただきましたが、キャラクターデザインについてのご苦労はありますか。
橋本 キャラクター原案のなまにくATKさんの特徴のひとつは目だと思うんです。その印象をできるだけ再現するというのが目標でした。西田(亜沙子)さんがアニメーション用に改めてキャラクターデザインをされているのですが、(なまにくATKさんの)画集を買ったりして、絵を物凄く研究されていたんです。そこで目をどう活かすかというところをご自身の中で昇華していただいて。あの目はとても情報量が多いんです。具体的に言うと色数が多い。だからロングのカットでキャラクターが小さくなって目の中を省略すると、色が変化して急に目の印象が変わってしまうことがあるんです。アップ時でも微妙なパーツの面積の違いで目の印象が変わってしまうので、バランスを取るのに苦労しました。
—— 確かに、目の表現は凝っているなと思わされました。虹彩の美しい色合いであったり、あと目尻にギザギザのような線が入っているキャラもいますよね。
橋本 現場ではカミナリなんて言われていました。巷では「まつ毛Z」と言われていますね(笑)。あれも崩れると表情が変わって見えてしまうので、バランスを取るのが難しいんです……。
—— (笑)。キャラ表はなまにくさんではなく、西田さんの描いたものを使用されているんですよね?
橋本 そうです。メインは西田さんにお願いしていて、サブキャラに関しては総作監の大東(百合恵)さんがデザインしてくれています。
—— なまにくさんの絵があって、西田さんがアニメ用にデザインを起こして、そこからさらに大東さんが総作監を務めるというのは、かなり段階を踏んでいますよね。そういった部分でのメリットはありますか?
橋本 なまにくさんと西田さんが描くキャラクターは肉感的なのが特徴だと思うのですが、大東さんはずっとP.A.WORKSで作画をされていますので、芝居や日常感、生活感をキャラクターに乗せられるんです。そういう意味では、なまにくさん&西田さんのキャラにP.A.らしさが加味されているといいますか、スタジオとの親和性が出ているなと感じます。
—— P.A.WORKSというと、細やかな芝居も特徴かと思いますが。
橋本 そうですね。キャラが止まってPANだけで見せるような作品を、P.A.はあまり作らないんです。お芝居や会話、あるいは日常生活の中で、キャラクターを表現していくのがP.A.らしい作り方なので、そういう意味で大東さんがフォローしてくれているのがありがたいです。
—— 少し横道に逸れるのですが、その芝居で顕著なのがエンディングなのではないかと思うんです。凄く長尺の芝居をやられていますよね。
橋本 この作品で一番の肝になるのが、ハルタとチカの関係性の部分だろうなと思ったんです。物語が進行していない時も二人はこんな感じですよという、日常感が出るといいなと。
—— 二人は何事か会話しながら帰宅しているんですよね?
橋本 ええ。一応こんな会話をしていますというのはアニメーターさんに伝えたんですよ。それに合わせて芝居をさせてもらっているんです。
—— ちなみに何を話しているんですか?
橋本 それは……ご想像にお任せします(笑)。まあ、リアルにセリフがぴったり入るわけではないんですよ。エンディングの尺に合わせて圧縮しているので。
—— 気になります(笑)。しかし、あれだけ長尺の芝居だとかなり大変だったのでは?
橋本 大変です。あの一連をやってくださったのは酒井(美佳)さんという方なのですが、ありがたかったです。でも、本当は話数が進むうちに何回か芝居を変えたりしたかった……。
—— ええっ? いやいやいや……。
橋本 あのカットだけで数百枚は掛かってしまっているので、作り直すとはさすがに言えず(笑)。
—— (笑)。でも、それだけの労作なのに本編ダイジェストの絵だけが流れる話数もあるんですよね。
橋本 新規のキャラが出る話数はおさらい的にダイジェストで本編を入れておいて、出ない時には二人が歩いているという構造です。
—— 贅沢な使い方をされていますね。
橋本 部員をおさらいする話数と、今週は部員が増えなかったね……みたいな感じで二人で帰っていく話数があるんですよ(笑)。
—— キャラの話に戻りますが、学校が舞台にしては、かなり私服も多い作品ですよね。あれはどなたが考えているのでしょうか。
橋本 ほとんどの私服についても、大東さんがキャラクター性を考えた上でデザインしてくださっています。
—— どの服も可愛いですよね。
橋本 ええ。双子の香恵と紗恵はコートを交換しても成立するようにとか、こだわって設定を出してくれるので、助かっています。
—— 私服ではありませんが、制服時に、チカちゃんのお腹がチラチラ見えますね。あれはちょっとドキッとします。
橋本 (笑)。なまにくさんの制服設定が短いので、これは自然と見えちゃうなと……。まあ、チカちゃんの元気な部分の代名詞ということで、お腹が見えるぐらい動いているんです(笑)。
—— ちなみに、オープニングには杉光(登)さんの名前も、総作画監督補佐としてクレジットされていますよね。
橋本 基本的に杉光さんは楽器作監というポジションで立っていただいているのですが、色々描ける人なので、楽器の面倒を見ていただきつつ、それ以外でもお力を借りているんです。アイキャッチも杉光さんの絵なんですよ。研究熱心な方で、もともと楽器に明るい方ではなかったのですが、今は逆に凄く詳しくなっている(笑)。
—— 楽器も見られるし、キャラを魅力的に描くこともできる?
橋本 ええ。アイキャッチ含めて、楽器を持った素敵なキャラは杉光さんに描いていただくと映えるんです。

楽器表現とキャラクターとの密接な関係

49-hashimoto-bamen3

—— 楽器のお話になりましたが、本作は吹奏楽部が舞台ですよね。監督は過去『TARI TARI』という作品で合唱部のお話も制作されていましたが、そのあたりの経験は今回活きているのですか?
橋本 ジャンルとしての音楽という括りでは同じものかもしれませんが、そもそも合唱と吹奏楽は全く別のものですからね……。ですからまた違う挑戦だと思って臨みました。『TARI TARI』の経験で一番大きかったのは、浜口(史郎)さんという作曲家と信頼関係ができていたことですね。お任せしておけば大丈夫だと分かっていたんです。音楽的に信頼できるパートナーがすでにいる状態だったことが、作品としては大きなアドバンテージになったと思います。
—— 演奏シーンにこだわりなどはあるのでしょうか。
橋本 がっつり演奏していますということを描くシーンが作りづらいんですよね。尺の問題もあって、やるにしても凄く短い中で表現しなければいけないので……。最終話では、(吹奏楽の)大会に戻るんですよ。でも吹奏楽要素が全くないままに、いきなり最後が大会だとちょっと辛いなということはあるので、時々チカの演奏シーンを入れてあります。一話の、全く吹けなかったチカがここまで吹けるようになりましたというところから、練習してるところを想像していただけたらと。ちなみに、第1話の演奏は初心者感をだすためにフルート未経験のブリドカットさんに演奏してもらいました。
—— 演奏シーンそのものも、アニメで表現するのが大変なのでは?
橋本 大変です(笑)。楽器はメカなんです。『(機動戦士)ガンダム』で言うと、全員が違うモビルスーツに乗って、それぞれ操縦方法も扱い方も違う。しかも実在するので嘘がつけない。でも、どのキャラがどのメカに乗っているかというのも個性だったりするじゃないですか。楽器も同じなんです。それもあって、楽器を持っている絵はできるだけ印象的に入れるようにしました。
—— そもそも、『ハルチカ』は原作もミステリーが本筋ですよね。
橋本 ええ。吹奏楽をやっているシーンはほとんどないのですが、「吹奏楽のために何かをしている」シーンはあるんですよ。楽器が欲しい。部員が欲しい。そのために謎を解いている、みたいな。そこは削らないようにしないと、キャラクターの動機が変わってしまうんです。
—— だから、吹奏楽のシーンもおろそかにはできない?
橋本 そうですね。モチベーションの根底に吹奏楽をやりたいという思いがあるので、その気持ちをどれだけ残しながら謎解きに向き合えるか。そのバランスは毎回気を遣っています。「謎解きが好きなんだ」というホームズ的な考えではなく、むしろ「できれば謎は解きたくない」というのが大事かなと。
—— (笑)。謎は結果的に解いていたことが重要だと。
橋本 ええ。ハルタも意外と面倒臭がっているというか、チカに「謎を解きなさい」と言われても「ええ〜?」となる(笑)。まあ、本当は謎解きも好きなのだとは思うのですが。
—— 吹奏楽要素でいうと、演奏における芝居についてもこだわりがあるのかなと思うのですが。
橋本 そうですね。実際に高校生に演奏していただいて、映像で撮っているんです。それを見て参考にしながら作画してます。
—— ああ、そうなんですか!
橋本 最終話で演奏をする曲は、浜口さんに作っていただいているんですね。その曲を演奏して、収録してもらった様子を全部ビデオに撮らせていただきました。楽器ごとに参考にしながらやっているのですが……ただ、やっぱり演奏の仕方にも個性があるので。高校生の中には凄く動いて演奏する子と、おとなしく演奏する子と両方がいるので、そのままやるとキャラと合わないんですよ。カイユ(檜山界雄)なんかは、普段はおとなしめな子ですが、演奏の時は逆に抑えている思いが溢れるということにしたくて、動きが大きいんです。そこはアニメで足してもらったりしています。

大事なのはミステリーではない

49-hashimoto-bamen4

—— 演奏法以外にキャラクターの魅力を表現する際、気をつけていることはありますか?
橋本 原作はミステリーなので、長いセリフが多いんです。アニメでは、そのセリフ中に誰が何をしてるかということに気をつけています。シナリオだけ読んでいると分かりづらいので、絵コンテチェックの時にも結構直す部分です。
例えば、ハルタが真面目な話をしているときにもチカはドーナツを食べてるとか、ハルタが犬の話をしているときにチカはそろりそろりと犬に近づいたりとか。主にチカちゃんですね(笑)。
—— たまにデフォルメされたミニキャラクターが登場したりしますよね。
橋本 原作はチカ目線で物語が進むのでチカの面白いモノローグがたくさんあって、それがチカの大事な個性になってるんです。それをアニメでも会話の流れの中で少しでも表現したかったので。普通にモノローグとして入れると絵が止まってしまうので、ミニキャラを登場させました。シナリオでは「吹き出しの中のチカが喋る」となっていたんですが、「頭の中にいる本音のチカ」ということでああいう形にしました。
—— 演出的なところで、考えを整理している時にキーワードが文字で空間に浮かんだりもしますね。
橋本 そうですね。原作は凄く情報量の多い作品なので、セリフだけでなく絵のほうにも情報を振り分けたんです。文字にした方が面白さが伝わりやすいこともありますし。遊びとして入れているものも多くて、お客さんには流してもらってもいいんです。
—— ハルタが第3話(『退出ゲーム』)で台本を書くシーンがあるじゃないですか。カチャピンがどうとかっていう……。あの長い文章は面白かったですよね。
橋本 (笑)。内容は物語的には知らなくてもいいんです。ハルタがこんな面白いものを書いてますよというのをまとめて読みたい方は一時停止して見てくださいと。プラスαとして、ほぼ原作の通り入れました。たぶん、初野さんも遊び心で書かれたんじゃないかと思って、そう言う雰囲気が伝われば面白いなと(笑)。
—— 割と今言ったようなコメディ的なところが多いと思うのですが、橋本監督はそういった軽妙な感じのやり取りがお得意なのでしょうか。これまでの作品も比較的多かった印象なのですが。
橋本 テンポのいい会話は好きですが、どちらかというと原作のテイストを活かしているという部分が大きいですね。シリアスな展開でも決して暗くなりすぎない、そう言う部分が高校生らしいなと思うんです。シリアスになりすぎるとかえってリアリティがなくなる気がして、コミカルな要素でバランスをとっています。シリーズ構成の吉田(玲子)さんも、意図的に軽妙なものを入れてくださっている感はありますね。
—— 一方で、この作品は社会問題を孕んだようなテーマを入れ込むこともあると思うのですが。
橋本 最初は「テレビなのでテーマを変えた方が」という意見もあったんです。でも、高校生の中にいきなりベトナム戦争のことを放り込むのも、原作の個性の一つだし、それら事件もハルタやチカのキャラクター性に大きく影響していると思ったんです。そういう重たいテーマの中でこそ、チカちゃんの魅力が活きてくる部分もありますし。ただ、そういった社会問題を扱う時に、チカたちが大人っぽくなり過ぎないようにしています。彼女たちはあくまで高校生ですから。事件の当事者ではなく、それを経験してきた大人たちとの関わりの中で成長していく、その距離感が大事だなと。
—— キャラでいうと、ブラックリスト十傑が面白いなと思うのですが。あの辺のキャラ性みたいなものはどうお考えになっているのですか?
橋本 初野さんは、ちょっと人をびっくりさせたいみたいな部分を持っていらっしゃる方だと思うんです。だから、飛び抜けた個性を持ったキャラクターが次々と登場する。そう言う部分も魅力の一つですよね。できるだけそこもアニメで表現したいと思っていました。本当は10人そろった十傑と吹奏楽部が対決!みたいな話もやりたかったです(笑)。
—— 十傑のうちの萩本兄弟がいるじゃないですか。アニメ版ではオミットされていましたが、原作だと現実ではありえないような枕を開発していましたよね。
橋本 ええ。あの突き抜け方は、ちょっと不思議なんですよね。リアルな問題を扱いながら、同時にファンタジックなキャラクターが並列していて、凄く面白い。独特のバランスで書かれている作品だなと。
—— これまでのお話を伺っていると、やはり橋本監督はキャラに思い入れがあるのですね。
橋本 ええ(笑)。オープニングのラストカットで部員が増えていく様を追いかけているのですが、ああやって増えていく部員たちの裏エピソードなんかを考えるのも好きなんです。成島さんの友達がいつの間にか部員になっていたりするのですが、どういう経緯でそうなっていったかというのは、自分の中で考えてあるんです。
—— それは凄い(笑)。極端な話ですが、ミステリーそのものの筋とキャラクター性と、橋本監督としてはどちらが大事なんですか?
橋本 …キャラクター性ですね。
—— おお……そうなのですか。
橋本 ミステリーとキャラクターを分けて考えるのは難しいとは思うんですが、特にアニメの『ハルチカ』はミステリーを表現する作品か、キャラクターを表現する作品かと言われたら、キャラクターだと思うんです。謎解きの解説よりも、「ミステリーに関わる人たちがどう思っているか」ということをアニメにしていくのが大事なんだろうと。原作には様々な伏線や仕掛けがあって、ミステリーとしての魅力がたっぷりなんです。でもそれをそのままアニメで表現することは難しい。それを補えるのがキャラクターの魅力かなと。問題が解決した瞬間の表情を直感的に伝えられたり、絵と音の持つ強みがアニメとして面白くなる要素だと思います。
—— トリックそのものより、それにまつわる心情描写が大事ということですね。
橋本 ええ。原作の心情に関わる部分を優先的にチョイスしているんです。ですから、アニメ版はより心情描写に寄っています。むしろそうしていくことで、ミステリーとしての面白さにも繋がると思っているんです。

Official Website
アニメ『ハルチカ 〜ハルタとチカは青春する〜』公式
http://haruchika-anime.jp

Soft Information
『ハルチカ 〜ハルタとチカは青春する〜』Blu-ray& DVD
第1巻 発売中
価格:Blu-ray 7600円+税、DVD 6600円+税
Amazon

(C)2016 初野晴/KADOKAWA/ハルチカ製作委員会