色々な人の意見やアイデアがあってこそ生まれるものがある
『紅殻のパンドラ』監督 名和宗則

士郎正宗と六道神士のコラボで生まれた同名コミックを、Studio五組がアニメ化。オフビートなギャグを交えつつ、全身義体とアンドロイドの美少女2人が、リゾート島を守るために奮闘する近未来アクションだ。名和宗則監督に、映像化にあたってのポイントや、監督としてのスタンスについて伺った。

Profile
名和宗則 Munenori Nawa

アニメーション監督。主な監督作品に、『D.C.S.S. ~ダ・カーポ セカンドシーズン~』『乙女はお姉さまに恋してる』『乃木坂春香の秘密』シリーズ、『kiss×sis』『R-15』『この中に1人、妹がいる!』『普通の女子校生が【ろこどる】やってみた。』などがある。

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「福音とクラリオンの物語」を一番大事に

—— 本作は、名和監督が多く手がけてきた美少女ものではあるものの、かなりSF的な要素が入っていますね。
名和 たしかにSF要素は入っていますが、女の子を描いていくという基本的な部分では、これまでの自分の経験で作っていけるだろうなと思ったんですよ。シリーズ構成に髙橋(龍也)さんをお願いしたのも、キャラクターを魅力的に描く部分をお願いしたかったからなんです。以前フィールで制作した『ろこどる(普通の女子校生が【ろこどる】やってみた。)』でご一緒したときのお仕事の感じから、「この作品は、髙橋さんにお願いしたら面白くなるのではないかな」と。脚本にはもう1人、スタジオぬえの森田繁さんにもご参加いただいています。森田さんとは、スーパーパイザーとして関わった『聖痕のクェイサー』の脚本会議に参加したときに知り合い、設定的な部分を任せられる方だと分かっておりましたので。
—— 森田さんには、どういったところを見てもらっているのですか。
名和 自分がSF的な用語に疎いところがあるため、そうした部分をサポートしていただいています。例えばですが、3話で偽装空間のネタをやろうというときに、尺の都合で長いセリフの一部をカットしたとして、そのカットした部分にネタを成立させるための用語が入っている可能性もありますよね。そうしたところを見ていただいています。けれど、SF的な設定をみていただくためだけに森田さんをお呼びした訳ではなくて、実はキャラクターを描くにあたっても非常に萌えを分かっている方なんです。むしろ、キャラクターや萌えの部分を頼りにする方がメインで、付随してSF関係のチェックもお願いしている、という感じですね。
—— これまでのお仕事の中で、森田さんが萌えを分かっていると思われたことがあったんですか。
名和 自分はそこまでゲームはやらないんですが、『ラブプラス』という携帯ゲームの初代がでたときに、キャラもののゲームとして凄く気になって、発売初日に買ったんですよ。その日が確か『クェイサー』の脚本会議で、森田さんに「こんなゲームを買ったんですよ。こんなことができるらしんですよね」みたいな話をしたんです。そうしたら、翌週の脚本会議の日に「名和さん、私も買いました」と見せてくれて(笑)。周りにアンテナを張られていて、ちゃんとそういうところに食いついてくれる方なので、凄く信頼できるなと思ったんです。

オープニングより。

オープニングより。

—— オープニングを拝見すると、アニメでは、原作コミックのかなり先のエピソードまで描かれるようですね。ここまでやろうというのは、大きな決断ではありませんでしたか。
名和 決断というほどでもなくて、意外と流れでそうなったところもあるんですけどね。作品の大きな流れとして、最新の単行本7巻から次の8巻まで食い込むエピソードは、1クールで完結させようという話になったんです。シリーズ構成を含めた脚本打ち合わせがスタートした段階では、その辺りのエピソードがまだ連載中でして、毎回出席してくださった担当編集者の落合(弘一郎)さんから、六道先生の新しいネームがあがってくると見せていただいてましたし、更に六道先生からこの先どんな風に終わらせるのか、おおよそのところを伺いまして。その流れを組みつつ、アニメならではの終わらせ方をしようという風に進めていたんですが、追加でいただく六道先生のネームがやっぱり面白いんですよね。
—— 原作のマンガ自体が、とても映像的に描かれていますものね。
名和 お話的にも、キャラクターをみせるネタ的にも、非常に情報量の多い作品なんです。アニメに入れ込むために必要な分量はすでに越えていて、シナリオとしてはオチの部分を、アニメ的にどうまとめるかというところまできた。あとは、髙橋さんが書く最終話のシナリオのアップを待つのみというところで、少し足踏みが入ったんです。アニメならではの終わらせ方をさせるのに髙橋さんも悩まれたようで、そろそろ絵コンテに進まないとスケジュール的に厳しいかもというタイミングまできたところで、六道先生から最新のネームがあがってきたんです。
—— ということは、最終話にはだいぶ先の原作のネタまで入っているわけですね。
名和 原作を読まれている方が観れば、どのネタがそうか分かるんじゃないかと思います。ただアニメでは、作中にもある「ガール・ミーツ・ガール」の物語として描くのがメインで、最終話も(七転)福音とクラリオンの2人が主人公としてきっちり映えるような締めくくりをさせるため、シナリオにあったネタの部分は、だいぶカットさせてもらっています。自分の中では、福音とクラリオンの物語であるというのが一番大事なところでしたので。

監督としてブレーキをかけるガイドライン

—— 1、2話の絵コンテは、清水聡さんという方が担当されていますね。1話の絵コンテは監督が描くケースが多いように思いますが、他の部分に注力するためにこうなったのでしょうか。
名和 そうですね。あとスピードを重視していたというのもあります。1、2話はイベント上映をするという話を早々にいただいていたので、上映までの期間を考えると、絵コンテは早めにあげて作業に入らないと間に合わない。自分で描いたら、たぶん期日までに上がらないだろうということもあって、手の早い清水さんにお願いしました。清水さんは、『ハロー!!きんいろモザイク』のときにローテーションで絵コンテを担当されていて、どういうものを描かれる方かを把握していたんです(編注:名和監督は、同作に副監督として参加していた)。清水さんにやっていただけるのなら安心だということで、絵コンテ打ちの時に「こういう要素を入れてほしい」という話をして描いていただきました。

第1話「適合者 -アデプタ-」より。

第1話「適合者 -アデプタ-」より。

—— 1、2話は、原作コミックの描写にかなり忠実でした。それだけに、どうしてここは原作と違っているんだろうと気になったところがあります。2話のウザルの像に眼鏡をかけさせるところで、原作では壊れた像を直すくだりがありますが、アニメでは始めから像が複数でてきますよね。
名和 ああ、原作ではゲルコマがよってたかって直すところですね。あれをアニメでやるのは意外と大変なんですよ。ゲルコマは3DCGで作っていますしね。その代替え案として、ああいうシステムにしたというのが本当のところです。
—— かたや、ブエルが「ほっこり」するシーンは、アニメではかなりパワーアップしています。
名和 そうですね(笑)。ああいうところはキャラを立てるために、あれぐらいの味付けにするのは普通にある部分だと思います。
—— さらに伺いますが、2話でウザルがバニー達に「よければ大丈夫だ」と言うときに、それまで揺れてなかった胸が急に揺れますよね。原作にも、特に揺らす描写はありませんでしたが。
名和 あの辺は、演出さんの趣味ですかね。自分から「ここはちょっと揺らしてくれ」と指示をだしたわけではなく、その話数の担当演出さんの判断で、ああいう部分を足してくれたんだと思います。自分からみて「これはやりすぎかな」と思ったときにはストップをかけますが、ここはノリの部分ですし、こういうところを押さえつけて演出さんのテンションを下げるわけにもいきませんから。今の話に関連した裏話でいうと、2話のウザル像が上がっていくところで、何を思われたのか、作監さんが像に乳首を足した修正をあげてきたことがありました。
—— そんなことがあったのですか(笑)。
名和 さすがにこれはちょっと……ということでNGを出させてもらいました(笑)。
—— OKかNGかの話ですと、本作では微妙にパンチラの描写もありますね。作品によっては、完全にNGなケースもあると思います。
名和 今回は、キャラクター性として彼女達にそこまで羞恥心があるのだろうかというところで、アクションの中でパンツがみえるぐらいはありかなと思っていました。今の話にかぎらず、「これは露骨すぎるだろう」と感じたらブレーキをかけるガイドラインが、自分の中にあるんですよ。
—— どういったところが基準になるんでしょうか。
名和 うーん……。自分が観て、引くか引かないかというところですかねえ。これまでやってきた作品からすると「お前、何を言っているんだ」と思われるかもしれませんが、自分は意外とその辺のラインは、ちゃんとしているつもりなんです(笑)。
—— 美少女ものだからこそ、越えてはいけないラインがあるということですか。
名和 作品によりけりですけどね。『kiss×sis』みたいな作品の場合は、もう全然越えていいと思いましたし。年末にオンエアされた『ろこどる』のクリスマススペシャルの時には、絵コンテがあがった時に一部から、「名和さん、ここのお風呂のシーンはもう少しカットを増やしませんか」と言われましたが、却下させてもらいました(笑)。『ろこどる』は、そういう作品ではないと思っていますから。

シリーズ全体を俯瞰でみるため人に任せる

—— オープニングとエンディング、そしてアイキャッチも、作品がもつ可愛らしさと世界観がよくでていて楽しかったです。
名和 有り難うございます。曲の発注段階から、オープニングは格好よく、エンディングは可愛くという風にお願いしていました。エンディングの可愛くというのは、最初から福音とクラリオンの2人が歌うことが決まっていて、そこから『ハイスクール!奇面組』でうしろろゆびさされ組が歌っていたようなイメージを考えていたんです。で、実際に楽曲があがってきたら、なんとセリフパートがあり、しかもそれを毎話数変えていったら面白いんじゃないかというアイデアも同時に提示されて、非常に遊び心のある歌に仕上がっていました。こういう曲ならば、(博史)池畠さん(『それが声優!』監督。『この中に1人、妹がいる!』ではOP絵コンテを担当して頂きました)だろうなということで、お願いさせてもらいました。先に絵コンテを発注したのは、エンディングの方からなんですよ。

エンディング(第5話ver)より。

エンディング(第5話ver)より。

—— オープニングの絵コンテと演出は、『いなり、こんこん、恋いろは。』の監督をされた高橋亨さんですね。
名和 彼は専門学校時代の同期なんですよ。情報量の多いオープニングに凄くマッチしていて、限られた時間のなかで注文を出しやすい相手だというのも大きかったです。オープニングの曲発注では、もうひとつお願いしたことがあって、それはボーカル入りではなく、ちゃんとした前奏で曲を始めてほしいということでした。つかみとして、作品の世界観を構築するような印象深い前奏がほしかったんです。そうしたら、ピアノの凄く格好いい前奏がきて「きたきたこれこれ!」と嬉しくなりました。
—— アイキャッチも楽しかったです。
名和 アイキャッチは、設定制作の服部(正臣)君という子がコンテを描いてくれたんです。もともとは自分でやるつもりで、『ろこどる』と同じように毎話数変えていこうと、そのアイデアだけは事前に伝えていたんですよ。でも、他の作業で忙しくて、なかなかアイキャッチに手を出せないでいるうちに時間がなくなってしまい、もうワンパターンでいくしかないかと(笑)。そんな時に、服部君にもアイデア出しを頼んだんです。自分が最初にだしたアイデアは、Aパート終わりに猫耳の福音の絵、Bパートの始めに福音の髪飾りのクラリオンという2パターンの絵を1クール使い続けるものだったんですが、服部君から今の腰をふるやつが上がってきて「ああ、こっちの方が全然いいじゃないか」と。その段階では、ネネ、クラリオン、ブエルの3パターンでしたが、それだと少し寂しいからもう少しキャラを増やしてローテーションでやれば1クールまわるだろうということで、今のかたちになりました。
—— そうした経緯で、設定制作の方が絵コンテを担当されているんですね。
名和 「そのアイデアいただき!」っていう感じでしたね。1、2話の絵コンテを清水さんにお願いした話と同じで、自分よりも、より良い絵コンテを描く方がいれば、全然お任せしますし、もともと全てを自分でやろうとするタイプではないんですよ。
—— アニメーター出身の監督で、名和監督のような考え方をされている方は珍しいように思います。
名和 監督としていちばんみたいのは、やはりシリーズ通しての部分になるんです。アニメーター時代には作画監督までやりましたが、それこそ自分より上手い作画監督はごまんといるわけですよ。そういう経験もありましたので、自分が手をださずとも上手い人が描いてくれるのなら全然いいじゃないか、という風に考えられるタイプではありますね。これは他のセクション全てについて同じで、そうして全体を俯瞰でみていられればなと。ストーリーの流れについても、あがってきた絵コンテをみて、自分がこれは違うなと思う部分だけを修正していけば、現場が止まることはないですからね。なんでもかんでも自分でやりたいと思うと、どうしても現場が止まってしまうパターンに陥りがちですし、シリーズを動かしていくうえで、それはあまり得策ではないと自分は考えていますので。
—— ということは、本作で名和監督はあまり絵コンテを描かれていない?
名和 『パンドラ』に関しては、1本も描かなかったですね。それもあって、絵コンテは気心のしれた方に頼んでいることが多いんです。3話の絵コンテをお願いした西本由紀夫さんも、実は専門学校時代の同期で。オープングの高橋亨さんと同様に、こちらとしても注文がだしやすいし、彼自身、シナリオの文脈をしっかり読んで、色々と手を入れて面白くしてくれるタイプなので、もうお任せできるんです。そうしていくと、やっぱり面白いものがあがってきて、「あ、このアイデアは自分では浮かばなかったな」みたいなことがあって嬉しいんです。全部自分でやっていたら絶対そうはならないですからね。色々な人の意見やアイデアがあってこそ生まれるものがある、というのがテレビシリーズじゃないかなと。そこは『パンドラ』にかぎらず、ずっと変わらないスタンスだと思います。

第3話「偽装空間 -テラリウム-」より。

第3話「偽装空間 -テラリウム-」より。

女の子メインの作品の中で、やり残していること

—— 始めに『ラブプラス』を買った話をされていましたよね。ずっと女の子の可愛らしさを描いた作品を手がけられていますが、ご自身としても、そうしたものがお好きなんですか。
名和 基本的には好きですね。監督としては、他のジャンルを手がけたくないわけではなくて、基本的に自分のところにはそちら方面に偏ったかたちでお仕事がくることが多いんです(笑)。
—— 例えば戦争もののような、生きるか死ぬかといった作品でも、やってみたいと思われますか。
名和 お話がくれば、自分としては全然ウエルカムです。やっぱり何事にもチャレンジしたいなと思っていますので。ただ、「次にどんな作品をやりたいか」と聞かれてまず思い浮かぶのは、女の子ものでひとつやり残していることがあるなということなんです。自分がこれまでやってきた作品は、早々にカップルが成立してしまうものが多いんですよ。『乃木坂春香の秘密』は1話でカップル成立しましたし、最初に監督した『D.C.S.S. ~ダ・カーポ セカンドシーズン~』も、(朝倉)音夢という将来を約束された相手がいたうえで物語がスタートしている。自分は、昔の少女漫画じゃないですけど、片想いの男性がドキドキしながらお話が進んでいって、最終的に告白するまでの段取りが好きなんですよ。そうした段取りをじっくりやるタイプのものはやってみたいです。
—— これまで手がけてきたジャンルの中で、最後までカップルが成立するかしないか揺れ動くような作品をやってみたいと。
名和 そうですね。やり残した部分というか、自分としては別ジャンルにいく前にやっておかないとちょっと先に進めないかな、という思いはあるにはありますね。

Official Website
アニメ『紅殻のパンドラ』公式
http://k-pandora.com/

Soft Information
Blu-ray&DVD第1巻、4月27日発売
価格:Blu-ray8,100円+税、DVD5,400円+税
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(C)2016士郎正宗・六道神士/KADOKAWA 角川書店/紅殻のパンドラ製作委員会