らしく描こうとすると、「生」を自然と考える
「アニコ」キャラクターデザイン 金子志津枝

アニメーター・キャラクターデザイナーの金子志津枝さんに、「インタビューマガジンAniKo」のマスコットキャラクターをデザインしていただいた。名前は「アニコ」。サイトへの実装(年内を予定)に先立ち、金子さんの描いたデザインをまとめた小冊子『金子志津枝 アニコイラスト集』を、2017年8月11日(金)開催のコミックマーケット1日目、金子さんのスペース「金曜日 東シ-27b/Heart Poop」にて頒布する。小冊子には、約10000字のインタビュー、金子さんの作品リスト(ご本人のコメント付き)、多くの作品でタッグを組まれている渡辺歩監督のゲストイラストも収録。WEB用に再編集したインタビューを先行して公開する。

Profile
金子志津枝 Shizue Kaneko

アニメーター、キャラクターデザイナー。近年の主な仕事に、『謎の彼女X』(総作画監督)、『大きい1年生と小さな2年生』(キャラクターデザイン)、『彼女がフラグをおられたら』『モンスターストライク THE MOVIE はじまりの場所へ』(キャラクターデザイン・総作画監督)などがある。Twitterアカウント@QQQnekoQQQ(https://twitter.com/QQQnekoQQQ)。

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アニメに水彩・鉛筆画を取り入れる理由

―― この小冊子を見た方は、金子さんはこんな絵も描くんだと意外に思われるんじゃないでしょうか。
金子 逆に、こっちなんですけどね。ここに載せた絵が、私の素の絵に近いと思います。
―― 金子さんに、「インタビューマガジン AniKo」のマスコットキャラクターのデザインをお願いしたのは、『がをられ(彼女がフラグをおられたら)』のアイキャッチのお仕事がいいなと思ったからです。水彩や鉛筆のタッチを生かした1枚絵がとても魅力的でした。『逆転裁判(その「真実」、異議あり!)』『ファンタジスタドール』のエンディングでも似た手法を使われていましたが、なぜこうした方法をとられているのでしょう。
金子 どうしてでしょうね、あまり考えたことがなかったです(笑)。うーん……人に頼めるほど時間がなかったのも大きいです。あと、やっぱり効率がいいからだと思います。セル画の塗りって工程が多いじゃないですか。この手法だと、ひとりでほぼ全部できるんですよね。『逆転裁判』と『ファンタジスタドール』のエンディングをああいう絵作りにしたのも、タイトな制作期間のなかで、なろべく作業をひとりで完結させるためでした。原画を描き、動画や背景も一部描いて、(撮影で)指定ができないところも画像ソフトを使って自分で作業する。『逆転裁判』のときは、背景も全部自分で描きました。手描きにしている理由は、それがいちばん大きいです。『がをられ』のアイキャッチのときも、とにかく時間がなくて、塗りの作業を他の方に頼むと、ただでさえ本編の作業で悲鳴をあげている現場に、更に塗りの作業を入れることになってしまう。だったらもう、最後の2、3時間を使って自分ひとりで完結できるものを描いてしまえば、撮影にデータを入れるだけですみます。そういう効率と苦肉の策をふくめてが理由ですかね。
―― 『がをられ』では総作画監督をされていて、自分で原画を描くことができないから、アイキャッチを描くことで自分の色を出したいというお気持ちもあったのではないですか。
金子 それもあります。時間のないなかで雰囲気をだせるものを描くとなったとき、私の選択肢は手描きの水彩画や鉛筆画だったというか。時間と予算があれば他にも色々な手法が試せるのですけれど、制約があるなかで最大限の効果をだして自分の色や味も出せる。なおかつ早くできる。やはり、ここがいちばん大きいです。私は合理的なやり方が好きなので。ただ、非合理的に手数を加えないとならないことのほうが多かったりしますが(笑)。
―― アニメーターになる前から、鉛筆画や水彩画を描くのが好きだったのですか。
金子 いえ、(シンエイ動画に)就職するまではチラシの裏の落描き程度で、ちゃんとしているといえるものは描いてませんでした。高校のときは美術部にいましたが、UNOばかりやっていました(笑)。文化祭のために何か出さなくてはいけないときぐらいしか、絵を描いてなかったと思います。ただ、友達が美大受験をしたいと言い出して、それに付きあうかたちで数ヶ月、部活の延長線上で絵を描いたことはあります。ちゃんと絵に向き合ったといえるのは、それぐらいです。でも、絵は好きでした。
―― その時は、どんな絵を描いていたのですか。
金子 一応、課題はデッサンと水彩画でした。でも、それぐらいで、卒業後は特には……。面倒くさがりやなので、「やれ」と言われないと、なかなか描くところまで気持ちがいかないんですよね。私はほんとに普通の人なんですよ。
―― 部活の課題を通して、鉛筆画や水彩画の技術を学ばれたわけですね。
金子 学校の美術の先生に少し教えてもらった程度ですから、ほぼ独学みたいなものです。誇れるような技術は何ももっていません。ただ、お金をいただきますし、クライアントさんにも作品のファンの方たちにも一番満足していただきたいので、時間の中で頑張っています。やはりヘタすぎると自分でも恥ずかしいので。
―― でも、アニメ制作のなかで、ひとりで完結させる手段として、その技術を用いているわけですよね。
金子 小学生の頃に、学校でぺんてるの水彩絵の具が配られますよね。誰もが触れる画材が水彩じゃないですか。もしリキテックスが配られていたら、それで描いていたと思います。それぐらいの理由です(笑)。もっと格好のいい理由をお話しできたらいいんですけど、ほんとにそんな理由なんです。

自分の経験から引っ張ってきた絵

―― 今回お願いしようと思ったもうひとつの理由は、金子さんがツイッターにアップしていた落描きでした。アニメーターの方がSNSに自分の絵を載せるときは、自分が身につけた技術で描く原画やセル風の絵が多いと思います。金子さんは、そうではなくて素朴なテイストの絵を多く描かれていて、それも面白かったんです。今「やれと言われないと描かない」と言われましたが、自主的に描くとああした絵になるということは、ツイッターの絵が素の絵に近いのですか。
金子 そうですね。ツイッターの絵は、せっかく始めたのだから描かないと……という自分への宿題みたいなところもありますので、強い自主性があるというほどではないんですけれど(笑)。就職するまではアルバイトばかりして、あまり絵を描いてこなくて、シンエイ動画に入って仕事になってから絵と向き合うことになった感じです。もちろん、それは仕事の絵ですけれども、そのなかで思うのは、芝山(努)さんもそうでしたが、原点として、やっぱりアニメからもってきている絵じゃないんですよね。自分が経験したことや、観てきた絵画や映画、そういったものからアイデアや根っこのようなものを引っ張ってこられている。私も、本来的にそういう風にありたいと思っています。アニメから「ノリ」はいただきますが、基(もと)となるような部分は自分が経験してきたことからもってくる。本来的に、そっちの方が好きなんだと思います。
―― 『がをられ』のアイキャッチは苦肉の策でと言われましたが、共同作業であるアニメ制作をずっとされてきたから、ひとりで完結するお仕事をしたいという気持ちもあったのではないですか。
金子 仕事の立場上、グループプレイヤーであることが多いですが、やっぱりソロプレイヤーの方が気が楽ですよね。こういう仕事を集団でやっている以上、どうしてもセンシティブなところも出てきます。もちろん楽しいところもあるけれど、そういうことに煩わされず、自分とだけ向き合えるという意味で、仕事として個人でイラストを描いてみたいという気持ちはありました。
―― 2015年の夏に、この企画の打診をさせてもらいました。ツイッターにあげているようなタッチの、商業アニメでは描かないような絵柄で、頭身低めの女の子のキャラクターを描いてほしいという話をしたと思います。正直、駄目元の依頼でしたが、どうして引き受けてくださったのでしょうか。
金子 単純に、面白いじゃないですか。そういうことをしないかぎり、アニメ以外の絵を描く機会はないですから。自分の絵を描ける現場はなかなか少ないですし、そうはいっても絵を描いていく仕事でもありますから、多少は仕事以外の絵を描いてみたいな、チャレンジできるものもほしいな、と思っていたんです。でも仕事がうまく切れなくて、ここまで形になるのに2年もかかってしまってスミマセン。
―― とんでもないです。もともと、他のお仕事の間の隙間の時間で描いていただくというお話でしたから、むしろここまでお付き合いいただいて有難うございました。

アニコは性別のない子にしたかった

―― ご依頼後、最初に見せてもらったのが初期案でした。孔雀を参考にしたデザインにされていますが、なぜ孔雀だったのですか。
金子 派手だからですかね(笑)。おめでたいという意味もあるんですが、たしか孔雀のことを調べて、何かしらの理由を引っかけたと思います。毒に耐性があって、サソリなんかを食べても全然平気だとか、羽を広げて閉じての二面性があるとか。生き物としても面白いですし。細かい理由は忘れてしまいましたが、この子は性別のない子にしたかったんです。

「アニコ」初期案

「アニコ」初期案

―― 当時、イラストと一緒にいただいたメールには、「孔雀をモチーフにした感じです。でも、(飾り羽根がついている)孔雀ってオスなんですよね。なので、両性具有なイメージです。裸ブーツの、ちょっとミステリアスだけど可愛い感じでしょうか」とありました。なぜ、中性的な魅力をだしたかったのでしょう。
金子 そっちの方が、「生きている」感じがしたんです。男か女かでカテゴライズされるより、決まっていない方が多面性があって面白いじゃないですか。「生」と「性」は、漢字がちょっと違うだけで、通じるものがあるというか。
―― 『がをられ』のときも、女性ならではの可愛らしさやエロティックを意識されていたと思います。今回描いていただいたキャラクターも、中性的ではあっても、どこかセクシーでエロティックなものを感じさせます。そうした点は、描くときに意識されますか。
金子 意識はしますね。ただ、テンプレートのような「性」を考えるのではなくて、さっきもお話した「生きる」の方の「生」を考えて描いています。そうすると、生き物としての自然なエロティックさがでてくるような気がしていて。
―― なるほど。「生」を意識して描くことで、「性」の魅力がでてくると。
金子 「らしく描く」ことを考えながらやっていくと、自然とそうなるんだと思います。テンプレート的な「おっぱい、ボーン」ということではなくて(笑)。いや、おっぱいをエッチに描くのもすごくテクニックと情熱がいりますし、すごいことなのですが、今回はそれとはちょっと違う方法で、私なりにですが、それらしい仕草や所作を描くことで、その人の美しさや性格が表現できたらなと。そして、絵を見た人にそれがセクシーだと感じてもらえたら嬉しいです。
―― 全身姿の右に、変身した姿と頭身の上がった横顔を描かれています。「AniKo」のメンバーに見せたら『イデオン』みたいで面白いと言われたのですが、これはどこからアイデアがでてきたのでしょうか。
金子 描いているうちに思いついちゃったんですよね(笑)。孔雀って、パッと羽を広げるじゃないですか。普段はおとなしくしているけど、盛り上がったときに、こんな風に頭が広がってエネルギーがバアッとでる。こういうギミックは、例えばこのキャラクターを漫画にするとしたら使えるなと思ったんです。
―― たしかにストーリー性があって、世界観がみえるような気がします。
金子 人って一面だけではなくて、やっぱり多面性があるし、それぞれ複雑なものをもっているはずですよね。そういう部分もだせたらないいなと思って描きました。

頭身を低くしてデザインチックに

―― 初期案のあとに見せてもらったのが、ラフデザインと、ロゴを入れた2パターンの絵です。初期案から、だいぶ絵柄が変わりました。

完成デザインの一部を掲載。ラフデザインは小冊子を参照していただきたい

完成デザインの一部を掲載。ラフデザインは小冊子を参照していただきたい

金子 初期案もあれはあれで良いんですけど、マスコットとして考えると頭身が少し高いかなと思ったんです。少し頭身を低くして、デザインチックな感じにしてみました。
―― しっぽのところに、ライオンのような生物が追加されました。
金子 謎のペットが出現しました(笑)。ペットでもオモチャでもいいんですけれど。あと、サイトのマスコットキャラクターなので、クリックするときのアイコンに使えないかと「省略デザイン」の絵も描いてみました。
―― 有難かったです。こうしたアイデアは、描いているうちに浮かぶのですか。
金子 キャラクターデザイン歴もけっこう長いので、「これがあったら、これも必要だろう」みたいなものが描いているとでてくるんですよね。やっぱり、色々ほしくなるじゃないですか。他のオカズが欲しくなるというか。
―― こちらがお願いしている以外のものを、色々描いてもらえて嬉しかったです。
金子 これでも最低限という感じで、もっと描かれる人もいると思います。自分としては、今回は描いたものが少なくて申し訳ないなという気持ちです。
―― マスコットキャラを依頼したときから、サイトに載せるだけでなく、小冊子もあわせて作りたいという相談をさせてもらっていました。冊子ではキャラクターが作られる過程を見せたいので、ラフも一緒に載せたいという話をしていて。金子さんは、アニメのデザインをされるとき、関係者以外にラフを見せたくないそうですが。
金子 できることなら見られたくないですね。恥ずかしいです。私の場合、まず最初に4Hぐらいの鉛筆を使って描いて、その絵から直接ラフを作ることが多いんです。最初に細い鉛筆で形をとって、その上からHBぐらいの鉛筆で清書をしてしまいます。総作監のときも同じで、下描きはあまり使わずに、まず鉛筆で薄く描いて、その上からちょっと濃い鉛筆でなぞることが多いです。
―― サイトへの実装はこれからですが、まずは小冊子として、金子さんの描かれたキャラクターがお披露目されます。今の感想はいかがですか。
金子 もう少し時間があったら、水彩やアクリルを使って描き重ねた重厚な描き込み系の絵を描いてみたかったですね。『謎の彼女X』の2人が机の上で踊っている最初のイメージボードは1週間ぐらいかけたのですが、それぐらい時間をかけたものを描いてみたかったなと少し思います。
―― もともと、本業をやられる隙間の時間でお願いしていたものですから。
金子 2016年は『モンスト』の映画がありましたし、2017年は色々な作品の準備があって実は物凄く立て込んでいるんです。1枚の絵に1週間はなかなかかけられない状況ですが、いつかやれたらなと思います。
―― 最後に、今回描いてもらった「AniKo」のマスコットキャラに名前をつけてもらいたいのですが。
金子 私はずっと「アニコ」ちゃんだと思って描いていました。
―― あ、そうなんですね。どういう表記がいいと思いますか。
金子 普通にカタカナでいいんじゃないですか。
―― では、「アニコ」でいきましょう。この小冊子やサイトに実装したときの反響を見つつ、今後も「アニコ」の絵を、金子さんに描いていただけたらなと思っています。
金子 漫画とか描けたらいいですね。
―― この小冊子を購読してくださった方に、ひとことお願いします。
金子 手にとっていただいて有難うございます。アニコちゃんを、ぜひ可愛がってあげてください。

Information
『金子志津枝 アニコイラスト集』
A5フルカラー、36ページ、コミケ頒布価格500円
2017年8月11日「金曜日 東シ-27b/Heart Poop」にて頒布。最新情報は、金子さんのTwitter(https://twitter.com/QQQnekoQQQ)を参照。

『金子志津枝 アニコイラスト集』目次
初期案
完成デザイン
彩色別パターン
ラフデザイン
ロゴデザイン
おまけ(Twitter掲載イラストを抜粋して掲載)
メイキング・オブ・アニコ(約10000字インタビュー)
作品リスト(金子さんコメント付き)
渡辺歩監督ゲストイラスト
奥付

(C)金子志津枝/AniKo